総論
安倍政権の財政政策における国民との約束は、財政健全化と消費税増税の2つである。
まず、財政健全化だが、安倍政権は2012年の12月の衆議院選挙のマニフェストでは財政健全化に向けた公約を明示さなかった。その後、13年2月の施政方針演説で「国・地方のPBについて、2015年度までに2010年度に比べ赤字の対GDP比の半減、2020年度までに黒字化、との財政健全化目標の実現を目指す」ことを宣言し、13年7月の参議院選挙の公約には盛り込んだ。
8月の「中期財政計画」では、国の一般会計のPBについて、2014年度と2015年度はそれぞれ少なくとも4兆円程度改善させる目標を明確にしたことは評価できる。しかし、前政権である野田政権が12年8月に示した「中期財政フレーム」では、「基礎的財政収支対象経費」について、恒久的な歳出削減を行うことにより、少なくとも前年度当初予算の「基礎的財政収支対象経費」の規模(71兆円)を実質的に上回らないとして、歳出にキャップをかぶせていた。しかし、安倍政権が示した中期財政計画にはそのようなキャップは存在せず、財政の規律を予算上確保するという点では、まだ不十分である。
また、8月に内閣府が示した中長期の経済財政に関する試算は参考資料ではあるが、「日本再生戦略」において示された施策が着実に実施され、2011~2020年度の平均成長率は、名目3%程度、実質2%程度、消費者物価上昇率は、2012年度にプラスとなった後、中長期的には2%近傍で安定的に推移するという「成長戦略シナリオ」で推移したとしても、国・地方の基礎的財政収支の対GDP比は2020年で -2.0%となり、アベノミクスが成功し予定通り経済成長をしたとしても、2020年の基礎的財政収支の黒字化は難しいと認めており、目標達成は困難な状況にある。そして、安倍政権は2020年の目標が現時点で困難だということについて、国民に対して何ら説明をしていない。
次に消費税増税の問題についてである。安倍首相は10月1日には税制抜本改革法に基づき、消費税率の8%への引上げを決断したこと自体は高く評価できる。一方で、10%への引き上げ判断は景気動向を踏まえて6カ月前の15年4月とされている。安倍首相は10月24日の参院予算委員会で「14年7~9月期で(景気が)回復傾向に入っていくことができるか、さまざまな数値を勘案しながら判断」すると発言している。今後の景気の動向の影響を受けるため、現時点で10%に引き上げできるかは現時点で判断することは難しい。
安倍政権はアベノミクス「第二の矢」として10兆円の補正予算を組み、14年4月の消費税8%への引き上げ時にも5兆円の補正予算を組み、需要を下支えする状況が続いている。どこかのタイミングで民間需要へのバトンタッチを行わなければ政府支出が膨張した状況は続くことになるが、その点についてどのような方針を持っているのか。そもそもどのような場合に「機動的・弾力的な財政政策」を発動するのか、そして、財政健全化との整合性や目標達成に向けた道筋をどのように描いているのか、国民に説明することが必要である。
安倍政権1年実績評価 個別項目の評価結果 【財政】
評価項目 | 評価 | 評価理由 |
2015年度にプライマリ赤字のGDP比半減、2020年度まで黒字化、20年代初めには債務残高比を引き下げる
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2 | 2015年度プライマリー赤字半減目標は現時点で達成見込みだが、確実とは言えない。 また、内閣府が示した中長期の経済財政に関する試算(8月公表)は参考資料ではあるが、アベノミクスが成功し予定通り経済成長をしたとしても、2020年の基礎的財政収支の黒字化は難しいと認めており、目標達成は困難な状況にある。それについて、安倍政権は国民に対して何ら説明をしていない。 |
消費税率引き上げは実施半年前に社会保障国民会議の結論を踏まえ、経済状況を確認の上、予定通り実施するかを判断 |
4 | 消費税増税の判断時期、増税手段について閣内で不一致が生じるなど引き上げの過程で問題はあったものの、安倍首相は臨時国会開幕前の10月1日に記者会見を行い8%への引き上げを決断したこと自体は高く評価できる。 一方で、10%への引き上げ判断は景気動向を踏まえて6カ月前の15年4月とされている。安倍首相は10月24日の参院予算委員会で「14年7~9月期で(景気が)回復傾向に入っていくことができるか、さまざまな数値を勘案しながら判断」すると発言している。今後の景気の動向の影響を受けるため、現時点で10%に引き上げできるかは現時点で判断することは難しい。 |
5年間の集中財政期間に、国地方の公務員人件費を年間2兆円削減 |
2 | 13年度予算において、国・地方の公務員合わせて、1.5兆円の削減を達成した。しかし、復興財源確保のために12年度から国家公務員の給与を平均7.8%引き下げてきた特例措置を、今年度で打ち切る方針を決定した。これに伴い、地方自治体に求めてきた地方公務員の減額要請についても、13年度以降は行わず給与額は元に戻る。 一方で、閣議と給与関係閣僚会議(11月15日)にて、50代後半職員や地方勤務者の給与抑制を14年度中に始める方針も確認し、人事院が具体的な削減計画を策定し、2014年度中に着手する。しかし、現段階では、14年度に2兆円の削減は困難と評価せざるをえない。 |
各分野の点数一覧
経済再生
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憲法改正
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実績評価は以下の基準で行います
・未着手
・着手後、断念したが、その理由を国民に対して説明していない |
0点 |
・着手後、断念したが、その理由を国民に対して説明している
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1点 |
・着手し、一定の動きがあったが、目標達成はかなり困難な状況になっている
・政策目標を修正した上で着手したが、その修正理由を国民に説明していない |
2点 |
・着手し、現時点では予定通り進んでいるが、目標を達成できるかは判断できない
・政策目標を修正した上で着手したが、その修正理由を国民に対して説明している |
3点 |
・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
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4点 |
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
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5点 |