電源構成は示したが、再エネは力不足。化石燃料依存は世界の潮流に逆行
【エネルギー・環境】総論 | 2.2点(5点満点) 昨年:2.0点 |
評価の視点 |
|
これまで原子力発電を基幹エネルギーとして位置付けてきた日本のエネルギー政策は、2011年3月の福島第一原発事故を機に大きな変容を迫られている。昨年4月閣議決定のエネルギー基本計画においては、原子力を「重要なベースロード電源」と位置付けて再評価し、今年8月には九州電力の川内原子力発電所1、2号機(鹿児島県)が再稼働した。しかし、原子力リスクは多くの国民が感じており、また、現状では新規増設・リプレースが困難なことや、「40年で廃炉」の原則を考えると、中長期的に原子力への依存度を低減していくことは避けられない。 |
【エネルギー・環境】個別項目の評価結果
原子力規制委員会によって新規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原発の再稼働を進める。 原子力の安全性は規制委員会による専門的判断を優先、原発の再稼働は順次判断し、3年以内の結論を目指す |
2点(5点満点) 昨年:2点 |
規制委の審査が遅れ、「3年以内の結論」という目標は達成不可能に2013年、原子力規制委員会は新規制基準を策定し、それ以降、原発再稼働の前提となる審査にはこれまでに15原発25基が申請し、3原発が合格した。そして、今年8月には九州電力の川内原発1、2号機が再稼働した。これらはいずれも「加圧水型軽水炉(PWR)」と呼ばれる型式のものだが、一方、東京電力福島第1原子力発電所と同じ「沸騰水型軽水炉(BWR)」と呼ばれる型式の原発の安全審査については、沸騰水型を専門とする審査官の人数は限られていたこともあり遅れていた。8月、規制委は人員を優先して振り向け、沸騰水型の審査体制を整えたが、12月からようやく審査が始まった美浜原発3号機などまだまだ審査は山積みであり、2012年衆院選マニフェストで掲げた「3年以内の結論」という目標は達成不可能となった。しかし、その理由について政府から説明はなされていない。また、審査が遅れているにもかかわらず人員補充や適切な人材配置がなされなかった点については、政府にも一定の責任はある。 そもそも、菅義偉官房長官は「再稼働を判断するのは事業者」と述べているが、事業者が原発事業をしていくにあたっては、その予測可能性を担保するためにも今後、国が進める原子力政策の全体像を示しておく必要がある。そこでは例えば、核燃料サイクルの方針や原発事故発生時の被災者への賠償ルールなども示しておく必要があるが、こうした点についても政府からは説明がなされていない。 |
太陽光や風力などの再生可能エネルギーの最大限の導入、徹底した省エネの推進を図る。 当面最優先で再生可能エネルギーの最大限の導入と省エネの最大限の推進を図る |
2点(5点満点) 昨年:3点 |
FITの導入や、再エネの広域的な利用システム構築が進んでいない経済産業省は11月、固定価格買取制度(FIT)における再生可能エネルギー発電設備の導入状況(7月末時点)を公表した。それによるとFIT開始(2012年7月)後、認定容量は8,768万kW(うち太陽光は8,205万kW)になり、2030年度の想定導入量6400万kWを数字の上ではすでに超えている。新たに運転を開始した設備は累計で2,234万kW(うち太陽光は2,150万kW)となり、制度開始前と比較して約9割増となった。ただ、導入量を電源ごとに比較すると、導入が進んでいるのは太陽光だけで、それ以外の電源については導入が十分加速されていない。そして、その太陽光も当初の割高な買取価格設定で新規参入が相次ぎ、電気料金に上乗せされる形で国民が負担する賦課金が増えたことを理由としてFITの見直しが進められている。経産省は11月、総合資源エネルギー調査会の専門委員会で、事業用の太陽光に関しては入札制度を導入する案を示した。 しかし、事業者にとっては落札に失敗してFITで買い取ってもらえなくなるリスクが生じることになる。また、入札は大規模な事業者が有利になり、エネルギーの地産地消を掲げて再生エネを手がける地方の企業や自治体の取り組みを阻害するおそれもあるなど、再エネの「最大限の導入」とはむしろ逆の方向に向っている。 さらに、日本全体で再エネの導入拡大を可能とするためには、電力会社単位ではなく、地域を超えた再エネのやりとりを可能にする広域的な系統利用システムの構築が必要であるが、それも進んでおらず、この点でも「最大限の導入」は徹底されていない。 省エネは企業努力に委ねられており、「徹底的な推進」は図られていない省エネについては、資源エネルギー庁省エネルギー小委員会は8月、「近年はエネルギー効率の改善が停滞」とした上で、「我が国の省エネ施策を深掘りすべく、規制と支援を両輪とした各部門の省エネ施策の不断の見直し・改善が必要」と指摘した。これを受けて経産省は11月、家庭や企業の省エネ対策を強化する方針を固めた。2020年に新築戸建て住宅の50%超(現在は15%程度)について、太陽光発電などで消費する電力を賄い、差し引きしたエネルギー消費をゼロにするとともに、省エネ目標を課す産業を従来の鉄鋼・化学などの重厚長大型産業だけでなくサービス業などにも広げ、全産業のエネルギー使用量の7割をカバーすることを目標として掲げた。 ただ、各企業の自主努力に委ねている部分が多く、法規制の強化などはなされていないため、省エネの「徹底した推進」を図っているとは評価できない。 |
エネルギーミックスの将来像を速やかに示す。 遅くとも10年以内には将来にわたって持続可能な「電源構成のベストミックス」を確立する |
2点(5点満点) 昨年:1点 |
電源構成を決定し、省エネと熱電併給を大きく見込んだことは評価できる経済産業省は7月、2030年度の望ましい電源構成(ベストミックス)を盛り込んだ「長期エネルギー需給見通し」を決定した。より持続可能なエネルギーシステムを構築していくためにも今回、省エネルギーとバイオマスコージェネレーション(熱電併給)などをかなり大きく見込んだことは一定の評価ができる。 原発の目標比率実現に必要な再稼働や運転延長ができるか、定かはでないただ、原子力を20~22%としたが、原発の運転期間40年の原則にのっとれば、2030年には15%程度となる。その5~7%差の部分は、最長20年の運転延長、または新増設やリプレース(建て替え)を行わないと確保できないが、原発の稼働には安全基準による審査や地元同意が必要であり、再稼働や運転延長ができるかは定かではない。新増設やリプレースについてはさらにハードルが高いが、今回ベストミックスを議論した「長期エネルギー需給見通し小委員会」では、リプレースについて全く議論していない。もし想定通りに原発が動かなかった場合にどうするか、ということについて政府から説明はなされていない。そもそも昨年閣議決定したエネルギー基本計画は、「原発依存度を可能な限り低減させる」との方針を示しているが、これとの整合性も取れていない。再エネ比率の目標は、エネルギー基本計画との整合性に欠ける再エネ電源を2030年に22~24%とするという目標については、現時点で固定価格買取制度(FIT)の設備認定をされている再エネ発電設備の総計をわずかに上回るレベルにすぎない。再エネについては高コストとされているが、今後普及に伴いコストは低下し、さらなる積み増しは可能なので、それを見込んだ内容とすべきであろう。しかも、再エネについて、これまで水力は別枠扱いしてきたが、今回はその水力を含めた形となっている。そこで、水力以外の太陽光・風力・地熱・バイオマスなどの新電源だけで見ると15%にも満たず、さらに低水準に陥る。エネルギー基本計画では「再生エネの導入を最大限加速」を掲げていたが、こちらも整合性に欠けている。石炭火力の比率維持は温暖化対策に逆行石炭火力については、26%と現状からほとんど増やさない形になっている。しかし近年、石炭火力発電所の新設計画が相次いでいる。新設するには既存の発電所を廃止する必要があるが、どう調整するのか示されていない。また、地球温暖化対策において、石炭規制は世界的な潮流となりつつある。例えば、欧州の場合、電力会社に対し、石炭から出るCO2の1トン当たりの課税額を高くするケースが多い。イギリスは982円と日本の3.4倍で、高い税負担で収益が悪化し、石炭火力が次々と閉鎖に追い込まれている。中長期的に大幅なCO2の削減を確実にするためには、日本でも石炭火力の規制を含めた制度の導入は避けられなくなる可能性はある。すなわち、石炭も高コストのエネルギーになる可能性があるが、そういう状況の中での石炭依存の方針にはリスクがあり、これまでのマニフェストで示してきたように「持続可能な」「責任ある」エネルギー政策にはつながるかは現段階では判断できない。なお、「長期エネルギー需給見通し」にも今回の電源構成案の実現には不明な点もあるとして今後、少なくとも3年ごとに電源構成を見直すことも明記された。 |
三段階の電力システム改革を完遂し、エネルギー供給構造の一体改革を推進する。 電力システム改革を断行する |
3点(5点満点) 昨年:3点 |
電力システム改革の最終段階である発送電分離は実現6月、電力会社の発電部門と送配電部門を別会社に分ける発送電分離を2020年4月から義務づけることを盛り込んだ改正電気事業法が成立した。政府は第5次電力システム改革を三段階で進めてきた。今年4月には、全国の電力需給調整を行う「電力広域的運営推進機関」が業務を開始し、2016年4月には家庭向けの電力小売りを全面自由化する。発送電分離はその最終段階であるため、「三段階の電力システム改革」自体は実現したといえる。電力会社との「所有権分離」が実現せず、改革の実効性は判断できないただ、今回の発送電分離は「法的分離」にとどまった。すなわち、大手電力会社から送配電部門を切り離し別会社化するが、子会社または持株会社によるグループ会社として電力会社が保有するなど資本関係は残る。その結果、例えば、送配電網で得た利益を配当金として100%株主たる電力会社に還元し、それが投資源泉となることにより、電力会社が新規参入側に対して競争優位に立つということも起こり得る。本来であれば、資本関係も断絶する「所有権分離」が中立性の観点からは望ましい。それがより多くの新規市場参入を促し、発電事業と小売事業が競争市場になり、価格とサービスの両面で電力消費者利用者にとってのメリットにつながると考えられるが、「法的分離」にとどまったため、今次改革が「エネルギー供給構造」を実効的に変えるものになるかは、現段階では判断できない。 |
わが国の2020年以降の約束草案をできるだけ早期に提出する等、2015年に合意予定のポスト京都議定書の国際枠組みづくりに貢献する。同時に、わが国の最先端の環境技術を国際社会において普及させる等「攻めの地球温暖化外交戦略」を推進する。 ポスト京都で主導的な役割を主導、温室効果化ガスの長期目標は堅持、中期は目標再設定で現実実効的政策を推進 |
2点(5点満点) 昨年:1点 |
約束草案は提出したが、2030年の削減目標において環境基本計画と矛盾政府は7月、日本の温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比26.0%減(2005年度比25.4%減)の水準にするとの約束草案を決定し、国連気候変動枠組条約事務局に提出した。 ただ、日本は2012年に閣議決定された第4次環境基本計画の中で、「2050年80%削減」という目標を掲げているが、2012年から2050年まで直線的に80%の排出削減を進めると仮定した場合、2030 年時点では約38%の削減になっている必要があるが、今回の約束草案は、2012年度比では約25%の削減にとどまり、環境基本計画との整合性が取れていない。約束の背景である電源構成にも、再エネや原発の見込みに問題背景としてのエネルギーミックスにも再エネや原子力発電の見込みに問題がある。再エネ電源を2030年に22~24%とするという目標は、現時点で固定価格買取制度の設備認定をされている再生可能エネルギー発電設備の総計をわずかに上回るレベルにすぎない。再生可能エネルギーについては高コストとされているが、今後普及に伴いコストは低下するので、それを見込んだ内容とすべきであろう。原子力発電比率については20~22%が目標だが、原発の運転期間40年の原則にのっとれば、2030年には15%程度となる。その5~7%差の部分は、最長20年の運転延長、または新増設やリプレース(建て替え)を行わないと確保できないが、原発の稼働には安全基準による審査や地元同意が必要であり、再稼働や運転延長ができるかは定かではない。新増設やリプレースについてはさらにハードルが高いが、エネルギーミックスを議論した「長期エネルギー需給見通し小委員会」では、リプレースについて全く議論していない。 化石燃料重視の方針は、世界の流れに逆行再エネが伸びず、しかも想定通り原発が稼働しない場合、化石燃料を使い続けるしかないが、石炭発電の使用電力量当たりのCO2排出量は、超々臨界圧のような最新型の技術でも液化天然ガス火力発電(コンバインドサイクル)の2倍以上である。そうすると石炭火力を26%としたことはCO2排出量を考慮すると過大である。しかも、石炭火力発電所新設の動きが相次いでいる。 そもそも、世界が「カーボン・ニュートラル」に向けて動き出す中、その流れに逆行するかのような化石燃料重視の方針は、日本の存在感を著しく低下させることにつながる。化石燃料に依存しないエネルギーシステムを構築し、カーボン・ニュートラル社会実現に向けた方向性を世界に向けて示さなければ、「ポスト京都で主導的な役割」を果たしていくことは難しい。「野心連合」参加が遅れるなど、COP21交渉でも日本の存在感は薄いさらに、COP21における交渉でも日本の存在感は薄い。欧米各国は会議場で記者会見し、世界のメディアに積極的に発信していたが、日本の海外メディア向けの公式会見は初日の1回だけで、交渉が本格化した12月1日以降は開かれていない。米国の6回、EUの3回に比べても少ない。また、資金支援や温暖化対策の目標をめぐり各国の意見が対立する中、議長国フランスは7分野の主要テーマごとに、非公式交渉をまとめる仲介役の19カ国を指名したが、日本の名はなかった。さらに、米国やEUは、アフリカ、南米、太平洋の途上国グループとともに、100カ国以上からなる「野心連合」を結成し、合意に向けた多数派工作に動いたが、そこに日本が加わったのは最後になったなど、「ポスト京都議定書の国際枠組みづくりに貢献」しているとは言い難い状況である。 |
各分野の点数一覧
経済再生
|
財政再建
|
社会保障
|
外交・安保
|
エネルギー・環境
|
地方再生
|
復興・防災
|
教育
|
農林水産
|
政治・行政・公務員改革
|
憲法改正 |
評価基準について
実績評価は以下の基準で行いました。
・この3年間で未だに着手しておらず、もしくは断念した計画であるが、国民にその事実や理由を説明している
|
1点 |
・着手して動いたが、目標達成は困難な状況になっている
|
2点 |
・着手して順調に動いているが、目標を達成できるかは判断できない |
3点 |
・着手して順調に動いており、現時点で目標達成の方向に向かっていると判断できるもの
|
4点 |
・この3年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
|
5点 |
新しい課題について
3点
|
新しい課題に対する政策を打ち出し、その新しい政策が日本が直面する課題に見合っているものであり、かつ、目標や政策体系の方向が見えるもの。または、政策体系が揃っていなくても今後、政策体系を確定するためのプロセスが描かれているもの。これらについて説明がなされているもの |