放送第4回目の「工藤泰志 言論のNPO」は、「有言実行内閣に問う、マニフェストこのままで終わらせていいの?」と題して、10月27日(水)5時30分からJFN系列で放送されました。その収録風景を公開致します。
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。
「ON THE WAY ジャーナル
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ON THE WAY ジャーナル水曜日、言論NPOでは政治・経済・事件などなど様々な問題に対して市民レベルの視点から、「これってどうなっているの」、「これってどう思う?」といったことに私、工藤泰志の視点で皆さんに投げかけます。
谷内: 今日のテーマは、「有言実行内閣に問う、マニフェストこのままで終わらせていいの?」です。
おはようございます。番組スタッフの谷内です。「ON THE WAY ジャーナル」水曜日、今日のテーマは「菅政権とマニフェスト」ですね。先週も少し触れるか触れないかのところでしたが、先月の9月17日に菅改造内閣が発足しました。菅総理大臣は所信表明演説などで、「新しい内閣は有言実行する」としているのですが、はてさて。ちょうど9月に民主党政権である鳩山政権が誕生し、その原動力になった「マニフェスト」ですが、今となれば影が薄い印象も否めません。さて工藤さん、今日はリスナーの皆様に何を投げかけますか。
工藤: そうですね、今の話でも出ましたが、一言で申しますと、「マニフェストをこのままで終わらせていいのか」ってことなのです。そこを僕は皆さんと今日考えてみたい。選挙の時には政権はマニフェストを提示して選挙を闘っていますが、これって実は昔からではなく小泉政権の時からなのですね。その時にマニフェストを出して...
谷内: 最初はマニュアル?みたいな感じで分かりませんでしたが。
工藤: そうですね。マニフェストという言葉がそこで出て、特に民主党が一生懸命でした。これによって約束を軸にした政治に変えたいと。つまり、それまでの政権公約は何かスローガンみたいで何を言っているのか分かりませんでした。多くの人はそういう公約を見て政治を判断することはなかなか難しく、この政治家なら信頼できるとかいった感じでした。でもそうではなくて、選挙を、国民との約束を軸にして政治が選ばれるような仕組みに変えなければいけないのではないか、その約束がマニフェストでした。僕はこの志はいいと思うのです。しかし残念なことに、特に先の参議院選挙ですね、菅さんのマニフェストがそうでしたが、また昔のスローガン集に戻っていました。「マニフェストっていうのは実行しなくてもいいということの代名詞だ」、なんて言っている人もいました。「マニフェスト」という言葉をやめた政党もありました。なんかこれはおかしいなと思うのです。これを今日考えたいと思います。
谷内: 「マニフェスト」が出た時から今までHPでも出していたり、菅さんの写真を出したりとかしています。なんでこんなに関心が薄くなったのですか。
工藤: 僕は2つあると思います。マニフェストというのは約束ですから、ただ約束をするだけではなく、その約束をきちんと実行するような政策決定のプロセスを政治はきちんと決めないといけないのです。そして、それを政治主導でやる。しかしそこの仕組みは政府の中にもできておらず、なかなかうまく実行できない。実行できないと批判される。それで政治家のマニフェストに対しての熱が冷めてきたのは事実です。ただ僕が思うには、マニフェストがここまで関心を持たれなくなったのは民主党のマニフェストが良くなかったからだと思います。
谷内: どんなものですか。
工藤: マニフェストは元々政治改革の一環で出てきました。ちょうど2003年くらいに自民党の中に国家戦略本部があって、国民にビジョンを説明して、こういうことをしたいのだ、と。そういうような政治の仕組みをつくりたいという政治改革の議論の中で「マニフェスト」が必要だということで、政治の舞台に出てきました。ですが、その約束を党内で取りまとめるプロセス、そして実行するプロセスをどう実現するか、ということに政治はまだ成功していないのです。その後、マニフェストは不十分な形でどんどん動いてしまいました。民主党はマニフェストを使って政権交代、と国民に言ってきましたが、最後のマニフェスト、つまり鳩山さんのマニフェストはただの「ばら撒きリスト」なのですね。政権交代の大事な選挙でのマニフェストでしたが、僕らの評価が低かったのはそのためです。
何でばら撒きかというと、政策には必ず目的があるのです。たとえば「子ども手当」ってありますが、それは何のためにあるのか、ということで目的が必ずあるはずです。例えば、日本の少子化の改善のためなのか、みんなが働きながら子供を育てることできるようにするためなのか。でもよく見ると、少子化対策のために「子ども手当」を行うとは言っていなくて、それよりも今は結構経済が大変だからと。だから、資金を家計に回したい、というのが選挙の中で言われました。すると、子ども手当の目的はなんなのかとなります。託児所や保育所を整備して、母親が仕事をしながら子育てを出来るようにした方が少子化対策として効果があるかもしれない。
目的と政策は普通つながっているのですが、民主党のマニフェストは先にお金だけが出たのです。子ども手当13,000円、満額で26,000円を出すとか。しかし、当然日本の財政は厳しいから、うまくいかなくなった。そして鳩山政権はそれを実現できないという形で追い込まれていったのです。
鳩山政権に対してかなり大きな批判があった時に、鳩山政権のマニフェストへの批判ではなくマニフェストそのものへの批判になりました。マニフェスト至上主義でマニフェストを守らなくてもいいとか、「君主は豹変する」とか、マニフェストにこだわっていたら政治家として大物ではないとか。これは何なのかという話です。これはマニフェストの問題ではなく、民主党のマニフェストがおかしいのです。
民主党は政権を取った後、こういう風に日本の政治、あるいは政策を変えたいと説明すべきです。「出来ると思ったけど、色々政策目的を考えたらこういう風な形で修正することが必要だ」と国民と対話すべきでした。それをしないままで、マニフェストが修正に追い込まれ、退陣して菅政権になって、またマニフェストが出てきた。そしてその菅政権のマニフェストを見たら、今度は鳩山政権のマニフェストとはかなり違うのです。これだったら政治は何を国民に約束しているのか、分からなくなってしまう。それがマニフェストの批判とか、関心が薄くなることにつながったのではないかと思っています。
谷内: 国民ってそんなにマニフェストを熟読していますか...
工藤: 僕は評価をしているので、きちんと見ていますが、確かにこれは解説がないとなかなか読めない部分もあります。だけどマニフェストはきちんと見ないといけません。水戸黄門の世界では、悪いことをすると、お代官様がいて誰か懲らしめる人がいるような気がします。今、政治をこらしめる人は有権者なのですが、それをするにはその中身を理解していないといけない。僕らが評価やそのための議論を公開するのは、その中身を解説したいからです。こうした有権者側の監視が強まると政治もうかうかできない。そうした緊張感を日本の政治に作り上げたい、と僕らは考えているのです。
これまでの政治は、なるべくばれないようにごまかして、曖昧にして公約を出すのが常でした。でもマニフェストはそうはいかない。
そう考えると、民主党のマニフェストはかなり問題です。鳩山さんのマニフェストは4年間で16.8兆円を使うことになっています。子ども手当の実施、暫定税率やガソリン税をやめますとか、高校授業料の無料化など、4年目にはで16.8兆円必要なのですよ。1年目は7.1兆円必要。しかしそのお金はどこにあるのか?と当然なりますよね。そうしたら民主党は堂々と、「国の予算を全面的に見直せば捻出できる」と。そこの中で無駄を撲滅しましょうということで、事業仕分けをやりました。それだけの財源が出たのではないかとみんな思いましたが、全然出ませんでした。16.8兆円の内、9.1兆円の無駄を削減するのでマニフェストの内容が実行できるということだったのですが、実際にはどうなったかといえば、昨年の事業仕分けでは2兆円しか削減できなかった。つまり9兆円の財源を捻出する予定が2兆円しかできなかった。しかしもっとびっくりしたのが、その中で人件費とかそういった経費が1年で5兆円も膨らんでいたのです。すると無駄削減どころではなく、どんどんコストが上がってしまった。日本の財政は厳しい状況ですから、どう考えてもマニフェストは全面的な見直しに追い込まれるのは必然でした。
それで予算を見てみたら、マニフェストの中で出来たのは、さっきの子ども手当の半分の13,000円と高校授業料の無料化だけで、ほとんどが全部駄目でした。それだけではなく予算が組めない事態になっていた。借金は43兆円になんとか収めましたが、税収が37兆円しかないのにそれより多く借金をして、色んな埋蔵金から金を集めて、ようやく予算を組んだのが昨年の予算編成でした。ところが、驚いたのはその予算案を発表した今年1月の施政方針演説の中で、マニフェストの「マ」の字もないのです。
国民との約束なら、その状況を国民に説明すべきでしたが、国会の中で何も説明しないのです。今、菅さんも同じような状況ですが、マニフェストは全力でやりますと。約束なのだから、仮にどんなことがあっても言ったことを実現するために命をかける、と言うのは分かります。だけど財源がないとなれば、あとは借金をするしかないではないですか。借金は若い人にツケが回るだけです。そういう事態に追い込まれていたのにもかかわらず、菅さんの所信表明演説を見れば、マニフェストは全面的にやりますと。しかし出来ない場合は国民に説明をします、と言っています。もう説明しなければいけないとかいう段階ではなく、実際に修正や断念をしてしまっているのです。しかも政策の方向を大きく変えているわけですから、出来なければ「すみません」と謝罪するべきです。それで「こういう風に修正する」とか、「僕たちの考え方はこうです」と言わなければいけませんが、未だに言っていません。
選挙の時だけ約束をすると。それで出来なくなっても説明しない。普通の企業であれば、出来ないことをはじめに分かって約束すれば大きな問題になります。政治の世界でそういうことでも当然ということなのか、僕が非常に気になっているのはそのことです。
だからといって、そういったマニフェストの仕組みそのものを止めるというのは僕は全く違う話だと思います。マニフェストはあくまでも国民が政治家を選ぶための道具なのです。だから国民がもっと怒らないといけないし、そういったことで緊張感をもつことにより、日本の民主主義は非常に強くなると思います。先週と同じ問題ですが、ボールは僕たち国民にあるような気がしています。
谷内: 今でも国民はマニフェストに期待していると思いますか。
工藤: 僕は逆にマニフェストがなかったらどうなるのかと思うのです。菅さんのマニフェストも前回の参議院選では分析しましたが、衆院選の時から9割は修正しています。そして新しいことをどんどん入れています。例えば、財政再建とか消費税ですが、財政再建をするという方向になっていますが、それは当然だと思います。しかしこの時にこのマニフェストの約束がまだ残っているのです。つまり、財政再建にも踏み込んでいくという政策の体系が変わっているのに、相変わらずあのばら撒きのマニフェストが残っているのです。これを整理しないとだめだと思います。ただその時に、そういったことが分かる手段は何なのかと思います。やはり国民に何かの形で説明してくれる文書がないといけないと思います。
約束で政治家と国民が結ばれないとしたら、国民はどうして政治家を選べるのか、と思います。政治家に僕らの人生や未来をすべてお任せしても、間違いなく今の政治は答えを出せないのは、今の国会を見ていても明らかでしょう。でも、約束をコントロールする仕組みが今の政府にはないのです。そうなってくると、結局それぞれがやったけど駄目だったとか、官僚の抵抗があったとか。そういった理由で約束が骨抜きになってしまいます。マニフェストがなくなってしまえば、国民は政治が何をやっているのか分からなくなります。しかし、自分たちの生活から見れば年金問題や医療問題について、将来自分たちの子どもがどうやっていくのかとか、今の若い世代は年金があるかどうかわからないような状況なのですね。だからマニフェストがなければ、国民は政治を選べない、未来を選択できないのです。
だから、未来の選択肢として100項目もなくていい、せめて10項目でいいから、こういったことをやりたいといったきちんとした約束集を政党は出して、その実行に政治はこだわっていかないと国民との距離が離れていくと思います。
谷内: 他の党のマニフェストはどうですか。
工藤: まだ同じようなレベルなのですね。ただ民主党の場合は支出、サービス提供型のばら撒きリストだったのです。でもサービスを提供するにはお金が必要で、それを無駄の削減で捻出しようとしたけど、うまくいかず破綻しているわけですね。他の党もまだ抽象的な政策なのです。ただ菅政権が今言っている社会保障や財政再建をすることは、各政党間でそれが課題だとみんな分かっています。だからこそ、その課題にマニフェストで競いあう環境が出来たのですよ。
僕は菅政権にどうしてもやってもらいたいのは、国民との距離を縮めてほしいということです。あのマニフェストは出来なかった。しかし今の日本の課題を考えてこういう風にマニフェストを変えたいと説明した上で、やはり総選挙をすべきですね。約束を基にした政治を日本で復活させないと、日本の未来が全く見えないことになってしまう。こういう政治では駄目だと思います。僕たちは、日本の将来に対してもっとコミットメントしないといけない。マニフェストっていうのをもっと大事に考えないといけません。
ということで、また時間になりました。今日も熱く語ってしまいましたが、今日はマニフェストについて議論しました。また何か色んなご意見がありましたら是非私たちの方にお寄せいただければと思います。
(文章は、動画の内容を一部編集したものです。)
放送第4回目の「工藤泰志 言論のNPO」は、「有言実行内閣に問う、マニフェストこのままで終わらせていいの?」と題して、10月27日(水)5時30分からJFN系列で放送されました。その収録風景を公開致します。
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