- 公明党:上田勇・政務調査会長代理
- 自民党:新藤義孝・政務調査会長代理
- 民進党:長妻昭・代表代行
- 共産党:小池晃・書記局長
第一話:今回の選挙で公明党が訴える日本の課題とは
工藤:言論NPOの工藤です。私たちは、今年の参議院選挙は日本の将来を考える選挙だと考えております。有識者の声を集めながら様々な分野について議論をしてきました。社会保障、人口減少、財政、経済、安全保障等の問題を有権者自らが考えていく。有権者、市民が強くならなければ、日本の政治、民主主義は強くならないという思いでこうした議論を行っています。
今日は、公明党の上田勇政調会長代理に来ていただきました。それでは、上田さん、よろしくお願いします。
上田:今日は、「公明党は日本の課題にどう向き合っているのか」というテーマを頂きました。いま、参議院選挙も行われておりますので、そのテーマに対する答えとして、参議院選挙の公明党の重点政策、マニフェストを中心にご説明させていただければと思います。
マニフェストのタイトルが「希望が、ゆきわたる国へ」ということでありますが、それは、どういう意味を込めて言っているのかご説明したいと思います。
まず、いまの安倍内閣、自公政権が再スタートして3年半になります。この3年半は、一定の国民の皆様方のご支持もいただいてきたのではないかと思いますが、その最大の理由は、政治が安定したことだと思います。そのなかで、経済再生を最優先に取り組んできましたけれども、確実に成果も上がってきているという点にあると考えております。
よく、安倍総理は、様々な数字を出しますけれども、私がその中で特に重要だと考えるのは、雇用です。この間、雇用は110万人増えました。「非正規ばかりではないか」と言われるかもしれませんが、正規も26万人増えました。なおかつ、高齢の方々の雇用も非正規が多いですが確実に増えているという点であります。
もう1点、雇用のことで言えば、新たに卒業する大学生、高校生の就職率が格段に改善したのは紛れもない事実だと思っております。これは経済の政策だけではなく、社会の、人口構造の要因もあるわけですが、私が特に雇用が改善したと実感したのは、4年前に長女が就職活動していた時と、今、長男の就職活動を見ていて、2人の就職活動の環境には雲泥の差があるからです。大学生の人たちに聞いても、実感は相当良くなっていると言えると思います。この雇用の改善が、最大の効果、成果であると思っております。
もう1つはデフレの問題があります。デフレ脱却については、民主党政権ができる前の自公政権の時からデフレを脱却しなければならないと言ってきた。民主党政権でも最大の目標と言われてきましたけれども、なかなか達成できてこなかった。いま、ようやく、出口が見えてきているかなという感じがしてきました。もちろん、足下の消費者物価指数はゼロに近いところが続いていますけれども、その最大の要因は、エネルギー価格が下がってきているということがあります。従来は、エネルギー価格が上がっているにもかかわらず、消費者物価がゼロでしたが、今回は、エネルギー価格が下がっていることを除けば、一定の、1%より若干余るくらいの物価上昇率になっており、デフレ脱却に向けて、エネルギーや資源価格が安定してくれば、一定の出口が見えてきているのではないかなという感じがしております。
アベノミクス失速の要因は、人口減少という構造問題への対応不足
アベノミクスといわれてきた経済政策に対する評価が、今回の参議院選挙の最大の争点だと言われております。アベノミクスが始まった当初、かなりの成果が上がったこともあって、日本の経済もこれで立ち直るのではないかという期待が非常に膨らみましたが、3年半経ってみて、それほどでもないね、期待していたとおりには進んでないねという実感なのではないかと思っております。
ニュースでは、企業の収益が過去最高と言われていたり、様々な良いデータが出てきたりするけれども、自分の身の回りではなかなか実感できないというのが率直な声ではないかと思っております。今回、公明党が掲げる「希望が、ゆきわたる国へ」というのは、せっかく良い流れが出てきたけれども、経済成長の実感をまず、地方へ、そして中小企業へ、家計へと行き渡らせることが重要であるという意味で「ゆきわたる国へ」と掲げさせていただいております。これが、これからの連立政権の最大の目標になると考えております。
アベノミクスが効果を発揮し、期待感は大きく高まったのですけれども、ここにきて失速をしていることは否定できないと思います。「まだ道半ば」という言い方もあり、それも事実なのですが、3年半、本来はもっとうまく行くはずだったのが、期待通りに進んでいない部分があるということも事実だと思います。
私なりに、その要因を考えますと、1つはデフレ状態が余りに長く続いてきたので、企業も消費者も、労働組合もデフレマインドからの脱却が想像以上にかなり厳しいということではないかと思います。企業経営者も消費者も、物価が上がることへの抵抗感がもの凄く強いのです。本当は、少しずつ物価が上がっていくということは、回り回って自分の生活にもプラスになるという意識を持っていただくことが重要なのだろうと思います。
2つ目は、海外要因。中国をはじめとする新興国経済の減速や資源価格の動きも想定とは違う動きをしています。
3つ目、これを私たちは一番重視していることですが、人口減少、少子高齢化といった経済、社会の構造問題が消費や投資、生産など日本経済に与える影響についての認識が不足し、それへの対応が必ずしも十分でなかったと率直に言わざるを得ないと考えています。
そうした構造問題への対応を、いま、安倍政権においても重点に置き、政府・与党として「新三本の矢」の方針を打ち出しました。そして、具体的な施策を「ニッポン一億総活躍プラン」という形で策定いたしました。この中には、たくさんの政策項目が入っているのですが、少子化対策、子育て支援、若者・女性の活躍支援、高齢者介護の拡充などが将来への安心を高めるという意味で、「一億総活躍プラン」の柱でもありますし、同時に、いまアベノミクスがちょっと詰まってしまっているところの通りを良くする意味で必要な政策として打ち出していると受け止めております。
若干、宣伝にもなりますが、こうした政策課題は公明党としてこれまでも国、地方両方において非常に力を入れてきた分野であります。子育て支援や少子化対策については、児童手当も公明党の地方議会から出発し、非常に長年かけて取り組んで来たことでありますし、子供の医療負担軽減であるとか、もうちょっと年齢の上の人に対しては、奨学金制度もこれまでも強力に推進してきた制度でありますし、社会保障全般については私たちが得意としてきた分野であります。また、国、地方それぞれにおいても多くの実績を残してきたと考えております。その意味では公明党がアベノミクスを成功させるかどうか、これから最大の責任を持っているというくらいの自覚を持たなければならないと思っています。
もちろん、金融政策、財政政策は従来の方針が基本的に正しいと考えております。その方針を進めながら、不足している部分は補強し、方向性がちょっと違っていたなというところは修正しながら、従来の方針を進めていくということが、これからの経済政策また国全体の政策としての基本ではないかと考えております。
いま、選挙戦になって、「アベノミクスは失敗したのだ、その方針を撤回しろ」というような野党のご意見もありますが、では、どういうふうに持って行けば良いのかというと、なかなか難しいし、ここまで3年半、一定の成果を上げてきたということは正しく評価してもらわなければいけないと思っております。
そして、もう1つ重要なことは、民主党政権もそうでしたし、その前の自公政権の時もそうでしたが、なにかちょっとうまくいかないと、すぐ方針を変えろと基本計画がぶれる。そうすると、これが最悪なのではないかと思うようになります。ですから、足らざる部分は補い、修正すべき点は正しながら、私は、基本方針は方向性としては適切だと考えておりますので、それを前に進めることが、今は重要だろうと考えております。
「三本の矢」の方針は維持した上で、中小企業や非正規の条件を改善
今回の公明党の重点政策、マニフェストは、六つの章で構成されております。まず、第1章に「景気に力強さを。実感を『地方』『中小企業』『家計』へ」ということで、いま申し上げたように、今回の一番の柱だと思います。第2章以降がその具体的な内容となるのですが、まず第2章で「若者・女性が活躍できる希望社会へ」。第3章が「安心できる社会保障実現へ」ということで、いわば、この3つが今回の「一億総活躍プラン」の内容でもありますし、「新三本の矢」の第二、第三の矢に相当するものであると考えます。そして、第4章が「平成28年熊本地震、東日本大震災からの復興へ」。第5章に「安定した平和と繁栄の対外関係」、外交、安全保障政策であります。第6章が「政治改革と行財政改革」。ということで、基本的にこれまでの公明党のマニフェストと構成は同じものと考えております。
第1章の景気・経済は、これまでの金融政策、財政政策、成長戦略、いわゆる「三本の矢」の基本方針は適切であると評価した上で、対応が不十分だった分野については補強、修正していくのが基本方針であります。内容はたくさん盛り込まれているのですが、いくつか、いま強調している部分だけご紹介させていただきます。一つは、観光などの需要拡大、地方創生で取り組ませていただいておりますし、その中で、公明党として中小企業、小規模事業者をどうやって元気にしていくか。その一つとして我々が問題意識を持ち続けてきたのは、下請け取引の価格や条件を改善しなければならないのではないかということです。大企業は収益が上がってきて内部留保もたまっているが、大企業から仕事を請負う中小事業者の価格、取引条件はまだまだ改善されていない点がある。これは、中小企業庁に働きかけて、中小企業庁が中心となって中小企業団体、業界からのアンケートを行っているなかでも明らかになっています。ここを改善するように促していかなければならない。これは公正取引委員会、中小企業庁、またそれぞれの業界を所管している国土交通省や厚生労働省等にも働きかけながら内閣全体として取り組んでいこうとなっております。
もう1点、日本が人口減少社会に入ってくると、中小企業も海外に目を向けていかなければならない。輸出拡大等、海外展開の支援も重要であるし、そのためには生産性の向上、経営改善といったところでまだまだ中小企業の経営は、社長の直感でやっている部分もあるので、専門的なアドバイスも必要だろうと考えております。
この他に強調しているのが、同一労働同一賃金をどう実現していくかということです。非正規労働者が増えてきているのは労働市場のことを考えれば避けられないことではありますが、問題は、正規と非正規との不当な格差、差別にあります。ここをどうやって埋めていくか、そのことで労働市場全体の改善、所得の向上につながっていくだろうと考えております。
ここは非常に難しいところで、私たちは、労働市場の改革については慎重に進めることが必要だと思っていますが、やらなければいけないという認識ではあります。派遣法の改正であるとか、労働基準法の改正等がありますけれども、様々な条件を付けつつも進めていこうという姿勢で臨ませていただいております。
保育所や学童保育の整備、奨学金制度に力を入れる
次に、第2章、若者・女性の活躍ということでは、おそらく様々なところで、どの党もおっしゃっておられることと思いますが、保育所待機児童解消のための小規模保育や事業所内保育などの多様な保育を含めた受け皿を拡大していこうと、保育人材の確保、それから、地元でいまいろいろ聞くのが、「保育所がかなり増えたのだけれども、小学校1年生になった途端に行く場所がなくなってしまった」ということです。いわゆる学童保育と言われている、放課後児童クラブも拡充すべき、次の段階に来ていると受け止めています。この点は、ある程度お子さんも小学校にあがっているので、保育所の受け皿を拡大することに比べれば、もう少し簡単にできるのではないかと感じていますが、随分遅れを取っていることは事実であります。
2つ目は、奨学金制度です。貧困の連鎖を防ぐという意味では、奨学金制度は非常に重要な役割を担ってくるのではないかと考えます。今まで公明党は奨学金に力を入れて取り組んで参りましたが、新たな問題として返済の問題が出てきています。返済の方法を工夫していかなければいけないし、一定の条件を必要とすると思いますが、給付型の奨学金もぜひ創設したい。
そして、3つ目、公益的なサービス、公共サービスは、国とか地方政府だけで担うのではなく、どうやったら民間の資金や人材を活用できるのか、そういう意味では、多様な公益サービスの担い手を育成する必要があるだろうと考えます。いまはまだ検討段階ではありますけれども、寄付文化を推進するための制度の整備であるとか、前回の国会では、金融機関の休眠預金を活用する方法はないかということも法案を提出させていただいております。
無年金対策、震災復興、外交・安全保障、政治、行財政改革に関する考え
第3章の安心できる社会保障はいろいろと説明が重複するところもあるので省略いたしますが、我々がずっと取り組んできたがん対策、難病対策、アレルギー疾患対策といった個別の政策については引き続き強力に進めていきたいと考えております。それから、無年金者対策ですが、受給資格を25年から10年に短縮していく、あるいは低年金者対策として、年6万円の年金生活支援給付金によって低所得年金者に対する手当が必要だろうと考えております。
第4章の震災復興というのは、言わずもがななのですが、大地震のような震災は人々の生活を根本から破壊してしまいます。国がしっかりと責任を持って対応していかなければ、被災された方は生活を再建できないので、最優先で対応しなければいけないと思っております。もちろん、今後起こり得る地震や水害の被害を防ぐための防災、減災対策にも取り組んでいきたいと考えております。
第5章の外交・安全保障ですが、第一に、我々は、日米同盟の強化が日本外交の基軸であるということを今回、明確に位置付けております。その上で日中関係、日韓関係、アジア外交も重要であります。日中首脳会談がようやく実現することができましたが、これを継続的に行っていく。さらには議会の交流等様々なレベルの交流を盛んにすることが重要であると考えております。
加えて、緊張感が非常に高まっているなかで、いま一番懸念されていることは、突発的な衝突だろうと思います。日中間では、まだ連絡メカニズムがありません。それを早期に運用を開始できるようにしていきたいと考えております。さらに、これからの外交で重要だと考えているのが、経済外交です。TPPはじめ経済連携協定を推進する経済外交を重視したいと考えております。
第6章、政治改革・行財政改革では、政治資金規正法の監督責任の強化を提起していますが、舛添知事の問題が出る前に議論していたので、トーンが違うかもしれません。我々がこれまで重視してきたのは、政治資金規正法は政治資金の使い道を制限するものではありませんが、オープンにすることで有権者に監視してもらう。それを仲介してもらうのがメディアでありシンクタンクであって、オープンにチェックしてもらうためには、政治資金に関して公開する資料は正確で分かりやすいものでなければならない、それに対しては議員本人も含めて責任を持つものでなければならないと、これまで取り組んできました。今回の桝添知事の問題では使途の問題が出ており、この点は、今回の事件を踏まえて、どういう規制のあり方が適切なのか検討していきたいと思っております。
消費税引き上げによって景気・税収の回復を逆戻りさせてはいけない
最後に、政府・与党として消費税率引き上げの再延期を決定いたしました。従来から、さまざまなところで意見を求められたときに、予定通りに引き上げるにしても再延期するにしても、どちらの選択もリスクがある難しい判断であり、最終的には政治判断として責任を持たねばならないと申し上げてきました。安倍総理もいろいろな要素で悩まれた上での決断だったのではないかと思いますが、ここまで経済・財政にいい流れができてきており、これを逆戻りさせることは絶対に避けなければいけないことですので、当面の景気の下支えを優先したという判断は支持したいと思っております。
では、財政はどうするのかというのが、最大の問題になると思います。財政の健全化のためには、歳出の改革と歳入の確保というバランスシート上の問題と、経済成長によって経済のパイを大きくするという3つの要素を同時に達成していかなければ、財政健全化はできない。ところが、この3つが、必ずしも相いれないのが非常に難しいところであると思います。今回の判断の中で、この3か年度で消費税率引き上げ分を除いても税収が13兆円回復しました。これは、経済が一応回復軌道に乗ったことによって財政健全化にも寄与したことを考えれば、当面、財政健全化のためにも経済成長を安定した速度に乗せることがまずは優先だろうということではないかと考えております。
以上、この参議院選挙の重点政策についてご説明いたしました。公明党は、国会議員だけではなく、地方議員が3,000名おります。ほとんどの議会で議員がいるという意味では、地方議会を含めた議員の数ではわが国で最大の政党でもございます。その国会議員と地方議員の間の意思疎通や連携も比較的スムーズにできていると考えており、そういう意味では、私たち公明党はネットワーク政党であるという言い方をしております。こうしたネットワークの力を活かして、国民誰もが希望を実感できる、希望がゆきわたる社会を目指していきたいと考えております。どうかよろしくお願いいたします。