放送第5回目の「工藤泰志 言論のNPO」は、元東京大学総長・政治学者の佐々木毅さんへのインタビューを中心に、日本の政治はいまどうなっているのか?について考えました。
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「ON THE WAY ジャーナル
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「日本の政治、このままでいいの?」
谷内: おはようございます。番組スタッフの谷内です。きょうは、工藤さんがインタビューをしてきたということで、そちらを聞きながら進めてまいりましょう。どなたにお話をお伺いしてきたのですか?
工藤: 元東京大学総長で、今は学習院大学法学部教授の佐々木毅さんにインタビューに行ってきました。日本の政治学では本当の大御所です。1時間ぐらい話をしてきたのですが、かなり熱い議論になりました。今日は、佐々木さんの話を交えながら、日本の今の政治について考えたいと思っています。
今、国会中継をやっていますが、それを見てがっかりしている人がいると思うんですね。誰が言った、言ってないとか、責任問題とか、本当に喧嘩ですよね。ただ、こういう喧嘩ってここ何年もあったのですが、日本の政治は日本の未来に向けて、機能していないのではないか、という不安を本当に持っているんですね。それを佐々木さんに聞いてみました。そうしたら、佐々木さんから驚くべき発言がありました。つまり、今の日本は「ナショナルクライシス」、つまり「国家の危機」だと言うんですよ。僕も日本の政治はかなり厳しいと思っていたのですが、危機という言葉まで使う以上、これは僕も無視できないなと。その政治の状況を、佐々木さんにどうしても説明してほしいと思ったんですね。では、佐々木さんの話をまず聞いてもらいたいと思います。
【インタビュー】
佐々木: 私は、だんだん世論は変化をしてきつつあって、一種の「ナショナルクライシス」という感じで、大丈夫だろうか、と思う人が増えてきているという状態だと思うし、工藤さんであれば前からそうだったと言うに決まっているんだろうけど。で、統治の方向はこうだねということが結局固まらないというか、自信がないというか。そうすると、結局後ろ向きのメッセージが復活してきて、何十年経っても政治とカネの問題ばかりやっているというような塩梅になっていくと。
工藤: 結局「ナショナルクライシス」という危機は、まさに財政や社会保障とかそれだけじゃなくて、統治が崩れてしまって、日本の政党政治に課題解決をする、未来に向かって動く力が非常に低下してしまったという事ですよね。
佐々木: だから、その根本を辿っていくと、政党が自分を統治しようということを考えない政党なんだから、日本の政党は。今でもそうなんです。だから、自分のマネジメントをしないのに、国民のマネジメントをしようというのだから、話がおかしくなるのは非常にみんなにも見えているわけです。その意味でいうと、やはり政党自身の経営能力というものが、根っこにある問題です。
谷内: 今、佐々木さんが言われた「ナショナルクライシス」、つまり国家の危機ですが、どういうことなんでしょうか。
工藤: 佐々木さんがここで言っているのは「統治」、つまり「ガバナンス」という言葉を使っているんですが、政党が経営面でも、政策面でも党内で決定し、実行していく、誰かがリーダーシップを発揮してそれを実現していく。政党政治から見れば当たり前の事なのですが、それが本当にできていない。それどころか、バラバラになってしまっている状況があります。これを佐々木さんは「統治の危機」だと言っているんですね。
今回、佐々木さんの話を聞いて非常に気になってきたことは、この前の尖閣列島の問題、それから為替もかなり通貨安の競争がおこり、世界は非常に不安定化しています。今僕が気になっていることは、皆さんの地域でもお年寄りが本当に増えてきていると思いますが、超高齢化社会が進行していると同時に、財政状況も非常に厳しくて、まったく未来が見えないということです。このままいくと、日本がどうなっていくかわからない、というギリギリの土俵まできています。だけど、そういう時でも政党がきちんと機能していれば、日本の政治がちゃんとしていれば、課題に対しての解決方法を国民に提案することができますよね。しかし、佐々木さんは、その政党自身が、政治そのものが機能不全になってしまっていて、自分をマネジメントできない、政治をマネジメントできない。だから、国会で説明しろとか、今まで何十年もやっている政治とカネの事ばかりやっている。政治とカネの問題は、大きい問題だし、大事なことなんですが、そんなのは本来、政党が自分たちでルールを決めて、ルールを破った場合は辞めてもらうとか、自ら解決すべきなんですよ。党内の問題を何年も同じ事を繰り返し、政治が何もできないために、最終的には官僚を叩けば何となくみんな納得するのではないかと。
インタビュー終了後、佐々木さんが言っていたのですが、企業経営者が自分たちの職員のことをバカだ、バカだと言っている。でも、従業員のことをバカだと言っている経営者の方がバカだっていうことあるじゃないですか。だから、日本の政治も、自分の従業員である官僚をバカだ、ダメだと言っているけど、あんたは何なんだ、という話になる。前回も言いましたが、そのような状況の中で、マニフェストが非常に機能しなくなってきている。佐々木さんは、マニフェストについても、一言言っているのでお聞き下さい。
【インタビュー】
佐々木: だから、マニフェストは自己統治のツールだったわけですね。それ以上でもなければ、それ以下でもないという面があったと。しかし、選挙に勝てばマニフェストは国民を統治するツールになるわけです。だから、よく考えてつくれよと。
工藤: その前者のところが曖昧になっちゃいましたよね。
佐々木:前者のところが曖昧なものだから、全部が曖昧になっていく。僕は、政治資金の問題も、基本的には政党の自己統治能力の問題だと思う。つまり、カネを組織の中にあるお金をどういう風に集中して管理するかというメカニズムが、政党の中にないんだから。
工藤: 二大政党を期待したときは、党がガバナンスもきちんと、組織と政策におけるガバナンスを発揮して、未来に対する競争をすると、一応仮定したわけですよね。期待した。
佐々木: そういうことだろうと。
工藤: 期待したけど、それができなかったと。
佐々木: それができなかったし、未だにそれをどうしようかという事について...。だから、僕は、例えば、政治資金制度を抜本的に変えるべきだと。これは党のガバナンスの問題として、避けて通れない問題で、特定の人物がどうとかいう話とはやはり区別して考えないといけない問題だということを前から言ってるんだけど、その意識はまったくないんだよ。
工藤: 僕はこの話を聞いて、言論NPOのこれからの議論の作り方も、少し考えないといけないなと思いました。つまり、僕たちは、選挙時に政党がマニフェストを出し、その党が政権をとったら約束なのだからちゃんと実行してほしいということで、6年ぐらいずっとマニフェストの評価をし、公表してきました。ただ、ここには政党が機能しているという非常に重要な仮定がありました。イギリスのブレア政権の時もそうなのですが、党員の中でマニフェストをつくるところからドラマが始まるわけですね。その中で、2年もかけてみんなで議論をして、各界の人たちの意見を聞いて、ようやく党のマニフェストをつくるわけです。そして、党で決まったことを選挙で出して国民の支持を得たら、ガバナンスや統治のメカニズムをきかせて実行に責任を持つわけです。
だから、日本でも2大政党になって侃侃諤諤の未来競争が起こると思っていたのですが、今の佐々木さんの話を聞くと、現状の党が機能していない。これはよく言われていることですが、鳩山さんの時のマニフェストは、4人が数ヶ月でつくった。普天間の問題についてはマニフェストに入っていなくて、アドリブで鳩山さんが言っていくわけです。つまり、政権公約をつくるという党の機能が非常にうまくいっていない、というところに問題があるから、政権をとった後に、公約を実現するというプロセスが機能しないのは当然なのだな、と思ってきたわけです。
そうなってくると、党の評価は必要ですが、それよりも、政治家の評価をきちんとしていかないといけないのではないか、とすごく感じました。
ただ佐々木さんの話は政党の問題にとどまりませんでした。佐々木さんが言っている「ナショナルクライシス」は、党の統治が崩れているというだけではなく、社会の中にある様々な統治の仕組みが壊れているのではないか、と言っているわけです。僕も思い当たる節があって、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の先生の本に、アメリカでも色々な政府機能への信用が失われていると書いてありました。これは、日本に限ったことではなくて、世界の先進国の中でも同じような現象があります。ただ、日本の場合はそれがドラスティックに動いているような気がします。
例えば、皆さんは、この国の仕組みで何を信用できますか。今の佐々木さんの話では、政治は信用できない。お医者さんは信用できますか、大学の先生は信用できますか、メディアは信用できますか。僕たちは、日本と中国の世論調査を行って議論したときに、日本の国民は日本のメディアの報道が公平で客観的だと思っている人は、2割を切っているような状況があるわけです。メディア報道は信用できない、ひょっとしたら胡散臭いかもしれない。政治も信用できない、大学の先生はどうなんだと。僕は佐々木さんに、大学は信用できますか、と聞いたら、僕が助教授の時に信用を失っていたよ、と言っていました。信用を失った社会の仕組みの象徴が、今度の検察の問題だと思います。色々な問題の信用が崩れているときに、地検は巨悪に対して挑んでいたのではないか、という信用があったと思いますが、今回崩れた。すると、日本の社会の「信用」、つまり統治というものは、それぞれの部門で、それぞれの人たちが責任を持って仕事をしている。その「信用」という社会の仕組みが非常に壊れてきたという状況だと思います。この辺りについても、佐々木さんのインタビューをお聞き下さい。
【インタビュー】
工藤: この転換の主役は誰なんですかね、
佐々木: 日本のリーダー層というものが問われているんだよね。
工藤: 経営も、経済も全ての分野で。
佐々木: 経営、経済、政治、役所も含めて、このグループがディスオリエンテドと言うか、方向喪失状態。
工藤: 信用を失い始めているわけですよね。
佐々木: 全体としてがさっと落ちかねない。で、政治の悪口を言っていい気分になっていると、全部落ちちゃう、という意味で統治能力の危機というのはあるわけよ。日本の場合に。で、僕は20年、30年見ていて、これほど日本の統治能力という問題がクローズアップされたのは初めてだね。
工藤: 初めてですか。
佐々木: 初めてというか、かなり深刻...
工藤: つまり、統治構造の信用力が色んな分野で形骸化して、弱体化している。
佐々木: ついに、検察までいっちゃった。
工藤: すると信用するところがなくなっているわけですね。
佐々木: こういう時はある意味で、ポピュリズムと要するに過剰な約束。できもしない約束をする政治勢力ができていたりするという環境が非常に整っているから、危ないんだよね。で、本当に国民もこれは偽物か、本物かという見極めをしなきゃだめだというギリギリの段階がだんだんと近づいてきているのではないかと。
工藤: かなり厳しい見方だと思います。でも、佐々木さんの言っていること1つ1つが、今回胸に突き刺さりました。インタビューの後に、佐々木さんに、どういう風にしたら解決できるのでしょうか、と聞いてみました。すると、佐々木さんは外部環境に追い込まれるしかないのではないかと言っていました。今、龍馬伝を見ていて、明治維新に関心があるのですが、あの時も黒船が来て、世界が大きく変わっていたことにびっくりしちゃうわけです。世界の大きな変化から日本を守ろうと、その中で日本国をつくろうと龍馬達が立ち上がっていくわけです。同じように、黒船のような大きな変化、外圧がないと統治側にいる人たちが本気にならないのではないかと。ただ、実を言うと、それはそんなに先ではないような気がしていますし、佐々木さんも同じでした。いずれ、そういう話をやる機会はあると思いますが、日本の経済、環境、社会保障など色々な問題に綻びが出始め、壊れ始めている。どこかで、バンとはじけてもおかしくない状況です。ただ、それでも、日本の政治はその課題に対して挑まなければなりませんよね。ですから、どこかで目を覚まさなければいけない状況になると思います。
ただ、僕が一番言いたいのは、目を覚ますのは政治というよりも、僕たち有権者だということです。この番組でも何回も言っていますが、自分たちが本気にならないといけないと思っているわけです。インタビューの最後で、佐々木さんがすごくいいことを言っていて、国民は何が本当なのか、嘘なのか、本物を見極めるギリギリの段階にきている。選挙の時には、こういう手当をあげますとか、こういうことで楽になりますよという甘い言葉しかないじゃないですか。そういうことを実現するのは、お金がないと不可能です。だから、選挙の時には、必ず私は皆さんのためにやります、と言っているけれど、選挙が終わった後には全然違うことをやってしまう。全てに嘘があるとは思いませんが、おいしい話にはそういうことがあると言うことを考えないといけない。そうであるなら、どうやって見抜けばいいのか、ということが、次の段階で問われてくると思います。
まさに、この「ON THE WAY ジャーナル」でやりたいのはそこなんですね。つまり、僕たちは有権者が主役にならないといけないと思っている。みんなが色々なことを自分の目で見て、判断して、自分たちが政治や日本の未来を選ばなければいけない。僕は、そういう社会が一番すてきな社会だと思っています。しかし、あまり余裕が無くなってきました。そういう風な時代にあるという状況を皆さんに、お伝えして、今の日本の政治はどうなの、ということを問わせていただきました。また、意見が、あったら寄せて下さい。ありがとうございました。
(文章・動画は放送内容を一部編集したものです。)
放送第5回目の「工藤泰志 言論のNPO」は、元東京大学総長・政治学者の佐々木毅さんへのインタビューを中心に、日本の政治はいまどうなっているのか?について考えました。
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