TPP合意などを実現したが、「三本の矢」の目標は未達の公算大、経済の好循環は不十分
【経済再生】評価の視点 | 2.8点(5点満点) 昨年:2.8点 |
評価の視点 |
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安倍政権の経済政策は、アベノミクスという「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「成長戦略」の三本の矢から成る。政権発足から3年間で、アベノミクスがデフレ脱却、名目3%、実質2%成長の実現に向けてどのような効果を発揮したのか、あるいは、発揮する道筋がどこまで見えたのかという観点から評価する。アベノミクスの最終的な目的は、第一の矢である金融政策によって円安・株高を実現し、これを契機とする企業業績の回復が民間設備投資の拡大、賃金上昇による持続的な個人消費の拡大に結び付く好循環を実現することであり、この点からは、未だ十分な効果が発揮されたとは判断しがたい。公共事業の拡大など財政支出の拡大という第二の矢は、第三の矢の成長戦略の効果が発揮されるまでの繋ぎの政策に他ならず、同時に財政規律を緩ませるリスクを冒すものであることに留意が必要である。今年も3.3兆円の補正予算が閣議決定されたが、民需中心の経済への明確な道筋が見えておらず、政権が掲げる「経済再生と財政再建の両立」という観点からも過度の財政出動は問題である。この好循環を実現する鍵は、第三の矢である成長戦略の着実な実行によって、民間企業のリスクテイクを促すとともに、企業業績の回復が賃上げ、個人消費の拡大という形での景気回復メカニズムを発揮できるかどうかにある。 経済政策全体に対する安倍政権3年の実績を見てみると、今までの政権にないぐらい、様々な取り組みが動き始めており評価できる。しかし、現時点での好景気は、異次元の金融緩和や公共事業等の公需によるものであり、成長戦略で出された項目をどれだけ早く実現し、民需へのバトンタッチの姿を示すことができるか。加えて、より長期的にみると、社会保障改革がアベノミクスにどう位置づけるか。投資は日本の将来を展望して行われることから、少子高齢化が急速に進む日本の社会保障改革を、きちんとアベノミクスに位置づける必要がある。こうした点が、安倍政権の経済政策見ていく上でのポイントとなる。 |
【経済再生】個別項目の評価結果
「三本の矢」で 10 年間の平均で名目 3%程度、実質 2%程度の経済成長を達成し、雇用・所得の拡大を目指す 「経済再生本部」を司令塔に「成長で富創出」ができる経済に転換、今後10年間の平均で、名目3%程度、実質2%程度の経済成長実現をめざす |
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アベノミクスが目指す姿とは安倍政権は発足後から、①大胆な金融緩和、②機動的な財政運営、③成長戦略の3本の矢から成るアベノミクスを打ち出した。この政策は、市場や家計、企業の期待に働きかけることによって、デフレ脱却を目指すと同時に、規制改革などの構造改革によって潜在成長率の引き上げを目指すものである。こうした観点から、アベノミクス3年の成果を総括すると、市場に期待の変化をもたらした一方で、家計・企業の行動変化は十分とは言えず、デフレ脱却も道半ばであり、潜在成長率の引き上げに向けた改革の歩みは遅いと言える。まず第一の矢、金融の異次元緩和は為替の円安や株価上昇をもたらし企業業績を大きく改善させた点で一定の効果を発揮したと評価できる。2015年3月期の上場企業の純利益は21.3兆円と3年連続の過去最高益を更新した。他方で、企業業績の改善により、雇用情勢も近来にない改善振りを示している。10月の有効求人倍率は1.24倍、完全失業率も3.1%と、労働需給は20数年ぶりに引き締まった状態となった。こうした労働需給の引き締まりを反映して、賃金も緩やかな上昇傾向に転じている。現金給与総額から物価変動の影響を除いた実質賃金指数は本年10月0.4%増となり、従業員1人当たり平均の現金給与総額(名目賃金)は前年同月比0.7%増の26万6309円となっており、企業収益の拡大が、雇用増加や賃金上昇につながる「経済の好循環」が回り始めたことは、一定の評価ができよう。 各種指標から考えるアベノミクスの現状しかし、ミクロ面の成果に対して、マクロ経済のパフォーマンスは芳しくない。安倍政権が成立してから3年間の実質成長率は、2013年度:2.0%、14年度▲1.0%となり、名目成長率も13年度1.7%、14年度1.5%に止まっている。また、15年12月8日に内閣府が発表した同年7~9月期の国内総生産(GDP)改定値は、実質で前期比年率1.0%増とプラスに転じたものの、4~6月期のマイナス成長が響き、15年度は0.9%前後の実質成長率、2.3%前後の名目成長率と予想されている(ESPフォーキャスト12月調査)。設備投資については、日銀短観(12月調査)では2桁増加の高水準の計画が維持されており、7~9月期の実質設備投資もプラスに転じるなど改善の動きがみられるが、3~6カ月程度の先行指標となる機械受注(船舶・電力を除く民需)は7~9月期に前期比10%も減り、10月はプラスとなったものの基調は強くない。鉱工業生産指数も、設備投資に使う機械など資本財(除く輸送機械)の生産計画は、11月0.0%、12月2.8%減と低調が続いており、設備投資が拡大に転じたかは不透明な状況が続いている。 10 年間の平均で名目3%程度、実質2%程度の実現は困難この基本的背景として、アベノミクスが副作用や反動影響が出る金融・財政政策に過度に依存し、経済の体質を強化する成長戦略の歩みが遅いことが指摘できる。「10 年間の平均で名目 3%程度、実質2%程度の経済成長を達成し、雇用・所得の拡大を目指す」ためには、イノベーションや設備投資の本格的な拡大によって、生産性の大幅な上昇を図る必要があるが、そうした展望は現時点では見通しがつかず、10 年間の平均で名目3%程度、実質2%程度の経済成長率の達成は難しいと考えざるを得ない。 |
物価安定目標2%の早期達成に向け、大胆な金融政策を引き続き推進する 2%の物価目標を設定し、日銀法の改正も視野に政府日銀が連携し、大胆な金融緩和を行う(第一の矢) |
2点(5点満点) |
当初掲げた「2年で2%」の目標を先送りした黒田総裁2013年3月20日に就任した黒田日銀総裁は、13年4月に2%の物価目標を2年程度で達成するため、資金供給量(マネタリーベース)を積み増す「量的・質的金融緩和」を導入したが、2年以上が経過した現在、物価目標は未だ達成されていない。アベノミクス1年目には、生鮮食品を除くコアCPIは一時1%台前半に上昇したが、その最大の要因は円安によるもので、円安効果の一巡に伴い物価上昇圧力は次第に低減していった。しかも、円安による物価上昇は実質賃金の低下を招き、個人消費を下押しするなどの副作用をもたらした。このことは、景気の回復力の弱さの重要な要因となっており、そもそも金融政策だけで物価目標を達成しうるのかという疑問を生じさせるものである。2014年夏場以降は、原油価格などエネルギー価格が大幅に下落し、14年10月のコアCPIは0.9%と1%割れとなった。物価上昇率が鈍る中、日銀は原油安による期待インフレ率低下のリスクに対応するとして、14年10月31日に、マネタリーベースを年10兆~20兆円増やし、国債については年間80兆円、上場投資信託(ETF)については年間3兆円、J-REITも年間900億円のペースで購入する追加緩和を行った。しかし、その半年後の15年4月30日の日銀の経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、15年度のコアCPIの前年比見通し(政策委員の中央値)を従来の1%上昇から0.8%上昇に下方修正した。同日の記者会見で黒田総裁は「2年で2%」の目標を「16年度前半ごろ」と修正したものの、その後も、総務省公表の15年10月のコアCPIは前年比▲0.1%(8月、9月とも:同▲0.1%)と3カ月連続のマイナスとなるなど、物価上昇目標から一段と遠ざかることとなった。15年10月30日の記者会見で、黒田総裁は「2%」の物価目標の達成時期をさらに「16年度後半」と再度、先送りしたが、納得できる説明が国民や市場に対してなされているかは疑問である。 政府と日銀の考え方に微妙な齟齬が出始めた黒田総裁が、物価目標達成に自信を示しつつも、達成時期を後ろ倒しに修正していく一方で、安倍首相は8月の参院予算委員会で「原油価格が暴落した中で、当初の目標を達成できないことはやむを得ないと考えている」と目標未達を容認する考えを明言し、麻生太郎財務相も10月23日の会見で「金融政策でやれる範囲は限られている」と述べ、追加緩和に否定的な見方を示すなど政府と日銀の間で考え方に微妙な齟齬がみられている。また、日銀内部でも、これまで金融緩和に積極的だった岩田規久男副総裁、原田泰審議委員も追加の金融緩和については慎重な意見を表明しているが、そうした中、日銀は12月18日の金融政策決定会合で、「これは追加金融緩和ではない(黒田総裁)」としつつも、購入する国債の償還までの平均期間を「7~12年」程度に延ばすこと、設備投資や賃上げに積極的な企業の株式を組み込んだETFを年3千億円購入する枠を設定する金融緩和の「補完策」を決定したが、市場の反応も内容が小粒で量的・質的緩和の限界を感じさせるものだとして、失望的な結果に終わっている。今回の政策を含めたこれまでの金融緩和政策が、当初の思惑通り、個人や企業のマインドを大きく改善させたことについては一定の評価ができるが、こうした政策の継続が2%の物価目標の達成に向けて、どの程度寄与できるのか、日銀と民間予測機関との間で景気・物価の見方に大きな違いが生じており、16年度後半ごろまでに目標達成が可能かどうかは、判断できない。 さらに、こうした政策は日銀主導で行われているが、13年1月22日に政府・日銀は共同声明を表明し、デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け、政府及び日本銀行の政策連携を強化し、一体となって取り組むことを示している。また、アベノミクスにおいて第一の矢である金融緩和は重要な政策であったはずである。そうであるなら、政府は「物価安定目標の2%の早期達成」という目標や達成時期についての判断の数度の変更を国民に対して明確に説明すべきだと考えるが、現時点でそのような説明はなされておらず、評価を下げざるを得ない。 |
より弾力的かつ効果的な経済財政の運営を推進し、機動的な政策対応を行い、経済再生に向けて万全を期す。 2、3年は景気の落ち込みや国際リスクに対応できる弾力的な財政運営を推進(第二の矢) |
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安倍政権誕生以来、3回・19兆円が実行された財政政策安倍政権誕生以来、2012年度10兆円、13年度 5.5 兆円、14年度 3.5兆円と合計 19 兆円もの補正予算が組まれた。特に、2014年の補正予算は、衆院選のマニフェストに掲げた通り、総選挙後の2015年2月3日、3.5兆円の緊急経済対策を盛り込み成立し、結果的に、「総選挙後、速やかに経済対策を断行した」形になったものの、プレミアム商品券の発行支援などに使える「地域住民生活等緊急支援のための交付金(仮称)」(2500億円)、エネルギーコスト対策(3601億円)など、経済対策として真に有効か十分な検証がないまま場当たり的な対策が盛り込まれた感は否めない。財政政策の本来の目的は、成長戦略実現のための繋ぎの政策そもそも第二の矢である機動的な財政政策については、景気の下振れリスクへの対応が目的であり、この効果は本来一時的であり、財政の持続可能性確保の観点からも、毎年継続して行うべきかどうかは慎重に吟味されなければならない。現実には、安倍政権1年目で大幅な経済対策の発動を行ったものの、その必然性にも対する十分な説明はなされていない。消費税引き上げ(14年4月)後の個人消費の回復の動きが当初想定していたよりも非常に鈍いという状況が続いた中、2年目も財政出動が継続して行われた。しかし、大規模な財政支出は、財政制約面から持続不能であり、現実にも財政政策の効果が切れると大きな需要の反動減が生じている。こうした意味で、本来、第二の矢である財政政策は、第三の矢の成長戦略の効果が発揮されるまでの繋ぎの政策に他ならず、同時に財政規律を緩ませるリスクを冒すものであることに留意が必要である。今年も3.3兆円の補正予算が閣議決定されたが、民需中心の経済への明確な道筋が見えておらず、政権が掲げる「経済再生と財政再建の両立」という観点からも過度の財政出動は問題である。 |
経済再生と財政再建を両立させながら、雇用や所得の増加を伴う経済好循環の更なる拡大を目指す 雇用拡大や賃金上昇が、消費の増加や景気回復につながる「成長の好循環」をつくり上げる |
3点(5点満点) |
安倍政権が目指す「経済の好循環」は実現したのか「経済の好循環」とは、企業収益の改善が賃金上昇と設備投資の拡大に結び付く前向きの循環メカニズムを指す。安倍首相は2015年11月26日の一億総活躍国民会議にて、三本の矢によって「経済の好循環を我々は創り出すことができた」と発言しているが、現実の経済実体ではそうした好循環はまだ弱いものに止まっており、大きな循環が現時点で作られているとは判断できない。アベノミクスにおいては、円安が企業収益の改善をもたらしたことは事実ながら、賃金上昇圧力は弱い。現金給与総額から物価変動の影響を除いた実質賃金指数は15年10月0.4%増で、同月の従業員1人当たり平均の現金給与総額(名目賃金)は前年同月比0.7%増の26万6309円に止まっている。 また、2015年7~9月期の実質設備投資は前期のマイナスを脱し、0.6%増とプラスに転じたが、3~6カ月程度の先行指標となる機械受注(船舶・電力を除く民需)は7~9月期に前期比10%も減り、鉱工業生産指数も、設備投資に使う機械など資本財の生産計画は、11月0.0%、12月2.8%減と低調が続くなど、設備投資が本格的な回復に転じたかは不透明な状況が続いている。このように賃金上昇圧力が弱く、設備投資の本格回復の展望は描けていないなど、「経済の好循環」は依然として力不足である。 また、円安はコストプッシュ型の悪いインフレを招くため、名目賃金の上昇が小幅に止まれば、実質賃金が低下するという副作用を招く。他方で、期待インフレ率の上昇による実質金利の低下が設備投資を刺激するという経済理論上の効果は、グローバルリスクが表面化する中で十分表れていない。 これに対して消費者マインドは、一進一退を繰り返している。アベノミクス1年目は株価上昇による家計のマインド改善から、消費動向指数は2012年12月(39.0)を境に、1月は43.1と4.1ポイントも上昇している。その後、2年目に入って消費税増税前後(2月~5月)は37.0~39.8と低迷を続けたものの、その後、改善方向に転じ、本年11月の指数は42.6となり、10月から1.1ポイント上昇し、2カ月連続で前月を上回るなど持ち直しの動きがみられる。しかし、こうした動きが持続的な消費者心理の改善に結びつくかは現時点で判断できない。 「経済の好循環」が実現するかは、成長戦略の実行スピードにかかっているそうした中、2016年税制改正大綱で、法人実効税率を現在の32.11%から16年度には29.97%に引き下げることが明記された。一方で、法人税率の引き下げによって浮いたお金が内部留保に回らないよう、大綱には「企業の意識や行動を変革するための方策について検討を行う」とされ、企業に投資や賃上げを迫る文言も明記された。投資や賃上げについては各企業が最終的に判断すべきものであり、本来政府が介入すべきことではないが、企業にとっては、法人実効税率のさらなる引き下げや大胆な規制緩和のスピーディな実行などが見通せる状況にならない限り、国内投資に対しては基本的に慎重スタンスが続かざるを得ない。「経済の好循環」の実現に向けた端緒はところどころで散見できるが、そうした好循環が本格化できるかは、成長戦略の実行スピードにかかっており、楽観視できる段階ではない。 |
同一価値労働・同一賃金を前提、パートタイム労働者の均等・均衡待遇の実現に必要な法整備を行い、非正規労働者の処遇を改善する |
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「同一労働同一賃金推進法」は成立したが、内容は大きく後退した2015年9月9日、派遣労働者と派遣先の正社員との賃金格差の是正に向けた議員立法「同一労働同一賃金推進法」が成立した。この法案は労働者派遣法改正案の対案として民主党と維新の党などが共同提出していたが、与党が維新との修正に応じて再提出したものである。非正規の時間当たりの賃金は、正規の6割程度に止まっており、さらに、08年には経済協力開発機構(OECD)から正規と非正規の格差を是正する勧告を受けこともあることから、法律が成立したことは一歩前進とはいえるが、内容的には大きく後退したと言わざるを得ない。本法案は当初、同じ仕事をしている派遣社員と正社員の「待遇の『均等』を実現する」と明記されていたが、修正後には「『均衡』のとれた待遇」という表現となり、仕事の内容だけでなく、勤続年数や責任などに応じて待遇のバランスを取れば、賃金の格差が許される規定になり、正社員と派遣社員の賃金格差を縮めるための拘束力はほとんどなくなった。また、当初は「施行後一年以内に講ずる」とされた法制上の措置についても、施行後3年以内に格差是正に必要な法制上の措置をとるよう国に求めるなど、時期が先延ばしとなった。 法案の修正に対する説明不足が減点要因同一労働同一賃金の実現に向けて着手し、法律が成立したが、今回の法律の実効性が十分担保されておらず、運用次第では賃金の格差が一向に是正されない可能性が強い。さらに、法律の適用は派遣社員に限られている点も考えれば、当初の法律から修正したにもかかわらず、こうしたことについて、政府からの説明も不十分であり評価を下げざるを得ない。また、正規と非正規の賃金格差が是正されない限り、労働需給が非正規を中心に強まっており、しかも非正規雇用比率が上昇を続けている現状では、大幅な賃金上昇は期待できず、「経済の好循環」の強まりを阻害する要因として作用し続けると判断される。 |
米国と共にTPP交渉をリードし、早期の交渉妥結を目指す。 TPP交渉は聖域なき関税撤廃を前提とする限り反対 |
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聖域の全ては守れなかったが、合意に至った点は大いに評価できる2015年10月5日に大筋合意されたTPPの物品貿易の品目数ベースの関税撤廃率は、日本の工業品は100%、農産品は81.0%と他の参加国対比では相対的に低い(全体で95.1%)が、過去のEPAでの実績(直近締結の日豪EPAは全体で 89%)を大幅に上回った関税撤廃率となった点で評価できる。関税の自由化率の点では、農林水産分野の重要5品目(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物(砂糖など))の聖域をすべて守った場合には、自由化率は93%となるが、今回、これが95%まで引き上げられている。この点を厳密に考えれば、公約違反との指摘もできるが、主要なコメや麦などについて関税は維持されるなど聖域の本丸は守っており、2012年の衆院選時に掲げた公約には反していないと判断する。 また、今回のTPP合意により、知的財産権の保護、政府調達、国有企業の改革などで新たにルール作りが進んでいく。さらに、サービスや投資の自由化では自由化の対象から外すものだけを列挙し、それ以外はすべて自由化する「ネガティブリスト」という手法を採用するなど、今後、貿易や投資ルールの自由化の度合いがより深くなるなど、全ての聖域を守ることはできなかったとはいえ、TPPを全体的に見れば、自動車部品の関税の即時撤廃、輸送の迅速化など、日本にとってのメリットは大きく、日本が交渉段階から参加して12カ国で貿易ルールを合意できたという点は、大いに評価できる。また、バイオ薬品の特許期間などの合意に向けて、日豪の間に立ち仲介を行うなど、交渉の最終局面で日本が一定の役割を果たした点も評価できる。 TPPをベースにしながら、
現在は大筋合意の状況であり、TPPの妥結に向けて、各国内での議会の承認などが必要となり、「妥結」に向けて最後の詰めの作業があり、目標達成とまでは言えないが、着手して順調に動いており、現時点で目標達成の方向に向かっていると判断できる。 |
今年スタートした国家戦略特区の更なる制度拡充を図る 特異な規制や制度を徹底的に取り除く「国家戦略特区制度」を創設する |
3点(5点満点) |
法律の成立、その後の制度拡充ができた点は評価できる2013 年6月 14 日閣議決定した、アベノミクス第三の矢である成長戦略「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」の中で、大胆な規制改革等を実行するための突破口として、国家戦略特区を創設することを示し、同年12月7日「国家戦略特別区域法」が成立した。更に、2014年の「改訂日本再興戦略2014」において、法人設立のための手続きを1カ所で完結できる「ワンストップセンター」を設置。保育士不足の状況を踏まえ、地域限定の保育士資格を創設する案も盛り込まれた。加えて、都市公園内に保育所等設置の解禁、iPS細胞から製造する試験用細胞などへの血液使用の解禁などが追加された国家戦略特区法改正法案が本年7月8日に成立するなど、昨年に比べて制度の拡充が図られた点は評価できる。 国家戦略特区の目標や位置づけは変更されたのかしかし、そもそも国家戦略特区は、産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成に関する施策の総合的かつ集中的な推進を図るため、2015年度末までの期間を集中取組期間とし、岩盤規制全般について突破口を開き、スピーディに規制緩和を実行する仕組みのはずであるが、国、自治体、地元企業の間での調整に手間取り、区域計画の最終認定が2015年12月15日までずれ込むなど、具体的なプロジェクトが実行される状況に至るまでに時間がかかり過ぎている。また、新たな規制緩和措置の追加についてもその都度、国家戦略特区法の改正が必要であり、制度としてまだまだ改善の余地がある。この法律に基づき、2014年5月1日、東京圏、関西圏、福岡市など6地域が特区指定され、また、2015年8月28日に地方創生特区の第一弾として、秋田県仙北市、宮城県仙台市、愛知県の3地域が指定されている。さらに12月15日には、広島県・愛媛県今治市、千葉市、北九州市が地方創生特区第二弾として指定されるなど、前進に向けた努力は一定程度評価できるが、さらなる実行のスピードアップが望まれるが、現時点で目的達成ができるかは判断できない。 また、特区を岩盤規制改革の突破口とするという当初の理念はやや後退し、全国規模での岩盤規制撤廃に至る動きとはなっていない。また、特区の性格が地方創生の手段としての位置づけがより鮮明になるなど、目標や位置づけが変更されているのであれば、それに対する政府の説明責任が必要となる。 |
来年度から、より広く負担を分かち合う構造に改革することにより恒久財源を確保した上で法人実効税率の引下げに着手し、数年で20%台まで引き下げることを目指す。 立地競争力の観点から思い切った投資減税や法人税の大胆な引き下げを実行し、今後3年間(2013年から)で、設備投資水準の年間70兆円の回復、2020年までに外国企業の対内直接投資残高を現在の2倍の35兆円に拡大させる |
3点(5点満点) |
法人実効税率が20%台に前倒しで引き上げられたことは評価できる2015年11月26日に開催された「官民対話」において、経団連の榊原会長が、法人実効税率の速やかな引き下げ、固定資産税の減免、規制緩和など、政府が日本企業の国際的競争力強化のための種々の政策対応を実施することを前提に、18年度までの3年間で約10兆円の設備投資増加が見通せるとの試算を提出した。当初、法人税(国税)と法人事業税など(地方税)を合わせた法人実効税率は、15年度に34.62%から32.11%に引き下げられ、16年度も31.33%まで引き下げる方針が既に決まっており、17年度に20%台を目指す方針だったが、12月16日に自民党・公明党が決定した2016年度税制改正大綱の中で、法人実効税率を現在の32.11%から16年度には29.97%に引き下げることを明記し、当初17年度から法人実効税率を20%台まで下げるとした目標が1年前倒しで実現することになった。この点は高く評価できる。しかし、大綱では、3年後の18年度時点でも29.74%とわずかに下がるだけであり、29%以下への引下げの道筋が描かれていない点は、評価を下げざるを得ない。 法人実効税率引き下げの目的が不明確また、法人実効税率引き下げの目的が設備投資の拡大なのか、立地競争力強化なのかについて、十分な説明責任が果たされたとは言えない。仮に、立地競争力強化の観点からの引き下げであれば、少なくともOECD諸国平均並みの25%以下に下げる必要があるが、そうした認識は示されておらず、目標数値も曖昧なままである。とくに、外国企業の対日直接投資倍増目標を実現するには、29%台ではまだ不十分である。一方、今回の法人実効税率の引き下げに伴う財源として、資本金1億円超の大企業を対象に、赤字企業にも課税する外形標準課税を拡大して、必要な財源を確保することになった。この点については、自民党が掲げた「より広く負担を分かち合う構造」に近づいたとはいえる。他方で、企業が購入した設備を、複数年に分けて費用計上し、毎年の法人税負担を軽くする「減価償却制度」の見直しや、生産性の高い設備に投資した企業への減税措置の縮小なども行い財源を確保するが、こうした見直しは投資インセンティブを殺ぐ面もあることには留意が必要である。 しかし、そもそも法人実効税率の引下げだけで、日本企業の国内設備投資を盛り上げることは困難であり、より大胆な規制改革によるビジネス・チャンスの拡大が求められる。例えば、株式会社が直接農業を経営できるようにはなっていないし、農地の売買を株式会社が自由にできる状態にもなっていない。労働時間制度の改革、解雇規制の緩和についても実現しておらず、立地競争力の強化には乗り越えるべきハードルが多いといえる。また、企業の積極的な投資拡大を促すには、法人実効税率を中期的にどこまで下げるのかについて、明確な目標設定が必要だがそれもなく、国民に対して十分な説明がなされているともいえない。 |
「総合科学技術・イノベーション会議」の更なる機能強化に努めるとともに、世界に伍するための「第5期科学技術基本計画」を策定し、研究開発の抜本的な充実を図る 科学技術を国家戦略として推進し、世界で最もイノベーションに適した国を創り上げる |
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5年間の科学技術政策の基本方針は示された2001年1月の中央省庁再編に伴い内閣府に設置された「総合科学技術会議」は、内閣府設置法の一部を改正する法律によって、「総合科学技術・イノベーション会議」に改組された。同会議の専門家会合で政府は、16年度から5年間の科学技術政策の基本方針を示す「第5期科学技術基本計画」の素案を公表した。その中で、名目国内総生産(GDP)比で1%、5年間に約26兆円の研究開発費を投じる数値目標を明記した。また、投資や政策の成果を評価する指標として、世界的に影響力のある論文の割合を10%に高めたり、40歳未満の大学教員数を1割増やしたりすることなど、8つのKPIを初めて盛り込んだ。さらに、基本計画を着実に実施するため、同会議が総合戦略を毎年作成し、年内に答申としてまとめ、年明けに閣議決定するなど、同会議の機能強化に向けた制度整備に努めていると評価できる。取り組みは進んでいるが、目標の達成は現時点では判断できないまた、第二次安倍政権の発足以来、成長戦略の一環として毎年「科学技術イノベーション総合戦略」を策定し、閣議決定している。その中で、「第5期科学技術基本計画」と総合戦略を連動させることによって、「相乗効果を引き出す」とされているが、具体的な連動の手段などは示されていない。また、「研究開発の抜本的な充実を図る」という目標実現に向け着手して動いているものの、現時点で目標達成ができるかは判断できない。日本経済の潜在成長率を引き上げるには、画期的なイノベーションが次々と生まれる仕組み作りが重要であり、国の研究開発費の戦略的配分に加えて、基礎研究から応用研究、実用化に至るまでのプロセスをより強化する「ナショナル・イノベーション・システム」の構築が求められるが、そうした動きはまだ緒に就いたところであり、現段階での評価は難しい。 |
iPS細胞を活用した再生医療・創薬や疾患の克服等に向けた研究を強力に推進する 再生医療の実用化をさらに加速させる |
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iPS細胞を活用した再生医療・創薬の分野で可能性が広がり始めた2014年7月22日閣議決定された「健康・医療戦略」では2020 年頃までの達成目標として、「iPS 細胞技術を活用して作製した新規治療薬の臨床応用」、「再生医療等製品の薬事承認数の増加」、「臨床研究又は治験に移行する対象疾患の拡大 約 15 件」、「再生医療関係の周辺機器・装置の実用化」、「iPS 細胞技術を応用した医薬品心毒性評価法の国際標準化への提言」が掲げられた。その後、2014年11月に再生医療の推進と安全確保のため、「医薬品医療機器法」(改正薬事法)と「再生医療安全性確保法」が施行された。この改正によって早期承認され、重篤な心臓病患者の心臓に貼り付けて治療する「ハートシート」の保険適用が認められた。また、この早期承認制度は海外からも注目されており、アメリカより先に日本での実用化を目指す企業が出てくるなど、iPS細胞を活用した再生医療・創薬の分野で世界をリードできる可能性が広がりはじめた点は大いに評価できる。 加えて、文部科学省は、iPS細胞による再生医療の実現に向けた研究ロードマップ(行程表)の2回目の改訂版を15年12月4日に公表した。その中で、心不全治療のための心筋は2017年、糖尿病治療のための膵臓の細胞は2019年など、iPS細胞をもとにつくる計19の細胞や器官について、人を対象に研究で使い始める目標時期を明記するなど、「出口」を明示して研究開発を加速する手法がとられるなど、「画期的な基礎研究成果を医療現場に届ける」という目標達成に向けて順調に動いていると評価できる。 |
観光立国を推進すべく、2020 年に向けて、訪日外国人旅行者数 2000 万人、そして 2030 年には 3000 万人を目指す 観光立国の取り組みを強化。2013年に外国人旅行者1000万人、2030年に3000万人超を目指す |
4点(5点満点) |
訪日外国人旅行者数2000万人の目標は、前倒しでの実現可能性が高くなる日本政府観光局が2015年11月18日に発表した2015年1月~10月の訪日外国人旅行者数は、前年同期比48.2%増の1631万6900人となり、12月19日時点の推計で1900万人を超え、通年で1900万人台後半に達する見込みとなった。ビザ緩和や消費税免税制度の拡充などの施策により、2014年の衆院選で掲げた「2020年、訪日外交人旅行者数2000万人」という目標は前倒しで達成する可能性が非常に高くなり、目標数値の引き上げが検討されるなど、目標の実現がはっきりと見えてきた点は大いに評価できる。都市部のホテル不足の解消と、地方への観光客波及が今後の課題一方で、課題も明らかになってきた。訪日外国人の増加により、現在でも、東京都や大阪府などの都市部のホテルでは、稼働率が80%を超える状況が続き、今後、目標の引き上げなどによりホテル不足が更に激しくなる可能性がある。一方で、地方の旅館などは利用が伸び悩んでおり、いかに都市部の宿泊施設を確保しつつ、外国人観光客を地方に誘導するかが重要な政策課題となる。こうした課題に対して、政府は15年12月9日、自宅の空き部屋などに旅行者を有料で泊める「民泊」を旅館業法で定める「簡易宿所」と位置付けた上で、サービスの提供者に営業許可の取得を義務付ける方針を固め、厚生労働省は申請手続きを簡素化するなどの省令改正を16年度中に行う。しかし、現在でも民泊は全国で約2万カ所に上るとされるが、大半が旅館業法に違反した無許可営業とみられ、近隣住民とのトラブルなどが社会問題化しつつある。そうした問題について、どのように対処するかコンセンサスは得られていない。 また、訪日外国人の地方への誘導策として観光庁は、今夏、北海道東部、中・四国、九州など国内7カ所を「広域観光周遊ルート」と認定し、首都圏や大阪・京都、富士山周辺の「ゴールデンルート」に偏りがちな訪日外国人の旅先を地方の観光地に広げていく狙いを掲げ、政府はPR予算などを支援する。訪日外国人へ地方の魅力をどのように伝え、誘導していくのか、今後、具体的戦略を策定する必要がある。しかし、2014年のマニフェストで掲げた「2020 年、訪日外国人旅行者数 2000 万人」という目標達成に向けて様々な取り組みに着手し、順調に動いており、目標達成はほぼ確実となっていると評価できる。 |
2020年までにあらゆる分野で女性が指導的な地位を占める割合を30%以上とする目標を実現 |
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2020年度までに女性の管理職の割合を30%以上に、との目標は事実上断念政府は2015年12月3日、男女共同参画会議の専門調査会に第4次男女共同参画基本計画案を提示した。その中で、2020年度末までに国や自治体、民間企業などの各分野で指導的地位の女性の占める割合を国家公務員が7%(現在3.5%)、市町村の本庁課長級が20%(同14.6%)、民間企業の課長級で15%(同9.2%)という数値目標を設定し、12月末までに閣議決定を行う予定である。当初から、目標の実現は困難だと考えられていたことからすると、現実的な目標値に変更し、実現に向けて政策を打ち出したことは評価できるが、これにより、当初掲げた「2020年度までに30%」という目標は事実上断念し、現実的な目標の達成に向けてシフトする形となった。そもそも目標設定は妥当だったのかしかし、新たに設定した目標自体もそれをどのように実現していくのかまだ曖昧なままである。2015年8月28日、女性管理職の割合に数値目標を義務付ける「女性活躍推進法」が成立した。従業員301人以上の企業と国や自治体、地方公共団体は2016年4月1日までに数値目標を盛り込んだ行動計画を策定し公表しなければならない、とされ、300人以下の場合は努力義務を課した。しかし、本法律には罰則規定がなく、数値目標も各企業や自治体に委ねている。また、行動計画の届出時に、女性の活躍推進に関する取組の実施状況が優良な企業については、申請により、厚生労働大臣の認定を受けることができるが、用途としては認定マークを商品などに付することができる程度にとどまっている。さらに、2014年10月10日に政府がとりまとめた「すべての女性が輝く政策パッケージ」では、女性登用に積極的な企業への補助金付与や公共調達での優遇措置などが明記されていたが、今回成立した「女性活躍推進法」には盛り込まれていない。このように、各主体者に任せるだけの目標と手段であるなら、そもそも目標の実現は難しかったと言わざるをえない。また、女性の活躍推進のために、管理職比率を高めるという目標設定が果たして妥当なのか、それを企業に半ば強制することが妥当なのかが問われてしかるべきで、長時間労働の是正など、女性の働く環境改善によりプライオリティーを置くべきとの議論もあることにも留意が必要であるが、現時点で目標の達成は困難になったと判断せざるを得ない。 |
日中韓FTAや東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などのアジア太平洋における広域経済連携の取組みや、EUとの経済連携協定などを通じた自由貿易化を促進する。 戦略的海外投資や経済連携、国際資源戦略を展開 |
3点(5点満点) |
TPP合意によって加速が期待されたが、各種協定の合意期限は延期された安倍政権は、2013年の日本再興戦略の中で、「2018年までにFTA比率70%を目指す」ことを掲げ、RCEP(東アジア包括経済連携協定)、日欧EPAについては15年末までに合意する目標を掲げていたが、一向に交渉が進んでいなかった。しかし、10月5日にTPPが大筋合意されたことで、TPP以外の経済連携協定の交渉加速が期待されていたが、10月5日以降、日欧は2回、日中韓は1回、RCEPも2回の交渉が行われたのみで、いずれも足踏み状態が続いている。また、RCEPについては当初の15年中の合意を16年中まで延期しており、現時点ではその目標達成は極めて難しいと言わざるを得ない。政府の「『日本再興戦略』改訂2015」のKPIの主な進捗状況によると、15年10月現在、日本の貿易総額に占めるEPA・FTA発効済・署名済の国との貿易額の割合は22.3%となり、韓国の61.4%と比べて大きく見劣りしている。今後、TPPが発効するとしても、貿易のFTA比率は22.3%から37.3%の増加にとどまり、目標には遠く及ばない。 「2018年までにFTA比率70%を目指す」という目標は、日本の貿易総額のうちFTA相手国との貿易額を積み上げたとき70%に達するという目標設定である。現在、政府間での交渉がなされている日欧EPA、RCEP、日中韓FTAの3つが18年までに合意できれば、達成できる目標であるとは考えられるが、それまでに合意ができるかは極めて難しく、現時点でその目標が可能かは判断できない。これまで足並みが乱れた日中韓のFTA交渉も協議が始まったが、中韓間では自由化率の低いFTAがすでに締結されており、日本がリードする形での交渉は事実上困難となっている。 |
コーポレートガバナンスの強化により、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断を促す企業統治改革を進め、健全かつ力強い企業を生み出すための環境を整備する。会社法の解釈指針を今年夏までに作成、公表する。 |
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コーポレートガバナンスの強化で、
2013年6月14日に閣議決定された「日本再興戦略」に「日本企業を国際競争に勝てる体質に変革する」としてコーポレートガバナンスの見直しが盛り込まれた。その後、過去の利益水準やROE(自己資本利益率)などから400銘柄を選定する「JPX日経インデックス400」の算出開始(14年1月)、企業価値の向上や持続的成長を促す「責任ある機関投資家」の諸原則を示した「日本版スチュワードシップ・コード」の確定(14年2月)、社外取締役の設置規定を定めた会社法改正(2014年6月)とコーポレートガバナンス関連の施策がとられた。 |
2020年頃にGDP600兆円を達成する(新第一の矢) |
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2020年度のGDP指標が年々下がってくる中、非常に達成困難な目標安倍首相は、2015年9月24日に行われた自民党総裁としての記者会見において、「2020年頃にGDP600兆円」の達成を目標に掲げた。これまで見通しに過ぎなかったGDPの実額を、年次を区切って目標に据えた意味はかなり重いが、こうした試算は、その達成自体が困難視されている「実質2%・名目3%」の成長を前提としているものであり、現段階では「2020年のGDP600兆円」は非常に達成困難な目標と言わざるを得ない。内閣府が示す「経済財政の中長期試算」では、この「実質2%・名目3%」の成長率を下に2020年度のGDP600兆円の見通しは示されているが、2010年の鳩山政権時では661兆円、日本再興戦略が初めて出された2013年は620兆円、2015年7月の中長期試算では20年度の名目GDPは595兆円と、年を追うごとに2020年度のGDPは下がってきている。 ただ、こうした目標が全く不可能か、といえばそうではない。2015年の成長戦略改訂版で、「未来投資による生産性革命」を打ち出し、人口減少・少子高齢化が進む中で経済成長していくためには、革新的なイノベーションによって、飛躍的に生産性が上がることが必要だとしている。 TPP合意による貿易の拡大、女性やシニアの活躍、あるいは将来的には選択的移民も視野に入れるなどの労働力の確保といった政策が実施されれば、2020年の達成は難しいかもしれないが、GDP600兆円はいずれ実現できる可能性があると考える。 ただし、飛躍的なイノベーションや生産性向上、外国人労働者の活用等は一朝一夕にできるものではなく、実現までには相当の時間がかかると見ておく必要がある。現時点では2020年頃のGDP600兆円の達成は、非常に困難と言わざるを得ない。 |
各分野の点数一覧
経済再生
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財政再建
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社会保障
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外交・安保
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エネルギー・環境
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地方再生
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復興・防災
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教育
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農林水産
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政治・行政・公務員改革
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憲法改正 |
評価基準について
実績評価は以下の基準で行いました。
・この3年間で未だに着手しておらず、もしくは断念した計画であるが、国民にその事実や理由を説明している
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1点 |
・着手して動いたが、目標達成は困難な状況になっている
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2点 |
・着手して順調に動いているが、目標を達成できるかは判断できない |
3点 |
・着手して順調に動いており、現時点で目標達成の方向に向かっていると判断できるもの
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4点 |
・この3年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
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5点 |
新しい課題について
3点
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新しい課題に対する政策を打ち出し、その新しい政策が日本が直面する課題に見合っているものであり、かつ、目標や政策体系の方向が見えるもの。または、政策体系が揃っていなくても今後、政策体系を確定するためのプロセスが描かれているもの。これらについて説明がなされているもの |