評価の視点
そのような状況の中、第一の評価の軸は大国間関係である。まず、米国はアジア太平洋に軸足を移して、中国の台頭、特に海洋進出に対する警戒を強め、同盟国・友好国との戦略的関係を強化している。その中で各党は日米同盟のあり方についてどのような将来像を描いているのか。普天間基地移設問題への対応なども加味しながらその取り組みを見ていくことにする。
そして、急速に台頭する中国とどう向き合うかは、現在の日本外交の最大の課題といってよい。中国の軍事的台頭は日本の安全保障環境を変容させるとともに、地域の懸念材料ともなっている。同時に、中国経済がアジア太平洋の成長エンジンであることに変わりはないため、中国との共存・共栄も模索しなければならない。そこで、中国との緊張関係をどのように管理しつつ、戦略的互恵関係の具体化をしていくのか、という課題は重要な評価の指標となる。
第二の評価の軸は、地域および多角的な外交の展開である。アジア太平洋地域に台頭する経済・エネルギー・環境・安全保障といった様々な地域枠組みに、日本がどのような戦略をもって臨んでいくのか。どのような国々とパートナーを結びつつ、地域枠組みの構築に主体的に関与し、日本のプレゼンスを向上していくのか。平和維持・平和構築にどのように関与していくのか。こうした秩序構想と戦略的外交の進め方を評価の指標とする。
第三の評価の軸は、緊張を増す我が国の安全保障環境の認識と、これに対応する防衛政策のあり方である。北朝鮮の核・ミサイル開発問題、中国の空海軍力の増強と海洋進出といった問題に対して、どのような防衛力のあり方を構想し、それを実行に移していくのか。また、それは単に強硬的又は融和的態度の提唱に止まらず、日本の目指すべき国際秩序、同盟関係、外交関係、法的基盤のありかた、予算的制約といったなかで、どこまで現実的に追求可能なものなのか。
特に、昨年9月に成立した平和安全法制について、党としてどう考えているのか、これを推進していくのであれば、どのように戦略的に運用して平和の実現につなげていくのか、反対するのであれば、どのような説得的な対案を示しているのか、こういった点について総合的な観点から評価していく。【 評価点数一覧 / 自民党 】
項 目 | ||
形式要件 (40点) |
理念(10点)
|
7
|
目標設定(10点)
|
7
|
|
達成時期(8点)
|
0
|
|
財源(7点)
|
0
|
|
工程・政策手段(5点)
|
1
|
|
合計(40点)
|
15
|
|
実質要件 (60点) |
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
|
13
|
課題解決の妥当性(20点)
|
10
|
|
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
|
13 | |
合計(60点)
|
36
|
|
合 計
|
51
|
【評価結果】自民党 マニフェスト評価 合計 51 点 (形式要件 15 点、実質要件 36 点)
【形式要件についての評価 15 点/40点】
自民党はその政権公約で、外交・安全保障政策に関して、二つの大項目を設けている。まず、一点目の「地球儀を俯瞰した積極的平和外交の展開」という理念を掲げた大項目では、「日米同盟を基軸に、豪州、インド、ASEAN、欧州など普遍的価値を共有する国々との連携を強化」、「戦略的利益を共有する韓国をはじめ、中国、ロシア等の近隣諸国との関係改善」すること、さらに、「北朝鮮の挑発的行為に対して、制裁措置の厳格な実施と更なる検討も含めた対応を行うとともに、米韓との連携強化や国連への主体的な働きかけなど、あらゆる手段を尽くして拉致問題の解決する」ことなどが打ち出されている。
二点目の「揺るぎない防衛体制の確立」では、「北朝鮮や中国の動向を受け、わが国の安全保障環境に地殻変動とも言える変化」が生じているとの認識を示した上で、まず「『不戦の誓い』を将来にわたって守り続け、国民の命や平和な暮らし、領土・領海・領空を断固守り抜くため、関係国との連携強化を含め万全の態勢」を整えるとしている。
そして、「平和安全法制の施行に伴い、あらゆる事態に切れ目のない対応が可能な態勢を構築する」ことや、「新ガイドラインのもと日米同盟を不断に強化し、友好国との戦略的防衛協力を推進するなど、わが国の抑止力の向上に努める」、「日米安保体制の抑止力を維持しつつ、沖縄等の基地負担軽減の実現のため、日米合意に基づく普天間飛行場の一刻も早い返還を期し、名護市辺野古への移設を推進するとともに、米海兵隊のグアム移転など在日米軍再編を着実に進める」、「弾道ミサイル防衛システムの強化や、南西地域への部隊配置等による島嶼防衛の強化など、脅威に対処できる態勢を整備」、「自衛隊の人員・装備の増強など防衛力の質と量を拡充・強化し、統合機動防衛力の構築を目指す」、「新設の防衛装備庁や防衛装備移転三原則のもと、戦略的に研究開発や友好国との防衛装備・技術協力を推進し、技術的優越の確保と防衛生産・技術基盤の維持・強化に努める」、「PKOや海賊対策、後方支援等を通じて、国際社会の平和と安定の確保に積極的に貢献していく」、「尖閣諸島周辺海域での外国公船への対応、遠方離島周辺海
域での外国漁船の不法行為に対する監視・取締体制の強化等、海上保安庁・水産庁の体制を強化」など、網羅的に政策が盛り込まれている。
ただ、具体的なアジェンダが明記されているものも見られるが、全体的には方針提示にとどまっているものが目立つ。達成時期が明示された政策もない。
【実質要件についての評価 36 点/60点】
「評価の視点」で示した課題については、ほぼ網羅的に言及されており、政策としての体系性はあると評価できる。日本を取り巻く安全保障環境の変化に言及しているあたり、正確な課題認識もできていると推察される。そして、個別の政策についても方向性自体は総じて妥当なものである。
特に、アメリカが世界に対する関与から後退傾向を見せ、今年11月に選出される次期大統領の動向次第でそれがさらに加速する可能性がある中で、「日米同盟を基軸」としつつも、それだけに頼らず「豪州、インド、ASEAN、欧州」などと戦略的パートナーシップ関係を多角化していこうとしている姿勢は評価できる。
一方、対中関係については、5月の主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)の首脳宣言で、南シナ海問題に言及したことに対して、中国は議長国の日本を名指しして激しく反発し、さらに翌6月には尖閣諸島周辺の接続水域内に初めて軍艦を航行させるなど、新たな緊張状態が生じている。しかも、日中防衛当局間の海空連絡メカニズムの早期運用に向けた協議は停滞している。こうした中で「関係改善」という方針自体は確かに妥当であるが、中国の現状変更的な行動を抑制し、緊張状態を管理すると同時に、戦略的互恵関係を再構築していくという難しい課題をクリアするために何をしていくのか全く示されていないため、「関係改善」の実現可能性も不透明なものになっている。外交努力により、近隣諸国との関係を改善することは、安全保障環境の向上にも資するため、特に掘り下げた方針を示すべきであろう。
なお、「政策BANK」より前の政策パンフレットの本文中に記載されている具体的な外交政策は、「ロシアとの平和条約締結交渉を本格化」のみである。そのため、選挙後には対ロシア外交に重点的に取り組むと思われる。実際、これまでも安倍首相とプーチン大統領は首脳会談を重ね、特に今年5月の首脳会談では北方領土問題の解決に向け「新たな発想に基づくアプローチ」で交渉を進めることで合意しており、取り組み自体は着実に行われることが予想される
ただ、ロシアには北方領土の択捉、国後両島に計392の軍関連施設を建設するなど、日本をけん制するような動きも見られる。そして、日露の接近にはアメリカや欧州も懸念を示しており、条約締結交渉が順調に進むかは不透明である。
そもそも、これまで「法の支配」など価値を重視した外交を展開してきた日本が、クリミア併合など「力による現状変更」的な動きを見せるロシアと関係を強化していくのであれば、その整合性について説明すべきであるが、それがなされていないのは説明責任上の問題がある。
安全保障政策では、前述のように日米同盟を基軸としつつ、「友好国との戦略的防衛協力を推進」していくことや、「自衛隊の人員・装備の増強など防衛力の質と量を拡充・強化し、統合機動防衛力の構築を目指す」など、アメリカに依存しすぎない防衛力の構想を示しているのは方向性として妥当である。
他方、昨年9月に多大な政治的労力をつぎ込んで成立させた平和安全法制については、「あらゆる事態に切れ目のない対応が可能な態勢を構築する」としているのみであり、これをどのように戦略的に運用し、どのように平和の実現につなげていくのかといった構想は示されていない。さらに、集団的自衛権行使を想定した他国との共同訓練や、南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)における、平和安全法制で可能となった「駆け付け警護」などの新たな任務付与について、政府与党は参院選後に先送りにしている。平和安全法制によって何がどう変わるのか、国民は選挙の際に判断できない状況にあるわけだが、これは説明責任という観点からは問題である。
また、普天間基地移設問題についても、「辺野古阻止」を公約に掲げた翁長雄志氏の県知事就任以降、民意を尊重しながら進めていくことは困難になっている状況である。この問題の膠着はひいては地政学的なリスクにまで発展しかねない危険性もあるが、公約で示された打開策としては、「基地周辺対策を強化し、再編特措法の延長をはじめ、関係自治体に対する特別な配慮・施策を実施」としているのみであり、地域振興策という「飴」で懐柔しようというかつての発想がいまだに見受けられる。中国の台頭をはじめとして世界的なパワーバランスが変化する中、沖縄に米軍基地を置いておくことが、日本の平和環境の維持にどのように寄与するのか、説得力あるロジックを示す必要があるが、それがなされていないのは大きなマイナス要素である。
政策実行体制に関しては、「外交実施体制を欧米主要国並みに整備するなど、わが国の外交力を強化」、さらには、「わが国の安全に関わる対外的な情報収集を専門的に担うため、国家の情報機能と体制を強化」などの方針が見られる。政府与党は、これまでも「国家安全保障局(NSS)」の設置など、体制整備への志向は強く見られたため、今後も外交・安保両面で着実に取り組んでいくものと思われる。
【 評価点数一覧 / 公明党 】
項 目 | ||
形式要件 (40点) |
理念(10点)
|
5
|
目標設定(10点)
|
5 | |
達成時期(8点)
|
0
|
|
財源(7点)
|
0
|
|
工程・政策手段(5点)
|
3
|
|
合計(40点)
|
13
|
|
実質要件 (60点) |
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
|
10
|
課題解決の妥当性(20点)
|
3
|
|
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
|
3 | |
合計(60点)
|
16
|
|
合 計
|
29
|
【評価結果】公明党 マニフェスト評価 合計 29 点 (形式要件 13 点、実質要件 16 点)
【形式要件についての評価 13 点/40点】
公明党の「重点政策」では、外交・安全保障政策に関して、「安定した平和と繁栄の対外関係」という理念を掲げた大項目の下に、「平和安全法制の着実な運用」、「日米関係の強化」、「日中、日韓関係の改善」、「アジア太平洋地域の平和と繁栄の構築」、「北朝鮮問題解決に向けた取り組み」などを打ち出している。
外交関係における手段に関しては、アメリカ、中国、韓国、ASEANのいずれに対しても「人的交流」を重視していることが特徴的である。
【実質要件についての評価 16 点/60点】
「評価の視点」で示したような課題については概ね言及されており、課題の抽出はできている。特に、公明党のこれまでの外交・安全保障政策は二国間関係の強化を主軸とするものであったが、今回の公約では「アジア太平洋地域の平和と繁栄の構築」に見られるように、外交の視座に地域的な広がりが出てきているのは好印象である。
ただ、形式要件で検討した通り、手段として「人的交流の促進」が多用されているなど、政権与党の一翼を担う党にしてはやや小ぶりな政策項目の提示が多い。
また、平和安全法制についての考え方は、「着実な運用に努める」旨の記載にとどまり、連立を組む自民党と同様の問題点がある。また、普天間基地移設問題については言及すらない。
さらに付言すると、公明党の公式ホームページ上の「4つの重点政策」からは外交・安全保障政策は外れており、党として優先順位がどの程度高いのか不明である。
【 評価点数一覧 / 民進党 】
項 目 | ||
形式要件 (40点) |
理念(10点)
|
5
|
目標設定(10点)
|
7 | |
達成時期(8点)
|
0
|
|
財源(7点)
|
0
|
|
工程・政策手段(5点)
|
3 | |
合計(40点)
|
15
|
|
実質要件 (60点) |
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
|
6
|
課題解決の妥当性(20点)
|
5
|
|
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
|
5 | |
合計(60点)
|
16
|
|
合 計
|
31
|
【評価結果】民進党 マニフェスト評価 合計 31 点 (形式要件 15 点、実質要件 16 点)
【形式要件についての評価 15 点/40点】
民進党は「国民との約束」において、外交・安全保障政策に関して、「国を守り、世界に貢献する」と独立した大項目を設け、「国を守り、国際社会の平和と繁栄に貢献します。専守防衛を前提にした自衛力の整備、日米同盟の深化、アジア・太平洋地域との共生を実現します」とその理念を述べている。
そして、その政策目標としては、「尖閣諸島などで武力攻撃に至らないグレーゾーン事態が発生した時に備え、警察・海保と自衛隊が連携して迅速に対応できるよう、領域警備法をつくります」、「米軍に対する自衛隊の後方支援については、日本の「周辺」という概念を維持しながら、公海上における対米支援任務を拡大するなど重要影響事態法を改正し、日米の共同対処能力を高めます」、「沖縄との対話を重ねながら米軍再編に関する日米合意を着実に実施するとともに、日米地位協定の改定を提起し、関係住民の負担軽減に全力をあげます」、「PKO法を改正し、元戦闘員の武装解除・社会復帰や治安部門改革など、国際平和協力業務の幅を広げます」などと書かれている。さらに、「憲法の平和主義を守る」という別の大項目では「安全保障法制を白紙化」するとしている。
政策手段としては、上記のように法制化・法改正に関するものが多い。いずれも達成時期については特段の言及はない。
【実質要件についての評価 16 点/60点】
大国間関係について、日米関係に関しては、「日米同盟の深化」が謳われているが、具体的な深化の方策が明示されているわけではない。焦点となる中国との関係に至っては、「中国」の文字すらない。
さらに、「アジア・太平洋地域との共生」を掲げているため、地域的な広がりを持つ多角的な外交戦略という発想があるのかと思いきや、個別政策を見るとそれに関連するものはない。
他方、平和安全法制に対する態度としては、「白紙化」というように反対する姿勢が明確になっている。ただ「国民との約束」では「昨年成立した安保法制の白紙撤回」と記述しながら、「政策集2016」では「憲法違反など問題のある部分をすべて白紙化」と表現を変えている。前者は全て廃案を目指すとしか読めないが、後者は若干の修正でよいとも解釈でき、一貫性が欠落している。
そして、対案として打ち出されている政策は、領域警備法の制定や重要影響事態法の改正、PKO法の改正である。
この点、個別の論点に対して一定の課題解決の方向を示しているものはある。例えば、領域警備法の制定はグレーゾーン事態への対処のみに焦点を当てた場合、平和安全法制への理論上の対案にはなり得る。
ただ、日本を取り巻く安全保障環境の領域は拡大している。かつて「周辺事態」として想定された朝鮮半島周辺という地理区分にとどまらず、海洋安全保障(東シナ海・南シナ海・インド洋・中東地域)などのように広域空間の戦略的重要性が高まっている。さらに、様々な形態の国際平和協力や共同対処に参画する必要性も増している。
しかし、同党の安全保障政策の基本的な発想は、「国民との約束」の中で示されている「近くは現実的に、遠くは抑制的に」という標語に表れているように、自衛隊の活動範囲に対して再び限定を加えていこうという志向のものである。例えば、重要影響事態法の改正では、従来の「周辺」概念を維持するとしている。すなわち、「評価の視点」で示したような日本を取り巻く安全保障環境の変化に対してどう対応するかという課題に対する全面的な回答にはなっていない。また、「日米同盟の深化」という同党の方針とも整合性を取りにくい。
なお、普天間基地移設問題に関しては、「沖縄との対話を重ねながら米軍再編に関する(名護市辺野古への新基地建設を定めた)日米合意を着実に実施する」としている。移設を推進する立場のようにも読めるが、その一方で民進、共産、社民、生活の野党四党と、市民団体「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」が合意した政策協定である「共通政策」では、「沖縄の民意を無視した辺野古新基地建設の中止」と民進党公約とは異なる表現を使っている。推進なのか中止なのかはっきりせず、曖昧にしているのは説明責任の観点からいっても大きな問題である。
【 評価点数一覧 / おおさか維新の会】
項 目 | ||
形式要件 (40点) |
理念(10点)
|
4
|
目標設定(10点)
|
7
|
|
達成時期(8点)
|
0
|
|
財源(7点)
|
0
|
|
工程・政策手段(5点)
|
3
|
|
合計(40点)
|
14
|
|
実質要件 (60点) |
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
|
8
|
課題解決の妥当性(20点)
|
3
|
|
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
|
2 | |
合計(60点)
|
13
|
|
合 計
|
27
|
【評価結果】おおさか維新の会 マニフェスト評価 合計 27 点 (形式要件 14 点、実質要件 13点)
【形式要件についての評価 14 点/40点】
おおさか維新の会は、その公約において、外交・安全保障政策に関しては、「現実的な外交・安全保障政策」という理念を掲げ、独立した項目を設けている。
そこでは、「日本周辺の安全保障環境が厳しさを増す中、日米のチームワークでの防衛力を強化」、「集団的自衛権行使の要件を厳格化するため、『存立危機事態』の要件に代えて『米軍等防護事態』を規定する」、「自主防衛力を強化」、「国境警備法を制定」、「日中首脳による戦略的互恵関係のための対話」、「日中間の海上連絡メカニズムの構築」、「国際社会の普遍的価値観を中国と共有できるよう、安全保障や経済における多国間協議の枠組み活用」、「米軍普天間飛行場の固定化回避のため、日米で合意可能な基地負担軽減プランを示す」、「国際社会と連携した対北朝鮮政策」などを掲げている。
政策手段としては、上記の「国境警備法」や「基地負担軽減プラン」などがあるが、数値目標や達成時期に関する記述はない。
【実質要件についての評価 13 点/60点】
大国間関係に関して、日米関係については「日米のチームワークでの防衛力を強化」や、「米軍等防護事態を規定」などの表現から判断するに、日米同盟を深化させていこうという志向は感じられる。ただ、いずれも「日本周辺」と限定づけているように日米同盟をアジア太平洋における外交・安全保障上の戦略において、どう位置付けるのか、地理的・分野的な安全保障領域の拡大についてどう対応していくのか、といった発想は見られない。また、基地問題についても、「基地負担軽減プラン」は、その内容がこの公約で示されているわけではないので、現時点でその実効性を判断することはできない。
一方、中国に対しては、戦略的互恵関係に向けた首脳間の対話推進や、海上連絡メカニズムの構築などを政策として挙げており、課題は抽出できているといえる。また、中国と普遍的価値観を共有するため、多国間協議の枠組みを活用しようとしているなど、二国間の狭い視点にとどまっていない点は評価できる。
もっとも、現状の中国は多国間協議に参加してきても、自己主張を繰り返すだけで実効的な対話にならないことが多いし、さらに、アジア信頼醸成措置会議(CICA)や上海協力機構(SCO)など自らがイニシアティブを取りやすい枠組みへの志向を強めている。こうした現状を党としてどう考え、どう打開するつもりなのか明らかになっていない。
平和安全法制については、態度を明確にしていない。「集団的自衛権行使の要件を厳格化するため、『存立危機事態』の要件に代えて『米軍等防護事態』を規定する」などは対案の一環と思われるが、反対した上での対案なのか、賛成した上での補完的提案なのか判然としない。
政策が箇条書きで羅列されておりため、全体的に政策の内容が判然としないものが多く、説明責任の観点からは減点せざるを得ない。
【 評価点数一覧 / 共産党 】
項 目 | ||
形式要件 (40点) |
理念(10点)
|
5
|
目標設定(10点)
|
5
|
|
達成時期(8点)
|
2
|
|
財源(7点)
|
0
|
|
工程・政策手段(5点)
|
3 | |
合計(40点)
|
15
|
|
実質要件 (60点) |
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
|
7
|
課題解決の妥当性(20点)
|
4
|
|
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
|
0 | |
合計(60点)
|
11
|
|
合 計
|
26
|
【評価結果】共産党 マニフェスト評価 合計 26 点 (形式要件 15 点、実質要件 11 点)
【形式要件についての評価 15 点/40点】
日本共産党の「参議院議員選挙政策」における外交・安全保障政策は、「安保法制=戦争法廃止、立憲主義の回復、安倍改憲を許しません」、及び「基地のない平和な沖縄を―米軍新基地建設押しつけを中止します」の2項目である。
前者については、「安保法制の廃止」を掲げた上で、「憲法9条にたった平和の外交戦略」を提唱している。そこでは、北朝鮮と中国の行動を問題視しつつ、それへの対応は外交交渉によるとしている。そして、安保法制に対する「平和的対案」として「北東アジア平和協力構想」を提唱している。
一方、後者の「基地のない平和な沖縄を―米軍新基地建設押しつけを中止します」については、「沖縄県民の民意を無視した辺野古新基地建設を中止」、「普天間基地の無条件撤去」、「米軍に不当な特権を与えている日米地位協定を抜本改正」を政策手段として掲げている。
【実質要件についての評価 11 点/60点】
同党の公約及び野党4党の共通政策では、上記のように安保法制廃止という方針が前面に押し出されている。
ただ、その安保法制に対する「平和的対案」として提示されている「北東アジア平和協力構想」であるが、同党が説明するところによれば、この構想は東南アジア諸国連合(ASEAN)が、「東南アジア友好協力条約(TAC)」という紛争を話し合いで解決する平和の枠組みを構築しており、ここから着想を得て提唱したものだという。これを北東アジアにも広げようというのが同党の方針であるが、実際にはASEAN諸国は南シナ海問題等をめぐり国防力強化を進め、さらに、米国との関係を強化する国や中国の経済的な影響力の中で意思を決められない国もあり、安全保障の具体的な行動では意見をまとめられない状況が存在する。同党の安全保障政策をめぐるモデルをASEANに求めるのは難しいであろう。
個別の政策を見ると、日米関係に関するものとしては、「米軍新基地建設押しつけを中止」と「日米地位協定を抜本改正」との方針は明確であるが、日本の平和を維持していく上で日米安全保障体制をどのように位置付けているのかは明らかにしていない。共産党は「日米安保廃棄」を元々掲げてきたが、今回の公約では「国民連合政府」を提起しており、今回の公約での説明は不十分である。
共産党はアジアの平和は、最終的に個別の軍事同盟によらない集団的な安全保障の体制で構築すると説明している。党が提起する「北東アジア平和協力機構」の土台は米国も参加する(朝鮮半島の)六ヶ国協議を発展させたものであり、日米安保の破棄の前にアジア全体を見据えた集団的な安全保障の枠組みを作ると説明している。こうした基本的な考えは党の安全保障政策の基本とも言えるものであり、公約でも説明すべきものだと考える。
中国に関しては、南シナ海での一方的な現状変更と軍事的緊張を高める行動を問題視するなど、これまでの同党の公約とは異なる現実的な傾向が見られる。ただ、中国が着々と既成事実を積み重ねる中、日米関係の重要性は高まっており、安全保障を「外交交渉による平和的解決」に徹するというのは、現実的な対応とは現時点では判断できない。
また、東シナ海での最近の中国の行動など、中国の台頭に伴い日中関係のあり方がこれほど問われているにもかかわらず、日中関係に関する方針を示していないのは課題抽出として不十分である。
【 評価点数一覧 / 社民党 】
項 目 | ||
形式要件 (40点) |
理念(10点)
|
5
|
目標設定(10点)
|
5
|
|
達成時期(8点)
|
0
|
|
財源(7点)
|
0
|
|
工程・政策手段(5点)
|
3 | |
合計(40点)
|
13
|
|
実質要件 (60点) |
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
|
3
|
課題解決の妥当性(20点)
|
1
|
|
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
|
0 | |
合計(60点)
|
4
|
|
合 計
|
17
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【評価結果】社民党 マニフェスト評価 合計 17 点 (形式要件 13 点、実質要件 4 点)
【形式要件についての評価 13 点/40点】
社民党の公約では、外交・安全保障政策に関して、「平和憲法の理念に沿った「戦争をしない国」をめざします」という独立した大項目が設けられている。
その下に掲げられている個別の政策としては、「集団的自衛権の行使を容認した『7・1閣議決定』を撤回し『戦争法』を廃止」、「平和憲法の理念にもとづく安全保障政策を実現するために『平和創造基本法』を制定」、「自衛隊の活動を『専守防衛』の水準に引き戻す」、「辺野古新基地建設に反対し、普天間飛行場の閉鎖・撤去と、県内への移設の断念を求める」、「在日米軍再編合意については、米国との再交渉を求める」、「将来的に駐沖縄海兵隊の全面撤退を求める」、「日米地位協定全面改正」、「6カ国協議の枠組みを発展させ、北東アジア非核地帯と北東アジア地域の総合安全保障機構の創設」などがある。
政策手段を明示しているのは、上記の「平和創造基本法」の制定などがあるが、達成時期などが明示されている項目はない。
【実質要件についての評価 4 点/60点】
大国間関係に関して、アメリカとの関係については、「将来的に駐沖縄海兵隊の全面撤退を求める」との記載を反対解釈すれば、当面は日米同盟を維持していく姿勢であると考えられる。しかし、北東アジアの厳しい安全保障環境を前提として、日米同盟を地域の安全保障にどのように活用していくのかといった視点は欠落している。また、「将来的に」というのであれば、全面撤退に至るまでの工程を示すべきであろう。
他方、中国に関する言及はない。6か国協議の枠組みを発展させ、北東アジア非核地帯と北東アジア地域の総合安全保障機構の創設を目指すというのであれば、この枠組みに中国をどのように取り込んでいくのか、ということは最大の課題になるはずである。現実には中国は「核兵器は大国としての地位を戦略的に支える」として核戦力の強化を進め、軍事費も増加の一途をたどっているが、その現状を踏まえた上での構想実現に向けたアプローチのアイデアがないため、説得力も皆無となっている。
こうした非軍事的アプローチは全項目にわたって貫かれているが、北東アジアの厳しい安全保障環境を考えると、実現可能性という観点からはかなり見込みの薄い内容が多い。平和安全法制(同党の表現では『戦争法』)に対しては、「廃止」を明言しているが、その対案と思われるものは見当たらない。仮に、同党が以前から提唱している「平和創造基本法」が対案だとしても、その内容は「自衛隊の活動を『専守防衛』の水準に引き戻す」というものであり、現下の安全保障環境が変化する中、これがどのように日本の平和と安定を維持をもたらすのか判然としない。
全体的に、これまでの与党の外交・安全保障政策への単なる批判にとどまっている。これほどドラスティックな改革を行おうとしているのであれば、その実現に向けたプロセスを丁寧に説明すべきであるが、それがないため国民に対する責任という観点からは大きな問題がある。
生活の党と山本太郎となかまたちは、その公約において、外交・安全保障政策に関しては、独立の項目を設けていない。 「日米同盟を基軸に、中国、韓国をはじめ、アジア諸国との連携を強化」という方向性自体は妥当なものである。ただ、記述はこれのみであり、具体的にどう進めていくのかは定かではないため、実質的な評価は不能である。 日本のこころを大切にする党は、その「政策実例」において、外交・安全保障に関する政策としては、「我が党は、外交力及び国防力の強化による確固たる安全保障の構築を目指す。また、北朝鮮による全ての拉致被害者の早期救出を目指す」という理念を掲げた独立した大項目の中を設けている。そこで掲げられている政策目標としては、「個別的・集団的自衛権行使の要件を明確化する安全保障基本法制の整備を注視」、「日米地位協定・ガイドラインの見直し、日米同盟とそれによる抑止力の強化」、「平時の領域警備や武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に関する法整備(領域警備法の制定、自衛隊法・周辺事態法等の改正)」、「我が国の国情に添った防衛力の強化、防衛予算の拡充」などがある。 大国間関係について、まず、アメリカとの関係について「日米同盟とそれによる抑止力の強化」とする方針自体は妥当なものであるが、それを具体化する方策は特に示されていない。それから、「ガイドライン」は昨年18年ぶりに再改定されているが、これがどういった理由で見直しが必要なのかは示されていない。そもそも、北東アジアの安全保障環境の変化に対して、日米同盟を地域の安全保障にどのように活用していくのかといった視点が欠けている。
【 評価点数一覧 / 生活の党と山本太郎となかまたち 】
項 目
形式要件
(40点)
0
実質要件
(60点)
5
0
【評価結果】生活の党と山本太郎となかまたち マニフェスト評価 合計 6点 (形式要件 1 点、実質要件 5 点)
【形式要件についての評価 1 点/40点】
「生活の党と山本太郎となかまたちの考え方」という個所では、「憲法・安全保障・外交」という小項目を設け、「国のテロ対策や安全保障等は、憲法の下で時代に見合った法整備をする」、「日米同盟を基軸に、中国、韓国をはじめ、アジア諸国との連携を強化」、「普天間基地の辺野古移転計画は取り消し」などを打ち出している。
達成時期や工程が示されているものはない。【実質要件についての評価 5 点/60点】
特に、アメリカとの関係について辺野古移設計画の取り消しを掲げておいて、どう信頼を得ながら、連携を強化するのか判然としないし、日米同盟をどのように安全保障のために機能させていくかといった発想も皆無である。
全体として、政策というよりはスローガンの色彩が強い項目ばかりであり、実現に向けた指導性も感じられないし、国民に対する説明という観点からも不十分な内容となっている。
なお、同党も参加する野党四党と、市民団体「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」が合意した政策協定である「共通政策」では、「安保法制の廃止」を打ち出しているが、党としての公約には明確に書かれていない。「野党の協力は進んでいます 国会における野党共同提出法案」という同党のこれまでの取り組みを紹介する箇所には、過去の廃止法案提出が記載されているが、今後の方針が書かれていないのは不可思議であるし、説明責任の点からも問題である。
【 評価点数一覧 / 日本のこころを大切にする党 】
項 目
形式要件
(40点)
3
13
実質要件
(60点)
0
【評価結果】日本のこころを大切にする党 マニフェスト評価 合計17 点 (形式要件13点、実質要件4点)
【形式要件についての評価 13 点/40点】
政策手段としては上記領域警備法の制定、自衛隊法・周辺事態法等の改正などがある。達成時期に関する言及はない。【実質要件についての評価 4 点/60点】
さらに、中国の台頭と日中関係のあり方が、これほど問われているにもかかわらず、対中政策についての言及がないのは、課題抽出としては不十分である。
平和安全法制については、「個別的・集団的自衛権行使の要件を明確化する安全保障基本法制の整備を注視」という記述からは賛成なのか、反対なのかスタンスが判然としない。したがって、「平時の領域警備や武力攻撃に至らないグレーゾーン事態に関する法整備(領域警備法の制定、自衛隊法・周辺事態法等の改正)」というのも、平和安全法制に対して反対した上での対案なのか、賛成した上での補完的提案なのか判然としない。
いずれにせよ北東アジアの厳しい安全保障環境にどのような政策が望ましいのか、北朝鮮の核・ミサイル問題や中国の海洋進出への対応に対して、いかなる防衛力・同盟関係が必要とされるのか、多国間での安全保障関係はどうあるべきか、といった安全保障全体に関わる構想についての記述は見られない。
主要政党のマニフェスト評価
33
30
28
3
9
7
51
21