自民党の公約説明 /
代表の工藤が公約に切り込む
和田政宗:自民党広報本部副本部長
聞き手:
工藤泰志(言論NPO代表)
一体、日本の政党は、日本が直面する課題を真剣に考えているのか、その解決に本気で向かい合おうとしているのか、さらに、選挙目当てで甘い話に逃げていないか。
主要5党の政策責任者にマニフェストからは読み解けない疑問点を直接ぶつけ、議論した模様をお届けします。 自民党からは、広報本部副本部長の和田政宗氏にご参加いただきました。
工藤:今日は自民党広報副本部長の和田政宗さんに、私たちの政策評価の会議で出された質問について答えてもらいます。私たちの質問は、あくまで有権者が判断する材料を提供するためなので、少し厳しいことになるでしょうが、答えて頂きたいと思います。
まず、安倍首相は「国難だ」と言って解散を表明しました。「国難」というのは私たち言論NPOも全く同じ認識です。しかし、この「国難」で、有権者に何の信を問おうとしているのか、分かりにくいのです。「大変な事態だから私に任せてくれ」と言っているのか。国民は何を考えなければいけないのでしょうか。
北朝鮮対応と消費税の使途変更への信を問う
和田:やはり、北朝鮮の脅威というものがある。安倍総裁もおっしゃっていることだが、11、12月、年を越して1、2月になっていくにつれて、緊迫の度合いは増していくのではないか。制裁の強化を行っているわけだから、そうなる、と。アメリカは「あらゆる手を打っていく」と言っているし、日本も国際社会と連携して圧力を固め、北朝鮮に政策転換を促していく。そういった時に、国民の信任をしっかりと得て、北朝鮮への対応については、「これまでの通り、安倍政権が歩んできた道をしっかりと信任する」という形で、国民に問うというのがまず一点。
あと、我々は教育への投資を積極的にやっていこうと思っている。これは、幼児教育・保育の無償化といったことがあるのだが、その場合に、消費税の増収分の使い道を変えるという形でやっていく。これは、国民に約束したものを一部変更するという形になるので、こういったところも、国民に丁寧にお話を伺っていかなくてはならない。
いずれにせよ、我が国は民主主義国家。選挙によって国民に「この政策で行く。また改めて信任を与えてくれ」と問うのは、民主主義の最高の形であり、そういったことを、我々は解散によってやる。ここに大義がないと言う方もいるが、今のような形で国民にお伺いを立てて、信任を得て、強固に政策を進めていく。
工藤:国民に信を問うという姿勢は非常にいいと思います。ただ、分からないのは、北朝鮮への対応は、日本というよりアメリカが主導して動いています。確かに、北朝鮮を核保有国として認めないということは、私たちも同意するのですが、しかし、その結果、うまくいかない場合に、軍事攻撃があるということも含めて国民に信任してほしい、ということを言っているのですよね。
今ここで国民の信任を得れば、あらゆる事態に対応出来る
和田:これは分からない。これはアメリカのことですし、最終的にトランプ大統領がどう決断をするか、ということ。アメリカは「あらゆる手段」と言っているが、その中には武力攻撃というようなことも、過去の歴史から考えると、可能性はあるだろうと思う。そして、北朝鮮の今後のミサイル開発で、例えばアメリカ本土に届くとか、また日本にもノドンが200発向けられていると言われている。さらに、核搭載のミサイルが明らかに日本を狙う、というような状況が起きる可能性がある中で、危機レベルがどんどん上がっていくということを否定する人はいないだろう。まさにミサイルは、日本の上空を飛んでいるわけで、そうしたことがないように政府・与党も防ぐが、もしかしたら日本国土・国民に向けられるかもしれない。そういった時に、そこで解散総選挙を打つということになるのか、とも思う。そこで、例えば国防をもっとしっかりとやってくれというようなこと。また、今続けている国際協調で、各国と協調した圧力をかけていくということなど、そういったことを問うていく。そこで信任を得れば、あらゆる事態が起きた時に対応が出来る。
工藤:ここは、もう一度確認しなければいけません。つまり、アメリカが軍事攻撃のオプションを排除していない状況で、本当にそうなった場合は、そこで解散して信を問うのは難しい、と。ということになると、今回の選挙で国民は、戦争になる可能性も覚悟した形で安倍政権に信を問う、と考えればいいのですか。
和田:そこは若干違うと思う。安倍総裁もおっしゃっていますが、紛争というものは、安倍政権も、我が国も、どの国民も望んでいない。あくまで国際協調によって、安倍総理も国際社会の中で強いリーダーシップを発揮して圧力をかけ、政策転換を促していく。
アメリカが北朝鮮を攻撃する可能性もあるとは思う。ただ、北朝鮮のミサイルが日本上空を飛んでいく中で、途中で燃焼が止まったり、自分で燃焼を止めたりすると、そのまま日本に着弾する。このような状況でも、当然、我々は打ち落とすべく対応するわけで、そこを、しっかりと信を問うていく。
プライマリーバランス黒字化の約束は必ず実現するが、
その年限にこだわるより景気回復・所得向上の目標を優先
工藤:分かりました、話を進めます。前回2014年の衆議院解散、安倍さんのやり方は課題に向かい合っているので、意外に否定は出来ないわけですが、その時に、安倍さんは消費税の引き上げ延期を掲げると同時に、「財政再建は必ずやる。翌年の夏までにきちんとした案を作る」と言いました。そして今回、結果として消費税増税分の使途を変えることによって、基礎的財政収支(プライマリーバランス)について、当初掲げた2020年の黒字化という目標は実現出来ないと認めたわけです。であれば、あれだけ「財政再建をやる」と前回の選挙で国民に言っておきながら、なぜ、今回の選挙では「いつまでにやる」という目標を設定しないのでしょうか。
和田:経済は生き物。あと、我々としてしっかりと認識しなければいけないのは、アベノミクス自体は成功してきていると私は思うが、地方においての波及、これは実感というところで、「本当に豊かになったな」というところはない。これは課題であり、現実としてとらえなくてはならない。こういったことを考えた場合に、プライマリーバランスの黒字化の年限を切ってやることが重要なのか、それとも、そこをとにかくやれということであれば、景気回復とか所得の向上といったものを、ある程度犠牲にしなければならない部分が出てくるかもしれない。ただ、やはり我々はしっかりと景気を回復させて、国民一人一人の家計の所得を上げていくことが目標。2020年のプライマリーバランス黒字化の達成は困難になるが、こういった目標の達成によって、我々は国民の暮らしのためにしっかりと手を打っていくと考えている。
今回は教育投資を重点的にやる。幼児教育の無償化も含めて、特に子育て世代の働き手の方々がしっかりと豊かな暮らしを実感して、それを消費にも回して景気の好循環を図っていく、と我々は考えている。2020年のプライマリーバランス達成が困難であるということを突かれれば、そこはお詫びをしなくてはいけないが、それは、今もう一度精査をして、「ここまでにやります」ということを改めて明示させていただきたい。
工藤:おっしゃっていることは、よく理解しています。ただ、あれほど「財政再建をやる」と言って、前回2014年に選挙をした政権です。プライマリーバランス黒字化は、別に教育投資をするから出来ないのではなくて、今年7月の内閣府の試算でも、消費税を10%に引き上げても2020年に8.2兆円の赤字が残ってしまう。つまり、今のままではどうやっても解決できない状況になっているわけです。ということであれば、「実現出来なかった、すみません」と国民に言うべきではないか。
和田:そのあたりは、こういった我々の状況を含めて、投票で選択してもらえれば。繰り返しになるが、我々は努力をしようと思ってやってきている。ただ、経済は生き物だということも含めて、我々は教育への投資、消費税の使途変更ということも含めて必要だと思っているので、こちらを優先させた。それでも「2020年の黒字化は約束したじゃないか」ということであれば、それは事実なので、そこは謝らなくてはならない。
3~5歳までの保育は所得制限のない形での無償化など一定の判断材料を提供出来ている
工藤:今の話と連動するが、確かに、そのような全世代型の社会保障、つまり現役世代にも給付を振り向けるというのは、国際社会でも動きがあるので理解出来ます。しかし、その中身を「これから具体化する」というのはいかがなものか。信を問うというのであれば、きちんと計画を作って、「こういう形の工程で、こういう中身でやります。皆さんどうですか」というのが、議会制度において国民から負託を受ける選挙のあり方ではないか。
和田:そのあたりはしっかりと、3~5歳までの保育は所得制限のない形での無償化、2歳以下については低所得の方々を中心にした無償化、ということで、一定の判断材料を提供出来ていると思う。そして、高等教育の無償化、大学生を中心とする給付型奨学金といったものも実現して、充実していく。こういったものがパッケージになっている。これも、選挙公約の中で例示しているので、そういったところでも判断していただきたい。
工藤:私たちが気になっているのは、選挙の時に、政党は国民にいつも「こういうことをやります。具体的なことはその後で考えます」という言い方をします。それは自民党だけでなく他の政党もみんな同じなのですが、こういうやり方の選挙はどうでしょう。やはり、信を問うというのであれば、「こういう形でやります」と伝えるべきではないか。十分にこなしていない問題であれば、それで信を問うのはいかがなものかと思うわけです。こういうやり方についてはどうでしょうか。
和田:ただ、大枠、方向性を問うというところもある。おっしゃるように、そういったところをより細かく示せ、というのであれば、我々が選挙戦の中で言えることが材料としてあるので、こういったものを丁寧に示していくことになるかと。
GDP成長率の目標達成は、「失われた10年」と同じ時間をかけないと難しい
工藤:アベノミクスについてお聞きします。先ほど「アベノミクスは成功している」とおっしゃいました。確かに、景気の回復が一段と明確になっているのは事実だと思うし、首相が言っているような経済指標は実現している。しかし、もともと掲げた「10年平均で実質2%・名目3%成長」は実現していません。それから、「物価上昇率2%」も実現していません。だからこそ、今回のマニフェストでも「我々はアベノミクスを急速に進めて、デフレ脱却を実現する」と言っているわけです。つまり5年かかっても、アベノミクスの目標は実現出来ていない。これをどう思いますか。
和田:最新の四半期の名目GDPのデータでは4%成長ということになっているので、当初の見込みよりも時間がかかっているということは実際の数値から見ても事実だが、これが徐々に効いてきている。当初の目標通りに進む端緒が着実に出来ていると思う。失われた10年、または20年と言われるが、それと同じ期間、金融緩和も含めて手を打っていかなければ、いったんデフレに落ち込んでしまったものは、同じ期間以上かけないと難しい、というのが実感だと思う。「当初から、そういったことをもっと国民に明示してほしい」というのであれば、その点は、もしかしたら不十分だったかもしれないが、我々はそういったところで着実に成果を出しつつある。「もはやデフレではない」という状況で、所得を向上させていく。こういったことをしっかりとやっていかなくてはならない。
所得の数値でいうと、平成9(1997)年にサラリーマンの平均年収は467万円。民主党政権時代、これはリーマンショックの影響などもあるが、平成21(2009)年に406万円で大体横ばいだった。これが政権交代以降、右肩上がりに回復して、平成27(2015)年で420万円、平成28年はさらによくなっている。こういうことも含めて、我々は景気の実感としても、先ほど「地方はまだまだだ」としたが、数字でしっかりと分かる形で、お返ししているので、そういったところも見てもらえればいいかと。
「10年で物価上昇2%」の目標は堅持する
工藤:私たちの評価には専門家が参加しているので、アベノミクスへの評価はかなり厳しいのですが、ただ私は、経済がけっこう拡大に向かっているのは認めます。でも、その要因はアベノミクスなのか、世界の景気回復なのか、という議論はあるのです。ただ、今「あれっ」と思ったのは、和田さんは、「もはやデフレは回復している状況だ」とおっしゃったのですが、マニフェストでは「デフレは回復していない。だからデフレ脱却しなければいけない」、としている。デフレはまだ解決していないという認識でよろしいのですね。
和田:基本的には解決してない。ただ、極端なデフレの状況からは脱しつつあると思う。
工藤:デフレ脱却の定義を教えてください。物価が何%になればデフレ脱却と言えるのでしょうか。
和田:これは政府のデフレ脱却の定義になるが、「物価が持続的に下落する状況を脱して、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」。
工藤:今、そういう状況ではないですか。ただ、少なくとも2%までは上昇しない。かなり高い目標だと思っています。この前の安倍首相の日経新聞のインタビューを見ていると「私はあくまでも物価上昇率2%にこだわる」と言っています。しかし今、マーケットも日銀も含めて、2%を実現するという絵姿が全然見えない。政府・自民党は本当に2%の物価上昇率を目指すということなのですか。
和田:今もそうです。
工藤:そのためにはどうするのですか。金融緩和をさらに加速するのですか。
和田:金融緩和を加速するということも一つの手だと思う。今回も示していますが、地方の景気回復も含めて、教育投資というものもあるが、財政出動も当然やっていく。消費の伸びも最新の数値では良くなっているが、これがしっかりと安心して、「未来の自分の所得が上がり、これくらいの消費をしても大丈夫だ」という、より強い消費になっていかなければ、経済は回っていかない。そういったことによって、物価上昇2%を達成していきたい。
工藤:これはどれくらいの時間軸なのですか。日銀は、今までの異次元の金融緩和をかなり縮小する方向に変わり始めていますし、これ以上、日銀による株の買い入れなどを続けていくのはあまりにも異常です。アメリカも、だんだん金融緩和を転換し始めています。いつまでそういう状況を続けていくのでしょうか。
和田:金融緩和への認識については、「十分だ」という意見もあるし、「まだ不十分だ」というような意見もある。例えば、日銀の審議委員に今回入られた片岡(剛士)さんは「さらに緩和すべきだ」と言っている。これは、国の借金が1200兆円という評価もあるが、その中に資産が700兆円あり、日銀が引き受けている国債が400兆円あるということを考えた場合に、「実はまだ金融緩和を打てるのではないか」という意見も、片岡さんを中心にある。物価上昇率2%をしっかりと掲げているわけだから、金融緩和を含めてあらゆる手立てを打っていく。
工藤:「10年間で実質2%・名目3%成長、物価2%上昇」という目標はまだ生きていますか。
和田:生きています。
工藤:その10年間のうち、もう5年くらい経ちましたが、達成していないとなると、かなりペースを上げないといけない。それを実現するために動いているということでよろしいですか。
和田:それを実現すべく、今、最大限政策を打っている。我々の政策が不十分という認識の方もいると思うが、我々は政権与党であるので、政策を実行し続けて、我々が打った手がまだ効いていないということであれば、それを転換しながらやっていく。今回の解散でも「このようなことを新たにやります」と皆さんに信を問うている形で、その点はご理解いただければと思う。
社会保障給付の財源は、当面「景気回復による税収増+消費税10%」
工藤:社会保障の問題に移ります。私たちが7月に行った世論調査では、日本の国民の5割以上が日本の将来に不安を持ち、半数以上が「その解決を政党に期待出来ない」と答えている。自民党が掲げる全世代型社会保障などの政策は、形を変えれば、人口減少・少子高齢化の社会の中でも成長出来るという政策であって、それは理解出来るのです。しかし、人口減少・少子高齢化そのものに対する辻褄の合う政策が提示されているのか。例えば、2025年に団塊の世代が後期高齢者になる。その時点で、介護で年間20兆円、医療で年間54兆円のお金が必要になります。そのお金は、誰がどういう形で捻出するのか。その時に、消費税で想定している増収分を、また現役世代に振り向けるということになるとすると、どのように仕組みを設計しているのか。
和田:これはやはり、景気の好循環を生み出すということ。安倍政権になって税収の増加は地方を合わせると22兆円だが、経済が良くなっていけば、当然、税金も増収になる。そして、少子高齢化ということを考えた場合、子どもが産まれる、そして育てやすい環境を作っていかなければいけないということだ。例えば不妊治療に対する助成、これは一昨年に先行して、昨年から本格的になったと思う。実は私も、不妊治療で子どもを2人授かっているが、不妊治療にはかなりお金がかかる。そういった、出産をあきらめていた方、チャレンジをしたいという方で、今まで所得を理由に諦めていた方に対して給付をしていく。そして、幼児教育の無償化というものは、子どもを育てやすいような環境を作るということなので、出生率の低下を食い止めて向上に転じていく。こういったことをしっかりとやっていくことが重要だ。
負担が増えるのは当然のことでして、これは将来的なことを考えながら、我々は消費税もしっかりと組み込んでいるわけでございます。
工藤:ということは、10%よりさらに上の消費税率も意識しているということですか。
和田:今は10%である、ということまでしか言えない。これは、景気の回復によって種々の税金が増えれば、消費税を上げなくても済むということがある。これは、社会保障費が将来的にどれだけ増加するのか。2025年には団塊世代が全て75歳以上になるということを言われたが、社会保障給付費が148.9兆円というとてつもない数字になっていく。こういったところに、まず消費税10%も含めて、景気を回復して税収を上げていくという手段を選択している。
工藤:今、給付をもらっている人たちへの給付を下げながら、現役世代に配分するという考え方ではないわけですね。全てに対応するという形だけど、財源に関しては景気回復をベースにするという理解ですか。
和田:基本的にはそうなる。日本国は単年度予算ということもあるが、毎年の予算組みをする中で、しっかりと社会保障にお金を充てていく。こういったことは当然、今年度もやっているわけで、来年度もやれるようなことで概算要求が出ている。こういった政策を効果的に打っていきながら、やるべきことをやって税収を増やし、場合によっては国民に負担を求めることもある。こういったことで、しっかりと安定した社会保障をやっていくというのが、政府・政権与党の責任だと思う。
工藤:財政、アベノミクス、社会保障の問題は全てがコインの裏表で連動しているが、今、日銀の異次元緩和、ゼロ金利をベースにした異常な事態の中で、何とか息をして、その中で何とか成長力を上げようと思ってはいるが、なかなかそうはならない。そういう異常な状況をいつまで続けるのか。それをやりながらお金を新たに支出する、というモデルそのものが、もう辻褄の合わない状況だが、それに対して責任ある問題提起は出来ないのでしょうか。
和田:先ほどの、日銀審議委員の中でも金融緩和への評価が分かれているということも含めてあると思う。ただ我々は、金融緩和をさらにやるということも含めて、やれることをしっかりとやっていくということ。目標とする名目GDP3%成長の達成とか、そういったことは「何が先か」ということだと思う。プライマリーバランスの黒字化も当然必要です。ただ、そこに年限を区切って「必ずやる」ということで、金融緩和や財政出動など様々なものを減速させていくことになると、それは国民の経済、暮らしが止まってデフレに戻ってしまうかもしれない。そこを、我々は走りながら、足りないところは、ご指摘の通りあると思うが、それを修正しながら、我々は名目GDP3%成長をしっかりと謳っているわけですから、そういったことをしっかりとやっていくということだ。
工藤:今の話では、日銀と政府がアコード(政策協定)を結んで異次元の金融緩和をするが、その後では財政再建をやる、と約束したわけですよね。それが否定されているわけではないのでしょうか。
和田:プライマリーバランスの黒字化は必ずやるが、「期限はここまで」とこだわりすぎることによって、他のものが全て悪くなってしまったら元も子もない。それについてはもう一度、示しさせてください、ということを、総裁も選挙戦に向かうにあたっておっしゃっている。そのあたりも、厳しいことをおっしゃるのであれば、しっかりと見て判断していただければと思う。
エネルギーミックスの目標実現に必要な原発新設は、まだ議論が進んでいない
工藤:今度は原発の問題についてお聞きします。これも、希望の党の小池百合子代表が「原発ゼロ」を言い始めたことで争点化するわけですが、確かに、エネルギー基本計画や原発の将来に関しては、過去の選挙でも重要な争点でした。この問題からは逃げられないと思うのですが、その後、安倍政権は原発再稼働の方向やエネルギーミックスを明らかにしました。ここまでは、言ったことに対してちゃんと動いているのですが、しかし、2015年7月に出した「2030年までに、原子力の比率を20~22%、再生可能エネルギーの比率を22~24%にする」というエネルギーミックスは、実現出来ますか。今の原発再稼働の状況を見ると、どう考えても実現出来ない状況になっています。出来るのであればその根拠を教えてほしいのですが、出来ないのであれば、今度の選挙でも全く同じような公約を掲げているわけで、具体的に「こうする」というのであれば分かるのですが、曖昧にしているのではないかと思います。
和田:エネルギー基本計画は2030年までの計画です。今のままのエネルギー消費を考えた場合、これは到底無理なのではないかということだが、日本という国は、1980年代に省エネが非常に進んだ時期もあって、向こう10年でも省エネの技術が進んでいくということが、当然考えられる。あと、達成出来ないというところで、原子力をこのまま再稼働出来るのかというところもあると思う。我々は安全性の確保が最優先だが、原子力規制委員会の新規制基準に適合したものは、やはり再稼働をしていかなくてはいけない。あと、再生可能エネルギーは、各電源の個性に応じたことで、最大限導入を拡大していくことが必要であると思っている。このように言うと「しっかり示していないじゃないか」と言われるだろうが、「2030年までにこういったエネルギー計画を実行すれば、国民の負担も増加させないままで済む」ということ。今、原発を全部やめてしまうということであれば、国民の負担が非常に上がる。試算では確か1万円くらい上がるのではないかということだが、そういったことも含め、これはしっかりと進めていく。
工藤:他の党と違って、自民党は原子力を大事にしたいわけですね。
和田:現状の原子力発電所が存在するという状況の中で、これはしっかりと国の政策として、電力会社とも協力をしながら進めてきた政策なので、安全性が担保された原発については使って、ベースロード電源として確保していくというところは明確にしたい。
工藤:一方で、エネルギー基本計画を実現するためには、新規の原発を入れ込まないと間に合わないわけですが、新設に対する決断はなかなか出来ないものなのですか。
和田:現状においては、種々の議論があって、そこまでにはまだ踏み込めていないというのは、私が党内のいろいろな議論でも実感している。政府部内においても、恐らくそうであろうと思う。ただ、再稼働する中で国民の理解をいただき、新設をやるべきだということであれば、これはやるべきなのではないかと思う。ただ、様々な技術革新によって、化石燃料エネルギー、例えばメタンハイドレート、こういったものもしっかりと採掘出来て使用出来るようになれば、電源確保の比率が変わってくる、という可能性もある。ただ我々は、約束しているエネルギー基本計画に沿って進めているという状況だ。
工藤:ここは外交の問題にもかかわるが、地球温暖化対策のパリ協定、これは、日本はトランプさんとは違って、多国間の国際協力には積極的に協力するという立ち位置ですよね。しかし、エネルギー基本計画は、火力発電にあまりにも依存してしまっている。これは世界の潮流と違うのではないか。世界で化石燃料をだんだん減らしていくという流れとは違う。必要なものが火力であれば、温暖化にあまり影響しない形に技術革新するというのもあるが、なかなかそれが出てこない。ということは、その検討はお休みということですか。
和田:再生可能エネルギーの発電量は、技術革新が思った以上に進んでいない。これは生みの苦しみで、この後急激に進んでいくと思っているが、現実的に「発電をするためには何なのか」というと、化石燃料ということになる。世界の潮流は、温暖化を防止するためにも化石燃料はなるべく減らしていこうということなので、現実と将来の目標とをしっかりと睨みながら、ということだろうと思う。
日本が現憲法下で出来る対応は「専守防衛」と「国際協調による圧力」しかない
工藤:外交・安全保障、これは我々言論NPOが一番議論しているところです。冒頭にも聞いたのですが、北朝鮮の問題、我々は少なくとも北朝鮮を核保有国として認めるわけには、どんなことがあってもいけないわけです。そのためには、ありとあらゆることをやらざるを得ません。しかし、それが戦争になる可能性もあるわけです。ミサイル防衛の仕組みを導入するといっても、それが100%対応出来るとはいえない状況です。しかし、そういう状況でも、「我々はアジアの平和とか核不拡散を考えた時に、どうしても引けないのだ」と、仮に戦争になろうが、国民に率直に言ったらどうですか。どうして曖昧にするのか、よく分からないのです。要するに、国民に状況をきちんと説明した上で、「その場合でも、私を信任してほしい」と言った方が分かりやすいということです。
和田:国民は、トランプ大統領が「あらゆる選択肢を排除しない」と言っているところで、戦争になる可能性にも気付いていると思う。我々は現行憲法において、戦後しっかりと専守防衛の道を歩んできた中で、やれることをやらないといけない。現状においては、敵基地攻撃能力も保有していない状況で、やれることは、飛んできたミサイルを撃ち落とす、そして国際協調によって種々の圧力をかけて、北朝鮮の政策転換を促していくという形になる。これはもう、核を認めるようなことは出来ないわけで、戦後の歴史の中でほぼ初めて、核を保有しているのではないかとみられる国が、核を保有していない国を脅しているような状況だ。これには絶対に屈してはならない。ただ、そのために我々が持っている手段は、飛んできたミサイルがもし着弾するということであれば撃ち落とすしかない。だからこそ、安倍総理は就任以来、50近い国と延べ191回の首脳会談をやっているが、こういった強い外交のリーダーシップによって解決する。総理は「こわもてだ」とか「戦前回帰」と言われることがあるが、決してそんなことはなく、平和主義に基づいて、各国と手を携えて、北朝鮮に強い圧力をかけて政策転換を促していく、ということだ。
積極的平和主義で目指す自衛隊の役割拡大には、国民の支持が必要
工藤:最後に、安倍さんの掲げる「積極的平和主義」とは何なのでしょうか。積極的平和主義が、国連PKO(平和維持活動)などを含めた世界の紛争解決を意識しているのでしょうか。南スーダンの日報問題について、先日NHKのドキュメンタリーを見ていても、自衛隊が何のために活動しているか分からない。国民も、万一そういうことで自衛隊員が亡くなってしまうという状況を全く想定していない。その中で、安全な地域だけに行くのが、安倍さんの言う積極的平和主義なのでしょうか。積極的平和主義で何をしたいのか、それを説明するタイミングに来ているのではないでしょうか。
和田:現状の憲法、法律の中においては、安全なところでないと自衛隊は派遣出来ません。ただ、今、国連自体が変容してきていて、PKOというより(軽武装の軍隊を中心とした)PKF(平和維持軍)が主流になっている。そういうところに、「我々はPKOしか出来ない部隊で来ました」というのは、私も各国の外交官、軍幹部とも交流があるが、極端なことを言えば「足手まといだ」と言われる方もいる。ただ、我々は現行の憲法と法律の枠組みの中でしか出来ないので、しっかりと安全が担保されて、我々が貢献できる地域にはPKOというものを出していくという形になる。ただ、今回の公約では、議論にはならないと思うが、「将来的にPKFも含めてやっていかなくてはならない」ということで国民の議論が高まるのであれば、それは我々も議論していかなくてはならない。
工藤:基本的に、安倍さんの目指す外交を実現するためには国民の支持が必要なのですね。そのためには、やはり「私はこういうことをやりたい」と、きちんと説明すべきではないか。曖昧にしておいて、結果として自衛隊員が遺書を書いて引き揚げてしまう。そして日報を隠蔽するとか、こういうことが起こっていることはよくないのではないか。安倍さんの目指す姿ではないのではないですか。
和田:日報については各論に入るかもしれないが、日報を公表していたら現地の隊員は何も書けないことになる。自衛隊の中でも普通、戦闘訓練をやっている。「戦闘」がダメだということであれば、戦闘訓練は何訓練と書けばいいのか、ということも含めて、各国のスタンダードは、日報についてはありのままを書いて、そこからしっかりと報告書の形にする。日報には機密も含まれているので、それを全部公開しろというのは、本当はおかしな話。
基本的には、日報というものは外に公表しないのが各国のスタンダードなので、そういった意見も含めて、何が公開出来るのかという形は示していきたい。
工藤:言論NPOは2004年からずっと、マニフェスト評価、政権実績評価をやっています。安倍さんになってから自民党の政権は意外と高いのですが、それは長期政権になっていることと、課題解決型になっていることが原因です。それによって、安倍政権は他党との間に差をつけたような気がしていたのですが、最近ではマニフェストがどんどん曖昧になっていって、数値目標も消え、何をやっているか分からなくなってしまい、かつてのような公約に戻ってしまった。「もっと仕事をしたい」と言っていろいろな目標を立てたことを、愚直にやり続けるべきではないかという気がしているのですが、マニフェストの書き方についてはどうでしょうか。
和田:明日(10月10日)が公示日ですので、それはご意見としてしっかり承りたい。まさに大きなヒントをいただいたと思います。今、「こういったものにはこういった財源を使っていきます」ということを、その数字も含めて提示しているが、それをわざわざ細かく、パンフレットに書いても皆さんが読むか、というところもあるので、その点については、「こういったことに、いつまでにこれくらいの財源を充てて、これくらいの効果がある」ということを、丁寧に差し出せるように、私は今後、安倍総裁にも会いますので、総裁にもお伝えをし、この選挙戦の中で、そういったことを示せるようにしたい。
工藤:昨日、日本記者クラブの党首討論会を見ていたが、プライマリーバランスの目標年次やその工程についても、「いつまでに出す」と言えばいいのではないですか。2014年の前回選挙の時は「来年夏までに計画を出す」と言いました。今回、何も出さないのは変ではないかと思うのですが、どうでしょうか。
和田:昨日、総裁もおっしゃっていたが、今、フル回転で精査を進めているので、可能であれば選挙中にでも提示出来ればと思う。
工藤:分かりました。今日は有難うございました。