たかはし・はるみ
1954年生まれ。76年一橋大学経済学部卒業後、通商産業省に入省。大西洋国際問題研究所(在パリ)研究員、中小企業庁長官官房調査課長、通商産業省貿易局輸入課長、中小企業庁経営支援部経営支援課長、北海道経済産業局長、経済産業研修所所長を歴任し、03年に北海道知事に就任(現在2期目)。「未来に向けて夢と希望が持続する北海道づくり」を提言し、経済構造改革の推進、地域主権の確立などを進め、道州制特区構想の実現に向けて先進的に取り組んでいる。
第5話 北海道の道州制特区の成果を自己評価する
我々が道州制の議論のときに必ず主張していることは、道州制になれば収入の部分も全部自立だということはあり得ない、道州制になっても、やはり道州間の財政調整はやっていかなければならないということです。
広い北海道でも、非常に狭い東京や大阪でも、どこに住むかは人の自由です。そこに人がいる限りは、それが非効率であろうが、やはり行政サービスを提供せざるを得ない。それをすべて、北海道なら北海道で賄えというのはおかしい。
その意味では、ふるさと納税などには、いろいろな税議論の観点から賛否両論があるようですが、そのようなことに目配りして、税財源格差の是正をしっかりやっていただくことは、道州制が全国に行き渡るための1つの必須条件になってくると思います。都会は都会だけで成り立っていない。集積をベースにして経済が動き、その中でその周辺を支えていくという大きな地域の構造になっているからです。
我々もできる限り、財源の自己調達に努めることは当然です。だからこそ、いろいろな経済政策を道内でやっているのです。ただ、それを一生懸命貫徹したとしても、東京などのように狭いところにたくさん人が住んでいるところと北海道のようなところとでは、やはりおのずと違いは出てきます。
私が知事になった4年前は、道州制という言葉すら皆さんご存知なかったと思います。その意味では北海道が、ある程度表に出る形で道州制といっているうちに特区法ができた。そこには理念がないという話もありますが、目標規定のところに「地方分権のための道州制」と明記してもらったことは重要な点です。
安倍政権になって、道州制についてビジョンをまとめようということになりました。他の政党も含めて、道州制ということを地方分権の1つの方向性として皆さんが議論するようになった。世論というものも一気に動くはずはないので、一歩一歩、このように道州制を議論する方向になってきたこと自体が、ここまで道州制を一生懸命進めてきた立場の人間としては、とても心強いことだと思っています。
昭和30年のころの道州制の議論は、中央集権の姿としての道州制という議論もあったわけですが、今では地方分権のための道州制なのだということでコンセンサスが出来上がっています。それはプロの方々から見れば、遅々たる動きだ、理念がないという思いもあるかもしれませんが、私たち実務家の立場からすれば、よくここまできたと評価しています。
そして、この道州制というものは単なる地方分権ではありません。この日本という国の形をどのようにしていくかという国家戦略です。
GDPが世界の中で2番目ということで「日本国は偉い」という時代はすぐに終わります。もうすぐBRICsに抜かれてしまいます。では、先進国の中で日本はどういう意味で偉いのか。やはり多様な地域がしっかりとそれぞれ個性的な形で経済社会運営をしている、その総体としての日本があるのだということが、これから21世紀の後半にかけての日本のすばらしい魅力になってくると思う。そこを目指していく道州制だと思っています。
ですから、本来、道州制は単なる地方分権の制度論として議論するよりももっと大きなテーマなのだと思います。
初めて知事に就任した4年前は、道民の官依存意識が強くて驚くこともありました。例えば、この道州制の議論でも、4年前に始まったころは、道州制というものは本当はボトムアップで、住民がどういう地域を考えるかから始めるべき議論であるにもかかわらず、道内で道州制というと、一般の道民の方々の最初の反応は、「道州制になるんだね、そうしたら国が考える代わりに道庁が考えてくれるんだね」という発想なのです。この官依存というものは、国にだけ依存するということではなく、国がやってくれなかったら道庁がやってくれる、道庁がやってくれないのだったら市町村がやってくれる、自分たちは受け身という体質なのです。
それを変えなければ駄目だということで4年間一生懸命やってきて、今はこの道州制の議論も、道州制道民会議のような民間の方々との検討の場も通じて、年々議論が活性化してきました。少しずつ、変わってきていると思います。
「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
現在の発言者は高橋北海道知事です。