評価の視点
現行の年金制度は、2つのタイプの課題を抱えている。1点目は、高齢化が進む下での年金財政の持続可能性という課題。2点目は、年金制度を取り巻く環境の変化に合わせ、制度そのものを作り直す制度体系についての課題である。
まず1点目に関しては、2004年に段階的に給付水準抑制を図る仕組みであるマクロ経済スライドが導入されたものの、長引くデフレ経済下、今日まで全く機能しておらず、過剰給付が発生している。過剰給付は、積立金の前倒しでの取り崩しとなり、将来世代にツケを負わせることになる。積立金は、本来、将来世代の負担抑制の原資である。将来世代にとって、果たして現行の年金制度は「100年安心」などと言える状況にあるのか。
2点目については、社会保障制度体系の現代化である。社会保障制度は、家族形態、就業形態、および、人口動態などに関し、暗黙のうちにせよ、一定の前提が置かれている。例えば、現行の公的年金は、正社員のサラリーマンの夫と専業主婦のその妻という夫婦世帯を想定している。第3号被保険者という、直接的に保険料負担せずとも基礎年金の受給権が得られる仕組みがその表れである。しかしながら、今日では、未婚率が上昇し、かつ、既婚者のなかでも共働き世帯が増えており、専業主婦のいる世帯は一般的世帯形態では必ずしもなくなっている。あるいは、就業形態に関しても、非正規雇用の増加に対し、現行の社会保障制度は対応できていない。
医療も、2つのタイプの課題を抱える。1点目は財政問題である。約40兆円の国民医療費は、国、都道府県、市町村による公費、健康保険料、および、窓口自己負担で賄われている。わが国財政が極めて深刻な状況にある下、公費の抑制は今後とも財政健全化を進める上で最も核心的なテーマである。また、高齢者医療費は、公費のほか、現役世代の健康保険料を原資とした財政支援によっても支えられており、今後一段と高齢化が進むもと、現役世代が果たして支え続けていけるのかという問題も抱えている。そのため、給付そのものを効率化していくことが避けられない。
2点目は、医療および介護提供体制を、高齢者人口の増加に合ったものへ転換していく必要性があるということである。一般に若年層と異なり、複数の疾病を抱え、しかも、治療というよりもその疾病をコントロールしながら生活する高齢者が増えていく状況下では、自ずと医療・介護提供体制は、人口構成が若かった時代とは異なるものが必要となる。それに合わせ、医療提供体制を作り変えていくという課題である。
さらに、年金や医療以外にも、様々な課題がある。例えば、将来の支え手を増やすために重要な子育てについて、社会保障費の配分が高齢者に偏りがちな現状において、どのようにして財源を確保しながら取り組むのか、ということは重要なテーマである。
各党は、現行の制度をどのように捉え、将来をどのように見通しているのか(課題認識)。仮に現状のままでは持続可能性が確保できないと判断するのであれば、どのような具体的施策を講じるのか(政策手段)。高齢化による社会保障費の支出により、毎年1兆円以上の借金が積み上がっている。さらに、財源として予定されていた消費税10%への増税は延期された。そのような中で、予算制約をきちんと語った上で、負担の増加、給付の抑制など、国民にとって「痛み」となるような政策を提示しているのか。そして、その再構築プランは、財源の裏付け、実現に向けた工程の両面から見ても妥当性があるのかを判断する。また、テクニカルな議論の多い社会保障において、現状をごまかすことなく国民に対してきちんと説明しているのか、という点も重視していく。
【 評価点数一覧 / 自民党 】
項 目 |
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形式要件 (40点) |
理念(10点)
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4
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目標設定(10点)
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3
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達成時期(8点)
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0
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財源(7点)
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0
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工程・政策手段(5点)
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0
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合計(40点)
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7
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実質要件 (60点) |
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
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5
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課題解決の妥当性(20点)
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1
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政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
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0 | |
合計(60点)
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6 |
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合 計
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13 |
【評価結果】自民党 マニフェスト評価 合計 13 点 (形式要件 7点、実質要件 6 点)
【形式要件についての評価 7 点/40点】
自民党はその政権公約で、社会保障政策に関して、「持続可能な社会保障制度の確立を」という独立した項目を設けている。
個別の政策としては、まず最初に、「『自助』・『自立』を第一に、『共助』と『公助』を組み合わせ、税や社会保険料を負担する国民の立場に立つ」ことを理念として、掲題の持続可能な社会保障制度の構築を実現することを謳っている。
続いて、「消費税財源は、その全てを確実に社会保障に使う」、「基礎年金の2分の1国庫負担は確立されており、その下で、若者も安心できる年金制度を運営する」、「世界に冠たるわが国の国民皆保険を次の世代にもつなげるため、医療保険制度改革を行う」、「医師、歯科医師、薬剤師、看護師、介護職員等の人材確保を行うとともに、介護や障害者福祉サービスを担う職員の処遇改善を行い、医療・介護等の充実につなげる」、「住み慣れた地域で『切れ目のない医療・介護』が受けられるよう、医療機関の病床の役割に応じた機能分化や医療介護の連携の支援と地域包括ケアを進める」ことなどを掲げている。
子育てに関しては、別に「出産・子育てを応援する社会を」という項目で、「子供が健やかに育つよう、また、若い世代が孤立しないで安心して妊娠・出産・子育てができるように、切れ目のない支援を行う」、「『子ども・子育て支援新制度』について来年4月に施行し、保育所・放課後児童クラブの待機児童の解消や保育等の質の改善に取り組む」ことなどを打ち出している。
【実質要件についての評価 6 点/60点】
まず、年金に関しては下記のような問題点がある。
2014年に、五年に一度の年金財政検証が公表され、その結果を踏まえ、厚生労働省は2015年国会での年金法改正を目指している。柱は、2004年の年金改正で導入されつつ、今日までデフレ下であったために全く機能していないマクロ経済スライド(年金給付抑制を図る仕組み)の見直しである。これを仮に今後デフレに陥ろうとも機能するよう見直してくおくことにより、年金財政の持続可能性を高めることが趣旨で、現在の年金受給者にとってみれば、年金額抑制がより確実に行われることになることを意味する。
こうした極めて重要な法改正が予定されているにもかかわらず、自民党の政権公約の年金部分には、「基礎年金の2分の1国庫負担は確立されており、その下で、若者も安心できる年金制度を運営します」と書かれているだけである。「運営」と書かれているだけで「法改正」については一切説明がないなど、マクロ経済スライド見直しに向けた意気込みはほとんど見えてこない。政権にとってみれば、100年安心プランが破綻していることを自ら認めることにもつながり得ることから、実際にマクロ経済スライド見直しの法改正に至るかは不透明である。
もう1つの制度体系の課題については、女性活躍支援を掲げる自民党においては、とりわけ、第三号被保険者のあり方について詳細な説明があって然るべきであるが、公約では「働き方に中立的な税制・社会保障制度等について、総合的に検討します」とあるだけで、それが一体どのような検討内容となるのか、全く白紙状態である。
その他、年金制度には、国民年金保険料納付率の低迷、無年金・低年金問題など構造的問題があるにもかかわらず、そもそも自民党政権公約では、そうした問題認識にも乏しい。
こうした年金制度に関する本質的課題に関する国民への説明が見られず、かつ、安倍政権がこれまで積極的に進めてきたGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のガバナンス改革などについても、説明がなされていない。
医療については下記のような問題点が見られる。公約では「世界に冠たるわが国の国民皆保険を次の世代にもつなげるため、医療保険制度改革を行います」と述べるだけで、一体どのような問題認識のもと、どのような改革を進めるのか明らかにしていない。
他方で、公約では別の箇所で2015年夏に基礎的財政収支黒字化のためのシナリオを示すと言っている。しかし、それを示すとなれば、医療をはじめ社会保障分野の歳出削減は避けて通れないはずであるが、公約で全くその点に触れずに、2015年夏にシナリオを提示しても、国民の合意を得られるとは考えにくいが、そういった問題意識は見られない。
また、現在、社会保障審議会医療保険部会では、来年の健康保険法改正を目指し、国民健康保険の保険者の都道府県化など(ただ、国民健康保険法に保険者として都道府県が明記されるか否かは不明である)、重要な課題について議論が進められているが、その点への言及も見られない。
制度スタートの約2年前である2006年6月に法案が成立しつつ、2008年4月の制度スタート時に混乱を招き、対応が後手後手となった後期高齢者医療制度の反省に立てば、この政権公約でこそ、現在、審議会で進められている健康保険法改正の概要について、国民向けの説明がなされるべきであろう。
もう1つの課題である医療・介護提供体制の見直しについては、1つめの課題に比べ、記述スペースが若干ではあるものの割かれているが、これも「進める」と書いてあるのみで、実際に、今後高齢者人口が増える中で、高齢者が安心して、住み慣れた地域で、連携がなされた医療・介護を受けながら生活できるようになるかどうかは判然としない。
本来、住み慣れた地域でそうした医療・介護提供体制を築くのは、特に地域医療提供者に変革を迫る厄介、かつ、地道な作業のはずであるが、政権与党としてイニシアティブを発揮して、そうした作業に取り組んでいこうという姿勢は公約からはうかがえない。
項 目 | ||
形式要件 (40点) |
理念(10点) |
3 |
目標設定(10点) |
2 | |
達成時期(8点) |
0 |
|
財源(7点) |
0 |
|
工程・政策手段(5点) |
0 |
|
合計(40点) |
5 |
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実質要件 (60点) |
体系性・課題抽出の妥当性(20点) |
1 |
課題解決の妥当性(20点) |
1 |
|
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点) |
0 | |
合計(60点) |
2 |
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合 計 |
7 |
【評価結果】公明党 マニフェスト評価 合計 7 点 (形式要件 5 点、実質要件 2 点)
【形式要件についての評価 5 点/40点】
公明党は重点政策において、社会保障政策に関して、「一人を大切にする社会へ、社会保障と教育の充実を」という独立した項目を設けている。
個別の政策としては、「子育て支援の充実」として、待機児童の解消、幼児教育の無償化推進を、「充実の医療・介護体制の確立」で、地域包括ケアシステムの構築を、「年金制度の機能強化」で低所得者への加算と被用者年金の適用拡大などを掲げている。
「共助社会」という理念は明確であるものの、目標設定や達成時期、財源、工程、政策手段は何ら明らかにされていない。
【実質要件についての評価 2 点/60点】
公約では党として、現状の年金制度や医療制度についてどういう認識を持っているのか何ら明らかにされていない。
年金に関しては、年金財政の持続可能性について全く検討がなされていない。とりわけ、自らの政権下で導入したマクロ経済スライドがいまだ不発動であることに対し、問題意識を持っている様子がうかがえず、給付水準の抑制という発想ではなく、むしろ、低所得者への年金加算の拡充、被用者年金の適用拡大など財政拡大の方向性を示している。社会保障関係費が年々増加する中で、どうしてもこれらが必要不可欠というのであれば、その財源をどうするのか、ということを説明すべきであったが、何ら明らかにされておらず、年金制度が直面している課題に対する答えを示したとは言えない。
医療についても、医療保険制度の改善に努めようという視点はない。「地域包括ケアシステムの構築」を提示している点は方向性としては妥当であるが、ここでも「必要な財源を確保」と言いながら、その方策は示していない。
子育てについても、「子ども・子育て支援新制度」を来年4月から施行するとしているが、これには1兆1000億円の財源が必要であるとされているにもかかわらず、この2年間の政権運営で確保しているのは7000億円だけで、残り4000億円については目途が立っていない。この点について、何ら方針を示していないのも、説明責任上大きな問題がある。幼児教育の無償化についても同様に、これまで2年間の政権運営で財源確保の見通しが立たず、断念してきたものである。そうである以上、なぜこれからの4年間では、それが可能になるのか、ということについての明確なプロセスを提示すべきであったが、それがないため、政策実行の指導性にも疑問が残る公約となっている。
項 目 | ||
形式要件 (40点) |
理念(10点) |
2 |
目標設定(10点) |
1 |
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達成時期(8点) |
0 |
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財源(7点) |
0 |
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工程・政策手段(5点) |
0 |
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合計(40点) |
3 |
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実質要件 (60点) |
体系性・課題抽出の妥当性(20点) |
4 |
課題解決の妥当性(20点) |
2 |
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政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点) |
1 | |
合計(60点) |
7 |
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合 計 |
10 |
【評価結果】民主党 マニフェスト評価 合計 10 点 (形式要件 3 点、実質要件7 点)
【形式要件についての評価 3 点/40点】
民主党は、そのマニフェストにおいて、社会保障政策に関しては、「少子高齢化・人口減少、非正規雇用の増加等に対応し、社会保障制度への信頼を回復します」と謳っている。
個別の政策としては、まず「社会保障と税の一体改革」として、「将来世代に過度な借金を押しつけないための改革を進めるにあたって、まずは議員定数削減をはじめとする政治改革・行財政改革の断行、消費税の使途の社会保障への限定を行う」としている。「年金」では「国民皆年金を堅持。高齢者の生活保障を確保できるよう、公的年金制度の一元化、最低保障年金の創設に向け年金制度改革の実現を目指す」などの方針が示されている。「医療」では、「国民皆保険を堅持。医療保険全体の安定的な運営のため、保険者間の負担の公平化、国民健康保険の都道府県単位化など医療保険の一元的運用を進める。高齢者医療制度において年齢で差別する制度を廃止」するなどとしている。「介護」では、「医療と介護の連携、サービス付高齢者住宅の確保、在宅サービスの充実等により、住み慣れた地域で暮し続けられるように、地域包括ケアシステムの構築を進める」とある。「保育・幼児教育」では、「子ども・子育て支援の予算を増額し、新児童手当等により子育てを直接支援するとともに、待機児童の解消、仕事と育児の両立支援の充実のため、保育所・認定こども園・放課後児童クラブなどを拡充」することを掲げている。
しかし、明確な目標、達成時期、財源の裏付け、目標の実現に向けた工程などは明らかにされていない。
【実質要件についての評価 7 点/60点】
年金については、財政検証をもとに計算すると、現在満額で6.4万円の基礎年金が、経済状況が良い場合であっても、将来4.5万円(現在価値)まで落ちていく。すなわち、本来最低保障機能が期待される基礎年金が、その機能を全く果たし得なくなる。こうした状況下、最低保障年金というコンセプトは、今後年金制度を見直す上で、キーとなるべきである。そのコンセプトを掲げ、制度体系の改革を掲げていること自体は課題抽出として妥当であり、評価できる。
もっとも、この最低保障年金は、同党が政権与党時代に財源確保がネックとなり、具体的な制度設計を示すことができなかったものである。さらに、2009年の衆院選公約では一人月7万円と金額を明示していたが、今回は入っていない。このように具体案が背景にある様子は見られず、説得力に欠ける。
また、このように、制度体系について言及する一方、年金財政の持続可能性への認識については、明確な記載がない。民主党として、マクロ経済スライド見直しについてどのように考えるか、仮に否とするならば、代替策をどのように考えるのかを示さないと、国民に判断材料を与えることができないため、説明責任上問題がある。
医療については、まず、医療と介護の連携を図り、人材供給を促すという方針を示しているが、その方向性は妥当なものである。また、自民党・公明党も同様の方向性を示しているため、与野党間の協力が期待でき、政策の実現可能性が高いという意味でも評価できる。
ただ、示されているのはあくまでも方針だけで、医療と介護の「連携」をどのように図るのか、ということは示されていないし、ここでも財源が抜け落ちている。
医療保険制度については、構造的な問題に言及しているため、課題抽出はできている。ただ、都道府県化ではなく、「都道府県単位化」という風にしており、都道府県が保険者となるか否か、もっとも基本的な部分がはっきりしない。
他方、方針ははっきりしているが、課題解決の方法に問題が見られるのが高齢者医療制度である。このマニフェストでは、これを年齢で差別する制度と認識を示しているが、後期高齢者医療制度の財源は、9割が国と地方の一般会計および現役世代が加入する健康保険からの支援金で賄われており、決して高齢者差別ではない。むしろ、高齢化が進む中で、これからも現役世代が支え続けていけるのかといった観点から捉えられるべき問題であるが、民主党はまったく逆の認識をしている。こうした認識では、医療保険財政の持続可能性確保は難しく、課題抽出、課題解決両面で問題がある。
子育てについても、方向性自体は極めて妥当であるが、それを具体化する方策は見られない。「新児童手当」とはどのようなものなのか、かつて同党の政権時代に導入していた子ども手当とどう違うのか判然としないし、何より財源に関する言及が一切ない。
全体として見ると、課題を抽出できているところもあるものの、課題解決の方向性には説得力を感じないものが多い。「将来世代に過度な借金を押しつけないための改革を進める」と言っているものの、それにあたっては、負担増と給付の抑制など、社会保障の各制度が抱える構造的な問題にメスを入れるのではなく、「まずは議員定数削減をはじめとする政治改革・行財政改革の断行」としているなど、政策実行の指導性にも疑問が残る。
項 目 | ||
形式要件 (40点) |
理念(10点)
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5
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目標設定(10点)
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5
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達成時期(8点)
|
0
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財源(7点)
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0
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工程・政策手段(5点)
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0
|
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合計(40点)
|
10
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実質要件 (60点) |
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
|
6
|
課題解決の妥当性(20点)
|
2
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政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
|
0 | |
合計(60点)
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8
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合 計
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18
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【評価結果】維新の党 マニフェスト評価 合計 18点 (形式要件 10 点、実質要件 8点)
【形式要件についての評価 10 点/40点】
維新の党は、その公約において、社会保障政策に関しては、「先送りにNO!社会保障制度改革」という独立した項目を設けている。
そこでは、まず年金に関しては、「支給開始年齢の段階的引き上げ。積立方式への移行。世代別勘定区分を設置し、原則として同一世代の勘定区分内で一生涯を通じた受益と負担をバランスさせる。年金目的特別相続税の創設」などの方針を掲げている。医療・介護に関しては、「医療費の自己負担割合を一律化。年齢で負担割合に差を設けるのではなく、所得に応じて負担割合に差を設ける。地域における医療と介護の切れ目のないサービス提供」など打ち出している。子育てに関しては、「地域の権限で多様な子育て支援サービスが提供できるよう規制改革を進める」としている。
掲げられている政策は、現役世代、将来世代に目線が向かっているものである。また、自民党にありがちな供給者の側に立った政策ではなく、需要者、患者、国民の側に立った政策になっているなど、理念は明確に示されている。
目標も上記のように、年金の支給開始年齢の段階的引き上げや、積立方式への移行など掲げられているものが多いが、その達成時期、財源、実現のための工程は何ら明記されていない。
【実質要件についての評価 8 点/60点】
政策が羅列されており、あまり体系的に整理されているとは言えないものの、現状の社会保障についての認識を示し、また社会保障制度の抜本的な改革が必要である、と明確に示していることは評価できる。
まず、高齢者向け給付の適正化(医療費自己負担割合の一律化)などが盛り込まれているように、高齢化対応への意識が明確であるのは評価すべき点である。次に、制度体系の現代化に関し、制度そのものを根本から作り変える志向が強い。その内容は、将来世代の負担に目を配り、社会保険における受益と負担の明確化を打ち出すなど論理的である。現行の社会保障制度が行き詰まり、かつ、運営者たる政府がそれをガバナンスできていない現状をしっかりと見据えながら課題を抽出できているのは好印象である。
他方、それぞれの政策のハードルは低くないにもかかわらず、実現に向けた具体的道筋は描かれていない。例えば、高齢者の負担増に関しては、それを実際に高齢者に説明して納得を得なければならないが、この作業は相当地道で大変なはずである。年金の積立方式は、老後の蓄えを自分で積み立てる仕組みで、将来の給付額が見通せる安心感があるし、「払い損」の心配もないが、積み立てた額をそのまま後で受け取るので、物価が上昇しても給付増に対応しにくいという課題がある。また、現行制度と新制度の二重負担を強いることになるが、そこについては何ら言及がなされていない。子育てについても、最大の課題である財源に関する言及は一切ない。
掲げられている理想が高いだけに、なおさら実現までの道筋をある程度明らかにする必要があるが、それがないため政策実現に向けた指導性は感じられない。また、例えば、「医療等に関する消費税制の見直し」など、一般の有権者から見れば、何が問題の所在なのか、分かりにくいと思われる専門的な課題についてもキーワードを掲げるだけであり、説明責任の観点からも問題がある。
項 目 | ||
形式要件 (40点) |
理念(10点) |
1 |
目標設定(10点) |
1 |
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達成時期(8点) |
0 |
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財源(7点) |
1 |
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工程・政策手段(5点) |
0 | |
合計(40点) |
3 |
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実質要件 (60点) |
体系性・課題抽出の妥当性(20点) |
0 |
課題解決の妥当性(20点) |
0 |
|
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点) |
0 | |
合計(60点) |
0 |
|
合 計 |
3 |
【評価結果】共産党 マニフェスト評価 合計 3 点 (形式要件 3 点、実質要件 0 点)
【形式要件についての評価 3 点/40点】
共産党はその公約において、社会保障政策に関する政策としては、「格差拡大の『アベノミクス』の暴走ストップ。暮らし第一への転換で経済をたてなおす」との大項目の中で、「社会保障の連続削減ストップ、暮らしをささえ、人間としての尊厳を守る社会保障に」という目標を掲げている。
その下に掲げられた個別の政策としては、「年金削減の中止と最低保障年金の創設」、「国の責任で医療費窓口負担や国保料の軽減、後期高齢者医療制度の廃止」、「保険外治療の拡大や『混合診療』の解禁に反対し、必要な治療は保険で給付する国民皆保険を守り、拡充する」、「特養ホームの待機者をなくし、介護サービス取り上げの中止、介護保険料・利用料の負担減免」、「認可保育所の大幅増設で待機児童をゼロにする」など、社会保障の拡充のメニューが羅列されている。
財源については、「消費税にたよらずに財源を確保するための2つの改革」を打ち出している。その第一は、富裕層への課税を強化など「富裕層や大企業への優遇をあらため、「能力に応じた負担」の原則をつらぬく税制改革をすすめる」ことで、これにより約20兆円の財源を確保する、としている。
第二は、「大企業の内部留保の一部を活用し、国民の所得を増やす経済改革で、税収を増やす」ことによって、10年後には20兆円以上の税収を増やす、としている。この2つの合計約40兆円により「社会保障の財源を確保」するとしている。
しかし、これらを実現するための手段は何ら明記されていない。
【実質要件についての評価 0 点/60点】
共産党の公約では、年金支給額の削減、医療費の負担増などに明確に反対の意思を示しており、党としてのスタンスは明確にされている。
しかし、実現に向けた具体策は示していない。また、どう財源を確保し、それを実現しようとしているのか、ということについては、形式要件で示したような提案があるが、きわめて大きな変革を迫るものであるにも関わらず、どのようなプロセスで実現するのかを示していないため、政策実行の指導性に疑問がある。しかも、成長戦略の体裁をなしていない上記「経済改革」によって、「2%台の名目成長」が可能としていたり、社会保障を大幅に拡充している政策を打ち出している一方、「2030年頃までには基礎的財政収支を黒字化」できるとしているなど、総じて見通しも甘い。
毎年増大を続ける社会保障関係費をどのように削減していくのか、という日本が直面している課題に正面から向かい合っているとは言えない公約となっている。
項 目 | ||
形式要件 (40点) |
理念(10点) |
1 |
目標設定(10点) |
1 |
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達成時期(8点) |
0 |
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財源(7点) |
1 |
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工程・政策手段(5点) |
0 | |
合計(40点) |
3 |
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実質要件 (60点) |
体系性・課題抽出の妥当性(20点) |
1 |
課題解決の妥当性(20点) |
0 |
|
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点) |
0 | |
合計(60点) |
1 |
|
合 計 |
4 |
【評価結果】社民党 マニフェスト評価 合計 4 点 (形式要件 3 点、実質要件 1 点)
【形式要件についての評価 3 点/40点】
社民党はその公約において、社会保障政策に関しては、「4つの約束」の一つとして、「アベノミクスによる生活破壊を許さず、拡大した格差を是正します」という大項目を掲げ、その中で、「安心の社会保障の充実を」との目標を提示している。
その中で、まず年金に関しては「最低保障機能を備えた年金制度を創設。廃止された老年者控除や縮小された公的年金等控除を復活。マクロ経済スライド発動を中止」などとしている。医療については、「国民皆保険制度の中心を支える市町村の国民健康保険制度に公費を投入し立て直しを図る。後期高齢者医療制度を根本的に見直し、70歳~74歳の医療窓口負担1割を継続」などを掲げている。介護では、「介護と医療の連携強化、小規模多機能施設やグループホームへの支援を強化し、在宅生活を支える。要支援者が必要とするサービスを確実に提供できる体制をつくる」などとしている。
また、上記とは別に「社民党は取り組みます」という項目では、子育てに関する施策として、「保育所・認定こども園・幼稚園の質の向上と量の拡大を実現。国有地や空き教室などの活用で保育所を大幅に増設し、待機児童対策を推進」などを打ち出している。
財源に関しては、「社民党の財源確保の考え方」という項目の中で、①不公平の是正と応能負担の強化の観点から税制を抜本改革、税収を1997年ベースに(年間約11兆円超)、②無駄遣いをやめて、使い道を変える(年間約3兆円超)、③経済や金融のあり方を変える(高級品への物品税の導入、富裕税の導入、景気回復による税収増)などを掲げている。
達成時期や、工程などを示しているものはない。
【実質要件についての評価 1 点/60点】
党としてのスタンスははっきりと打ち出している。さらに、最低保障年金の創設や国民健康保険制度立て直しなどに言及していることから、現行の各制度に対する問題意識はあると見られる。
しかし、これらを実現する具体策は示していない。また、財源確保の見通しについても、実現可能性の薄いものばかりであるし、きわめて大きな変革を迫るものであるにも関わらず、どのようなプロセスで実現するのかを示していないため、政策実行の指導性にも疑問がある。そもそも、実効的な成長戦略を示していないのに「景気回復による税収増」をあてにしているなど、見通しも甘いし、また、仮に同党が主張するような税制の抜本改革ができたとしても、同時に消費税率を8%から5%へ戻すことも掲げているため、結局税収は伸び悩むと思われる。
負担増や給付の抑制という発想は一切見られず、毎年増大を続ける社会保障関係費をどのように削減していくのか、という日本が直面している課題に正面から向かい合っているとは言えない公約となっている。
項 目 | ||
形式要件 (40点) |
理念(10点) |
1 |
目標設定(10点) |
0 |
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達成時期(8点) |
0 |
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財源(7点) |
0 |
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工程・政策手段(5点) |
0 | |
合計(40点) |
1 |
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実質要件 (60点) |
体系性・課題抽出の妥当性(20点) |
1 |
課題解決の妥当性(20点) |
0 |
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政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点) |
0 | |
合計(60点) |
1 |
|
合 計 |
2 |
【評価結果】生活の党 マニフェスト評価 合計 2 点 (形式要件 1 点、実質要件 1 点)
【形式要件についての評価 1 点/40点】
党としてのスタンスははっきりと打ち出している。さらに、最低保障年金の創設や国民健康保険制度立て直しなどに言及していることから、現行の各制度に対する問題意識はあると見られる。
しかし、これらを実現する具体策は示していない。また、財源確保の見通しについても、実現可能性の薄いものばかりであるし、きわめて大きな変革を迫るものであるにも関わらず、どのようなプロセスで実現するのかを示していないため、政策実行の指導性にも疑問がある。そもそも、実効的な成長戦略を示していないのに「景気回復による税収増」をあてにしているなど、見通しも甘いし、また、仮に同党が主張するような税制の抜本改革ができたとしても、同時に消費税率を8%から5%へ戻すことも掲げているため、結局税収は伸び悩むと思われる。
負担増や給付の抑制という発想は一切見られず、毎年増大を続ける社会保障関係費をどのように削減していくのか、という日本が直面している課題に正面から向かい合っているとは言えない公約となっている。
【実質要件についての評価 1 点/60点】
現在の社会保障制度については改善する必要があると考えていると推察されるが、どのように実現していこうとしているのか明確に示されてはいない。また、党首の小沢氏が民主党時代に提示していた最低保障年金や社会保険の所得比例年金の構築などを掲げてはいるものの、民主党時代の焼き増しでしかない。そもそも、政権与党の時代に財源確保がネックとなり、具体的な制度設計を示すことができなかったものであるにもかかわらず、それをどのように実現していくのか、ということが何ら明らかにされていないため、政策実現に向けた指導性が感じられない。
また、財源に関する言及は一切ないし、最大の課題である毎年増えている社会保障関係費について、生活の党として国民に負担を強いていくのか、それとも負担増は避け、給付をカットしていくのか、ということも何ら明らかにされておらず、単なるメニューの羅列でしかなくなっている。
項 目 | ||
形式要件 (40点) |
理念(10点)
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3
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目標設定(10点)
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1
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達成時期(8点)
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0
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財源(7点)
|
0
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工程・政策手段(5点)
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0 | |
合計(40点)
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4 | |
実質要件 (60点) |
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
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2
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課題解決の妥当性(20点)
|
0
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政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
|
0 | |
合計(60点)
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2
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合 計
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6
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【評価結果】次世代の党 マニフェスト評価 合計 6 点 (形式要件 4 点、実質要件 2 点)
【形式要件についての評価 4 点/40点】
次世代の党は、その公約において、社会保障に関する政策に関して独立した項目を設け、「世代間格差を是正する社会保障制度の抜本改革、徹底的な少子化対策」という目標を掲げている。
その中の個別的な目標としては、「公的年金を積立方式へ移行する」、「混合診療の解禁、医療費自己負担割合の一律化」、「扶養する子供の数が多いほど所得課税が少なくなるフランス型の世帯所得課税制度の導入。3人目以降の子どもに特化した子育て支援制度」、「給付付き税額控除の導入」、「生活保護の対象を日本人に限定し、困窮する外国人には別の制度を設ける」などを打ち出している。
しかし、それらの実現のための財源や達成時期、工程や手段については示されていない。
【実質要件についての評価 2 点/60点】
世代間格差に着目し、高齢者向け給付の適正化(医療費自己負担割合の一律化など)が盛り込まれているように、高齢化対応への問題意識に示していることは課題抽出として適切であり、評価できる。
しかし、実現に向けた具体的道筋は描かれていない。例えば、高齢者の負担増に関しては、それを実際に高齢者に説明して納得を得なければならないが、この作業は相当地道で大変なはずである。年金の積立方式は、老後の蓄えを自分で積み立てる仕組みで、将来の給付額が見通せる安心感があるし、「払い損」の心配もないが、積み立てた額をそのまま後で受け取るので、物価が上昇しても給付増に対応しにくいという課題がある。また、現行制度と新制度の二重負担を強いることになるが、そこについては何ら言及がなされていない。子育てについても、最大の課題である財源に関する言及は一切ない。
掲げられている理想が高いだけに、なおさら実現までの道筋をある程度明らかにする必要があるが、それがないため政策実現に向けた指導性は感じられない。