安倍政権2年実績評価【農林水産】評価結果
【農林水産】総論 | 3.2点(5点満点) 昨年:3.3点 |
評価の視点 |
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日本の農業・農村では、農業生産額の減少、基幹的農業従事者の高齢化や耕作放棄地の増加など非常に厳しい情勢にある。こうした状況をいかに克服して活力を取り戻し、持続可能な農業をどうつくっていのか。政治に問われている課題は、5年後、10年後の日本の農業をどうしていくのか、というビジョンや展望を説明する必要がある。では具体的にどのような課題があるか。 現在の日本の農業政策における問題としては、まず農家に対する過剰な保護政策がある。米の生産調整(減反)により供給量を抑制し、高い米価が維持される一方で、戸別所得補償などの直接支払制度が行われており、農家は二重に保護されている。言い換えれば、国民は消費者として、納税者として二重の負担を強いられていることになる。また、農業の担い手の問題もある。2012年の農業就業人口及び基幹的農業従事者に占める65歳以上の割合は6割、50歳以未満が1割となっており、基幹的農業従事者の平均年齢は66.2歳と高齢化が進行しており、若い世代の担い手をいかに確保、育成していくかということは喫緊の課題である。日本の農業を持続可能なもの、さらに産業として自立させていくためには、いまある担い手の農家の支援に加えて、明日の農業を担っていく新たな担い手の確保、育成が必要である。 このような課題を抱える中、安倍政権は、首相官邸に農林水産業・地域の活力創造本部を、農林水産省に「攻めの農林水産業推進本部」をそれぞれ設置し、改革に乗り出した。この一連の農政改革の中で、特に大きな変化としては、減反を廃止し、1970年から40年以上続けてきた価格支持政策を転換したこと、農協などの改革について問題提起したことが挙げられる。その他の政策課題についても、概ね実行しており、形式的な進捗だけ見れば改革は進んでいると評価できる。 ただし、この改革が実際に日本の農業が抱える課題の解決につながるものであるかは現時点で判断できないものが多い。 例えば、減反廃止は生産性の向上を促す半面、専業経営を不安定にするリスクもある。そこで、大規模農家などの担い手支援に絞った制度整備が必要となるが、政府は減反廃止を実現した後に、どういった農業のビジョンを描いているのか、ということが明らかにされておらず、不確定要素がありすぎる。 農地中間管理機構にしても、設置したことは大きな進捗であるが、具体的に動き出すのはこれからであり、農地集積が実現するか注視していく必要がある。 説明責任という点でも問題がある。特に減反廃止は、マニフェストには具体的な記載のない政策であるため、きちんと国民に対して説明することが求められているが、現時点では政策転換に踏み切った理由について国民に対して明確な説明があるとはいえない。また、安倍首相は「減反を廃止する」と発言しているものの、自民党のマニフェスト(2014年衆院選)の表現では、「生産調整の見直し」との曖昧な記述となっており、減反の廃止が実施されるかも現時点では判断できない。 また、2009年の政権交代に前後して、日本の農業政策は二転三転している。数年で農業政策がコロコロと替わるようであれば、農業従事者から見ても農地の集積やどの作物をつくるのかといったことを判断しにくい。既存の仕組みの中で、農地制度の再設計、再整理を行い、農地集積バンクとの整合性をどうするのか、更には日本の農業の5年後の見通しなど、中長期的に見て日本の農業をどうしていくのか、というビジョンが示されているとはいえない。 |
【農林水産】個別項目の評価結果
農地を農地として維持することに対価を支払う日本型直接支払いの仕組みを法制化する 【出展:2012年衆院選マニフェスト】 |
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自民党が公約で掲げた日本型直接支払いの仕組みは、戸別所得補償に対抗する形で、水田、畑、果樹園など全ての農地に対して多面的機能を理由に直接支払を行うという政策を掲げた。これに対して、政府は13年12月10日、今後の農林水産政策の指針となる「農林水産業・地域の活力創造プラン」を示し、その中に農業・農村の多面的機能に着目した日本型直接支払制度の創設を盛り込んだ。その後、日本型直接支払である多面的機能法(14年6月13日)は成立した。 しかし、その内容は自民党が公約で掲げたような、全農地を対象とするようなものではなく、これまで予算措置で実施されてきた①中山間地域等直接支払(2000年から実施)、②環境保全型農業直接支援(2007年から実施)、2000年から始まった農地・水保全管理支払を組替え、対象範囲を広げる(※)形で③多面的機能支払いに名称を変更した3つの直接支払を法制化したものであり、自民党の公約とは大きくかけ離れた法律であり、法制化はなされたものの公約の実現とは言えない。そもそも自民党が掲げた公約で直接支払を創設すると、従来より薄く広く補助金を支払うことになるため、中小・零細農家の温存につながる可能性があったため、結果的にはバラマキを阻止したともいえる。 一方で、公約と違う形で実現した法律について、何もきちんとした説明はなされていない。 ※農地・水保全管理支払で直接支払の対象となったのは、農業者に地域住民を含む活動組織が対象だったが、今回の法背化で、農業者のみで構成される活動組織も対象となった |
戸別所得補償を見直し、「担い手総合支援法」を制定、新規就農、経営移譲の円滑化など担い手の育成確保を推進 【出展:2012年衆院選マニフェスト】 |
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日本の農業・農村では、農業生産額の減少、基幹的農業従事者の高齢化や耕作放棄地の増加など厳しい情勢にある。こうした状況をいかに克服して活力を取り戻していくのか。この課題に対して、13年12月に農業・農村政策のグランドデザインである「農林水産業・地域の活力創造プラン」を策定した。これを踏まえ、地域の多様な担い手を確保すると共に、麦・大豆などの生産拡大を図る観点から、民主党政権では機能していなかった2006年制定の「担い手経営安定化法」の路線を踏襲し、「担い手経営安定法改正案」を提出し、14年6月13日に成立した。
改定前の担い手経営安定法の対象農業者は、認定農業者、集落営農のうちの一定規模以上の者(都府県4ha以上、北海道 10ha以上、集落営農 20ha 以上、ただし市町村が認定した場合には面積にかかわらず加入)とされているが、今回の改正により対象農業者が認定農業者、集落営農の規模要件が緩和され、認定新規就農者(青年等就農計画の認定を市町村から受けた人)も対象とされるなど、青年就農者への支援が拡大された。 民主党政権では機能していなかった2006年制定の「担い手経営安定化法」の路線を踏襲しながら、新規就農支援も含め、担い手(認定農業者、集落営農、認定就農者)に限定して支援をしていくように法改正した点では評価できる。 一方で、民主党政権下で実施されていたバラマキ的な戸別所得補償は「経営所得安定対策」と名称を変更して、13年度も同様に実施していたが、農林水産省は、産業政策的な観点から見直しを行い、米の直接支払交付金(10aあたり15,000円)は14年度産から半額にされ(10aあたり7,500円)、18年度米から廃止されることになり、戸別所得補償の見直しは実現した。 |
減反(コメの生産調整)を廃止する 【出展:2013年1月24日施政方針演説】 |
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政府は2013年11月26日の農林水産業・地域の活力創造本部で安倍首相は生産調整(減反)を5年後の18年度になくす方針を正式決定し、1970年から40年以上続いてきたコメの価格維持政策を転換することとなった。これをふまえ「農林水産業・地域の活力創造プラン」でも「生産調整の見直しを含む米政策の改革」を進めることが明記された。しかし、これまでも減反の廃止は機論されてきた。2002年に生産調整に対する問題を打開するため、米政策改革大綱が策定された。これを踏まえて、2004年産から国が一律転作面積を配分する方式(ネガ面積配分)を、国が生産数量を配分する方式(ポジ数量配分)に変更した。2007年、国から県への生産数量の配分はしないとされたが、県から市町村、市町村から農家については行政がやるのではなく、農協が主体となって生産調整を行うこととなった。具体的には、「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」が毎年7月と11月に公表されているが、この指針には目標数量を配分すると書かれていた。2007年以降は需要に関する情報を提供することになっていたが、目標数量とほとんど同じ役割を果たしてしまった。
今回も生産調整を見直すとしているが、県から市町村、市町村から農家への対応について今後どうするかは明示されておらず、その余地を残している。 一方で、生産調整を見直した場合どうなるのか。全く何もしない場合には混乱することになるため、需要に応じた生産に誘導していくための手法が模索されている。1つは米と麦・餌米などコメ以外の分野への誘導である。つまり米の収益性と他の品目の収益性のバランスをとることによって、どちらをつくっても同じような利益を得られるようにする。しかし、高いレベルでバランスさせるのか、低いレベルでバランスさせるのか。仮に低いレベルでバランスさせた場合、補償をどうするのか。そうした議論ははっきりなされていない。また、主食米に代わり餌米に多額の補助金を出そうとしているが、海外から輸入される飼料に比べると、日本の餌米まだまだ高い。そこに下駄をはかせることになるが、その手法に持続可能性があるかどうかはわからない。さらに、生産調整の見直しについて工程表を出し、いきなり止めるのか、段階的に止めるのか。今後どういった農業の状況になるのか、ということが明示されておらず、不確定要素がありすぎる。また、安倍首相は減反廃止を発言しているが、文章上は「減反廃止」とはなっておらず、曖昧な表現となっている。現時点で減反の廃止が実現できるかは判断できない。 |
都道府県ごとに、農地を貸し出す「農地集積バンク」を創設する 【出展:2013年参院選マニフェスト】 |
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2013年の日本再興戦略では、10年後に①担い手が利用する農地面積を全農地の8割に拡大し、競争力の向上を図る、②新規就農し定着する農業者を倍増し、40代以下の農業従事者を40万人(現状20万人)に拡大し持続可能性ある農業を実現する、③経営能力に優れ、映像的に経営が可能な法人経営体を5万法人(現状12,500法人)に拡大することを目指す旨が示された。この目標達成に向けて、都道府県レベルの農地中管理機構が、地域内のうちの相当部分を借り受け、法人経営、大規模家族経営、企業などのに対手に対し、農地集積・集約化に配慮して貸し付ける農地配分スキームを確立し、推進していくこととされた。その具体的な措置として、13年12月に農地中間管理機構関連法案が可決された。これを受けて、農地中間管理機構の整備及びその活動への支援(14年度177億円、13年度補正137億円)、機構への農地の出し手に対する支援(14年度100億円、13年度補正153億円)、農地集積・集約化の基礎業務への支援(14年度28億円、13年度補正110億円)が措置された。
日本の農業の現状として、耕作放棄地は10年には39.6万ヘクタールと滋賀県と匹敵する面積となり、12年の農業就業人口及び基幹的農業従事者に占める65歳以上の割合は6割、50歳以未満が1割となっており、基幹的農業従事者の平均年齢は66.2歳と高齢化が進行している。一方、10年の担い手の利用面積は226万ヘクタールとなり、農地面積全体占める割合は49.1%と集約は十分ではない。そのような中、政府の方針として前述した①~③の目標を掲げ、農地集約に向けた法律を成立させるという農業政策の方向性としては評価できる。しかし、これまでにも2009年の農地法改正により創設され(農業経営基盤強化促進法で措置)、全国の市町村、農協、一般財団・社団法人が農地利用集積円滑化団体となり、地域内の農地を一括して引き受けて、まとまった形で担い手に再配分を行う仕組み(農地利用集積円滑化事業)が行われており、農地集積の政策は既存の仕組みでも行われてきた。数年で農業政策がコロコロと替わるようであれば、農業従事者から見ても農地の修正やどの作物をつくるのかといったことを判断しにくい。既存の仕組みの中で、農地制度の再設計、再整理を行い、農地集積バンクとの整合性をどうするのか、更には日本の農業の5年後の見通しなど、中長期的に見て日本の農業をどうしていくのか、というビジョンを説明する必要があるが、現時点ではなされているとはいえない。 |
農業委員、農業生産法人、農協など一体的な改革を実施する 【出展:2014年6月24日「日本再興戦略」】 |
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政府は2014年6月24日、「規制改革実施計画」を閣議決定するとともに、2013年12月に策定した「農林水産業・地域の活力創造プラン」を改定した。同プランでは「農業の成長産業化に向けた農協・農業委員会などに関する改革の推進」が大きな柱として盛り込まれ、①農協改革、②農業委員会の改革、③農業生産法人要件の見直しを行うこととした。これらの改革は14年度に検討を行い、法律上の措置が必要なものについては15年度の通常国会への関連法案の提出を目指している。今回の農業委員、農業生産法人、農協はアベノミクスの一環として日本再興戦略の中で指摘された。しかし、これらを改革することで競争力ある農業、魅力ある農業の実現に寄与し、農業・農村の所得倍増につながるものとなるか、現時点では判断できない。但し、政府が問題提起を行ったことは評価できる。
【農協】 農協は農協法に基づき、農業生産力の増進や農業者の経済的社会的地位の向上を図ること、その行う事業によってその組合員のために最大の奉仕をすることが目的とされている。しかし、農産物の販売や資材の調達等において、農業者のニーズに的確に対応できていないと指摘されている。そのような中、農協の中でも全農を通じての販売をしない農協や、農協に属さずに販売、資材の調達を行う農業者も増えている。そのような現状の中、政府が農協改革について問題提起をなしたことは意義があるし評価できる。また、全国農業協同組合中央会(全中)の改革について、法律に書かれている組織であり、法改正をし、全中を解体することは1つの方法である。その上で各農協が、全国団体が必要と判断すれは、連合会という形で対応できる。農協は協同組合であり政府が一体的に決めるものではなく、各農協自身が自己改革し、ボトムアップで考えていくことが必要だと考える。現時点で、どのような改革を行うか不透明であり、判断できない 【農業委員会】 農業委員会は、農業生産力の発展及び農業経営の合理化を図り、農民の地位向上に寄与するため、市町村に設置されている行政委員会であり、主な業務に、①農地の売買や賃借の許可、②農地転用案件への意見具申、③遊休農地の調査・所有権の意向確認などがある。現在、耕作放棄地が拡大する中で、その解消に係る指導が低調であるなど、十分にその機能が発揮されているとは言い難い等の指摘があった。規制改革実施計画によると、農業委員会の指揮の下で、各地域における農地利用の最適化や担い手の育成・発展の支援を推進する農地利用最適化推進委員(仮称)の設置を法定化することなどが盛り込まれている。しかし、具体化はこれからであり現時点では一連の農業改革にどのように資することになるのか判断できない。 【農業生産法人】 農業生産法人は農業参入の要件(農地のすべてを効率的に利用、一定の面積を経営、周辺の農地利用に支障がない)に加えて、農業生産法人の要件(法人形態要件、事業要件、構成員要件、役員要件)などを満たした農地を所有できる法人を指し、法人が農地を持つためには、かなり厳格な要件が必要となっている。一方で、農地の貸借(リース方式)については、2009年の農地法改正により、企業やNPO法人なども参入可能となっている。規制改革実施計画では、農業生産法人になるための役員要件について役員等の1人以上が農作業に従事すればよいこととし、構成員要件については農業者以外の者の議決権は2分の1未満までよいこととする要件緩和を行うこととが提起された。しかし、具体化はこれからであり現時点では一連の農業改革にどのように資することになるのか判断できない。 |
各分野の点数一覧
経済再生
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財政
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復興・防災
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教育
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外交・安保
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社会保障
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エネルギー
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地方再生
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農林水産
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政治・行政改革
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憲法改正
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評価基準について
実績評価は以下の基準で行いました。
・未着手、断念
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1点 |
・着手して動いたが、目標達成は困難な状況になっている
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2点 |
・着手して順調に動いているが、目標を達成できるかは判断できない
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3点 |
・着手して順調に動いており、目標達成の方向に向かっている
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4点 |
・この2年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
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5点 |
※理由を国民へ説明していなければ1点減点としました。
【評価の視点】
・5年後、10年後の日本の農業のビジョンを描いているか
・農業の担い手の確保と育成をどうするか