2017年10月10日(火)
出演者:
宮本 雄二 (宮本アジア研究所 代表、元駐中国大使)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
工藤:衆議院選挙も公示を迎えて、選挙選も本気モードに突入しています。今回の選挙に当たって、どうしても宮本さんにお聞きしたいことは、今回の選挙のイシューとして出ている北朝鮮問題についてです。安倍首相は、自民党のマニフェストで、「北朝鮮の脅威から国民を守り抜きます」と言っています。確かに今の北朝鮮の核脅威というものは非常に重大な局面で、多くの国民がこれを不安に思っているのですが、こういう約束というものを我々国民はどう考えればよいのか、つまり北朝鮮の脅威という国難で何の信を問おうとしているのかわかりにくいのですが、宮本さんはこれをどうお考えでしょうか。
北朝鮮に関する2段階の脅威
宮本:我々の考えた脅威は2段階あります。現在、我々が直面していると私自身が心配しているのは北朝鮮が計算違いで、あるいはアメリカが色々なことを慎重にフォローした上でそれでも軍事行動を起こすという事態です。軍事行動が起これば、良識的に考えて相当多くの人命が失われます。我々がまず感知しなければならない脅威は、そういう状況を作り出さない、いかにそれらを避けることができるかということに全力を尽くすということがまず一段階目の脅威です。二段階目の脅威は、北朝鮮が確実に核兵器を持とうとしていて、いかにそれを廃棄させるかということです。これは1カ月、2カ月といった短期で終わる話ではなく、相当な時間をかけて行うプロセスですが、いかにして北朝鮮を話し合いのテーブルにつかせ核放棄に同意させて、なおかつ国際社会がその核兵器を廃棄されるのを検証しながら進めていくという長いプロセスが始まるのです。この取り掛かりもない。1つ目は当面の核脅威、2つ目は北朝鮮に話し合いのテーブルにつかせることに脅威を感じています。
工藤:北朝鮮の脅威に多くの国民は不安を抱いています。ただ北朝鮮の脅威について選挙の中で国民に伝えるとなると、やはり説明不足が出て来るのではないかと思います。つまり、今、宮本さんがおっしゃったように、戦争という軍事的な攻撃はなんとしても避けなければならないという決意を伝えているのか、それとも戦争が起こったとしても守り抜くと言っているのか、それとももっとふわっとした形で核保有国としてのそれを認めないような、そのことを私がやりたいから全てを政治に委任してほしいと言っているのか、なんとなく選挙のこの状況の中で政治家が伝えていることがわかりにくいのですが、これをどのように読んでいけばよろしいのでしょうか。
政治は、今回の選挙で最低限の義務である国民の生命・財産を守るということを国民に訴えかけるべき
宮本:とりわけ安全保障に関わる問題については、まさに国民の生命、財産に直接かかわる事態です。日本はある程度小さな範囲で被害が済んだとしても、例えば韓国でもっと大きな被害が出るかもしれず、場合によっては中国にも被害が及ぶかもしれません。実は、北朝鮮の問題というのは、そうした重大な問題が起こりうるのです。ですから、抽象的な話で言うよりはもう少し国民に具体的にわかってもらい、それに対してどう対応するのか、というプランを今回の選挙だけにとどまらず、政府や政治は説明し続けていく義務があると思います。
工藤:宮本さんの話は非常に理解しやすいのですが、国民からすれば、色々な形で北朝鮮の核保有を最終的にはやめさせるという局面をつくるために、場合によっては軍事的な問題が起こるかもしれません。それに対しても一任してくれというのか、それとも我々はその中でも軍事的な行動を避ける努力をする、ということを国民に約束する、しかし軍事的な行動が避けられない場合も含めて私に一任してくれ、などと言ってくれればわかるのですが、なんとなくふわっとし過ぎてしまっていて、しかも選挙戦でなかなか争点になりにくい。政治が今、国民にとって差し迫った脅威の中で何を約束しようとしているのかわかりにくいのですが、どのような言い方がよいのでしょうか。
宮本:政治の最低限の義務が、国民の生命と財産を守るということです。したがって、それは当然やるのだという前提かもしれませんが、しかしその点ははっきりもう一回国民に訴えてほしいと思います。それから、白紙委任というのは今の民主主義の制度のものではないのです。ですから、選挙に勝ったからと言って、我々から全て白紙委任をとったということは、今の世の中では成り立たないと思います。
今回の選挙でこう訴えた、その結果、自分たちが勝った、あるいは負けた、したがって国民の言っていることはこうなのだというやり方よりは、その都度、重要な問題については国民との対話をやっていくということが、私は本来あるべき民主主義の姿だと思います。
工藤:その通りだと思います。最後に、北朝鮮問題に対して政治家から有権者に対してこれから色々な発言が出て来ると思いますが、有権者は何を見ていけばよいのでしょうか。また、投票するときに、どういったことを判断すればよいでしょうか。
最悪な事態を避けるために全力を尽くす、というメッセージを政治は国民に伝えてほしい
宮本:客観的に見て、脅威は迫っていて、したがって重大な事態を迎えている、これは間違いない事実です。しかし、同時にそれを回避するというか、それに向かって政府として打ち得る、あるいは国際社会として打ち出し得る政策はあるということなのです。そうした両方の見解を国民に伝える、つまり事態としては厳しいけれども、その中で政府としては、あるいは国際社会としてはそうならないように全力を尽くすのだということが客観的な姿だと思います。そういうメッセージが国民に伝わればと思います。
工藤:ありがとうございました。まさにこういう形で、今、宮本さんが言われたような形で北朝鮮問題といえども、政治家、候補者の発言を考えていきたいと思います。