【総合評価】
1年目
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2年目
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3年目
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4年目
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3.0点
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2.9点
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2.8点
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2.8点
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【個別項目の評価】
評価対象の政策 |
2013
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2014
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2015
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2016
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全国学力・学習状況調査を悉皆(しっかい)かつ毎年度継続的に実施し、すべての子供の課題把握、学校の指導改善に生かす。道徳教育は、特別の教科化を踏まえた指導方法の改善や検定教科書の導入などにより、さらなる充実を図る
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4
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4
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3
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2016年度より制度化された小中一貫教育を地域の実情に応じて積極的に推進する
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3
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3
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3
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3
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幼児教育の振興と無償化に取り組む
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2
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2
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2
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2
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給付型奨学金の創設に向けて具体的な検討を進める
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-
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-
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-
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4
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大学入試センター試験に代えて、記述問題などを通じて、より思考力、判断力、表現力を評価できる大学入学希望者学力評価テスト(仮称)を導入する
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-
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3
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3
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大学ビッグバン
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3
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2
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2
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2
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評価の視点 |
【初等中等教育】 【初等中等教育】 【高等教育】 |
【初等中等教育】個別項目の評価結果
全国学力・学習状況調査を悉皆(しっかい)かつ毎年度継続的に実施し、すべての子供の課題把握、学校の指導改善に生かす。道徳教育は、特別の教科化を踏まえた指導方法の改善や検定教科書の導入などにより、さらなる充実を図る |
3点 3年評価:4点 |
【学力テスト】 成果もあるが、指導改善が十分でないなど課題もある10年目を迎えた全国学力・学習状況調査(学力テスト)は4月に全員参加方式により実施された。学力テストは「全ての子供の課題把握、学校・教師の指導改善」を目的としている。 その結果を見ると、平均正答率で、下位自治体と全国平均や上位との差は初回の07年度と比べて縮まっており、全体の学力の底上げには一定の効果があったとみられる。また、多くの自治体の教育振興基本計画にテストの活用が盛り込まれ、経験に基づく指導が中心だった教育現場にデータに基づく教育運営のあり方を示したことはこの10年間の大きな成果といえる。 ただし、生徒の学力の質に着目すると依然として課題があることがわかる。例えば、国語では、与えられた課題を読解しながら、自らの考えを明らかにすることや、根拠を示して文章を記す力に問題があることがわかる。また、算数・数学では、グラフから情報を読み取って記述する力に課題があることがわかる。このことから、知識を活用して課題に対応する類の応用問題に弱いという結果が得られている。これは、以前より指摘されている問題で、その改善がみられない点でもある。 文科省は17年度から、全国学力・学習状況調査の結果を希望する研究者に提供し、教育効果の検証を進めていく方針を打ち出している。これによって、教育効果の有無のみならず、その原因分析を進め、本テストのみならず教育施策に反映することが求められるが、まだ未知数である。 【道徳教育】 教科化に向けた進捗はみられるが、実践の積み重ねが必要なため、現段階での実効性は不明現在「道徳の時間」は教科外に位置付けられており、小学校で18年度、中学校で19年度から「特別の教科 道徳」に移行する。教科書を使って評価する教科となり、文科省の有識者会議「道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議」は15年6月以降、評価方法を議論してきた。そして今年7月、「『特別の教科 道徳』の指導方法・評価等について」の報告書をまとめた。他の児童生徒との比較による相対評価ではなく、いかに成長したかを重視。記述により、良い点や改善すべき点を指摘して成長を促す「個人内評価」を行うことにした。英語や数学など他教科の評定などとは「基本的な性格が異なる」とし、調査書(内申書)には記載せず、入試には使わないことも強調した。 このように教科化に向けて進捗はしていると評価できるが、指導を充実させるためには実践の積み重ねが必要な部分も多い。また、そもそも安倍政権下での道徳教育の教科化は「規範意識を養う」という問題意識から始まったものだが、これがどこまで実現できるのか、現段階では判断できない。 |
2016年度より制度化された小中一貫教育を地域の実情に応じて積極的に推進する 本年度より制度化された小中一貫教育を地域の実情に応じて積極的に推進する |
3点 3年評価:3点 |
「中一ギャップ」の解消や、学力向上への効果が期待される昨年6月、小学校と中学校の9年間の義務教育を一貫して行う小中一貫校を制度化する改正学校教育法が成立した。小中学校と同じく、同法第1条で学校に位置付け、名称は「義務教育学校」とする。そして、これが2016年4月から施行された。 義務教育学校では既存の教員免許や、学習指導要領を活用することになるが、現在「6・3制」となっている小学校と中学校の学年の区切りは、学校が柔軟に決められるようになり、「4・3・2制」や「5・4制」などの多様な区切りも可能になる。具体的には、前期課程(小学校段階)と後期課程(中学校段階)に分けて運営される。また、学校の形態は前期課程と後期課程が同じ校舎にある「施設一体型」、前期課程と後期課程などの校舎が別々の場所にある「施設分離型」の2タイプになるが、いずれにおいても校長は1人となる。 従来の「6・3」制の下で以下のような課題があるとされた。すなわち、中学校に進学した際にいじめや不登校が増える「中1ギャップ」や、子供の発達の早期化で、現状の学年の区切りでは対応できていない点などである。そして、これらの問題に対処し、学力を向上させることを目的に今回の制度化が実施された。 本制度に対する学校の反応は総じて良かった。昨年行われた文科省の実態調査によると、全国1743市区町村1130校の9割が「中一ギャップ」の解消について「成果がある」と答え、学力向上に効果があるとした学校も4割を超えるなど、制度導入による効果が示唆されている。 制度の普及状況は芳しくない。課題もまだまだ多いしかし、制度の普及状況は芳しくない。4月に発表された文部科学省の「小中一貫教育の制度化に伴う導入意向調査」によると、2016年度は2月の時点で全1752市区町村のうち、「小中一貫教育実施」を実施しているのは239市区町村(14%)にとどまっている。現状は、従来の「6・3制」を前提に、教育課程及び制度をそのままにして、小中学校が連携する「小中連携教育のみ実施」が、1193市区町村(68%)で、大半を占め、320市区町村(18%)が「実施なし」と回答している。このことから、新制度が浸透しているとはいえない状況である。 また、制度運営面においても課題がある。例えば、全国一律の教育水準をどう確保するかという問題、転入学生の扱いや、小中両方の免許をもった教員の確保、指導方法などで、本制度運営面において多くの課題がある。そのため、今後の新制度の浸透も未知数な部分がある。 |
幼児教育の振興と無償化に取り組む 幼児教育の振興と無償化に取り組む【出典:2016年参院選公約】 |
2点 3年評価:2点 |
段階的無償化は始まった。しかし、完全無償化への道筋はみえない昨年12月、政府は幼児教育の無償化に向け、子どもが3人以上いる年収約360万円未満の世帯を対象に、第1子の年齢にかかわらず、第3子以降の幼稚園の保育料を全て無料にする方針を決定し、これが2016年度から実施されている。 そして、これまでの自民党の公約では、「全ての子ども」を対象とすることを掲げているため、6月の「ニッポン一億総活躍プラン」、「骨太の方針」においても「財源を確保しながら段階的に進める」旨が明記されている。 背景には、3~5歳の保育料の無償化にかかるコストは7900億円にものぼるが、この財源確保の見通しは全く立っていないことがある。大阪府の大阪市や守口市が先行して完全無償化に踏み出す中、国レベルの動きは鈍く、「希望する全ての子供に幼児教育の機会を保障する」という理念に向かった政策の進捗はみられない状況である。 |
給付型奨学金の創設に向けて具体的な検討を進める 給付型奨学金の創設に向けて具体的な検討を進める 【出典:2016年参院選公約】 |
4点 3年評価:-点 |
「本当に厳しい状況にある子供たち」への支援が一歩前進6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」においては、現在の奨学金制度でも様々な支援措置が講じられているとしつつも、「依然として無利子奨学金を受けられない学生がいる、あるいは、社会に出た後の返還負担に不安を覚え奨学金を受けることを躊躇する学生がいる」という現状を問題視。そこで、「家庭の経済事情に関係なく、希望すれば誰もが大学や専修学校等に進学できる」ようにすることを目的として、無利子奨学金制度などの見直しと同時に、「本当に厳しい状況にある子供たちへの給付型支援の拡充を図る」としている。 そして、政府は12月、大学、短大、高専、専門学校への進学者に対する支援として、2018年度入学者(今の高校2年生)から住民税非課税世帯を対象に、一学年当たり約2万人に対し、月額2万円から4万円の返還不要の給付型奨学金制度を導入すると発表した。私立大の下宿生や児童養護施設出身者ら約2650人については2017年度から先行実施する。受給対象者の決め方は、2万人の枠を全国約5000の高校に割り振り、学習成績や課外活動の成果などに応じて、各高校の判断で選ぶこととしている。文科省は同省が所管する日本学生支援機構に専用の基金を設け、2017年度予算案に70億円を計上している。最終的な予算規模は約210億円となる見込みである。財源については、給付型奨学金の創設で重複する生活支援制度などの廃止・縮小を検討するなど、「政府予算全体の中で捻出する」としている。 今回発表された制度では、給付額や対象人数はかなり限定されている。しかし、これまで日本学生支援機構の奨学金は返済が必要な「貸与型」だけだったため、「本当に厳しい状況」の下で進学を希望する生徒に対する支援という点では一歩前進したと評価できる。 |
大学入試センター試験に代えて、記述問題などを通じて、より思考力、判断力、表現力を評価できる大学入学希望者学力評価テスト(仮称)を導入する 大学入試センター試験に代えて、記述式問題などを通じて、より思考力・判断力・表現力を評価できる「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を導入する |
3点 3年評価:3点 |
「高大接続システム改革」にむけた最終報告がまとまる文部科学省の専門家会議である「高大接続システム改革会議」は3月、「最終報告」をまとめた。 「最終報告」ではその冒頭で、グローバル化や産業構造や就業構造の転換、国内の生産年齢人口の急減などを背景として、「新たな時代に向けて国内外に大きな社会変動が起こっている」との現状認識を示した上で、そうした「先行きの不透明な時代であるからこそ、多様な人々と協力しながら主体性を持って人生を切り開いていく力が重要になる。また、知識の量だけでなく、混とんとした状況の中に問題を発見し、答えを生み出し、新たな価値を創造していくための資質や能力が重要になる」と述べている。そして、その際身に付けるべき力として特に重視すべきは、「(1)十分な知識・技能、(2)それらを基盤にして答えが一つに定まらない問題に自ら解を見いだしていく思考力・判断力・表現力等の能力、(3)これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の3点であり、これを「学力の3要素」と呼んでいる。 しかし、現状の「高校教育」、「大学教育」、「大学入試」においては、その「『学力の3要素』を踏まえた指導が十分浸透していない」ため、高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革を「高大接続システム改革」と位置付け、一貫した理念の下、これを推進する必要があると強調している。 「高等学校基礎学力テスト(仮称)」に向けた検討開始。しかし、実効性は未知数高校教育については、①育成すべき資質・能力を踏まえた教科・科目等の「教育課程の見直し」、②アクティブ・ラーニングの視点からの「学習・指導方法の改善」と教員の養成・採用・研修の改善を通じた「教員の指導力の向上」、③学習評価の在り方の見直しや指導要録の改善などの「多面的な評価の推進」――に取り組むとしている。そして、そうした多様な学習成果を測定するツールの一つとして、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」を導入するとし、2019年度~22年度の試行期間では大学入試や就職活動に活用せず、本来の目的である学習改善に用いながらその定着を図るとしている。 進捗として、まず①について8月に「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」を取りまとめ、年内に答申予定である。そして、2017年度に高等学校学習指導要領を改訂する予定となっている。②については、臨時国会において、教育公務員特例法、教育職員免許法、教員センター法改正を行った。そして、③については「高大接続改革チーム」の下に、「検討・準備グループ」を設置し、出題内容・範囲、プレテスト内容、正式実施までのスケジュールなど「新テストの実施方針」の検討を進めている。このため、概ね進捗はしていると評価できる。 一方で、文科省のグループが8月に出した「高大接続改革の進捗状況について」においても言及されている通り、「基礎テスト」が高校現場で有効に活用されるものとなるためには、「問題の質や実施の安定性・継続性の確保が重要」であり、現時点では未知数のところが多い。しかしながら、高大接続問題が、その名の通り、高校卒業生が大学入学にふさわしい学力を身につけ、適正なその学力が確認された上で、入学許可されることが目的である。この高等学校基礎学力テストと大学入試制度とどのように連動させるのかは、現段階では何も決まっていない。 「三ポリシー」改革も進捗しているが、効果は不透明大学教育については、「最終報告」では、「卒業認定・学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー)、「教育課程編成・実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)、「入学者受入れの方針」(アドミッション・ポリシー)の「三つの方針」改革が求められている。そして、この「三つの方針」に基づいて現在、各大学における教育の質的転換が進められている。 もっとも、これら三ポリシーは、大学設置基準で長らく設けられているものであり、名目上、設置認可を受けた大学は三ポリシーを機能させていることになっているもので、大学として最低限備えていなければならないものであるその改革が、今さら求められているとすれば、最低限の機能を果たせていなかったと言われているに等しい。その意味で、大学のみならず、設置認可から認証評価まで、大学行政の責任が問われるような施策である。なお、文科省の調査によれば、2014年度時点でディプロマ・ポリシーについては 725 大学(98%)、カリキュラム・ポリシーについては 723 大学(98%)、アドミッション・ポリシーについては 737大学(100%)において策定済みとなっている。中央教育審議会大学分科会大学教育部会は、「近年多くの大学で三つのポリシーが策定されるようになっているが、その内容については、抽象的で形式的な記述にとどまるもの、相互の関連性が意識されていないものも多い」として、「最終報告」と同日に三ポリシーの策定及び運用に関するガイドライン案を出しているが、内容は細かな手法やツールの列挙などのマニュアルとなっている。大学は、文科省が出すこの種のガイドラインについて、形を整えて辻褄は合わせるが、実際には内実が伴わないことが多い。果たして、この指導がどのような効果を導き出すものなのか、よくわからない。 なお、三ポリシー改革が、高大接続問題や入試改革の課題から提示されているのであれば、適正な学力をもった入学生の入学許可という問題にこの改革がどう寄与するのかが問われることになる。そもそも、高大接続問題は、18歳人口の減少に伴う学生獲得競争や定員割によって、学力が伴わなくとも入学許可をして定員を満たそうとする大学経営側の問題に起因するところが大きい。適正な入試を行っていない大学へのペナルティやそもそも過剰な大学数の整理をするなどの対策を打たないと高大接続問題は解決しないのではないか。その意味で、三ポリシー改革が高大接続問題に寄与する可能性は低いといわざるを得ない。 最終報告でも曖昧なままである「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」大学入学者選抜改革については、大学入試センター試験に代わり、2020年度から新たに新共通テスト「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」が導入される。 従来のセンター試験ではマークシートでの選択回答方式のみであったのが、新テストでは、受験者の思考力や表現力といったマークシートだけでは判断し切れない能力を評価することを狙いとして、国語と数学に記述式問題が追加される方針である。英語については、現行センター試験の「読む」「聞く」と、認定した民間の資格・検定試験による「話す」「書く」の成績を組み合わせ、4技能を評価する。大規模試験ではできない民間のノウハウを生かし、将来は民間に一本化する。 文科省は、今年4月に「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」検討・準備グループを設置し、出題内容・範囲、プレテスト内容など新テストの実施方針の検討を開始している。今後の具体的な工程としては、2017年度に新テストのプレテストを実施し、そこでの成果や課題を把握・分析した上で、2018年度にかけて「実施大綱」の策定・公表、2019年度に1~5万人規模で最終的な検証をし、2020年の導入につなげるとしている。 一方で、「最終報告」では、それまで検討されていた年複数回実施については高校の授業、行事日程への影響を考慮し、見送られた。コンピューターを利用して実施するCBT試験については、次期学習指導要領が適用される2024年度以降の課題として積み残され、難易度設定や出題範囲、採点方法や体制についても「検討課題」とするなど、「最終報告」なのに先送りが多く、曖昧な内容になっている。 この点、特に大きな課題となっていたのが採点であるが、文科省は10月、現行のセンター試験と同じ1月に新テストを実施し、その採点を受験生が出願した各大学に依頼する方針を固めた。しかし、「高大接続システム改革会議」で示された試算によれば、最大53万人の採点に対し、実働800人の採点者を確保しても、数式などを記述させる問題3題プラス短文記述2題(40字・80字)を出題する場合には20日程度かかる見込みであるという。そのため、特に教員が少ない大学には採点作業の負担が大きい。しかも、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」が始まる2020年度から、国立大学の2次試験などで国語を中心に全受験生に高度な長文記述式問題を課す方針であるため、さらに大学の負担は大きくなると思われる。文科省は2017年度初めに具体的な実施方針を公表する予定だが、大学の負担軽減や採点基準の明確化など条件整備が求められる。 改革によって本当に「学力の3要素」を身に付けた子供が育つのかは現段階では判断できない全体的に進捗がみられるものの、残された課題は多い。そして、2020年に新たなテストを実施し、それを受けた子供たちが大学で学んだ結果、本当に冒頭で示したような「学力の3要素」を身に付けているかどうかは現段階では判断できない。 |
大学ビッグバン 高等教育政策・大学政策を積極的に推進する(大学ビッグバン) |
2点 3年評価:2点 |
「指定国立大学」、「卓越大学院」が法制化昨年6月に発表された2015年版の日本再興戦略では、世界トップレベルの大学を排出することを目的に、国際水準を見据えた大学制度の改革を挙げていた。その手段として、高い経営力と自由度を有し、国内外の様々なリソースを呼び込むことによりグローバル競争力を高めることを目的とした「特定研究大学」、異分野の一体的教育や我が国が強い分野の最先端の教育を可能とする「卓越大学院」の両制度を創設することが打ち出された。 そして、「特定研究大学」については、今年1月の「特定研究大学(仮称)制度検討のための有識者会議」の「まとめ」を受けて、5月に国立大学法人法の改正が行われ、新たに「指定国立大学法人制度」が導入されることになった。来年夏頃から指定が始まる予定である。 改正法によって指定国立大学法人に付与された特例としては、役職員の報酬・給与の基準を緩和し、これまでより高い額を支払って優秀な人材を確保できるようにしたり、法人が直接出資し、研究成果を活用する子会社を設立したりすることも可能になることが挙げられる。 「卓越大学院」については、4月に「卓越大学院(仮称)検討のための有識者会議」が「基本的な考え方について」を出した。その中で、「卓越大学院(仮称)」は、「国が事前に枠組みや必須条件を詳細に決めて、その要件を満たすようにして申請するという性格の事業ではなく、各大学院が独自にその構想を練り上げることを重視する性格の事業である」としているように、構想には時間がかかるため、文部科学省は、平成30年度(2018年)から事業支援を本格実施する方向である。 成果が出るかは各大学・大学院の自助努力次第。既存の制度との関係性も不明このように新たな取り組みは進捗している。ただ、両制度に共通していえることは、成果を挙げられるか否かは「各大学・大学院の自助努力次第」ということであり、政府が強力なリーダーシップを発揮して、「世界トップレベルの大学」をつくっていこうという姿勢はみられない。 そもそも、いずれの制度についても、既に施行されているリーディング大学院制度や研究型大学(22大学が指定)との関係が不明確で、屋上屋を重ねているようにみえる。また、このところ2014年の「スーパーグローバル大学創成支援」などのように、「世界水準、世界レベル」というスローガンを掲げる制度が乱立しており、国民からみると何が「世界トップレベルの大学」を生み出すための改革なのか、非常にわかりにくい状態である。 大学の研究力が低下する中、施策の見直しが不可欠。そもそも目標設定にも課題があるまた、大学の研究力を示す指標として、「科学技術指標2016」の「引用回数トップ10%論文数」をみると、2002-2004年平均が世界で4位だったにもかかわらず、2012-2014年平均は10位に落ちているなど、日本の大学の国際的な評価は低下しつつある。この10年、競争的資金として研究補助金は増加の一途を辿ったにもかかわらず、研究業績は低下傾向を示し続けている。その原因分析や改善策を明らかにせずに、類似の施策を講じながら、世界トップレベルの大学を目指すという目標を掲げていること自体、疑問が持たれる。 その目標設定に着目すると、課題があることがわかる。日本再興戦略では、大学改革に関する成果目標として、様々なKPI(重要業績評価指標)を出しているが、2013年以降掲げ続けているものとして「今後 10 年間で世界大学ランキングトップ 100 に 10 校以上入る」がある。これまでの成果の中では、イギリスのTimes Higher Education 誌の"World University Ranking"を挙げているが、同ランキングで最もウエイトが重いのは、学者間で行われるアンケート調査による評判指標であり、先の施策を投じても評判が上がるわけではない。実際、スーパーグローバル大学創成支援を開始した翌年のランキングでは、東大、阪大などがランキングを大きく落としている。掲げた施策が目標達成手段として妥当でないだけでなく、目標からランキングを下げているのだから、施策に投じた公的資金の正当性さえも問われてしまう。また、そもそもTimes Higher Education 誌のランキングは、英語圏の大学に有利にできており、日本の大学が強みとするイノベーション力にかかる視点が希薄であることから、真にこれを目標として掲げること自体、妥当であるのかも再検討する必要があるだろう。 不明瞭な運営費交付金改革。一方で、大学側も自助努力すべき大学改革に関するKPIとしては、2016年版の日本再興戦略では、大学の機能強化の取り組み加速の方策として、「国立大学法人の第3期中期目標期間(平成28年度~33年度)を通じて、各大学の機能強化のための戦略的な改革の取組への配分及びその影響を受ける運営費交付金等の額の割合を4割程度とすることを目指す」という指標を新たに設定している。改革を促すために、運営費交付金における改革費用の比率を引き上げるというものだが、2013年の「国立大学改革プラン」の「3割~4割」から、若干引き上げられたことになる。 国立大学を三つの類型、「地域貢献型」(55大学)、「全国的な教育研究型」(15大学)、「世界で卓越した教育研究型」(16大学)に区分した上で、その取り組み状況について区分ごとのKPIに基づいた評価を行い、運営費交付金のメリハリある配分を行うことになるが、その評価および配分の方法は未知である。そもそも、国立大学法人法の施行とともに実施されてきた国立大学法人評価と先の三類型の評価の関係が明らかにされていない。国立大学法人評価制度も、その結果に応じて運営費交付金の配分額を変えることになっているが、その配分率は明らかにされないままに評価が実施されている。 また、国立大学協会や関係者は、運営費交付金が毎年1%減額されてきたことが、大学運営や教育・研究成果の低迷の理由として挙げている。しかし、授業料の引き上げなど収入源の開拓や改善などに着手する大学は非常に限られている。自己収入増強のための規制緩和や税制優遇が施されているが、それを活用できている国立大学は少ない。運営費交付金の減額を言い訳にしているが、自助努力の不足にも目を向けるべきである。 なお、国立大学のもう一方の収入の柱となる競争的研究費については、文部科学省及び内閣府に加え、「関係府省においても、競争的研究費の間接経費等を必要な審査の上、最大 30%まで認める措置を本年度から試行的に実施する」ことが明記された。しかしながら、科学研究費や厚生労働科学研究費補助金などについては、既に間接経費30%の計上がなされていることから、既存の制度と何が異なるのかよくわからない。 人文社会学系の定員削減が続く。しかし、なぜ削減すべきなのか、そして、それがなぜ大学ビックバンが目指す目標に寄与するのか、明らかではない 一方、昨年6月に下村前文部科学大臣より発表された、教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院について、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることを求める「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」という通知については、その影響が広がっている。例えば、2017年度入試では、茨城大学、横浜国立大学、新潟大学、熊本大学、鹿児島大学、琉球大学の6大学で教育学部総合科学課程が廃止される。一部の大学では教員養成課程の入学定員を増員するが、新設または他学部へ定員を振り替える大学もあり、教育学部の定員は縮小傾向にある。教育養成系学部の縮小策については、学部卒業生の5割以上が教職に就いていないなど、以前より本政策が問題視されたことを反映している。その意味で、教育養成系大学にかかる先の施策は妥当だと言えるが、遅すぎた感がある。 また、文科省が集計した2017年度の全国立大学の入学定員(予定)によると、人文社会系学部の定員は前年度より計1064人減少している。ただし、単なる配置替えによる数字のトリックなのか、真に減少しているのかはよくわからない。なお、人文社会学系の人員削減については、社会科学系の教員からは批判が出ているが、政府からの圧力というよりも、大学側で過剰反応したという意見もある。他方で、なぜ、人文社会学系を縮小すべきなのか、その理由や根拠が明らかではない。それが、イノベーション力の創出や人材育成という大学ビックバンが目指すところの目標になぜ寄与するのか、その理由もよくわからないのである。 大学を取り巻く環境が大きく変容する中、「改革」の名に値しない改革では、課題解決できない日本再興戦略では、大学改革(大学ビックバン)を成長戦略の達成手段として位置づけ、主として国立大学に焦点をあてている。しかし、そもそも定員割大学の増加、少子化が進んでいるにもかかわらず、公立大学と国立大学が各都道府県に併設されていること、そして、学生や卒業生の学力低下、企業や地域に求められる人材輩出が叶っていないなど、大学のあり方そのものが問われている。だが、現行の政策は「大学改革」という言葉は使われているものの、部分・細事を対象に補助金を支給するものが目立ち、これでは先の問題解決からは程遠い。研究のみならず、人材育成という視点から、大学の役割を見直し、国公私立大学全体全体を視野に入れて、必要な役割、適正な規模や数を念頭に入れた抜本的な改革が求められる。 |
各分野の点数一覧
経済再生
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財政再建
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社会保障
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外交・安保
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エネルギー・環境
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地方再生
|
復興・防災
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教育
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農林水産
|
政治・行政・公務員改革
|
憲法改正 |
評価基準について
実績評価は以下の基準で行いました。
・すでに断念したが、国民に理由を説明している
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1点 |
・目標達成は困難な状況
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2点 |
・目標を達成できるか現時点では判断できない
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3点 |
・実現はしていないが、目標達成の方向
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4点 |
・4年間で実現した
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5点 |
※ただし、国民への説明がなされていない場合は-1点となる
新しい課題について
3点
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新しい課題に対する政策を打ち出し、その新しい政策が日本が直面する課題に見合っているものであり、かつ、目的や目標、政策手段が整理されているもの。または、政策体系が揃っていなくても今後、政策体系を確定するためのプロセスが描かれているもの。これらについて説明がなされているもの |