今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、2009年総選挙以来となる次回の選挙について、有識者2000人はどのようにみているのか? 言論NPOが行ったアンケートを元に考えました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年10月3日に放送されたものです)
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次の選挙を日本の新しい変化のきっかけとするためには」
工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝様々なジャンルで活躍するパーソナリティが自分たちの視点で世の中を語るON THE WAY ジャーナル、今日は「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。
民主主義を機能させるために有権者の覚悟が必要
さて、2009年の総選挙以後3年も選挙を行っていません。その間いろいろなことがありましたが、民主党政権が有権者に信を問うことのない状況が動いています。これに対して僕たちは非常に問題だと言っていましたが、自民党、民主党の党首選も終わり、政治の世界はいよいよ選挙準備に入っています。それに応じて、私たち言論NPOもその準備を始めています。
先日有識者2000人に、次の選挙で何が問われているのか、を質問しました。この有識者は、大手企業の経営者、官僚、学者、メディアの編集幹部、NPO・NGOの代表など、様々な分野で活躍する人たちがほとんどです。今日のON THE WAY ジャーナルはこの有識者アンケートを使って、皆さんと日本の政治に今、何が問われているのかを考えてみたいと思います。このアンケートは一週間程で413人から回答をいただき、皆さんが理由をしっかり書いてくれました。その理由は合計でA4用紙100枚近くになりました。皆さんが日本の政治にこんなにも言いたいことがあるということに、僕も驚きました。
結果を見ると、非常に重要な論点を提起していることが分かります。その論点は3つあります。1つは、有識者の7割が、現在の日本の民主主義が機能していない、有権者が覚悟を持って選挙に望まなければならない、と考えていることです。
日本が問われているのは民主主義自体の立て直し
2つ目は、選挙自体に対する認識です。6割の有識者が、選挙とは「国民と政治家の約束の場だ」と言っています。また、7割の人が「マニフェストを軸とした政治が必要だ」と言っています。しかし、最近マニフェストに人気がありません。これは民主党政権でマニフェストが骨抜きにされ、国民に対する説明責任を果たさなかったからですが、やはり、「選挙とは国民との約束の場だ」、「マニフェストを軸とした政治が必要だ」と6割~7割の有識者の方が思っています。この結果を見ますと、日本が問われているのは民主主義自体の立て直しではないか、と感じます。
これを具体的に見てみます。次の選挙を日本に新しい変化を生み出すものとして期待しているか、という設問では、意見が二極化しました。48.4%の方が「期待している」と答え、47.2%の方が「期待していない」と答えました。この理由を見ますと、ここまで政治が混乱していると期待せざるをえないという期待であり、むしろ何かやらなければならないという期待です。どちらにせよ、今の政治家にあまり期待できない、ということで意見が一致している状況です。
それを反映するように、次の選挙でどの政党に投票するかを決めているか、という設問では、「投票に確信が持てない」あるいは「選ぶ自信がない」と3割程度の方が答えています。こうした方は今回の選挙を非常に大事だと思っているけれども、政治そのものが非常に混乱していると見ています。そこで、決められない理由を詳しく聞いてみると「日本の政治で行われていることは、選挙目当てなど政治家の自己都合に過ぎない」あるいは「課題解決に対して国民に何も提起がない」という声が多いです。要するに、現在日本の民主主義とは何か、が問われていて、選挙という一番大事な時に選ぶ政治家・政党がないという状況が浮かび上がっています。
マニフェストを軸とした政治に戻し、政治家自体の監視を強める
しかし、有識者は単に日本の政治が駄目だと言っているのではなく、これをどうすればいいのか、というヒントを出してくれています。例えば、どうすれば民主主義を機能させることが出来るのか、ということを聞きました。これは12項目程度の選択肢から回答を3つ選択する形式でした。その結果、43.9%の方が「有権者・市民の当事者としての自覚」と答え、最多となりました。また、22.1%の方が「マニフェストを軸とした政治サイクルの確立」、19.5%の方が「有権者と政治家とのより緊張感のある関係を作るべき」と答えました。これらを合わせるとだいたい80%程度の人が有権者・市民が重要であると言っています。これは3つを選べという設問ですから、実際は30%近くがそう思っているということです。問題は、民主主義とは何かが問われていて、立て直さなければいけない時に、有権者側がきちんと政治家との緊張関係を作っていかないと変わらないのではないか、と多くの人が考えていることです。それに続いて、直接的な政治参加、例えば「直接民主制の導入」や「首相公選制の導入」が2割ぐらいいます。つまり、これは代議制をベースとした有権者の覚悟だけではなく、より有権者の参加が必要との声があるということです。
これらは基本的に有権者サイドに解決のヒントを求めています。残りは、30%の方が「参議院の廃止」を、20%の方が「政治家の定数削減」を求めています。すなわち、民主主義の制度的な建てつけの所を変えていかなければならないという議論が出てきています。今回の選挙を有権者はそういう覚悟で臨まなければならないという声が有識者の中で出てきています。
私はこういう考え方に全面的に賛成です。よくこの場で言っていますが、民主主義を機能させるとは、まず代表を選び、次に選ばれた代表がきちんと日本のために課題解決をし、その評価を次の選挙で有権者が行う、というサイクルが回ることです。では、このようなサイクルは回っているのか、と考えた場合に日本の政治ではぷつんと切れてしまっています。例えば、今の政治家に対して僕たちは有権者の代表だという認識があるか、その代表はきちんと日本の期待に応えているか。今、消費税の増税、尖閣諸島、エネルギーの電源構成などいろんな問題が出てきており、国民も考えなければならない時期です。ようやく今度選挙がありますので、これをきっかけにそのサイクルをもう一度機能させなければなりません。従って、選挙の意味を真剣に考えなければいけません。だから、棄権は絶対だめです。
選挙の意味を考える上でヒントとなるのが、先ほどの6割の方が「選挙を国民との約束の場」と答えたことです。よく国民との約束の場というと、有権者はそんなに強いのか、白紙委任すべきだ、という声があり、橋本氏もインタビューの中で選ばれたら白紙委任すべきだと言っています。「選挙は白紙委任すべき政治家を選ぶ場だ」という意見がありますが、このアンケートではわずか15.1%しかいませんでした。
つまり、有識者の圧倒的多数が、「選挙は国民との約束の場だ」と思っています。僕はこれを非常にいい傾向だと思っています。僕は「マニフェストを軸とした政治にすべき」、「選挙とは国民と政治家との約束の場だ」というのはずっと前から言っていました。3年前に民主党がマニフェストを提示したので何とか動き始めたと思ったら、それが全然駄目でした。その結果、そうした政治が問題にも関わらず、マニフェストそのものが問題のようになりました。マニフェストを問題視する意見もあるけれども、次の選挙を考えた時には、やはりマニフェストが大事になります。これに関係して、次の選挙の時は何を参考にして投票しますか、と聞きましたが、57.6%の方が「マニフェスト」と答え、最多となりました。他方で、「政治家の発言」あるいは「政治家の資質」を見て、信用できるかを考えなければならない、と言う人が意外に多かった。この結果から、代表制民主主義の仕組みはマニフェスト主軸の政治に戻さなければならないけれども、一方で、有権者は政治家そのものに対しても監視を強めていかなければ日本の政治は変わらない段階に来ている、と思っている人たちが結構います。このアンケートの結果から言論NPOの活動に大きなヒントをいただきました。
大きな変化の担い手は有権者であり、市民である
一方、日本の政治に変化をもたらす主体は誰か、と聞いてみたところ、「有権者」と答えた人が25%、「NPO・NGO関係者」が15.8%でした。僕は、NPOが市民社会の1つの受け皿だと思っているので、そうなってくると「有権者」と「NPO・NGO」を合わせると4割もの方が市民社会に期待していることになります。その他に、31.9%の方が「若い政治家」に期待しています。これも意外に多いです。つまり、既存の政治家だけでは信用できないという人がいます。また、その中の多くの人が新しい政治家による大きな変化を求めているのです。さらに、最も多くの期待を集めているのが、「有権者」であり、「市民」なのです。なお、「新聞やテレビなどの既存のメディア」、「学者」、「企業経営者」に期待する人は1~2%程度で、ほとんど期待されていません。そうすると、有権者、市民社会、若い政治家に期待する人が非常に多いということです。
次の選挙で政治家に期待するのは日本の課題解決
なお、このアンケートでは、日本維新の会を新しい変化として期待できるのか、ということも質問しました。この結果に驚きました。日本維新の会は、毎日メディアに取り上げられるので、評判を呼んでいると思っていましたが、意外に期待が少なかったです。この有識者の間で「期待している」のは3割程度です。「期待できない」のも3割ぐらいいて、さらに3割がむしろ危険な動きと見ています。このアンケートの有識者の職業をみると、国家公務員などがいますので東京に集中している可能性があります。また、年齢をみると20代と30代が合わせて12~13%程度と少ない。特に多いのは、40代、50代で、合わせて50%ぐらいいます。40代、50代で多く回答しているのは、官僚あるいはメディア、企業の幹部、経営者などとなっています。
日本維新の会の結果に興味があるので、色んなことを考えてみたのですが、次の選挙に対して多くの人が期待しているのは日本の課題解決だと思います。つまり、日本は少子高齢化が進んだにも関わらず、社会保障を含めていろんな形に対応した制度設計が出来ていません。また、財政も尖閣問題もどうなるか分からないという厳しい時代になっています。つまり、政治改革のような改革を競っているのではなくて、今の課題に対して政治がきちんと答えを出すことを期待しているという背景がその結果に現れたと思っています。従って、有識者は、日本の課題解決を主軸にこの国の民主主義を立てなおさなければならないと、的確な指摘をしていると思います。
今回のアンケートから浮かび上がる選挙の意味は、民主主義を立て直さなければならないということをどのように考えなければならないかを我々は問われている、ということです。今回のアンケートでは、選挙の争点を含め、様々なことを聞いています。是非言論NPOのサイトでこのアンケート結果を見てもらいたいです。
今回の選挙は単に政党や政治を選べば終わるわけではありません。従来の選挙ではなく、新しい変化のきっかけになるためにどうすれば良いかを僕たちは考えなければいけません。言論NPOも次の選挙での有権者の復権、本当の民主主義を機能させるために何が問われているか、という課題を突き付けられている感じがします。言論NPOはこれに応えて、大きな動きを展開しようと思っています。これに関しては次週皆さんにきちんと説明させていただきたいと思います。それでは、お時間です。今日は言論NPOが行った有識者のアンケート結果を基に次の選挙で何が問われているか、ということを皆で考えてみました。アンケート結果は是非WEBサイトで見ていただければと思います。今日はありがとうございました。
今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、2009年総選挙以来となる次回の選挙について、有識者2000人はどのようにみているのか?言論NPOが行ったアンケートを元に考えました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年10月3日に放送されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。