―安倍政権4年9カ月の「首相としての資質」は5点満点で2.6点、「主要政策課題37項目の実績」は5点満点で平均2.40点といずれも前回調査から後退。野党の再編の動きや日本の政党政治の今後にも厳しい指摘-
総選挙は、安倍政権の継続や政権選択が争点とされているが、17日までに言論NPO(工藤泰志代表)が行った、有識者、専門家対象のアンケート(333氏が回答)では、安倍首相の「首相としての資質」への評価は5点満点で2.6点とまだ高い水準は維持していますが、全ての項目で前回調査を下回り、特に(国民に対する)「説明能力等」は2.2点(昨年2.7点)、首相の「人柄」は2.4点(3点)と大幅に下がっています。
さらに37の主要政策項目に対する安倍政権4年9カ月時点での実績評価は、5点満点の平均2.4点で、昨年の2.59点から後退しました。
また今回の衆議院選挙に関しては、「納得していない」との回答が7割を超え、今回の選挙の意味に対して、安倍政権継続への信を問う選挙との回答は4割を超えましたが、約3割が「何の信を問う選挙か、分からない」と答えています。
候補者が明らかにすべき課題では約7割が、「急増する社会保障を賄う財源」と回答
今回の選挙で見られた野党の再編などの動きにも厳しい指摘が多く、「現時点では選挙に当選することが目的の離合集散」(22.5%)、「あくまでも永田町の政治家だけの論理で動いており、国民を意識したものではなく支持できない」(19.5%)「日本が直面する課題を軸にした動きではなく、野合に過ぎない」(15.3%)という厳しい見方が上位を占め、「自公政権に対する野党の基盤ができた」と期待する人はわずかに5.4%に過ぎませんでした。
また各政党マニフェストが曖昧な中で、候補者自身が明らかにすべき課題では、7割近い有識者・専門家は「これから急増する社会保障経費をどの財源で賄うのか」を選びました。
今回の調査は言論NPOが、2004年から定期的に行っている政権実績評価の一環として実施したもので、今回の選挙が安倍政権の4年9カ月時となりますので、この時点での有識者、専門家側の評価となります。2013年4月の政権発足100日時点、13年12月の政権1年時点、14年12月の政権2年時点、15年12月の政権3年時点、16年12月の政権4年時点に続く6回目の実施となります。言論NPOの様々な活動に参加、協力していただいている有識者、専門家を対象に行っているもので、今回は企業経営者や幹部、学者・研究者、メディア幹部等、NPOなどの団体幹部など333氏が回答しました。
【衆議院解散にと今回の選挙について】
今回の衆議院解散に納得していないとの回答が7割を超える
安倍首相は、2019年10月に予定している消費増税2%の使い道を見直すことを理由に、9月28日に衆議院を解散しました。この解散について納得しているかどうかを尋ねたところ、「納得していない」(「どちらかといえば」を含む)との回答が70.3%と7割を超え、「納得している」(「どちらかといえば」を含む)との回答の21.7%を大きく上回りました。
安倍政権・与党を信任するかどうかの選挙との回答が5割を超える
今回の解散総選挙は何のための選挙か、を尋ねたところ、4割を超える人が「安倍政権が継続するかどうかの選挙」(42.9%)と回答し、「安倍政権を支える自民党・公明党を支持するかどうかの選挙」(11.4%)が続きました。
これに対して、「何の信を問うための選挙かわらかない」との回答が28.5%と3割近く存在しています。
「安倍首相が解散理由に挙げたように消費税の使途の変更に賛成するかどうかの選挙」との回答は0.3%に過ぎません。
野党の再編について、「離合集散」「永田町の論理」と厳しい回答が上位を占める
今回の衆議院解散を前後して、野党の再編の動きがありましたが、こうした政党の動きに対しては厳しい見方が上位を占めています。「現時点では、選挙に当選することが目的の野党側の離合集散に過ぎない」が22.5%で最多となり、「あくまでも永田町の政治家だけの論理で動いており、国民を意識したものではないため支持できない」が19.5%で続いています。「日本が直面している課題解決や、政策を軸とした動きとはいえるものではなく、野合に過ぎない」も15.3%あります。
一方で、今回の政党再編を前向きに考える見方はごく少なく、「本格的な政界再編のきっかけとなる」は12.6%、「自公政権に対抗する野党の基盤づくりができた」は5.4%に過ぎませんでした。
「立憲民主党・共産党・社民党」と「自公」が並ぶ
主要メディアでは、今回の選挙について「政権選択選挙」として、三極が争う構図とされています。そこで、どのグループに期待するかを尋ねたところ、「立憲民主党・共産党・社民党」との回答が35.7%で、「自民党・公明党」(32.4%)が迫っています。一方で、今回の政党の再編のきっかけとなった「希望の党・維新の党」のグループへの期待は8.7%に留まり、「どの党も期待できない」(17.7%)にも及びませんでした。
【安倍政権に対する評価】
安倍政権への「支持しない」との回答は5割を超え、過去最多となった
発足して約4年9カ月が経過した安倍政権を支持するか尋ねたところ、「支持しない」が昨年(44.7%)から10ポイント近く上昇し53.8%と半数を超え、「支持する」の32.1%上回りました。
過去5回の調査と比べてみても、安倍政権の支持率が低下し、不支持率が増加していることがわかります。
6回の調査で「期待以上」「期待通り」との回答が最低となる
発足前と比べた安倍政権への期待度の変化について尋ねたところ、最も多かった答えは「そもそも期待していなかった」で36.6%でした。
一方、「期待以上」との回答は、11.1%で、4年時点の前回調査の19.7%を大きく下回りました。「期待以下」も4年時点の20.2%から27.3%に増加しています。
過去5回の調査結果を比べても、「期待以上」「期待通り」は年々低下しており、その分、「期待以下」「そもそも期待していなかった」は年々増加しています。
首相としての資質は8項目の総合平均点は2.6点で、前回から0.3点後退
安倍首相の「首相としての資質」について、「首相の人柄」、「指導力や政治手腕」、「見識、能力や資質」、「基本的な理念や目標」、「政策の方向性」、「実績」、「チームや体制づくり」、「アピール度、説明能力」の8項目について、5点満点での評価を尋ねました。
その結果、8項目の平均点は2.6点となりました。この数字自体は歴代政権の比べてもまだ高いものですが、4年時点での前回調査と比較すると8項目すべてで評価が下がっており、その結果、総合平均点も前回の2.9点から0.3点も下がる結果となりました。
特に今回の調査では、国民に対する「アピール度、説明能力」は5点満点で2.2点と最も低い点数となり、前回から0.5点下がりました。また「「首相の人柄」も2.4点と前回から0.6点も下がり、この二つの項目の低採点が目立ちました。
【有識者は安倍政権の中心的な政策課題をどう評価したか】
有識者333人が考える主要37項目の実績評価は、1点台が1項目から3項目に増加し、3点台はなくなるなど、5点満点の合計で2.40点と下落した
次に、安倍政権が打ち出した37項目の政策に対する評価を尋ねました。各項目について、「4年間で実現した」を5点、「実現はしていないが、目標達成の方向に向かっている」を4点、「現時点で目標達成できるかは判断できない」を3点、「目標達成は困難」を2点、「既に断念しているがその説明はない」、「わからない」を0点とし、各項目について5点満点の採点を算出しています。
※なお、昨年の調査と比較するため「すでに断念したが、国民に理由を説明している」1点は除いている。
今回の有識者・専門家のアンケートでは、全37項目の平均は2.40点となり、前回の調査の2.59点から0.19ポイント評価が後退しました。
このうち、項目別の平均点が5割(2.5点)を超えたのは15項目でした。
特に評価が高かったのは、「安保法制の施行に伴い、あらゆる事態に切れ目のない対応を可能な体制を構築する」(2.98点)、「尖閣諸島周辺海域での外国公船への対応、外国漁船の不法行為に対する監視・取り締まり体制の強化など、海上保安庁、水産庁の体制を強化する」(2.93点)。「RCEPや日欧FTAなど国益にかなう経済連携を戦略的に推進する」(2.91点)の3項目が2.9点と3点に迫っています。
しかし、前回の調査では3点台が4項目ありましたが、今回の調査では3点を超える項目はゼロとなりました。
今回の調査で最も低い評価となったのは、「財政再建のため2020年度の基礎的財政収支(PB)の黒字化を実現する」の1.42点で、昨年の1.81点から大きく下落しています。安倍首相自身が、この目標自体は堅持するとしたものの2020年実現を断念しており、財政再建に対しては厳しい評価を突き付けています。それに加えて「2020年には身近な場所から仮置き場をなくせるように、中間貯蔵施設の建設を急ぐ」(1.78点)、「2020年代半ばに希望出生率1.8を実現する」(1.85点)も1点台となり、その実現に強い疑問を投げかけています。
【安倍政権の具体的な政策について】
アベノミクスの現状に対し否定的な評価が依然、約5割存在する
個別の政策の評価について、さらに詳しく尋ねました。
まず、アベノミクスについての成否を質問したところ、「成功していると思う」または「どちらかといえば成功している。が合わせて29.7%で3割近く存在し、政権4年目の前回調査の25.5%から3ポイントほど増加しました。
最近の景気拡大の展開がアベノミクスの評価に反映しており、肯定的な見方がわずかですが増加しています。
しかし、前回調査からはやや後退しましましたが、「既に失敗していると思う」と「どちらかといえば失敗している」は、合わせると48.9%と半数に迫っています。
物価や成長率目標未達の説明責任を求める声が多い
これに関連して、安倍政権が当初掲げていた物価安定目標や経済成長率目標の達成が難しい状況にあることについてどう考えるか、質問しました。これに対しては、「達成していない以上、今後も維持するのか、断念するのか国民に説明するのが当然だ」と説明責任を問う見方が28.2%で最多となりました。
一方で、「目標が高すぎただけで、実際に経済が上向くなど評価できる」との回答が24.0%となり、目標設定の誤りをあるとしつつも、プラス面を評価する回答が2番目で続きます。
なお、「現時点では達成していないが、今後達成の可能性は十分にある」との見方は4.8%にとどまりました。
急激に進む少子高齢化に対して、安倍政権はビジョンや有効な対応策の全体像を提示できていないとの回答が9割に迫る
日本では、団塊の世代が後期高齢者になる2025年にかけて、これから高齢化がさらに進んでいきます。そうした中で、安倍政権が具体的なビジョンや対応策を国民に提示しているかを尋ねたところ、「断片的には提示しているが、全体像は提示されていない」が33.3%との回答が最多となり、「ビジョンや有効な対応策は提示されていない」の30.0%と「そもそも政府は、ビジョンや有効な対応策を持っていない」の27.3%が続いています。
これらを合わせると、安倍政権がビジョンや有効な対応策の全体像を国民に示せていないという、見方は87.3%と9割に迫っています。
これに対して、「ビジョンや有効な対応策を提示している」は2.1%でした。
消費税の10%への引き上げ時の使途変更については、5割が否定的
安倍首相は、2019年10月の10%への消費税増税に際して、増税分の使い道を子育て支援や教育無償化の財源に変更することを表明しました。こうした使途の変更についての賛否を尋ねたところ、「反対である」(「どちらかといえば」を含む)との回答は51.6%となり、半数を超える人が消費税の使途の変更については、否定的な見解を示しました。
しかし、「賛成する」(「どちらかといえば」を含む)も36.3%と4割近く存在しています。
安倍首相はPB黒字化を本気で考えていないとの回答が最多
安倍首相は、9月25日の記者会見において、2020年度の基礎的財政収支(PB)の黒字化は困難との見方を示しました。一方で、PB黒字化の目標自体は堅持し、今後、具体的な計画を策定するとしています。
こうした安倍首相の対応について尋ねたところ、「PB黒字化の実現はすでに困難となっており、その実現を本気で考えているとは思えない」(46.5%)と厳しい見方が最多となりました。
一方で、「消費税増税分の使い道を変更する以上、延期はやむを得ないが、目標年次や具体的な計画は選挙時に国民に示すべきだ」が24.6%と、PB黒字化の延期に理解を示しつつも、今回の選挙時に具体策を示して、国民に提示すべきとの見解が続きます。
「PB黒字化の目標は堅持しており問題はない」は9%、「PB黒字化という目標自体は必要ない」との回答は4.8%で、それぞれ1割未満でした。
北朝鮮の脅威から国民を守り抜くでは、「決意はわかるが何の信を問いたいかがわからない」との回答が最多
自民党がマニフェストで掲げた「北朝鮮の脅威から国民を守り抜く」という決意については、「決意の表明はわかるが、国民になんの信を問おうとしているのかわからない」(26.1%)との回答が最多となりました。
これに「首相の強い姿勢には期待できるが、かなり難しいことも国民は覚悟する段階に来ていると思う」(21.0%)、「軍事行動には反対だという姿勢を明確に示すべきだ」(17.7%)との回答が続きます。
これに対して、「首相が強い決意を示している以上、それに期待するしかない」が9.6%、「首相の強い姿勢に大いに期待できる」は3.3%に過ぎず、安倍首相の姿勢に期待するしかない、との見方はそれぞれ1割未満でした。
【日本の政党政治の今後と候補者自身が明らかにすべきこと】
現在の日本の政党政治の現状には、厳しい見方が上位を占める
今の日本の政治の現状について尋ねたところ、「日本の将来についての選択肢が政党から提起されないまま国民に不安だけに迎合するポピュリズムが一層強まる時期」(51.7%)と5割を超え最多となりました。さらに、「政党のうごきが 国民と無関係に行われ、国民の支持を失っていく時期」(30.3%)、「政党政治そのものが信頼を失い、政治が課題解決できないまま混迷を深める国家機器の段階」(27.6%)が続くなど、現在の政治状況に厳しい見方を示す回答が上位を占めました。
これに対して、「政策を軸にした政界再編が始まる兆しが見えそうな時期」(13.8%)、「政権交代が可能な政党づくりに向けての動きが始まり、将来の政党政治に期待を持ち始められそうな時期」(3.9%)と、政党政治の今後を肯定的に見る回答は少数にとどまっています。
今回の選挙で候補者自身が明らかにすべきとことは「社会保障経費をどの財源で賄うか」
今回の選挙において、政党が十分なマニフェストを出せない状況で、候補者自身が明らかにしなければならないことを、ズバリききました。
これに対しては、「これから急増する社会保障経費をどのような財源で賄うのか」(65.8%)が最多となり、7割近い人がこれから急速に進む高齢化における財源が本当に賄えるのか、不安に思っており、その解決を政治に求めていることがわかります。
さらに、「10年後の日本の姿」(59.5%)、「財政再建の道筋」(58.9%)、「憲法改正の是非」(51.1%)が5割を超えました。
「自身が現在の政党の属している理由」を選んだ有識者・専門家も26.1%と2割を超えました。
【調査の概要】
今回のアンケートは、言論NPOの活動にご参加、ご協力をいただいている各分野の有識者約6000人を対象に、2017年10月7日から12日までの期間でメールの送付によって行い、333人から回答を得ました。回答者の属性は以下の通りです。