主要7政党のマニフェストは課題解決のプランとしては不合格
~2017年衆議院選挙 マニフェスト評価 総論~

2017年10月19日

 言論NPOはマニフェスト評価基準にもとづき、主要7政党のマニフェスト評価を行い公表した。評価を公表するのは今回で11回目となる。

 言論NPOの評価基準とは、①公約が有権者にとって明確で約束として判断可能なものとなっているかを判定する「形式要件」(40点)と、②課題の解決案としての妥当性や実現に向けての体制や説明責任を判定する「実質要件」(60点)の100点満点で構成されている。         ⇒評価基準の詳細はこちら


有権者の不安に答えられない政党と国民の距離は広がるばかり

 今回評価したのは、経済、財政、社会保障、外交・安保、エネルギー・環境の5つの政策分野で、主要7政党のマニフェスト(公約)を対象とした。その結果、各党のマニフェストの評価は前回までの選挙同様、低い評価となり、最も高い評価となった自民党でも100点満点で32点、その他は10点台が5党という結果であり、マニフェストとしては不合格と言える。

 評価がここまで低くなったのは、急な解散だったこと、新政党の立ち上げなどで十分な準備ができなかったという事情を反映している。しかし、そういった事情は理解できても、政党側にマニフェストが課題解決のプランであり、国民との約束であるという意識や意欲が弱く、多くの公約が願望や自らの党の主張を述べるだけの抽象的な公約に戻ってしまっている。

 私たちが今回の衆議院選挙で政党に説明を求めたかったのは、今、日本が直面している課題を各党がどのように認識し、その解決に向けてどのように取り組もうとしているのかである。例えば、2025年以降、団塊の世代が後期高齢者になり、これからさらに社会保障経費の支払いは急増していく(厚労省の推定で2025年度には医療と介護の給付費は今に比べて25兆円増加する)。そうした負担を誰がどのような形で背負うのか。目前に迫った少子高齢化という問題に対して、具体的な提案をした政党は1つもなかった。政党が課題に真剣に向かい合わず、有権者の将来に対する不安に答えていない状況では、選挙は民主主義の単なるイベントとなり、政治と国民の間の距離は益々広がってしまう。


 今回の公約は、政権与党である自民党・公明党ですら、100点満点でそれぞれ32点、23点となり、公約としては不合格と言わざるをえない。しかし、相対的に見ると、自民党、公明党、共産党といった既成政党のマニフェストは課題別に整理され、完璧とは言えないが政策目的やその財源などもある程度示している。これに対して、新しい政党は、形式そのものが整っていない。そのため、公約が約束として判断可能なものになっているか、という形式要件では、既成政党は40点満点で10点台は確保している(形式要件の点数の平均:自民党13.8点、共産党12.2点、公明党11.6点、希望の党9.8点、社民党8.4点、日本維新の会7.8点、立憲民主党5.4点)。もちろん、約束の数値目標や達成期限、財源などが記載されている公約は少なく、党の主張を述べている程度である。

 今回の選挙で争点と言われていた消費税についても、消費税の使途を変更したり、消費税の引き上げ自体を凍結、あるいは止めると主張しているが、必要な社会保障の財源や財政再建の目途を示した政党は1つもなかった。また、原発の問題についても、維持するのかゼロにするのかということは示しているものの、それを実現するための工程を示した政党もなかった。これでは、国民が各党の政策が本当に実現できるのかを判断するのは難しい。特に、野党のマニフェストは、対案を出して選挙に挑むというより政権を批判するだけの公約が多い。


政党が課題解決のプランを競い合い、有権者が選挙で判断するというサイクルを目指して

 主要7党の5分野における評価点数は以下のとおりである。マニフェストの形式要件だけではなく、その政策が課題解決のための実質的な案としてしっかりと示されているものも少ないため、各党の実質要件の点数はさらに低いものとなっている。課題解決に向けてのプランが国民に提示されず、その課題解決で競争が行われないのに、政権選択として有権者は何を基準にして政党を選べばいいのか。今回のマニフェストから、その答えを見つけ出すことはかなり難しくなっている。

 私たちは2004年から決まった評価基準に基づき、定期的にマニフェストの評価を行ってきたが、明らかにマニフェストの評価点数は後退している。国民が自分たちの将来や課題解決を政党に期待できない、そして選挙でもしっかりとしたマニフェストが提起されない状況では、政党政治が信頼を失い、民主主義そのものの機能を大きく弱めてしまうことになりかねない。今回の選挙で出された公約に対する低評価は、そうした政党の脆弱さを示しているものである。

 私たちは、選挙を通じて政党が国民に対して課題解決のプランを提示し、その解決プランで政党間で競争が行われ、それを有権者が判断し投票するというサイクルが国民に向かい合う民主主義の形態としても必要だと考えている。こうした評価の運動の輪をさらに広げながら、今後も継続して評価作業に取り組んでいきたい。

 今回の評価作業にあたり、各分野の専門家の皆さん、333人のアンケート回答者、対談に応じていただいた政治家の方々を始め、ご協力いただいた全ての皆さまに、この場をお借りして感謝申し上げます。

自民党
公明党
希望の党
立憲民主党
日本維新の会
共産党
社民党
平均
32点
23点
18点
10点
16点
18点
12点
経済
経済政策
38
34
19
9
13
16
9
財政
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23
14
9
0
13
16
2
社会保障この分野の評価詳細をみる
26
21
12
9
17
13
14
外交安全保障
外交・安全保障
53
31
29
14
21
29
22
エネルギー環境エネルギー環境 21
17
23
18
17
15
14
      ※上記点数は全て100点満点の点数です