<評価の視点>
自民党は2012年4月27日に憲法改正原案を発表している。そして2014年6月13日、憲法改正の手続きを定めた改正国民投票法が成立した。それまで日本では、国民投票に関する法律が存在していなかったが、これで憲法改正をするための手続きが整った。さらに、安倍首相は2017年5月3日の憲法記念日に「2020年の改正憲法施行を目指す」と表明。これを受けて自民党は同年末、「憲法改正に関する論点取りまとめ」を作成して議論の方向性を示し、そこでは自衛隊、緊急事態、合区解消等、教育無償化(教育の充実等)の4項目について議論を進めていくとしている。憲法改正のための様々な前提条件が整う中、まず各党に求められるのは、改憲の是非についての立場を明らかにすることである。そして、その上で、改憲に賛成の立場を取るのであれば、現代社会において、現行憲法を変えなければ解決できない課題としてどのようなものがあるのか、その解決のためにはどの条項をどう改正すればよいのかを示す必要がある。さらに、憲法改正を通じて、日本がどのような国を目指すのか、国際社会の中で何をする国(あるいは何をしない国)になるのか、目指す将来の国家像を描けていればプラスの評価となる。
逆に、改憲に反対の立場を取る場合には、現行憲法でも現代日本を取り巻く様々な問題に対して十分対応可能である、あるいは変えなくても他に対応する手段があることを論証していくことが求められる。さらに、現行憲法の規範や理念を、今後の政治や社会にどのように取り込んでいくべきか、ということを、様々な現実を踏まえた上で説得的に論証できればプラスの評価となる。
<評価結果>
与党(自民党・公明党)
自民党は憲法改正に関する公約として、①自衛隊の明記、②緊急事態対応、③合区解消・地方公共団体、④教育充実というように改憲項目を具体的に示している。しかし、具体的な説明なしに項目を列挙しているだけであるので、何が憲法改正によって対応すべき新しい課題なのか、そしてこの改正案は本当に新たな課題にこたえられるものなのかどうかは判然とせず、課題解決の妥当性も判断できない公約となっている。
また、安倍首相は2017年5月3日に「2020年の改正憲法施行を目指す」と表明していたが、衆参両院の憲法審査会では改憲議論が停滞し、憲法改正の際の投票手続きを定めた国民投票法改正案も今国会で成立しなかった現状では、2020年の改憲は事実上不可能となっている。しかし、公約ではこれに代わるタイムスケジュールは示されておらず、単に「早期」としているのみであり、改憲に向けた具体的な道筋を理解することは難しい。
さらに、連立を組む公明党は「加憲」は否定していないが、「憲法9条1項2項を維持したまま、別の条項で自衛隊の存在を憲法上明記するとの意見」、つまり自民党公約の①に対しては慎重な見方を示している。すなわち、連立与党内で明確なコンセンサスがない状態であり、公約の内容以前の問題を抱えている。
また、公明党は「加憲」による改正は否定していないが、その具体的な項目については「議論すべき」というスタンスに終始し、同党の公約の主軸である「重点政策5つの柱」の中に憲法改正を含めていないなど、そもそも積極的な改憲の意思を示していないため、同党の改憲に対する姿勢を判断することはできない。
野党(立憲民主党、国民民主党、日本維新の会、共産党、社民党)
立憲民主党と国民民主党は9条改憲反対とともに、内閣による衆議院解散権の制約、「知る権利」を含めた新しい人権といった具体的な改憲項目を提案している。もっとも、その理由は示していない。本当に改憲が必要であるのであれば、「知る権利」をめぐる現状の問題点を指摘した上で、改憲によってそれがどのように是正できるのか、あるいは首相の解散権がほぼフリーハンドとなっている現状が、どのように国民の権利を侵害してきたのか、そのイメージを示すべきだったが、それがなされていないため、この項目を改正する必要性が国民には判断しにくいものとなっている。
日本維新の会も、現行憲法は「時代にそぐわない」ことを理由として、①教育の無償化、②道州制の実現を含む統治機構改革、③憲法裁判所の設置などを改憲項目にするとしており、検討すべき内容もあるが、これがないためにどのような弊害が生じているかは示されていないため、なぜ改憲しなければならないのか、やはりその必要性の説明は十分ではない。
共産党は、「公約」では9条改憲反対を明示している。一方、自衛隊の位置付けについての言及はない。同党ホームページで「公約」のあとに掲載されている「各分野の政策」では、「自衛隊が憲法違反であることは明瞭」と断じた上で、「自衛隊と憲法の矛盾解決は国民合意で段階的にすすめる」としているが、どのように段階的にすすめるのかは曖昧な表現にとどまっている。
社民党は、「憲法改悪に反対」としているが、その理由は記していない。そもそも何条の改悪に反対しているのかも明らかにしておらず、説明責任を果たしているとはいえない公約となっている。
主要政党の政策項目数
経済 |
65 | 55 | 8 | 78 | 13 | 14 | 13 |
財政 |
8 | 10 | 1 | 13 | 4 | 2 | 2 |
社会保障 | 36 | 34 | 5 | 55 | 15 | 17 | 13 |
外交・安保 |
38 | 24 | 10 | 40 | 7 | 19 | 10 |
環境・エネルギー | 17 |
21 |
7 |
24 |
4 |
8 |
7 |
農業 |
21 |
8 |
1 |
23 |
0 |
4 |
3 |
憲法改正 | 3 |
3 |
1 |
14 |
7 |
1 |
1 |
その他(復興、地方、教育) | 94 |
60 |
7 |
86 |
9 |
16 |
14 |
総計 |
282 |
215 |
40 |
333 |
59 |
81 |
63 |