- 民進党:長妻昭・代表代行
- 自民党:新藤義孝・政務調査会長代理
- 公明党:上田勇・政務調査会長代理
- 共産党:小池晃・書記局長
第一話:今回の選挙で民進党が訴える日本の課題とは
工藤:言論NPOの工藤です。私たちは、今回の選挙は日本の将来を考える選挙だと位置づけています。日本の将来に関して、国民も、言論NPOに参加する多くの知識層も不安を感じています。それは、日本の政治が、日本が直面している将来課題に対して具体的な解決案を提示できず、また、その解決のための競争が始まっていないからです。
今回は、民進党代表代行の長妻昭さんをお呼びしました。長妻さんには、民進党が今回の参院選で何を国民に伝えたいのか、何を実現しようとしているのか、きちんと説明していただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
世界秩序が不安定化する中、日本が主導的な役割を果たしていく
長妻:今日は、民進党の公約にも触れながら説明していきたいと思います。私は今回の公約を作成する委員会の委員長をやっていました。この間、相当時間をかけて、党内外の意見も聞いてつくった自信作だと思っています。
国際社会には、大きな変化が始まっています。世界を取り巻く秩序が不安定になっていく、その方向が加速するということが今の世界の流れであります。イギリスの国民投票が、23日に決着しますが、EU離脱が仮に決定するとしたら、国際社会に計り知れない負のインパクトを与えることになるでしょう。加えて、アメリカの大統領選挙も11月にあり、仮に共和党のトランプさんが就任すると、国際秩序が大きく変わります。アメリカの世界に対するパワーが落ちていて、ISISなどが出て来ることで国際秩序が相当乱れつつあります。また、南シナ海はもとより、東シナ海においても、我が国に対する戦後2度目の領海侵犯が中国軍艦によってなされるなど中国の行動があり、それに対応するようにインドと日本、アメリカの共同訓練が行われています。
したがって、まず安全保障・外交について、それを事前に予防する力をもっと日本は付ける必要があるのではないか、という大きな問題意識があります。ただ、だからといって、我が国の国柄を変えるような集団的自衛権、特に自民党の憲法草案にあるように、9条を変えて制約がないかたちで海外での武力行使が可能になるような方法ではなく、あくまで現行憲法の範囲内で各種の法律を変えて守りを万全にする。そして外交力、特に情報収集力、いわゆるインテリジェンスを高めていく。そういうことも必要です。また、「人的交流に勝る安全保障なし」と考えていて、日中韓の人的交流が足りなさすぎます。もっと若い人たちが交流することによって信頼を醸成していくことが大きな課題になります。
さらに日本の意見を国連などの国際機関を中心に積極的に発信していくことも重要になってくると思います。特に、パナマ文書で象徴されるような税の大きな漏れ、穴が各国の大きな課題となっていますが、OECDにチームがつくられヘッドに日本の財務省の方が就いています。タックスヘイブン課税も日本で始まりましたが、まだまだ不十分だと思っておりますので、こういう世界の流動化、お金の面でも安全保障の面でも、それに対して日本が主導的な役割を果たしていくということも、これからの大きな課題になってくると考えております。
格差が成長の足を引っ張っているからこそ「分配と成長の両立」が必要
国内の問題で我々が重視しているのは、格差がかなり拡大しているのではないかということです。世界で研究が出ていますが、格差が拡大するとテロリスト志願者が増えていく傾向があります。またノーベル経済学者のスティグリッツ教授が来日した際に意見交換しましたが、「格差が成長を損なう」、「分配なくして成長なし」ということが世界の共通認識になりつつあります。つまり、格差が拡大すると成長の足を引っ張る。OECDのレポートでは、具体的に「成長を何%引き下げたか」というものも出ています。これはピケティ教授も指摘されていること、我々も共通認識であります。
その理由はいくつかありますが、富とチャンスが大きく一方に偏ることで個人消費にマイナスになってくる、さらに子どもたちや若者に対する教育訓練が非常に薄くなって、能力のある人の力が十分に発揮できなくなる。これが中長期に、社会や経済にとってマイナスになってくる、ということが指摘されています。
我々も同じ問題意識をもって、安倍総理にも、経済政策の中で格差の問題を十分に取り入れるよう、この3年間言い続けてきました。予算委員会の議事録を見ていただければ分かりますが、「成長か分配か、の二者択一ではない」、「成長と分配、分配なくして成長はない。両方が両立していかないと達成できないのだ」と我々は申し上げてきました。当初、安倍総理は、そうではないような趣旨の発言をされていましたが、最近になって「成長と分配の好循環」という言葉でおっしゃるようになりましたが、これは本物なのかどうか。自民党の中からは「成長なくして分配なし」、つまり成長の果実がなければ分配をしないという声もあります。しかし、今の成長、持続的な社会のネックとなっている大きいものが、分配が不十分で、人への投資が不十分だから中長期に成長できないのが実状です。そこに手当をしないまま「成長したら分配する」ということでは、物事はなかなか進まないと思います。
今年の予算委員会で私も安倍総理に「日本の格差は拡大していますか」という質問をしたところ、「いやいや、基本的には横ばいだ」という認識でした。ただ、いろいろな報道機関の世論調査では、だいたい7割の国民の皆さんが「格差は拡大している」と認識しています。現場を回っても我々はそういう実感を持っています。一億総活躍の政府のペーパーでも、格差という言葉はまったく出てきません、この格差是正に注力することで日本はもっと良くなると我々は考えています。3年間進言をしましたが、言葉では、「同一労働同一賃金」「時間短縮」「給付型奨学金」などという言葉をお使いになっていますが、中身を見ると非常に空疎で、選挙対策用のスローガンとしか思えません。きちんと実行してもらって、その部分の手当を十分に取り組んでいくべきだと思います。
「人から始まる経済再生」「まず3分の2をとらせない」が選挙の争点
今回の我々の公約には、2つの大きなキャッチフレーズがあります。公約の裏表紙に、今回の選挙における2大争点を書かせていただきました。1つは、「人から始まる経済再生」というものです。下の憲法については「まず3分の2をとらせない」というキャッチフレーズのポスターを作りました。この2つが大きな争点です。
「経済と暮らしを立て直す」ということですが、安倍総理は「三本の矢」、金融、財政、そして成長戦略。経済政策は基本的にこの3つなのですが、我々は、本当の経済政策は社会政策であると考えています。その意味で、公約の6ページ目に「民進党の答え」とありますが、「格差が拡大して富とチャンスが偏り、人々の能力の発揮や個人消費が阻まれている。今こそ3年半にわたるこれまでの経済政策を変えるときだ。分配と成長の両立、人への投資、働き方革命、成長戦略」ということが重要だと考えています。統計を取り始めてから、個人消費が2年連続マイナスになったことはリーマンショック時、バブル崩壊の時も含めてありません。実質賃金も、5年連続マイナスになっています。そして、IMFの予想でも、サミット参加国の中で日本だけが、2017年の実質経済成長率がマイナスになっています。そういうことを鑑みて、人への投資、働き方革命、成長戦略を実行すべきである、というのが我々の大きな問題意識です。
その中でも、教育格差の壁が厚く高くなって、子どもたちの能力をつぶしています。これを何とかしなければいけないという問題意識があります。金がなければ適切な教育を受けられない、金がなければ良い教育を受けられないのが当たり前だ、と考える国民の皆さんが、朝日新聞とベネッセが時系列でやっている共同調査でとうとう半分を超えました。世間の意識も相当世知辛くなっています。ただ、能力の発揮のためにお金を投資することは非常にリターンも大きいわけで、ヨーロッパの多くの国が大学・大学院を無償化しているのも、その表れではないでしょうか。日本は、教育にかける自己負担が先進国で最も高い国であります。アメリカよりも高い国です。年収400万円以下のご家庭ですと、4年制大学の進学率が3割、年収1000万円を超えますと、4年制大学の進学率が6割となります。また、県民所得と大学進学率も比例するようになり、出生地で学歴が決まってしまう。この傾向がどんどん顕著になっています。
相対的貧困率も、アメリカに次いで先進国2番目に大きくなりました。子どもの6人に1人が貧困状態です。この貧困状態という言葉の意味ですが、日本における貧困状態というのは、生活保護世帯収入並みということです。収入と学力も相関関係が年々顕著になってきていて、給食代が払えないなど、就学援助を受ける生徒さんも増えています。こうした教育格差をなくしていくことが、相当大きな課題です。OECDの平均からも、日本の公的教育にかける予算はGDP比で最低レベルですから、これをせめて先進国並みに引き上げていく。就学前教育、幼稚園・保育所、義務教育の負担軽減も含め、大幅に改善させていく必要があります。
若者や女性の政治参加を制度的に進め、予算配分のゆがみを防ぐ
私たちは、若い人たちの意見を取り入れていくために、被選挙権年齢を5歳下げようと考えています。ご存知のように、イギリスでは女子大生の下院議員が誕生し、ノルウェーでは現役の高校生の国会議員も誕生しています。国連加盟の約200カ国のうち9割が、既に選挙権は18歳以下ですが、今回の参議院選挙から18歳で投票できることになりました。我々がかねて主張していましたが、遅きに失したという感があります。被選挙権も、我々は20歳を主張していますが、これも多くの国で採用されています。若い人たちの意見がないと、国の予算配分がゆがめられる。おじさんたちばかりが国会議員で、1つの同じような価値観で予算配分や国の運営を進めていくと、大きな誤りを犯してしまう可能性があるのではないかと、強い危機感を持っています。
これに付言しますと女性について、「政治家が男女同数になることを目指します」ということで理念法を国会に出し、もう1本の法律としてクオータ制を担保する法案も出しました。衆議院の比例で、例えば女性が当選したら次は男性、その次は女性、というようなかたちの比例名簿の登載方式を採用可能にする法案も出しました。日本は国会議員の1割が女性です。これも、国連加盟の200カ国中、下から数えた方が早いのが現状です。今の日本の大きな問題を変えるには、若い人の政治参加、政治家としての参加も含め、また女性の政治参加、これを強力に、精神論ではなく制度を担保して進めないといけないという問題意識があります。
そしてもう1つ、「身を切る改革」の中に、「企業・団体献金の禁止を定める法律を成立させる」というものがあります。これは、パーティー券の企業・団体による購入も禁止しています。これについても、献金力のある団体の意向に、日本国の予算配分が左右される恐れがある、という問題意識に基づいて、政治の体質改善、政治と金の問題を変える必要があると考えています。何か裏金がばれてしまうと、「あれは企業献金でした」と収支報告書を修正すれば事足りる風潮。あるいは、企業からどんどん巨額の金が献金されるので、非常に無造作に緩いかたちで政治資金を使ってしまう風潮。それを断ち切るということです。
私の理解では、先進国の中で企業・団体献金の規制が事実上最も緩いのが日本ではないかと思います。大臣がその所管の業界から企業・団体献金をもらえる、パーティー券も買ってもらえるのにおとがめがない。これは官僚がもらったら即、懲戒免職のようなかたちになるのではないかと思いますが、そんな馬鹿なことが続いていいのかという強い問題意識も持っております。
非正規の賃金水準に合わせない形で、同一「価値」労働同一賃金を導入
次の公約が、「働き方革命」ですが、「雇用格差の壁」というものがあります。日本の非正規雇用がとうとう4割を超えるところまで来ました。
この「働き方革命」ですが、かつて経済界が「雇用のポートフォリオ論」ということで、正社員一辺倒では企業が立ち行かなくなる、日本経済のためにも、雇用のポートフォリオつまり非正規雇用を一定程度増やす必要があるのではないか、という議論がありました。そして、景気のいい時には人を雇う、悪くなれば首を切る、そしてコストの安い労働者をたくさんつくれば、価格競争力が強くなって国際競争力も強くなって経済にもプラスになる、という発想で非正規労働を増やしたと我々は理解していますが、結局、元も子もない結果になってしまいました。1つは、稼ぐ力つまり高付加価値を生み出す労働者が非常に減ってしまった。つまり、企業が首をいつでも切れるという発想を持てば、それほど教育訓練にお金をかけることはない。そういう意味では、スキルの高くない労働者が相当増えてしまった。稼ぐ力を測る労働生産性は、1時間当たりでも1人頭の労働者であっても、今や先進国で20位まで下がってしまいました。例えば、ドイツと日本の労働者を比べると、1時間当たりの付加価値を生み出す力が、日本の労働者は40ドル、ドイツの労働者は60ドルでドイツの方が1.5倍高い。つまり、ドイツの労働者が10時間働いて生み出した付加価値と同じ付加価値を今、日本で生み出そうとすると15時間働かないといけない。
また、非正規雇用が増えることでワーキングプアを生み出しました。結婚率も非正規社員は正社員の半分で、今や我が国の男性の5人に1人が一生結婚していません。このままいくと、20年後には3人に1人の男性が一生結婚しないということになってしまいます。
日本は、労使の合意があれば、残業の上限には基本的に法的な規制がありません。我々は、法律で残業の上限を規制していくために、例えば、36協定で締結する特別の事項はなしにするとか、あるいは、ヨーロッパでは導入されているインターバル規制、会社を退社してから翌朝出社するまで11時間空けなければいけない、というものを取り入れる。日本は正社員の長時間労働が先進国でいまだにトップクラスです。これが職場と家庭の両立を阻み、女性の社会進出も阻んでいるという強い問題意識を持っています。ブラック企業で若者がつぶれ、どうして成長ができるのだという意識を持っているところです。
そして、男女格差の壁を打ち破るために男女同一賃金を目指す。これは、正規・非正規の賃金格差を解消する「同一価値労働同一賃金」を導入していこうということです。合理的な理由が賃金差にあるかどうか、企業に立証責任を負わせる。そして、制度を導入するにあたって、一番低いところに賃金を合わせれば、時給換算で確かに同じ賃金だということになります。しかし、低いところに合わせたら意味がないのではないか。カナダにもペイ・イコール法というものがあります。同一労働同一賃金導入時には低いところに合わせるのではなく、制度導入にあたって、非正規労働者の賃金待遇に合わせることがないような対策も導入するようにしています。自民党の公約も拝見しましたが、あれだけ大騒ぎして同一労働同一賃金を入れるということですが、「同一労働同一賃金の実現により、正規・非正規の格差を是正します」と2行ぐらいしか書いていません。本当に選挙後、きちんとした制度設計をする気があるのか、ということも疑問です。
同一「価値」労働といっているのは、同一労働同一賃金だと厳密にいえば同じ仕事というのはない、少ないとも言えるわけで、仕事の価値が同じであれば同じ賃金ということで、これは要素得点法など、ヨーロッパで実行されている仕事を点数化するモデルも参考にして導入する必要があるのではないかと考えています。
そして、公約12ページ「シニア世代の安心を守る」ということです。今、高齢女性の単身世帯では相対的貧困率が45%となり、半分の世帯が貧困状態です。貧困状態というのは、先ほど申し上げましたように、生活保護世帯収入並み以下で暮らしているということです。年金の目減りなどで困窮し、個人消費にもマイナスになっているので手当をしていきます。
消費増税は2年先送りするが、2020年のPB黒字化は堅持する
そして「次世代にツケを回さない」ということです。我々も、消費税は、今の経済状況、あるいは軽減税率の1兆円の穴が開くなどに鑑みて、2年先送りすべきと考えています。ただし2020年度のプライマリーバランス黒字化は国際公約でもあり、実現します。
それから、格差を是正するための税制改革。これは自民党もなかなか言えないことではないかと思います。金融所得が分離課税で20%ということもあり、今、年収が1億円を超えると所得税率が下がっていくという現象が起こります。フランスではもちろん総合課税ですから、そういうことは起こりません。さらに金融所得課税を20%から25%に上げる。これだけで数千億円の財源を生み出す。そして、高所得者の所得制度も累進を強化するということで引き上げていく。そして、将来的には所得課税の控除制度、ある意味では税額控除に向けて歩みを進めるということで、資産課税の累進性の強化、この見直しを進めていく。パナマ文書にありました税逃れの防止にも全力を挙げていきます。
原発については、2030年代ゼロに向け、あらゆる政策資源を投入するということであります。
そして地域経済についての公約ですが、今回のTPP合意には反対するということや、地方が自由に使える財源を確保する、ひも付き補助金ではない財源を確保するということもうたっています。そして、東北の復興、熊本地震災害からの復旧・復興も公約で掲げています。
憲法の範囲内で各種法律を改正し、国の守りをより万全にする
我々は、憲法に違反する安全保障法制は廃止すべきだという立場です。だからといって、現行の自衛隊法などで日本の国の守りが万全だとも思っていません。あくまで憲法の範囲内で各種法律を改正する必要があります。1つは、いわゆるグレーゾーン事態というもので、武装漁民、工作員などの上陸に備えて、警察・海保、いわゆる警察権と自衛隊とが密に連携して迅速に対応できるようにする。今、残念ながらそういう体制になっていません。それから新法として領域警備法をつくる。これは国会に既に提出しました。そしてもう1つ、周辺事態法も不備があり、これも改正する。さらにPKO法、これについても改正するということで、憲法の範囲内で日本の安全を守り、PKOと世界の平和に貢献していくということで取り組みます。
最後に説明したい公約は、先ほどキャッチフレーズと申し上げました「まずは3分の2をとらせない」というものです。自民党の憲法改正草案を拝見しましたが、大変危ういものです。そういう政党が憲法改正をすることを我々は認めることができないと考えています。特に憲法9条については制約のない集団的自衛権を認めています。我が国が、310万人の犠牲と、今のお金に換算して210兆円もの税金を使った70年前の戦争、海外で武力行使をやりすぎたという反省に立って、行き過ぎがないように我が国が攻撃を受けたとき、初めてそこで反撃をするという専守防衛。この70年間、我々が考えてきた理念を一気に変えていくということについて、争点も出さずに「憲法は後で」ということで、3分の2の議席をとったら議論もほとんどなく変えていくという方向になると思っています。
自民党の憲法草案では、憲法97条、基本的人権の尊重という条文を全部削除しています。そして、国民の知る権利、放送局の電波の停波についても、非常に誤解を招くというか、非常に踏み込んだ発言が政府から出ている、これも気になります。あるいは、マスコミを懲らしめるような、自民党からマスコミを委縮させかねない発言も出ています。我々は、「政府批判を忘れた国はいずれ大きな過ちを犯す」と考えていますので、批判のきちんとできる社会は守り抜いていくということです。
LGBT差別解消法などをつくるということで、既に野党とも国会に提出しております。多様な価値観、多様な生き方を認めていく。これが我々民進党の大きな理念の1つです。
以上、日本の課題と、民進党の公約についてお話を申し上げました。どうもありがとうございました。