言論NPOが政党のマニフェスト評価を公表するのは、今回で9回目である。公約は国民にとっては課題解決のプランであり、約束でなくてはならず、今回も言論NPOのマニフェスト評価基準のもとづき、主要5分野について評価を行った。
言論NPOの評価基準とは、①公約が有権者にとって明確で約束として判断可能なものとなっているか、の形式基準と、②課題の解決案としての妥当性や実現に向けての体制や説明責任を判定する実質基準で構成されており、2つの基準の8項目でそれぞれの公約を審査している。
今回評価したのは、経済、財政、社会保障、外交・安保、エネルギーの5つの主要政策分野で、これらすべてをこの形式と実質の8つの基準で評価を行い、100点満点で採点した。同時に、この5つの政策分野の平均点をその政党の公約の点数として公開した。
8党はこれまでにない低い評価となり、最も高い評価となった自民党でも100点満点の24点で、その他の党は10点台が3党、一桁台が4党という結果だった。
今回の評価がここまで低くなったのは、消費税の10%への引き上げを先送りしたことに伴う、急な解散となったという事情もある。しかし、そういった事情を差し引いても、各党のマニフェストは、政党側に国民に課題解決のプランである、という意識や意欲がなく、多くの公約が願望や自らの党の主張を述べるだけの、昔の抽象的な公約に戻ってしまっていることが大きい。加えて、2012年衆院選、2013年参院選で掲げられた政策を、文言もそのままに掲載しているものが大半だった。
与党・自民党の公約は、アベノミクスの実績を説明する以外、経済政策についても具体性に乏しく、2012年、2013年とあった経済政策の数値目標は消えてしまったが、その説明はマニフェストには書かれていない。また、安倍首相は、財政の規律や目標は堅持する、と言っているものの、そのための財政再建の案は選挙後に決めるということであり、国民はその内容を選挙では判断できない。また、社会保障についても「持続可能な社会保障を目指します」というだけで、現状に関する課題認識すら説明されていない。さらに、原発再稼働、エネルギーミックスなどについても、公約ではほとんど説明されず、選挙後に先送りされている。与党の点数が低いのも多くの政策分野で判断が曖昧だからである。
一方、野党が問題なのは、対案を出して選挙に挑むというよりも、政権を批判するだけの公約が多かったことだ。政権から転落した民主党は自らの政策の総括もなく、かつての政策を出し直しており、多くの野党も同様に政策の体系を提起できなくなっている。
こうした背景に、政党の課題解決能力や政策の立案に関する党内のガバナンスの弱さを指摘せざるを得ない。その結果、多党化した政党自体の存在理由が有権者側から見えにくくなり、どの党に投票していいかわからない状況が今回の選挙なのである。
私たちがこの国の政治に説明を求めたいのは、この国の未来をどうしていくか、ということだ。急ピッチで進む高齢化と国債累増の現実は日本の将来がかなり厳しいことを明らかにしている。しかし、各政党からいま出されているマニフェストは、そうした課題に競わず、有権者の不安に何も答えていない。こうした選挙を繰り返す限り、選挙は民主主義の単なるイベントとなり、政治と国民の間の距離は広がってしまう。だからこそ、私たちは今回の選挙を、「選挙」の意味を問い直す機会にする必要がある。
選挙には、有権者は厳しい目で臨まないといけない。日本の政治が、日本が直面する課題解決に取り組む十分な力を持っているのか、それを国民に誠実に説明しているのか。有権者が政治家に単にお任せするのではなく、自分で政策を判断して、その上で政党なり候補者を選んでいく。そうした緊張感のある政治をつくることによって、民主主義を機能させるための、一助になればと考えている。
今回行った詳細な評価結果は、全て言論NPOのホームページでご覧いただけます。2日後に迫った衆議院選挙の投票の際の判断材料にしてもらえれば幸いです。
主要政党のマニフェスト評価
※総合点は100点満点。配点は、形式要件に40点、実質要件に60点となっている。