「日本の知事に何が問われているのか」/前三重県知事 北川正恭氏

2007年6月05日

camp4_kitagawa.jpg北川正恭(前三重県知事、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、「新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)」代表)
きたがわ・まさやす
1944年生まれ。67年早稲田大学第一商学部卒業。83年衆議院議員当選(4期連続)。95年、三重県知事当選(2期連続)。「生活者起点」を掲げ、ゼロベースで事業を評価し、改善を進める「事業評価システム」や情報公開を積極的に進め、地方分権の旗手として活動。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提言。現在、早稲田大学大学院公共経営研究科教授、早稲田大学マニフェスト研究所所長、「新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)」代表。

第3話 タックスペイヤーサイドの原点を貫く

私は知事に就任するときに二つ道があると考えました。徹底的に県庁と対立して、県民受けを狙うという道がある。しかし、これでは行政効率は落ちると思いました。もう一つは徹底的に職員と協調する道です。私は協調する道を選んだ。その方が行政効率は落ちません。なぜ、こっちの道を選んだかというと、絶対にうまくいくという自信があったし、選挙で白黒つけよう、駄目だったら辞めてやると腹をくくっていたからです。

ただし、「生活者起点」というタックスペイヤー(納税者)サイドに立つか、タックスイーター(税金を使う行政)サイドに立つかだけは、絶対決めなくてはなりません。私がタックスペイヤーサイドでいくぞというのをわからせない限り、知事としては機能しないのです。私は知事のとき、志だけは本当に高かった。しかし、能力はないから、能力勝負だったら、役所の優秀な人たちに負けていたでしょう。私はタックスペイヤーサイドという異次元の場、すなわちプラットフォームをつくったから、役人は私に勝てない。自分の立ち位置がはっきりしているから、「君はいいことを言うなあ。だけど、それは業界が言っているのと同じじゃないか」とか、言えるのです。

そしてそうした立ち位置を変えた対話の中から事務事業評価システムの導入へと進み、行政に新しいビジネスモデルをつくりました。例えば原子力発電所の問題でも、今まではエネルギー政策は国の方針が第一義だから、県としては、推進するか、ちょっと待ってくださいという凍結か、二つの選択肢しかなかった。それに対して、「自分たちの立場で考えたら別の道もあるのではないか」と問い掛け、議論を無制限にやる。そうしながら、一方で、県議会からいろいろ意見を出してもらうようにして、どうするか詰めていきました。自分たちで自己決定し、自己責任を取るという議論が生まれたから、問題を話し合う中で、「知事、元へ戻してもらいましょうか、白紙にするのはどうですか」という話になる。これは新しい概念です。従来だと、凍結して待ってください、か、推進するか、どちらかしかなかった。

当時、全国には要対策重要電源地点が二〇カ所ありました。その全部が、四〇年もそうした中途半端なかたちでした。われわれは徹底的に議論しました。調べてみると、知事には原発について何の決定権もないのです。知事は地域の統括責任者にすぎず、三七年間、ゴールなきマラソンをやってA町は推進、B町は反対で、不毛の争いをしてきました。それは地域の統括者としては見るに忍びない。そこで、私は地域の立場から、白紙にしてくださいませんかと、経済産業省と中部電力にお願いしたのです。

これは陳情です。でもダイアローグをして新しい概念をつくろうという自立の気持ちがあったからこそ、白紙でお願いしますと言えたのです。言ったその日に、中部電力が「はい、わかりました」と。それで同社の株価はぽんと六〇円も上がったわけです。

その後、風向きは大きく変わりました。経済産業省は後ろで「北川知事さん、ありがとうございました。要対策重要電源地点が、それから一年間で二〇あったものが一三に減りました」と言っていました。政府も上げたこぶしは下ろせない。金はばらまいている。そこに風穴をあけた。すなわち、政策を考える以前のマネジメント、プロセス、意思決定過程、システムから変えていくというのが私の本質的な改革路線なのです。

全5話はこちらから

 「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
 現在の発言者は北川前三重県知事です。

1 2 3 4 5