第二話:公明党の政策は課題解決の手段として妥当なのか
-言論NPO評価委員との対話
工藤:ありがとうございました。こんどはこちらの方から質問をさせてもらいます。言論NPOは、2004年から政府の政策、政党のマニフェストを評価しています。毎年、総理が替わるようではなかなか政策評価ができない、だからこそ、いまの安倍政権については厳しい評価をすることが可能になりました。
評価に先立って先日、私たちは有識者アンケートを行ったのですが、6割以上の有識者は、日本の将来を悲観的に見ています。人口減少や高齢化に対して、既存政党が課題解決の能力を持っていないために、日本の政治はこれから混迷していくのではないかと見ている人も6割近くいました。今回の公約もそうなのですが、課題解決に見合った形になっておらず、有権者にとっては分かりにくいものとなっています。
その視点から、最初の質問をしたいのですが、公明党は政権与党であり、現場感覚があり、現実主義の政党であるとお話がありました。今回の消費税増税の延期に関して、2014年の総選挙で、消費税の次の引き上げも含めた連立政権合意を公明党は自民党と結んだはずです。今回の税率引き上げ延期に伴う影響というのは、財政再建だけでなく、公明党が期待している社会保障の充実についても影響が出るだろうと思います。
そうであるならば、参議院選挙であっても、自民党との連立政権合意をやり直すべきではないでしょうか。21日の日本記者クラブ主催の党首討論会の席上、山口代表が安倍総理に対して、「年金の受給に必要な加入期間を10年に短縮する無年金対策を行うべきだ」と話を向けて、安倍総理が「それは重要だ」と答えていたことに、違和感を持ちました。
連立政権を組んでいる政党が、オープンな場で問いかけるのではなく、消費税延期に伴う影響に対して、財源も含めた取り組みを提示した連立政権合意を結び直すことこそが、筋だと思うのですが、いかがでしょうか。参議院選は中間選挙だから必要ないということなのでしょうか。
次に、公明党のマニフェストについて伺いますが、ほとんどの内容が「めざします」というものでした。全部努力、頑張るから応援してくれと言う構造なのです。2013年の参議院選でも「めざします」と書かれていましたが、当時は、消費など内需を重視しており、「物価上昇を上回る所得の上昇をめざします」と書かれていました。内需型の経済政策を前提としているならば、いまある現象に関して、別の形での意見も言えるように思えます。「めざします」と言うことの公約としての責任が、有権者にとって分かりづらく、腰が引けている感じがします。その点についてお答えいただきたいと思います。
財政の臨界点に備え、2年半の間に健全化の道筋を示す
上田:非常に本質的なお話でございまして、先ほど、消費税を予定通り引き上げるにしても、再延期するにも難しい判断だという話をしましたが、再延期を選択したとき、ご指摘の点が最大の課題だと思っています。もちろん、この消費税の引き上げを未来永劫やりませんということではなく、2年半延期するということですから、その時点で社会保障財源としての消費税率の引き上げによって、財源を確保することは担保しています。
ただし、そこで2つの課題があって、第1に、社会保障に必要な費用は毎年増えます。2年半延期後に10%に引き上げたとしても対応できなくなってしまいます。第2に、2年半の間の財源をどう確保するかという課題があります。基本的には、10%を前提とした正式な決定ではありませんけれども、使い道についてはプログラムをつくりましたが、それに支障が出ることは避けられない部分があると思っています。幸いに、税収が消費税以外でも少し上がってきましたので、当面はそれを活用することも考えられると思っています。そこの部分で優先的にやらなければいけない課題を手当てしていく。優先的にやらなければならない課題の一つが低年金者対策の問題と、子育て支援、保育所と放課後児童クラブの問題と考えております。これがなぜ最優先かと言えば、どちらも経済社会に対するインパクトが大きい課題だと考えているからです。特に低年金者が、生活保護を含む歳出の原因にもなっていると同時に、ここの部分の消費が伸び悩んでいる。高齢世帯ほど、年金受給世帯ほど、消費がその所得によって格差が広がっているという部分があるので、低所得の高齢世帯にきちんと手当をすることによって消費全体を喚起する役割もあるだろうと思います。
今回、平成27年度の補正予算では3万円の給付金を出しました。これについては賛否両論ありました。私は、効果に一定の理解をするものの、どうせやるなら思い切って大胆にやった方がいいと思っておりましたが、この目的の一つは、消費を喚起するということでした。もう1つの課題が、いまや社会問題にもなっている保育所、学童保育の問題だと考えております。労働力不足がかなり深刻になっている。最近、地元の中小企業の経営者の方からお話を聞くと、まず出てくるのが人手不足の話です。「人が足らない」「この時給でパートが集まらない」、最初に聞きます。これが最大のネックになっている。パート、アルバイトではありますが、街の中小企業だけでなく、大企業や工場でも同じ話を聞いています。やはり、女性、高齢者を活用しなければ、労働力不足に適応できないので、女性がもっとフルタイムで仕事ができる環境を整える上でも保育所、学童保育の整備は、非常に重要な課題だと考えております。
労働力不足の問題については、外国人労働者をどうするのかという問題があります。前向きに考えていかなければいけない課題だと考えていますが、コンセンサス作りが難しいのが現状です。
財政の健全化に関しては、現状は持続可能な範囲であると思っておりますが、いずれ臨界点が近付いているなということは感じています。財政健全化の道筋は、今回、延期した2年半の間にはきちんとした責任を持った内容を示さなければならないと考えています。幸い、今のところ、皮肉なことですが、世界全体の経済が良くないこともあって、金利が高くならないし、資金が逃げていかないこともあって国債に人気がある状況なので救われていますが、経済が良くなった時にこそ危機が近づいていくと思います。それまでにちゃんとした道筋をつける必要があると思います。
工藤:今の話は非常に理解できるのですが、伺いたかったのは、連立政権の役割です。公明党は現場感覚があり、課題に関して問題意識を持っていると思います。自民党の公約ですら、消費税の延期に伴う、社会保障の充実に対する安定財源と必要な施策の絞り込みを行うことを公約しています。であれば、参議院選挙においても公明党が率先して、自民党との間で合意をし直して、国民に提示するのが政権与党なのではないでしょうか。
社会保障の優先順位は現時点で決まっていない
上田:やるメニューと削減するメニューの両方はありますが、現時点でそこまでは決めきれていません。
工藤:アベノミクスに関しては、公明党は基本的な方向は正しいので、不足している部分は補強するなど問題を改善していくと主張することは理解できます。しかし、公明党の重点政策を見る人は分かりづらいと感じるのではないかと思います。今回のマニフェストの最初の項目に、「中長期的に実質GDP成長率2%程度、名目GDP3%程度を上回る経済成長の実現をめざします」とありました。過去の公明党のマニフェストではこうした経済目標を見たことがなかったのですが、これは、今月閣議決定した「骨太の方針2016」にある文言が使われている表現です。これはいつまでに実現をするという話なのでしょうか。自民党はかつて、10年間をベースにした平均という形で説明していましたが、物価上昇の目標もうまくいっておらず、公約に出てこなくなりました。
できなかったら、できないなりに国民に説明してほしいのですが、今回、数字をあえてマニフェストに掲げた意味とは何か、しかも達成時期が曖昧で判断できません。「財政健全化目標を堅持します」とも書かれていますが、今回の消費税延期があり、経済成長を目一杯見込んでも、2020年のプライマリーバランスは6兆円くらいの赤字と見込まれています。その状況の中でどう実現するのかということ、社会保障等のプログラムだけは掲げている状況を考えると、「堅持する」だけでは説明にならないと思います。具体的にどう実現すると説明されるべきかと考えますが、いかがでしょうか。
無責任と言われるかも知れないが、現時点で回答するのは困難
上田:一番難しいご質問だと思います。財政健全化の要素として、先程、経済成長と歳出改革と歳入確保を挙げました。今回、言わば、3本の脚の1本である歳入確保の部分が、途中で切られてしまったことになりますので、あと2つで立たせないといけないという非常に難しい問題になります。経済成長をフルにめざすことは当然ですが、歳出削減で一定の財源を確保しなければ成り立たないということは当然のことと思っています。歳入についても、幸いなことに、ここ3年間は所得税や法人税が伸びました。引き続き一定の伸びは期待できるものの、これほど急速な伸びは期待できないと考えております。その意味で、やはり歳出の改革、削減をやらないと、成り立ちませんので、そこは踏み込んだ対応が必要だろうと思っています。
具体的にどこを、となるとすごく難しい問題で、無責任と言われるかもしれませんが、現時点でお答えすることは非常に困難でありますが、これから1つひとつ洗い直しながら、歳出の削減に努めていかなければならないと思っています。
その上で、今回、なぜ重点政策、マニフェストの中に数値目標を入れたのかというご質問ですが、この3年半、内閣・与党としてとにかく経済の再生を最優先しようということで来ました、いわずもがなということもあります。今回は再度、自民党、公明党、政府を含めた共通の最優先の課題であるという位置付けをするために明記したということであります。達成時期はいつなのかということでありますが、基本は政府の方針と一緒です。ただし、足元の情勢と消費税率引き上げの再延期が、不確定の要素としてありましたので、精度を高く年度を特定することは難しいですが、少なくとも物価目標についてはこれから2カ年の間に達成可能だと思うし、成長率も5年以内に達成可能だと考えております。
工藤:人口減少と高齢化のテンポが非常に速まっていると思います。シミュレーション的に見ても、ある程度人口動態の予測ができるのですが、2030年になると、目に見える形で人口が減り、高齢者が増え、労働力人口が減るという状況が見えてきます。東京圏においても高齢化による弊害が顕著に出て、行政対応が追い付いていないという議論もあります。公明党が、安心できる社会を掲げているのであれば、国民の多くが不安を持っていることに対して、どういう社会像をいつまでに作るのかについて、全面的に提示すべきではないかと考えます。政策だけを並べられても、大きな枠組みに対する言及がないことに違和感を持ちます。
もう1つは、外交についてです。公明党は、中国を含めて北東アジアの平和環境を作りたいということですが、最終的にどのように作るかという問題があります。日本と中国の「連絡メカニズム」は既に政府間で合意されたにも関わらず実現できていない。しかも南沙問題を含めて中国の様々な行動があり、そのことについて公明党がどういう認識を持たれているのか。日中関係もまだ良い形になっていないという状況の中で、北東アジアの平和に対する公明党の役割についてどう考えられているか。その点について、メリハリを付けて主張すべきかと思います。
年金、介護の手当が課題であり、最終的には消費税を充てることが必要
上田:人口減少、少子高齢化というのは最大の課題だと思っております。経済に与える影響、社会に与える影響いずれも非常に大きな問題です。人口減少というのは、経済の需要側にも供給側にも大きな影響があるし、財政にも非常に大きな影響があるということで、重要だと考えております。経済に対する影響は様々ありますが、一番重要なのは、社会保障の持続可能性だと思っています。年金制度については、改革を行いました。ある程度の持続可能性はいま、保てていると考えています。その上で、足りない部分が、いわゆる年金の枠組みに入っていない低年金、無年金の人にどういう手当を行うかが重要な課題であります。
もう1つの大きな課題は介護だと思います。介護は、結局のところ、お金が必要です。家庭で介護できないという現在の社会状況においては、公的に関与してもらわなければいけないのでお金が必要になってきます。なるべく効率的にできるよう、様々な方法をとっています。私たちは最終的には消費税の財源を充てることが必要だと思っていますし、それでも足りなってくるだろうと思います。そこの足りない部分は、新たな公共サービスの提供主体を発掘していかなければならないだろうと考えています。もちろんそれだけで足りるわけではありませんが、様々な工夫をしながら、公的部門、相互の助け合い、いわゆる、自助、共助、公助を組み合わせしながら、介護の問題に取り組まなければならないと思います。そして、予算が足りるのかという問題があります。現状では正直言って足りないと思っており、そこの工夫をこれからやっていかなければなりません。そこが財政の最大の課題だと思います。
政府・与党が協力し、中国に「国際法に則った対応」を求めていく
日本と中国の話ですが、外交において、政党は一定の役割を果たすことができるものの、最終的に外交交渉ができるのは政府です。中国との関係において、公明党は政党として中国共産党と長い交流の歴史があり、山口代表も就任前の習近平国家主席と会談し、総理の親書を渡すなどサポートはしてきております。そういったことは、政党の役割として果たしていきたいと考えております。なおかつ、かなり効果が上がった部分であると自負しています。
今の中国の動きに対して、政党として何ができるかというのは、非常に限定されておりますけれども、政府の立場を良くサポートしていくのが最もできることではないかと思います。それで、何をやるの、と質問されるかもしれませんが、今回の重点政策でも、今までは日中関係ではどちらかと言えば、「友好」しか言っていなかったのですが、「中国による海洋進出に対しては国際法に則った対応を求めていく」というくだりも述べさせて頂いており、この問題は、国全体で、政府も与党も協力して取り組んでいかなければいけない課題であると認識を示したということであります。
工藤:先程、将来を見据えた場合、正直なところお金が足りないとおっしゃっていましたが、消費税は10%でも足りないと思っているのですか。
選挙中は言いにくいが、消費税を含めたさらなる税制改革は必要
上田:経済成長も安定してGDP3%成長を達成できる、他の社会保障財源の効率化も可能だ、そうした工夫をした上でも、10%ではカツカツなのではないかと思います。たぶん、どこかの歯車が狂えば足りなくなるのは明らかで、社会保障を理想通りに削減できたためしはありません。やはり、財源の確保をもう一度議論しなければならないし、その際には、選挙期間中には言いにくい話ではありますが、消費税を含めたさらなる税制改革が必要だろうと考えております。
湯元健治(日本総研副理事長):非常に率直なご意見有難うございました。マニフェストを拝見すると、人口減少と少子高齢化問題が一番重要であるとして、その中心的な対策として、アベノミクスの「新第三の矢」の二番、三番の矢、希望出生率1.8、介護離職ゼロをやり遂げていくということだと思いますが、財源の確保がどうしても必要です。トータルで既に当初予算と補正予算に3兆6千億かけていらっしゃると思いますが、これくらいの規模の財源を10年くらいやっていかないと間に合わないのではないかと思います。そうすると、いまの消費税の話とも関わりますが、10%を超える消費税の引き上げというのは、いま選挙中でなかなか言えない話と思いますが、公明党には、いずれかの段階で、自民党に働きかけてコンセンサスを作り上げていく努力をしていただきたいと思っているのですが、そのようなお考えはあるのかということが1つ目の質問です。
次に、希望出生率1.8、介護離職ゼロという政策が与党の公約や成長戦略に書かれていますが、これは、ちょっとやそっとで達成できる目標ではなく、いままでタブー視されてきた政策まで踏み込んでいかないと達成できそうにないと私は思っています。タブーというほどではありませんが、男性の育児休暇取得の比率を男女同じ比率にするために税とか財政のインセンティブを使って制度を行っている国もありますし、非嫡出子も含めて支援していくというような政策は、フランスとスウェーデンでも実行しています。外国人労働者に関しては、保育士、介護士不足の問題は日本人だけでは対応できない状況になっていると思います。いずれもタブー視されている問題ではありますが、そこまで踏み込んで自民党に提案していくという気持ちがあるのか伺いたいと思います。
上田:消費税の問題については、まずは10%、予定されているものが上げられる環境をつくることが当面の最優先だと思っています。将来の社会保障財源の問題として消費税の問題は避けられないという認識を持っています。であるからこそ、私たちは軽減税率を提案させていただいたということをご理解いただきたいと思っています。そこから先は今の段階で勘弁していただきたい。そういうことも想定しなければいけないだろうということも含めた判断であります。
その他、いろいろご質問を頂いたのですが、少子高齢化というのは、いろいろな手を打ってきているのだけれども、もう一つ効かないというところがあります。経済的なインセンティブが必要なのか、社会意識の問題も必要なのか、本当に難しいです。今、出生率が上がった、反転したとは言われていますが、人口構造がシフトしている中で起きている現象なのでトレンドとしては変わっていないと思います。やはり、子どもをつくることが得なのだ、という社会にならなければいけないと思いますので、そういうインセンティブをこれから考えていかなければならないと思います。具体的には非常に難しいです。
小黒一正(法政大学経済学部教授):公明党の政策をいろいろお伺いして、私もマニフェスト、政権公約も拝見した関係で3点ほど質問したいと思います。
1点目なのですが、消費税の延期をされたので、2019年10月に引き上げられることが前提になっているわけですが、もしそこで引き上げられないと11兆円くらいのプライマリー赤字となり、もう少し現実的な経済ケースだと引き上げても11兆円の赤字であり、引き上げないと16兆円の赤字になるというのが、内閣府が出している数字です。
重要なことは国民のコンセンサスを取ると言うことなので、内閣府は最近、1年延長して、2024年までの試算を出しましたけれども、もうちょっと先までの試算を出すように改革していただくこともあるのかと思いますが、この点が公会計の改革との連動で政策の中に入っているかどうかをお伺いしたいと思います。
2点目は、金融政策の限界の部分について、どこまで踏み込んでご発言いただけるかわかりませんが、ざっくりいえば、国債が800兆円あって、日本銀行がネットで80兆円ずつ購入していくと、10年で全ての国債を持ってしまう。始めたのが2013年ですから、2023年、24年前半くらいには限界に達するわけです。すでに、三菱東京UFJ銀行がプライマリーリーダーを返上するような動きが出てきていますけれども、金融政策の方向を、自民党が言いにくいのであれば、公明党のほうからゆるやかに変えていくべきではないでしょうか。
3点目は、「三本の矢」はどちらかというと一時的な需要創出であり、「新三本の矢」は本当にやるべきこと、構造改革だと理解しています。その上で、医療・介護について2015年では大体50兆円ですが、2025年になると厚生労働省の推計では、75兆円に膨らむと、年平均で2.5兆円支出が増加していくということになります。
先ほどおっしゃった地域包括ケアや介護のところで、非常に厳しい状態なのは、地方が消滅するなかで、マネジメントをする必要があるということです。国土交通省の試算だと、2010年から2050年で人口が半減してしまうエリアが6割以上あるという形になっています。年金のほうでも、無年金者の対策も当然あるのですが、どうしても標準モデルをベースに議論をする形になりますから、2025年とか2030年とかもう少し先に、年金をもらっている人の分布がどうなっているか、そういうところも見ていかないと、きめ細かい対策ができないかと思いますが、その辺をどう考えていらっしゃるか伺いたいと思います。
国民に分かりやすい公会計の工夫が必要
上田:公明党は公会計の問題に、以前から非常に問題意識を持っております。国や地方の会計は収入と支出、いわゆる損益計算書だけなのですが、それによってどれだけの資産が形成され、負債を抱えているのか、実態が分からないと適切な財政運営ができないという認識で、企業会計に準じたバランスシートを含めた公会計を導入すべきだと考えてきました。なおかつ、キャッシュフローだけでなく発生主義を取り入れることで、初めて実態が分かるということで推進してきました。財務省でも国のバランスシートを毎年、作成していただいていますが、すごく大きいものなのでなかなか分かりづらい面があります。企業会計が投資家に向けてIRで分かりやすく説明するように、国や地方の公会計も工夫が必要だと思います。それを通じて、ある程度資産が過剰なのではないかということも明らかになってくると思いますし、見えない負債も見えてくる面があるので、財政政策に貢献できるのではないかと思っています。
社会保障全体のあり方は、やらなければいけないことは山ほどあって、お金がないというのが現状です。特に、高齢者の生活の安定はすごく重要な課題ですし、そういった意味での年金と、特にこれから医療・介護もますます需要が増えてきますので、その確保に向けて取り組んでいかなければいけない課題であると認識は持っているのですが、具体的にどうするかというとなかなか難しいところであります。ただ、限られた制約のなかで、効率化を図りながら、ユーザーの視点から最適なものをつくっていけるように努力していきたいと思っております。
金融政策についてのご質問もあったのですが、金融緩和が、効果があったことは間違いありませんし、現在の世界経済の構造を考えたときに、財政・金融がある中で金融政策の効果の方が、インパクトが大きいことは事実なので、金融政策がきわめて重要であることは間違いありません。しかし、今は相当緩和した状況の中にあって、出口はいずれ来るわけです。今、出口の議論をすることは非常にリスクが高すぎることなので、できないと思っておりますけれども、よくシミュレーションはしておかなければいけないと思います。アメリカも出口の議論が進むようで進まない状況の中なので、ここはまさに、金融政策の専門家でないと政策判断はなかなか難しいという感じはしています。ただ、そういった面は日銀や財務省とも意見交換しながら適切に対応できればと思っています。
近藤誠一(元文化庁長官):このマニフェストの6項目は、今の社会の風潮、国民の関心からみればもっともだと思いますし、おっしゃっていることも非常に多角的な政策を目指しているのだと思います。
ただ、この枠から少し出て考えてみると、戦後、日本は、どうしても経済に重点を置いてきて成功した。しかし、バブルがはじけてからかなり状況が変わってきたということですが、デフレマインドを挽回、解決する上で、私のおりましたフランスやデンマークと比べて考えると、公明党が一時期得意であった文化の分野、広い意味での文化、精神生活を活性化させる、物質的な豊かさだけではない豊かさという点でそれがまったく出てこない。今の風潮では、そんなことをやっている時代ではないということかもしれませんが、だからこそ、長期的な目標としてそういうものを入れるということが、政権与党、特に公明党の役割ではないでしょうか。文化庁の京都移転との関係は分かりませんが、それも含めてお聞かせください。
上田:もちろん、文化政策を軽視しているわけではありません。文化関係予算については、本当に重要な文化財や文化の継承については国の責任であるという立場から、予算の拡充をずっと主張してきました。今回も、今日は紹介できなかったのですが、マニフェスト全体の中には文化関係の政策もかなり織り込んでいます。これから日本が成長していくための材料は、もちろん経済・産業もありますが、同時に観光なども重要ですし、その基盤になるのが文化であることは間違いないと思います。今の文化関係予算はあまりにも貧弱といえば貧弱で、しかもこれは何兆円もかかる話ではないので、拡充はしていきたいと思います。
工藤:最後の質問は、憲法の問題です。安倍総理が21日の党首討論会で言っていた今回の議席獲得目標は、自民党と公明党で改選議席のうち61議席を上回ると、ハードルを上げています。ただ、実際には今回の選挙結果によって、自民・公明に野党の改憲勢力を入れて3分の2を達成する可能性がまったくないわけではないと思います。そうなった場合、改憲が具体的な政治日程に上がってくる可能性があるのか、上がってきた場合、公明党はどうするのか、ということを最後にお聞かせください。
具体的な改憲案がない段階で、数字合わせの議論をしても意味がない
上田:もちろん、憲法改正の発議をするには衆参それぞれ3分の2の議席数が必要で、それをクリアできるかどうかに関心が集まっているのは事実です。ただ、「3分の2」には分母と分子があって、分子の2は何を含めて2なのか、というところはまったく無視されている部分があると思います。野党の中にも、憲法改正に非常に熱心なところ、日本のこころを大切にする党などがあります。先日、その党首のお話も伺いましたが、その方たちが間もなく提出すると言っている憲法改正草案は、幅広いコンセンサスが得られるものではないでしょうから、そこまで含め3分の2は単なる数字合わせであって、今の段階では別に憲法改正の案があるわけでもないので、数字合わせを議論してもあまり意味がないのではないでしょうか。
唯一あるのは自民党の草案ですが、ただ、これは草案ですので、どこかに正式に提示されたものではありませんし、私たちも与党として協議を求められているわけではありません。ですから、安倍総理も憲法審査会の設置については「幅広く与野党で合意をして設置されたのだから、そこで議論しようではないか」と言っていて、それはまさに正確なことだと思います。自民党単独で3分の2あるのであれば草案がそのままというのも一つの案だと思いますが、そうでない以上は憲法審査会で議論する問題です。憲法審査会で議論するのは少なくともコンセンサスができているので、そこで議論して結論を得た上で、案がまとまれば発議するという段取りです。最終的には、その上で国民投票があって、国民の半数以上が賛成しなければいけないわけで、それだけのハードルがあることなので、そう簡単に「今回何議席増えたからできる、できない」という議論はあまり意味がないのかなという感じがしています。
工藤:今日は公明党政調会長代理の上田勇さんに来ていただきました。公明党は政権与党の一角であり、日本の課題がかなり大きく深刻化している中で、現実感覚のある公明党の役割をもっと発揮すべきではないか、まだ発揮できていないのではないか、という議論がけっこうあったようにも思います。上田さん、今日はありがとうございました。