いずみだ・ひろひこ
1962年生まれ。87年京都大学法学部卒後、通商産業省入省。資源エネルギー庁石炭部計画課、中小企業庁小規模企業政策課、資源エネルギー庁石油部精製課総括班長、産業基盤整備基金総務課長、国土交通省貨物流通システム高度化推進調整官などを経て、04年10月に新潟県知事に就任。知事就任直前の10月23日に新潟県中越地震が発生し、その当日から被災住民の救済と被災地の復興に奔走した。タウンミーティングを定期的に開催し、様々なテーマで住民との対話の場を設けている。
第3話 会計制度をだれが見てもわかるものに
夕張市の財政破綻の問題もあり、情報開示を進めて会計制度をだれが見てもわかるように直したいと私は思っています。しかし、そこにもさまざまな制約があるのです。土地開発公社の会計を複式簿記にして情報開示をしていく、さらに県の財政と連結をしていくというようなことにも抵抗があります。具体的に申し上げると、保有不動産を時価表示にさせてほしいと私が知事に就任以来ずっと言っているのですが、実現していません。例えば、土地造成すると、総括原価主義といって、そこにかかった人件費とか金利とかも含めて原価は幾らと帳簿に載せます。しかし、地価が右肩下がりになると、損するに決まっています。それを今の時価に金額も含めて書き直したいと言うと、制度上問題があるというのです。
この含み損をどう処理するかです。徐々に地価が下落する中で15年、20年かけてつくった含み損なのだから、不透明な一時借入金を全額返済して正規の公債として15年、20年かけて返していけばいいではないかというのが私の基本的発想です。でも、それをやると、赤字県債となり、地方財政法上、違法性を持ってくるので、そういう公債の発行を認めませんという話がきます。新潟県の場合は、含み損については計算して全部報告してもらいましたから、私はその実態がわかっています。県財政に大きな影響がない程度の問題ではありますが、こうした問題はよりクリアにした方がいいと思っています。
実際、市場からかけ離れた総括原価をやめ、これを時価で売ることにしたら、やはり売れ始めました。含み損を抱える土地を時価で売却すれば損失が顕在化するのは当然です。しかし、これがなかなか理解されないので苦労しました。過去15年間かけて徐々に含み損としてつくったものは時間をかけて、これから返していくという話にしかならないはずです。
ちなみに、昭和40年代に行った新潟東港の開発も、104億円の赤字をつくって失敗だったという議論がありました。しかし現実には、この開発による当時からの税収は1300億円に上ります。現金主義会計を単年度で見ると大局を見失います。
経営者は何を見ているかというと、会計を見ています。その会計制度が極めて不十分ということでは経営ができません。財政状況を示す指標として総務省がつくった実質公債費比率というものが最近公表されました。では、破綻した夕張市はそれが全国最悪なのかというと、決してそんなことはないわけです。それは、頭の中で考えたキャッシュフローの大福帳の世界の中での数字なのです。普通の経営者が見てわかる会計制度にしないと、そもそも自治体の経営状況は判断ができないということではないでしょうか。
そこで私たちは公会計の見直し作業を立ち上げると先般発表しました。実際につくらないといけない書類はつくりますが、先行的に実行し、公開できるものは公開し、東京都方式を追っかける形になると思います。
「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
現在の発言者は泉田新潟県知事です。