東日本大震災から4年、東北の復興は進んでいるのか

2015年3月27日

2015年3月27日(金)
出演者:
川崎興太(福島大学共生システム理工学類准教授)
新藤宗幸(後藤・安田記念東京都市研究所理事長)
寺島英弥(河北新報社編集局編集委員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

 3月27日放送の言論スタジオでは、「東日本大震災から4年、東北の復興は進んでいるのか」と題して、新藤宗幸氏(後藤・安田記念東京都市研究所理事長)、寺島英弥氏(河北新報社編集局編集委員)、川崎興太氏(福島大学共生システム理工学類准教授)をゲストにお迎えして議論を行いました。

震災から4年が経過、被災地の現状は

工藤泰志 まず、議論の冒頭に司会の工藤から、「東北はもともと高齢社会という厳しい環境にあった中で、大地震やそれに伴う津波や原発事故に直面した。震災から4年が経ったが、被災地で復興のビジョンや今後の展望が見えているのか。また、今、被災地が直面している課題は何なのか、ということを今日の議論で浮き彫りにしたい」と議論の方向性が示された後、まず、現在の被災地の復興の状況についての問いかけがなされました。

 これに対して、3氏の見解はハード面での復旧はおおむね進んでいるものの、被災住民の暮らしの再建は全く進んでいないとの見解で一致しました。その原因についてさらに問いかけると、新藤氏は復興庁の行政体系に問題点があると指摘しました。同時に福島の復興については、「建前上、避難地域への帰還を掲げている一方で、復興公営住宅を建造している。そこに年配の人や子どもが移ることで、そこが終の棲家になる。結局、どっちつかずの話になっている問題点を指摘しました。

 続けて川崎氏は、福島の復興政策については、放射能の除染が全ての基礎になっていることを指摘した上で、「除染効果の限界が見え始めており、避難指示区域の全員帰還を始め、様々な政策が動かなくなってきている」と復興政策の構造自体を転換する必要性を主張しました。

 寺島氏は「物理的に見れば復旧は進んでいるが、風評被害や外国の輸入規制等により、福島の水産物や農作物の売り先がなくなっている」ことを指摘し、その結果、被災地で働く場所がなく、生活のベースができていない問題点を指摘しました。

被災地の復興に対する「復興庁」の役割とその課題

 続いて、言論NPOが事前に行った有識者アンケート結果では「被災地域の復興に向けて復興庁が機能していない」との見方が4割近くに上ったことを紹介しつつ、復興の現状や課題を踏まえた上で、復興庁が被災地の復興に向けた推進体制になっているのか、といった議論に移りました。

 これに対して新藤氏は、「復興庁が正式に発足するまで1年近く議論して創設に至ったにも関わらず、各省庁の寄せ集めで、各被災地の受付け窓口としての役割しか果たしていない。これでは地域にあった復興計画は実現しない」と問題点を指摘した上で、「復興計画の執行体制をより分権化して、国が財政的にそれをサポートする構造を作るべきだった」と主張しました。川崎氏は「復興庁自身が具体的に『復興』が何を意味するのかを定義できておらず、被災地住民が感じる『復興』と復興庁が用意する政策メニューに乖離が生じている」と指摘しました。

 一方、寺島氏は、除染については環境省、汚染水対策は経済産業省が対応するなど、環境省や経産省は住民に向き合ってきたが、復興庁は現場との繋がりが薄く、調整官庁との認識が強かったと指摘。しかし、最近は資金配分等についてきめ細かな対応をするようになり存在が目立つようになってきたことに触れつつ、2015年度で集中復興期間が終わった段階で、自治体への負担金を求めるなど、被災地側から見れば、復興庁は震災から腰が引け始めているのではないかと感じる点を指摘しました。

 さらに、新藤氏は「復興庁は各省庁の一時的な寄せ集めであるがゆえに、中で働いている官僚は自分の省庁を忖度してしまう」と話し、また寺島氏は、農地の除染についての具体例を挙げながら、「復興後の農地利用も考えなければならないので、農林水産省も関わるべきであるが、除染事業ということで環境省しか関わっていない」と、霞が関官庁の縦割り構造が被災地の復興の妨げになっている問題点も指摘しました。

政治の世界で、震災復興への関心は薄れ始めている

 その後、震災復興への関心の変化についての有識者アンケートでは、「強まっている」との回答が約2割、「変わらない」との回答が約6割に上ったこと、「5年間の集中復興期間が終了後の、次の5年間の復興」について「地域の事情を踏まえ、多様な復興計画を認める」との回答が半数を超えたことなどが紹介されました。その上で、政治の世界では被災地の復興、福島の興に本気で取り組んでいるのか、と問いかけました。

 これに対して新藤氏は、「昨年末の総選挙では、三陸海岸地域や福島の復興について、被災自治体でさえも論戦が起きなかった」と危惧を示しました。川崎氏は福島第一原発周辺の福島県双葉町の事例を紹介しながら「双葉町の中で帰還困難区域ではない4%の土地を復興前線拠点として、様々な復興計画に取り組んでいる。より広域的な計画を描く必要があるが、国家が主導的な役割を果たさず、各自治体の足並みがそろっていない」と問題点を指摘しました。

 寺島氏は「2020年に向けてのアベノミクスに対する関心が高まる裏で、復興庁の予算を一部地元に負担してもらう流れが加速している。きめ細かく自立を支援するために、被災者とともに被災地支援をしているNPOを支援する等、地元のニーズ、自治体が必要としているところを、復興庁が連携役になってパートナーになっていく必要がある」と今後の継続的な支援の必要性を主張しました。

被災住民が住みたいと思うような街づくりと、きめ細やかな支援の必要性

 さらに新藤氏は「福島の被災地への帰還を優先するにしても、まずは雇用を確保する必要がある。産業集積、高規格道路、新規住宅地などそれぞれがバラバラで整合性がなく、どのような街を作りたいのかわからない」と指摘しました。

 川崎氏は「各市町村が独自に取り組んでも上手くいかず、もっと広域で議論すべきだ。今後人口が減っていく中で、このままでは空き家だけが残って、人がいないという可能性もありうる」と現状に対する問題意識を投げかけました。

 寺島氏は、復興庁と自治体の最新の調査結果に触れながら、原発周辺自治体に帰還したいと思う人は1割もいないという一方で、飯館村では帰還したいという回答が1年前よりも増えたことを指摘。その上で、「元の場所に戻る人と、元の場所には戻らないが、同郷というネットワークで繋がっていく。これからは各自治体がそれぞれの選択を迫られる局面がやってくる。そうした選択が認められなければ自治体そのものが消滅する可能性もある」と語り、原発被災地は自治体消滅という綱渡りの状況にある点を指摘しました。そして、飯館村のように希望の種がある限り、きめ細かく支援して行くことが必要性を指摘しました。

 最後に、今回の議論を振り返り工藤は、「震災の風化が最も恐ろしい。復興が終わったと思ってほしくない」と視聴者や読者に対する投げかけを行い、震災復興の問題については、今後も定期的に議論を行っていくと語り、今回の議論を締めくくりました。

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