はじめに
安倍政権は、12月26日で発足から3年を迎えます。それに合わせ、言論NPOは、2004年から定期的に毎年行っている政権実績評価の一環として、安倍政権の3年間の評価に関する有識者アンケートを実施しました。
この調査は、有権者と政治との間に緊張感ある政治環境を作り出すことを目的に、2006年の第1次安倍政権時から開始し、第2次安倍政権まで歴代ののべ7人の首相に対して行われているもので、今回は11回目の調査となります。ただ、この間は任期が1年の短期政権が多かったために、同じ政権で3年間の評価を行うのは安倍政権が初めてとなります。安倍首相に関する有識者アンケートは、2013年4月の政権発足100日時点、13年12月の1年時点、14年12月の2年時点に続いて4回目の実施となり、今回は3年目の安倍首相の「首相としての資質」、ならびに「安倍政権が取り組んでいる政策課題」についての有識者の意見を幅広く集めました。アンケートには303氏の有識者が回答しました。
今回のアンケート結果も踏まえ、言論NPOは明日12月26日、「安倍政権3年実績評価(安倍政権の通信簿)」を公表します。
今回のアンケートは、言論NPOの活動にご参加、ご協力をいただいている各分野の有識者計5291人を対象に、2015年12月15日から12月22日までの期間でメールの送付によって行い、303人から回答を得ました。回答者の属性は、以下の通りとなっています。
回答者の属性
※各属性で示されている数値以外は無回答の割合。この頁以降、数値は小数点第2位を四捨五入しているため、合計が100%とならない場合があります。
1.安倍首相の資質に対する評価
安倍首相の「首相としての資質」8項目への評価は5点満点で平均2.3点。依然として過去の政権よりも高いものの、「国民に対するアピール度、説明能力」「見識、能力や資質」などの評価が昨年より大きく低下しています
安倍首相の「首相としての資質」について、「首相の人柄」、「指導力や政治手腕」、「見識、能力や資質」、「基本的な理念や目標」、「政策の方向性」、「実績」、「チームや体制づくり」、「国民に対するアピール度、説明能力」の8項目で、5点満点での評価を尋ねました。なお、言論NPOは、2006年の第1次安倍政権から7氏の歴代政権で、有識者アンケートを通して「首相の資質」や、「主要な政策」に関する評価を伺っています。
今回の有識者アンケートの結果、安倍氏の「首相の資質」は8項目の平均点で2.3点となり、二年目と一年目での平均点の2.7点、さらに首相就任100日後の3.3点と比べて低下しました。第二次安倍政権以前の6氏の政権がいずれも短命政権だったこともあり、過去と比べることは困難ですが、評価が高い歴代政権の100日時点での評価と比較しても、「首相指導力や政治手腕」「実績」「政権を支えるチームや体制づくり」の3項目は、いずれの政権よりも高い点数となっています。
ただ、安倍政権の昨年の政権2年時点とを比較すると、「国民に対するアピール度、説明能力」が昨年の2.6点から1.9点に、また「首相としての見識、能力や資質」が2.6点から2.2点と大きく低下しています。
2.主要政策への取り組みに対する評価
安倍政権がこの3年に進めた主要政策40項目のうち、「うまく対応できた」「今後も期待できる」が5割を超えたのは「日米同盟」「TPP」「FTA」等の8項目だが、政治改革、財政、社会保障、などの計21項目では、「今後も期待できない」が5割が越えている。
次に、安倍政権が打ち出した主要40項目の政策について、「うまく対応できた」「うまく対応できていないが、今後期待できる」「対応できておらず、今後も期待できない。あるいは、進め方に問題があり、賛同できない」の3つの選択肢から選ぶ形式で、有識者に評価してもらいました。
このうち、「うまく対応できた」「うまく対応できていないが、今後期待できる」の合計が6割を超えたのは、「TPPの合意とその内容(62.7%)」「FTAなど国益にかなう経済連携の戦略的な推進(62.7%)」「緊密な日米同盟の復活(61.4%)」の3項目であり、そのほか、「農協などの改革(58.1%)」、「政策決定における首相のリーダーシップや統率力(52.4%)」、「法人実効税率の20%台への引き下げ(51.2%)」など、5つに政策で半数を越える人が、「うまく対応できた」「今後は期待できる」と判断していることが明らかになりました。
これに対して、「対応できておらず、今後も期待できない。あるいは、進め方に問題があり、賛同できない」が半数を越えているのは21項目にも及び、特に「議員定数の削減(72.3%)」「一票の格差の是正に向けた取り組み(71.0%)」では安倍政権の対応への否定的な見方が7割を超えています。また、「2015年のプライマリー赤字の半減と2020年の黒字化という目標の実現に向けた取り組み(62.4%)」「少子高齢化が進む中、年金・介護・医療など持続可能な社会保障制度の構築に向けた取り組み(62.0%)」「非正規雇用の待遇改善、若者の正規雇用など、今後の日本の労働市場の在り方とその設計(61.7%)」、「福島第一原発の廃炉・汚染水対策を安全・着実に進めるための取り組み(61.4%)」「原子力事故災害の被災者の早期帰還に向けた、除染や中間貯蔵施設の整備などの取り組み(60.4%)」では、6割の有識者が、「今後も期待できない、か賛同できない」と考えていることが、明らかになりました。
3.安倍政権の今後の見通し
安倍政権が2018年以降も続くという見方が強まる
「安倍政権がいつまで続くと思うか」と質問したところ、最も多かった回答は「自民党総裁の任期が切れる2018年9月」の35.6%で、「2018年12月の衆議院の任期まで」が9.9%でした。しかし、「東京五輪開催の2020年夏頃まで」の16.8%、「2020年以降も継続する」の4.3%を合わせると21.1%となり、1年前に言論NPOが行った有識者アンケートで「2018年の衆議院議員の任期満了以降も続く」と答えた人の割合(11.3%)の約2倍となります。1年前に最も多かった回答は、「2018年の衆議院議員の任期満了までは続かない」で39.9%だったことも踏まえて考えると、安倍政権が長期化するという見通しが高まっていることが分かります。
4.安倍政権への支持と、発足当初の期待との比較
安倍政権への支持は39.9%で、昨年から5ポイント持ち直す
発足して約3年が経過した安倍政権を支持するか尋ねたところ、「支持する」が39.9%、「支持しない」が44.9%となっています。「支持する」と答えた人の割合は100日時点での53.1%から1年時点では41.4%、さらに2年時点では34.6%へと大きく低下していましたが、3年目ではやや持ち直しました。一方、「支持しない」という回答は44.9%で、2年目時点での49.8%から減少しました。
安倍政権に「そもそも期待していなかった」が4割を占めるが、「期待以上」は1年前と比較し、増加した
発足時に抱いていた期待と比べて、今の安倍政権をどう思うか尋ねたところ、最も多かった答えは「そもそも期待していなかった」で40.3%を占め、1年時点、2年時点でいずれも34.9%だったのを上回り、最も高い割合となりました。
しかし、これに対して「期待する」見方も増えており、「期待以上」との回答は、18.5%で、2年時点での11%から大きく増えました(100日時点は42.9%、1年時点では20.8%)「期待以下」も17.2%と、2年時点での25.7%から減少しました。
安倍政権に対する否定的な見方は根強いものの、期待が、3年目で回復し始めている、傾向も見られます。
5.安倍政権の中心的な政策課題に対する評価
安倍政権は日本の将来課題に「取り組もうとしている」と過半数が認識
今回のアンケートでは、初めての設問として「安倍政権は、日本の将来のために、直面している課題に真剣に取り組もうとしている政権だと思うか」と尋ねました。その結果、「取り組もうとしていると思う」「どちらかと言えば取り組もうとしていると思う」との回答が合計53.1%と半数を上回りました。
アベノミクスの現状は「成功」「失敗」との見方が拮抗
アベノミクスの現状への評価を尋ねたところ、「成功していると思う」と「どちらかといえば成功していると思う」を合わせた割合は38.0%でしたが、「どちらかと言えば失敗していると思う」「失敗していると思う」の合計も36.0%と、評価は二分していることがわかります。「そもそも、アベノミクスは必要なかった」という回答も約1割ありました。
「アベノミクス第2ステージ」に期待する声は3割にとどまる
一方、安倍首相が9月の自民党総裁再選時に打ち出した、「GDP600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」を柱とする「アベノミクス第2ステージ」については、「期待している」「どちらかといえば期待している」の合計はわずかに29.7%にとどまり、「期待していない」との回答が、「どちらかといえば期待していない」も合わせると57.5%と半数を超えています。
日本の財政再建について「現状の取り組みでは困難」との見方が圧倒的
政府は今年6月、2020年にプライマリーバランスを黒字化することを目標とした財政健全化計画を閣議決定しました。それを受けて、「日本の財政再建は可能だと思うか」と質問したところ、72.6%もの有識者が「現状の取り組みでは困難」と回答しました。2年前の政権発足1年時点での同じ設問と比較すると、「現状の取り組みでは難しいが、まだ間に合うと思う」が35.8%から18.5%に半減する一方、「現状の取り組みでは困難」は2年前の58.6%から大幅に増加しており、財政に対する厳しい見方が一段と強まっています。
2017年4月の消費税引き上げを求める声が6割以上
一方、政府が2017年4月の実施を決定している消費税の10%への引き上げについて、最も多かった回答は「2017年4月には必ず引き上げるべき」の39.3%でと約4割となり、更なる延期を期待する声は、6.9%に過ぎませんでした。「当初の予定通り2015年10月に引き上げるべきだった」も23.8%あります。
「高齢化に伴う課題の解決」への期待度は見方が分かれる
医療や介護など、高齢化社会に伴う新しい課題に対して、安倍政権が「解決に向けた方向性や解決策を打ち出すことに期待しているか」と尋ねました。「期待している」は「どちらかといえば期待してる」を加えて42.5%ありました、「期待していない」も、「どちらかといえば期待していない」を合わせると43.5%あり、有識者の間の意見は二分されています。
「一票の格差」への取り組みに6割弱が否定的
最高裁で「違憲状態」との判断が下された、衆議院選挙の「一票の格差」の問題について、安倍政権が改善に向けて「取り組むと思う」という回答は29.7%にとどまりました。これに対して「取り組まないと思うが」が56.8%と6割近くになりました。
TPPへの日本経済への影響を6割が肯定的に捉える
今年10月に交渉が妥結したTPPの日本経済への影響については、「良い影響を与えると思う」「どちらかといえば良い影響を与えると思う」の回答を合わせた割合が63.1%に上りました。主要政策40項目への評価と合わせ、TPPに対する有識者の肯定的な見方が強いことが裏付けられました。
6.日本政治の現状に対する認識
将来の選択肢や、政治の課題解決力に対する懸念が依然として強い
今の日本の政治の現状をどのように判断しているか、8つの選択肢から2つまで選んでもらったところ、最も多いのは昨年の2年時点に続いて「日本の将来についての選択肢が政党から提起されないまま、ばら撒き政策や官僚たたきに明け暮れ、ポピュリズムが一層強まる時期」で39.6%と4割近くになりました。続いて多いのは、「新しい国や政府、社会にあり方をまだ政治が模索している時期」の33%です。日本の将来に対する変化を感じながらも、政党政治の課題解決の力への不信が依然高いことが浮き彫りになっています。
これに対して、「政府の統治(ガバナンス)が崩れ、政治が財政破綻や社会保障などで課題解決できないまま混迷を深める国家危機の段階」も28.7%と3割近くあります。
100日時点でのアンケートで43.0%と最も多い回答だった「新しい国や政府、社会のあり方を、まだ政治が模索している時期」は、今回、33.0%まで減少しました。