工藤:ここまでは、復旧、復興の現状の課題を明らかにしてもらいましたが、その議論の中で、これから考えるべき重要な論点が出てきました。まずは4年前に設立された復興庁がどう機能したのか、ということについて議論したいと思います。
有識者アンケートでは、「復興庁が機能していない」との回答が約4割
まず、私たちが実施したアンケート結果についてご紹介します。「あなたは震災からの4年間を見て、被災地域の復興に向けて復興庁が機能していたかと思いますか」と尋ねたところ、18.3%の人が「機能している(「どちらかといえば機能している」を含む)」と回答しました。一方、「機能していない(「どちらかといえば機能していない」を含む)」との回答は41.7%になりました。「どちらともいえない」が17.5%、「そもそも復興庁はいらなかった」との回答は5.0%という結果でした。
震災の直後、復興庁の立て付けの議論がかなりありました。後藤新平が総裁を務めた「帝都復興院」のようなものをつくり、東北の構造的な弱点を埋めて、未来に向けて大きな転換を図るなど様々な議論がありました。しかし結果として復興庁は、集権的に強い権限を持つのではなく、各省庁の出先機関というよりは受付窓口の機関になってしまっている。例えば、地域の自治体が復興計画を持って行ったとしても復興庁が独自にやるのではなくて他省庁に投げる形になっている。確か、阪神大震災の時には、地域のニーズに基づいたプランと政府の広域的なプランを結んで行く仕組みがあったような気がします。それが今回の東日本大震災では、自治体と政府がバラバラにやっているという印象がしています。今後、復興推進体制は検証する必要があると思いますが、新藤さんは何がダメだったと思いますか。
既存の省庁体制から脱却しないままの「復興庁」では役割を果たせない
新藤:3月11日に大震災が発生してから1年後の2012年2月に復興庁は動き始めました。確かに、関東大震災後の後藤新平の「帝都復興院」のような強力な体制を作るという議論もありました。しかし、今の霞ヶ関の公共事業官庁の権限を復興庁に移管して、一元化できるかというと、今の省庁体制で実現できるはずがありません。私はもっと県単位に分権した復興体制を作るべきだという意見ですが、それも国の責任は何かという議論で阻まれてしまう。結局2月に発足した現行の復興庁は、各自治体の復興計画の受付窓口であるだけで、受け付けた計画を事業ごとに所管している官庁に査定をお願いして、返ってきたものをホチキスして自治体に返すだけになっています。立てつけ上は、大臣の枠を増やしていますが、現状はどっちつかずになっています。現状の割拠的な集権体制が下に降りただけで、地域にあった復興計画を作る体制からはほど遠いのが実状です。
では、何が問題だったのかですが、例えば帝都復興院のようなものを作るとなれば、今の日本の行政組織の作り方からすると、設置法からの国会審議を必要とし、既存の組織から財源を奪うことは容易ではありません。関東大震災時は、天皇が勅令を出せば終わりでしたが、今は時代が異なります。どのレベルの大きさにするのかはともかく、計画執行体制としては権限を分権化し、それを国が財政的にサポートするべきでしたが、それができないのが今の状態を招いていると思います。
寺島:現場を歩いていると、被災地側からの目には、復興庁は現場と繋がりがある官庁には見えません。福島県浜通りの被災地では、除染は環境省、原発事故と汚染水は経産省(と東京電力)が担当し、それぞれが除染作業や汚染水対策の説明会などの場で直に住民と接点があります。
被災地で復興庁の存在があらためて話題になったのは、つい先日です。国が26兆円余りを投じた「集中復興期間」の5年間が2016年3月に終わり、その後をどうするという話です。16年度からの5年間も後期復興期間として6兆円を確保するという方針が政府から出ました。しかし、もう増税ができないという背景もあり、「被災地の自治体にも負担を求める」と復興大臣が発言して大きな波紋を呼びました。政府首脳はそれを否定していないことから、そうした流れになるのかとは思います。
被災地側からこうした動きを見れば、政府は震災・復興から腰が引き始めたと映るわけです。家屋や農地の除染が行われたところで自立を無理矢理促されることになるのではないか、という懸念を原発事故被災地のある首長が語っていました。放射能や生業の再開に不安を抱え、帰還を諦めたり迷ったりしている住民との間にも乖離が生じ、地元の自治体は大変なジレンマを抱えています。
また、被災地を支援するために多くのNPOが被災地に入っていますが、その活動を支える補助金も、復興予算とともに5年間で切れてしまう見通しであることから、支援半ばで現地を撤退せざるを得ないという話が出始めています。
復興庁は、震災関連死が3000人を超えたとの調査結果を発表したばかりですが、被災者をケアする生活支援相談員に対する補助金も切られてしまうことになり、その費用も自治体が自前でやる必要が出てきます。岩手県はその負担を覚悟で延長することを表明しており、いろいろな影響や混乱が出てきそうです。
川崎:復興庁は関係機関への受付機関で、お金をまとめて配分する役割があると思います。津波被災地域では、多くの建造物が着々と建設され、それなりに復旧の状態が目に見えてきていることから、間接的にではあれ、復興庁がそれなりに機能しているような印象を持つ住民もいるのではないかと思います。一方、原子力災害は津波災害よりも広域的なもので、例えば津波被害を受けていない福島市などにも放射能は降り注ぎました。こうした地域に復興に向けた課題がないのかといえばそうではありませんが、復興庁の予算はほとんど回ってきておらず、復興庁の姿はほとんど見えません。ここには、冒頭に述べました「復興とは何か」という定義にかかわる問題が横たわっており、住民が生活再建に必要だと考える手段と、復興庁が用意しているメニューに乖離があるということです。
既に4年が経ってしまっていますが、避難指示区域外であっても、日々自分の生活環境に自信が持てないまま暮らし続けている住民がたくさんおり、こうした住民に対して、避難生活の支援策や移住のための支援策が何もないということは大きな問題だと思います。これは、原発事故子ども・被災者支援法が骨抜きにされてしまったということとも関連します。
既存省庁の権限の縦割り構造が、被災地の効率的な復興を妨げている要因
工藤:復興庁が生活支援の担い手として受け止められていないという指摘でした。全体的な立てつけとしてわからなくなってきたのですが、そもそも復興庁は何をやる機関なのでしょうか。例えば環境省や経産省も復興事業に取り組んでいる側面もありますが、そうしたことを復興庁が全部まとめてやるわけではありませんよね。
新藤:国交省、農水省などの既存組織を維持したままで大きな出来事が起こり、人材や資源を集中投下しなければならない時に、各省を調整する調整官庁が必要だという議論が出ますが、そうした調整は復興庁に出来る話ではありません。だから地域に金を渡すべきだと私は主張していますが、既存体制のままで復興庁を作るべきではありません。最近は復興庁を経由してくる生活援助金もありますが、復興庁が独自に財務省から予算を引っ張ってきたものではない。ここが問題で、結局は各省庁の寄せ集めです。
工藤:もう少し省庁として何を実現するのか、という点がなければならないのではないでしょうか。
新藤:しかし、各省の寄せ集めで新しい組織を作れば、寄せ集められた官僚は、本籍地の省庁を向いて仕事をしてしまいます。環境省もかつてそういった省庁でしたが、やっと生え抜きで中枢を押さえられるようになり、まともになったのがいい例だと思います。
工藤:先程、原発関連の除染から始まる全体的な話が出ましたが、各省庁のレベルを超えている気がします。国が本気で取り組む必要があると思いますが、立て付けがそのような形になっていないと思いますが、その点についてはどうですか。
新藤:おかしいと思います。除染の集中的な権限をどこに持たせるかということです。但し、除染そのものが合理的かどうかの判断も必要だと思います。
工藤:福島の立て直しについては、国がきちんと考える局面だと思いますが、寺島さん、いかがでしょうか。
寺島:復興庁とは本来、政府内を調整して総合的な判断の上で被災地に効果的に予算を配するのが役割なのだと思いますが、実際のところ、飯館村の農地の除染を見ていると、本来であれば表土をはぎ取るなどの除染を行った上で地力を回復させ、土づくりから野菜やコメをつくっていくプロセスを支援していくのは、本来であれば、経験も知見も農家との付き合いもある農水省の仕事です。震災直後は、農水省が直に農地の除染実験を手掛けていました。しかし、その後は政権交代もあってか、環境省が除染を一手に主管し、農地の除染も担うようになりました。その結果、本来、除染を最優先に進める環境省と、除染後の農業復興にいち早く方向性を示してほしい地元の当事者の要望との間でズレが出ています。そうしたメニューも農水省が持っているのですが、農水省の出番や連携がないのが現状です。「国の縦割りが復興を遅らせている」という村民の声も聞きました。そうした調整こそが、復興庁の一番の役割なのだと思います。