2017年衆議院選挙 マニフェスト評価(経済)

2017年10月18日

評価の視点

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 現下の日本経済は、米国を中心とする世界経済の回復を主因とする輸出の持ち直しや個人消費の緩やかな回復を背景として、景気の回復傾向が次第に明確化し始めている。しかし、企業収益の拡大が賃上げと個人消費、設備投資の回復に結び付く「経済の好循環」のパワーは未だに弱く力不足である。物価上昇率もゼロ%台、潜在成長率も持ち直したとはいえ1%程度にとどまるなど、景気の本格回復への道のりはなお遠い。こうした現状認識を踏まえ、評価のポイントとして、①日本経済の本格回復のために何が必要かをきちっと認識し、そのためにどのような政策運営を行おうとしているか、②人口減少や少子高齢化など中長期の政策課題に正面から向き合い、日本経済の潜在成長力を引き上げるための適切な構造改革を指向しているか、を基本に据えて判断する。

主要8党の評価点(経済)

自民党
38点

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公明党
34点

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希望の党
19点

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立憲民主党
9点

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日本維新の会
13点

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共産党
16点

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社民党
9点

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【 評価点数一覧 / 自民党 】

項 目
自民党
形式要件
(40点)
理念(10点)
目標設定(10点)
達成時期(8点)
財源(7点)
工程・政策手段(5点)
合計(40点)
20
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
8
課題解決の妥当性(20点)
6
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
4
合計(60点)
18
合 計
38

【評価結果】自民党 マニフェスト評価
      合計 38 点 (形式要件 20 点、実質要件 18 点)

【形式要件についての評価  20 点/40点】

 自民党マニフェストでは、アベノミクス5年間の実績を名目経済成長率、有効求人倍率、企業収益、外国人旅行者数など様々な指標を取り上げ自賛している一方、「力強い消費を実現」し、「経済の好循環」を完遂するために、「生産性革命」と「人づくり革命」の2つの改革を断行するとして様々な具体的政策が盛り込まれていることは評価できる。ただし、マニフェストの中では、数値目標、目標達成時期などについて、具体的に明示されている項目は少ない。とくに、財源の明示は、義務教育の無償化に消費税を充てるとしているだけで、他の政策についてはほとんどない点は、評価できない。工程・政策手段についての明示もいくつかの分野に限られている。自民党の場合、詳細は政府の成長戦略や骨太の方針に明記されているため、マニフェストでは簡素化したと思われるが、明快性に欠く点は減点要因となる。

【実質要件についての評価 18 点/60点】

 自民党マニフェストには、「アベノミクスの加速で景気回復・デフレ脱却を実現します」とあるが、アベノミクスがほぼ5年経過しつつあるにも関わらず、景気の本格改革やデフレ脱却が実現していない理由が明確に述べられていない。真の理由はアベノミクスが金融・財政政策に過度に依存し、成長戦略の実行スピードが不十分であることに起因する。ただし、今回の衆院選マニフェストでは、「生産性革命」と「人づくり」革命に焦点を当てて、潜在成長率の引き上げを図ろうとしている点は、正しい課題認識、および課題解決の方向性を示しており、評価できる。「生産性革命」について、IoT、ビックデータ、AI、ロボットなど最先端技術分野で大胆な税制、予算、規制改革を行うとしている点は、課題解決策として妥当である。

 他方、「働き方改革」は生産性の向上にとって重要な手段であるとの認識が明確に示されていない点は減点項目となる。また、「人づくり革命」に関して、保育・教育の無償化を行うとしているが、単に無償化すれば、将来の日本にとって必要な人材が育成されるわけではなく、課題解決策として、妥当性を有するとは思われない。政策実行体制については、従来の産業競争力会議を未来投資会議に改組し、生産性向上と人づくりに向けた体制整備を行っている点は評価できる。

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【 評価点数一覧 / 公明党 】

項 目
公明党
形式要件
(40点)
理念(10点)
5
目標設定(10点)
5
達成時期(8点)
3
財源(7点)
1
工程・政策手段(5点)
2
合計(40点)
16
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
8
課題解決の妥当性(20点)
7
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
3
合計(60点)
18
合 計
34

【評価結果】公明党 マニフェスト評価
      合計 34 点 (形式要件 16 点、実質要件 18 点)

【形式要件についての評価 16 点/40点】

 公明党マニフェストでは、「力強く伸びる日本経済へ」とのテーマを掲げ、「成長と分配の好循環を確かなものにする」として、軽減税率による家計支援、働き方・休み方改革、成長戦略の加速、地方創生などを謳っており、実質2%、名目3%程度の経済成長実現を目標とするなど、理念や目標設定は国民にとって分かりやすい。達成時期、財源、工程などの記述が少ない点は、減点対象だが、具体的な政策手段が豊富に盛り込まれており、現実感のあるマニフェストとなっている。

【実質要件についての評価 18 点/60点】

 公明党の経済政策は、与党の一角を占めるため、成長戦略の内容については、自民党の政策と基本的に共通する。ただし、今回の衆院選マニフェストでは、幼児教育から高校、大学まで教育負担の軽減を謳っていること、低年金者支援、介護保険料の軽減など低所得層に対する所得再配分政策の色彩が強調されている。そうした施策の財源確保策として、自民党が打ち出した「消費税の使途変更」には触れておらず、「企業の内部留保の見える化する方策」を検討するとしているが、その詳細な設計は不明である。

 他方で、「大学の機能強化」や「中小企業に対する支援強化」を打ち出しており、妥当と判断される。単独での政権運営能力には欠けるが、責任ある与党の一角を占め、自民党を補完する存在として、安定感のあるマニフェストを打ち出している。

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【 評価点数一覧 / 希望の党 】

項 目
希望の党
形式要件
(40点)
理念(10点)
5
目標設定(10点)
2
達成時期(8点)
0
財源(7点)
1
工程・政策手段(5点)
1
合計(40点)
9
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
5
課題解決の妥当性(20点)
4
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
1
合計(60点)
10
合 計
19

【評価結果】希望の党 マニフェスト評価
      合計 19 点 (形式要件 9点、実質要件10 点)

【形式要件についての評価 9点/40点】

 希望の党のマニフェストでは、「ポストアベノミクスの経済政策として、徹底した規制改革と特区を最大限活用し、民間の活力を生かした経済活性化を図る」として、AI、フィンテック、自動運転など先端分野での競争力を高め、起業を促進する」ことを打ち出している。理念や考え方は一定の妥当性を有するが、自民党との違いが分かりにくい。具体的な目標設定も乏しく、達成時期も明示されていない。財源に関しては、消費税凍結の代替財源として、「企業の内部留保課税」を打ち出している点は、新しい提案として目を引くが、詳細設計は不明である。工程についても明示がない。

【実質要件についての評価 10 点/60点】

 希望の党マニフェストには、「ユリノミクスで経済成長と財政健全化」を目指すとして、「金融緩和と財政出動に過度に依存せず民間の活力を引き出す」としている。金融財政政策に過度に依存したアベノミクスに対するアンチテーゼとして課題認識は妥当である。日銀の金融政策について、「円滑な出口戦略と政府・日銀一体となって模索する」とした点は、実行体制・ガバナンスの面も含めて一定の評価ができる。

 ただし、成長戦略については、自民党との違いが明確でないだけでなく、「企業への内部留保課税により株式市場の活性化、雇用創出、設備投資増加をもたらす」としている点には疑問が残る。また、非正規の正規化、教育費・住宅費の負担引き下げ、医療・介護の不安を解消する総合合算制度の導入、ベーシックインカム導入により、低所得層の可処分所得を増やす」としているが、これら施策は所得再配分政策としては意味があるとしても、成長戦略としてどの程度の効果が期待できるかは未知数である。

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【 評価点数一覧 / 立憲民主党 】

項 目
立憲民主党
形式要件
(40点)
理念(10点)
3
目標設定(10点)
2
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
0
合計(40点)
5
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
2
課題解決の妥当性(20点)
2
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
0
合計(60点)
4
合 計
9

【評価結果】立憲民主党 マニフェスト評価
      合計 9 点 (形式要件 5 点、実質要件 4 点)

【形式要件についての評価 5 点/40点】

 立憲民主党のマニフェストでは、経済政策らしき項目がなく、「生活の現場から暮らしを立て直します」という公約が唯一、経済政策的な公約になっているが、理念とまで呼べるか疑わしい。「実質賃金の上昇によって中間層を再生する」という目標は提示されているものの、数値目標やその達成時期、工程などは明示されていない。財源として、「所得税・相続税・金融課税をはじめ再分配機能の強化」を謳っていることは一定の評価ができるが、具体的制度設計は、詳細不明である。

【実質要件についての評価 4 点/60点】

 立憲民主党のマニフェストでは、長時間労働の規制、最低賃金の引き上げ、同一価値労働・同一賃金の実現、保育士・介護職員の待遇改善・給与引き上げなどが明示されているが、これらの政策は、自公政権下で実施済または実施予定となっており、違いがよく分からない。正社員の雇用を増やす企業への支援、赤字中小企業等に対する社会保険料負担軽減、児童手当・高校等授業料無償化などの政策は、どれくらいの財源を要するかも明示されておらず、バラマキ的色彩を帯びている。経済政策としての体系性も乏しく、実行体制も不明であり、高い得点を与えることはできない。

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【 評価点数一覧 / 日本維新の会】

項 目
日本維新の会
形式要件
(40点)
理念(10点)
4
目標設定(10点)
0
達成時期(8点)
0
財源(7点)
2
工程・政策手段(5点)
0
合計(40点)
6
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
3
課題解決の妥当性(20点)
3
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
1
合計(60点)
7
合 計
13

【評価結果】日本維新の会 マニフェスト評価
      合計 13 点 (形式要件 6 点、実質要件 7 点)

【形式要件についての評価 6 点/40点】

 日本維新の会のマニフェストには、経済政策に関する項目がなく、それらしき部分は、「規制改革と地方分権」が相当するが、マクロ経済政策について記述がない点は減点要因である。具体的目標設定、達成時期、工程などは明示されていない。財源は、身を切る改革(議員定数削減、議員報酬削減)や徹底した行革(公務員削減、政府系機関の完全民営化、天下り禁止)や歳出削減などを想定していると見ることができるが、その具体的規模は不明である。

【実質要件についての評価 7 点/60点】

 日本維新の会のマニフェストでは、経済政策的なものとして、規制改革が最重要課題と位置付けられている点は、一定の妥当性を有する。保育・介護サービスに関わる各種規制緩和、医療・介護・保育への株式会社参入、株式会社の農地保有解禁、オークションを活用した電波割り当て、脱時間給制度、金銭解雇の導入など、与党政権でも出来ていない岩盤規制の突破を図ろうとしている姿勢は高く評価できる。実行体制・カバナンスについても規制撤廃・緩和推進のための、新たな法律を制定するとしており、一定の評価ができる。

 もっとも、規制緩和以外の項目では、すべての教育無償化、保育士給与の官民格差是正など、バラマキ的色彩の強い公約もみられ、改革に前向きのスタンスとの整合性が取れていない点は減点要因である。

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【 評価点数一覧 / 共産党 】

項 目
共産党
形式要件
(40点)
理念(10点)
6
目標設定(10点)
2
達成時期(8点)
0
財源(7点)
3
工程・政策手段(5点)
1
合計(40点)
12
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
3
課題解決の妥当性(20点)
1
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
0
合計(60点)
4
合 計
16

【評価結果】共産党 マニフェスト評価
      合計 16 点 (形式要件 12 点、実質要件 4 点)

【形式要件についての評価 12 点/40点】

 共産党のマニフェストは、「格差をただし、くらしを応援する経済政策」という理念を掲げ、税金の改革、予算の改革、本物の働き方改革などを掲げている。具体的政策は多岐に亘っているが、数値目標の設定や達成時期、工程の明示はほとんどない。例えば、「安定的な経済成長を図る」としているが、数値目標や達成時期は明示されていない。ただし、財源に関しては、消費税増税を中止する一方で、大企業優遇税制の廃止、富裕層増税、証券優遇税制の見直し、為替取引税や富裕税の創設、富裕層を対象とした社会保険料の引き上げ、所得税の累進強化などで、累計17~23兆円の財源を見込む等、詳細な税制改革案が提示されており、形式的には相応の評価ができる。

【実質要件についての評価 4 点/60点】

 共産党のマニフェストでは、教育無償化、医療・介護報酬の引き上げなど格差是正策や所得再配分政策の色彩の強い政策が多数書き込まれているが、厳しいグローバル競争の中で企業の国際競争力をいかに強くするかという視点が欠如している。大企業優遇税制の廃止では、研究開発減税の廃止や法人税率の引き上げなど競争力強化に逆行する政策が目立つ。証券優遇税制の見直し、相続税強化、富裕税創設など足の速いマネーに対する増税は、資本の海外逃避を招きやすく、実効性に疑問がある。「国民の所得を増やす経済改革を実現する」としているが、大企業への賃上げ要請、残業割り増し賃金の引き上げ、ブラック企業への規制強化、社会保障や教育の充実など経済政策というよりも社会政策的色彩が強く、実効性には疑問がある。

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【 評価点数一覧 / 社民党 】

項 目
社民党
形式要件
(40点)
理念(10点)
3
目標設定(10点)
達成時期(8点)
0
財源(7点)
2
工程・政策手段(5点)
0
合計(40点)
6
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
2
課題解決の妥当性(20点)
1
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
0
合計(60点)
3
合 計
9

【評価結果】社民党 マニフェスト評価
      合計 9 点 (形式要件 6 点、実質要件 3 点)

【形式要件についての評価 6 点/40点】

 社民党のマニフェストでは、「家計を温め、ボトムアップの経済政策でくらしの再建」を理念として掲げている。その内容は、雇用の安定、家計の応援、地域の再生、雇用の創出の4分野で、個人消費を活性化し、景気を底上げすることを目指したものだが、具体的数値目標や達成期限、工程などの明示はない。一方、財源確保プランとして、2%の消費税率引き上げに反対する一方、法人課税、所得課税、歳出の見直しによって、5.6兆円の財源を確保するとしている。さらに、未来に向けてさらなる改革を行うとして、法人税率の引き上げ、内部留保課税、所得税の累進強化、相続税、贈与税の課税強化、富裕税創設などの増税の他、防衛費、原発関係費、大規模公共事業の中止など歳出削減を掲げている点は、形式的には、一定の評価ができる。

【実質要件についての評価 3 点/60点】

 社民党のマニフェストでは、賃上げ目標の設定、最低賃金の引き上げ、長時間労働の規制、同一価値労働・同一賃金などの労働政策を主体に掲げているが、企業や産業競争力の強化という視点が欠如している。また、年金、医療、介護など社会保障の充実、保育所・幼稚園・高校授業料の無料化、大学、大学院の将来的無償化を掲げているが、成長戦略ではなく社会政策と位置付けられ、本当に経済成長力を強めることができるかは疑問である。唯一、成長戦略的色彩を持つ政策は、いのち(介護、医療、保育、福祉、教育)分野への投資拡大と、みどり(再生可能エネルギー、省エネ、農林水産業)分野への投資拡大だが、具体性を欠いており、その実効性には疑問符が付く。

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主要政党のマニフェスト評価

自民党
公明党
希望の党
立憲民主党
日本維新の会
共産党
社民党
平均
32点
23点
18点
10点
16点
18点
12点
経済
経済政策
38
34
19
9
13
16
9
財政
この分野の評価詳細をみる
23
14
9
0
13
16
2
社会保障この分野の評価詳細をみる 26
21
12
9
17
13
14
外交安全保障
外交・安全保障
53
31
29
14
21
29
22
エネルギー環境エネルギー環境 21
17
23
18
17
15
14
※上記点数は全て100点満点の点数です


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