被災地に向けたボランティアの動きをどう立て直すか

2011年6月16日


 第3部 ボランティアの動きをどう立て直すか

工藤:市民が、被災地に絶えず関心を持ち続けることって、かなり大変なことです。だんだん関心も薄れていきますよね。それは、避けられないという面もありますが、その辺りの危機感をみなさんは感じられていますか。

早瀬:風向きが変わってしまうのは、仮設住宅にほとんどの人が入られる頃です。その頃になるとボランティアがパッと行ってできる仕事がかなり減ります。

工藤:8月末に仮設住宅に移ると政府は言っていますよね。
早瀬:おそらく、そうなると思いますね。


8月までに流れをどう作り出すか

工藤:東北は8月が終わると、冬の到来がすぐに来てしまうので、仮設まではとにかく急がなければいけないと思います。ただ、それでもニーズはかなりあると思います。まず全員が仮設に行けるかどうか。それから、行かない人でも、高齢者が多いので、がれきの山が残り、非常によくない環境下にある。健康の不安とか当然あると思うし、そのケアも必要です。そういう現場に人がどんどん入って、それを解決していくという流れをつくり出し続けるということが、非常に重要な感じがするのですが。

早瀬:僕は8月過ぎたころからは、個別の生活支援も重要だと思います。これについては、生活支援員のみなさんが、既にかなりの人数採用されています。ですから、ボランティアの仕事としては復興になると思います。誤解を恐れずに言えば、できるだけ東北地方に旅行に行って、沢山お土産を買って帰ってくるみたいに、地元の経済力をつけていくような仕事に関わってもいいと思います。


矢野:私たちは復興のステージに入れば、2つのことが究極の課題になると思っています。1つは生業の再建と家の再建です。その2つが何とかなると大体は大丈夫です。男の人の人生の大半は仕事ですから、家と仕事と家族がいなくなってしまうと、もうがっかりという人が多いと思います。

仕事は稼ぐということだけではなくて、同時に自分の人生の一部ですから、そこのところを何とかしないと、自殺などが色々と起こってくるだろうなと思っています。そういう意味で、復興コミュニティビジネスというのが必要だと思います。阪神淡路大震災の後、3年ぐらいコミュニティビジネスのブームがありましたよね。それを今の段階から、ボランティア団体、NPOが一緒になってつくっていくことですね。例えば、炊き出しにも色々な議論があって、最初の頃は必要なのですが、いつまでもやっていると、元気が無くなってきます。本来は、自分でつくっていた食べ物を、誰かにもらってしまう。ですから、本当は一緒につくってくれだとか、食材は提供するからやりましょうという話があるわけです。そういう話の延長に、業者が沢山きますから、自分達がつくっているもので弁当を作って売ればいいのですね。あるいは、仮設の避難所に出される弁当を自分達で作るから、それを役所が買い取る形で、弁当を支給して頂戴よ、という話があります。

実は、それらは中越地震の時にも既にやられている話です。そういうものが今からでもできるし、山古志村でも弁当を作っているおばちゃん達がいたわけです。そういうことを被災地にパッと広めていく仕掛けがないといけないと思います。

工藤:なるほど。そうすると、雇用を意識した形と、今の救済というか、同時で動くということが必要だという話ですよね。

早瀬:被災者自身が主体にならないといけない。今、仮設住宅の中で営業を行うことは禁じられているわけですが、戦災復興の時は許されているわけです。だから、仮設住宅の中で営業ができるようにした方がいいと思います。そうして、物を売る。やはり、少しでも自分で経済的な力をつけていくことと、人の役に立っている経験が自分の元気にもなっていきますから。

工藤:今のお話と、全国から市民がボランティアを集めて、それを送り出していく、そして受け皿が必要だという問題は、どうつなげながら、大きな流れをつくらなければいけないのでしょうか。


ボランティア参加のハードルを引き下げる

田中:まだ8月まで時間があります。被災地の課題を解決することが一番大事ですが、同時に、これだけ多くの人が、当事者意識を持とうとしているこの熱意というものを、もっと活かす社会であってほしいと思っています。

それにしては、今回は、物理的にもコーディネーションの問題にしても、ボランティアとして参加するハードルがもの凄く高いのですね。しかも、自粛ムードも出てきてしまっていて、そのままずっと来てしまっている。ですが、意外と困難の中に色々な工夫が生まれているみたいです。先程申し上げた、ユース311というのは、学生は自分達では何にもできないけど、現地で活躍しているNPOやNGO、社協にコバンザメのようにくっついて、自分達が得意なのは学生を集めることだということで、1800人を集めています(2500人が登録)。でも、学生はお金が無いし、寝袋も持っていないのであれば、自分達がかき集めて学生に支給して、4000円の交通費を出しながら、学生の参加のハードルを低くしながら、どんどん送りこんでいます。

では、学生がどのぐらい役に立ったのかといえば、役に立っていない子もいるし、喧嘩をして仲裁にいかなければいけないような子たちもいましたが、ちゃんとケアすることによって誰もギブアップしません。先程、受援力の話がありましたが、これは若者の役得で、若者が行くとお爺ちゃん、お婆ちゃんには喜ばれるそうです。

矢野:そう、若いだけで。

田中:それで、行った子たちも色々な感銘を受けて帰ってきているわけです。それで帰って来てから、その子たちが話したいことを動画などで流す。そういう循環があって、若者の中で凄い当事者意識が高まっています。私は、そこの力というのは、今後の社会を担う力につながっていくと思うので、ぜひ大事にしたいし、その参加のハードルを低くすることは、今でもできると思います。ボランティアバスもそうだと思います。

工藤:こうしたドラマがどんどん広がって、伝染していってほしいと思います。

矢野:それは思います。栃木では、私は送り出すだけではなくて、気仙沼の隣の一関に50人規模の宿泊拠点を作っています。これから必要なのが、学生が夏休みになったときに、1週間単位でワークキャンプとかをやり始めると、現地のおじいさん達と仲良くなっていくということを定期的に繰り返して、「また来たね」、「また行くね」ということだけで、現地はもの凄く元気になると思います。
そういう若さの利点と共に、学生である利点だとか、色々な利点を組み合わせていったほうがいいかと思っています。大変なことも沢山ありますが、ボランティアはある意味で労力の贈与ですから、そういうものの価値を見直す、あるいは自分達が役に立った感じを見直す、そういうことに若者は飢えているし、自分達の人生にとってももの凄く重要だと思います。


工藤:阪神淡路大震災の時は、ボランティアのエネルギーをどう形にしていくかということで,NPO法成立の大きな動きに発展していくのですが、今みたいに、被災地を救おうということで若者を含めて一緒に当事者として何かをして、何かを変えていくということに参加していく。この流れも、これからの日本にとって必要です。

早瀬:阪神淡路大震災の時には慣れていないというか、災害ボランティアのコーディネーション自身も、あの時初めて始まったわけです。阪神淡路大震災の時よりも、根本的にはボランティアの厚みは数段増していると思います。

田中:そうですよね。

早瀬:実際には、非常に被災地が広いので、阪神淡路大震災と比べると、密度が凄く薄いのですよ。だから、全然ボランティアがいないという形になるのですが、冒頭に言ったように、これだけ熱い思いでお金をかけてボランティアに行っている人が、これだけいるということは、凄い力ですから、この力を広げていくことは大切だと思います。

工藤:矢野さんが冒頭で、ニーズから入るとこんなにボランティアが必要だ、という話から始まりましたよね。でも、質の問題もあると思うけれど、そのボランティアという数を維持しながら、復興に向けた動きを実現することはできるのでしょうか。


ボランティアに関する目標設定をして取り組む

早瀬:泥出しが終わっている地域もありますから、これは、地域差が凄いと思います。

矢野:私は、大枠ではNPOやNGOがやってこなかったことは、ある意味での数値目標みたいなものを示して、例えば、ボランティアが人口の20%になる社会だとか、そういうことを目指して、自分達の努力目標をそこに決める、そういう在り方が、なかったと思います。これからは電力の制約とか色々なことが起こってきて、これまでの経済の構造が成り立たなくなるような問題もあります。むしろ助け合いとか、市民が課題に取り組むような流れが必要になってきます。そのためには今からでも数値目標を掲げながら努力をしないと、いけないのではないかな、と勝手に思っています。

工藤:田中さんどうですか。その数値目標は、かなり大きい数字ですよね。
田中:184万人ですよね、さっきの数字では。
早瀬:概算。
矢野:福島県とか放射能の問題で入れない地域もありますから、目標は難しいでしょうけど。

田中:阪神淡路大震災の時に、何を根拠にしていたのか不思議な数値ではあったのですが、138万人という数字が報道されていますよね。

早瀬:あれは、後から数えたのですよ。
田中:どうやって。
早瀬:うちにもアンケートがきましたが、何人ボランティアが来ましたか、と。ですから、色々なNPOに聞いているから、今の数字よりも多く数えていると思います。あの数字も、ホンマかいなと思いますけどね。

田中:でも、私は、数字の目標を掲げてもう少しドライブをかける。とにかく、今は元気が無くなってしまっているので、何か目指すものがあったほうがいいと思いますし、それから、現地に行くということ以外のプログラムもできつつあります。例えば、難民を助ける会は、お年寄りの支援者が多いのですよ。そうすると、トートバッグや雑巾を作る。それから、この前、茨城にお邪魔したときも、避難していたお婆ちゃん達が自分で炊き出しをやっている姿もありました。現地に行かなくてもできるものも含めて、何か身近なところでできるプログラムをつくっていく、そういうみんなで頑張ろう、という目標があってもいいと思います。


課題解決のドラマを広く伝染させる

工藤:なるほど。そういう風な気持ちをエンカレッジする仕組み、達成感とか、何かこの人たちは凄いね、というドラマが表にどんどん出てこないと、暗い話だけではボランティアのマインドを強いものにしていくのは無理ですね。東北は8月を越えると、冬の気配が高まり始めます。

早瀬:希望をうまく繋いでいかないと。
工藤:絶望になると、困る。

早瀬:絶望になりますよね。例が悪いかもしれないけど、就活で社長面接を3回落ちると精神的に危ないのですよ。希望があってダメというのは非常によくないのです。ちゃんとした着実な希望を持ってもらうようにしないと、よくない。だから、夢みたいな話ばかりしてもいけないし、だけど着実に被災者のみなさんと一緒にこういう形でやっていきましょう、ということを出さないといけない。過剰に夢みたいなことを言って持ち上げて、やっぱりダメでしたということが一番恐いので、そこだけは丁寧にしていかないといけないと思っています。

田中:課題解決をし始めると、課題にアウトリーチし始めると、物語というか、ドラマが見えてくるのですね。早瀬さんも、よく物語性があるから、人は寄付をしたりボランティアをしたりするのだとおっしゃっていましたよね。

早瀬:いかがわしいものね。元々は。

田中:いろいろ調べてみると、様々なドラマが起きています。私たちはそれをもっと拾って、伝えていく必要があると思います。

矢野:私は今まで数のことを言ってきましたが、本当は数ではなくて、個人から発せられたSOSを1つずつ解決していくということをやらないといけない。つまり、その個人の一人一人の生活の再建に寄り添うという姿勢自体が、ものすごく大切で、それはボランティアしかできないのですよ。

行政から幾らお金の支援策が出てきても、元気が出せるのは、個人の人生と人格の交流でしかありません。そのためにも、今の時期に遠隔地からでも、近場からでもいいから、被災地とつながりをつくるということが、私たちの最初の目標です。


当事者として困難に参加することで市民の力は高まる

工藤:確かに、一人ひとりに寄り添うということは、ボランティアにしかできないことです。この流れは途切れてはいけない、と思います。最後に一言ずつ、これからボランティアや市民の力を高めるためには何が必要か、ということについて皆さんにお伺いしたい。田中さんからどうぞ。

田中:ボランティアと寄付というものも、ある種同じようなものだと思いますが、もちろん相手を支援するということもありますが、私たちが当事者意識を持って成長するためのとても大事な機会だということを、もっともっと認識するべきだと思います。

早瀬:参加の力は、もっと色々なところで確認し合うことが必要だと思います。ボランティアでもいいし、寄付でもいいけど、人が参加して物事を解決するということが、参加を受け付けずに一部の人達で物事を決めるよりもいいのだ、ということを色々な場面で確認し合うことが必要だと思います。

矢野:私は、タイミングよく自分が持っているものを人にあげられる技を、個人がいっぱい身につけていただければと思います。

工藤:それ、非常に本質的で重要な指摘ですね。
矢野:難しいけど。
早瀬:凄い技。

工藤:人を助けたいときは自分が強くならないとだめ。ある程度、人に何かをできるものを持っていないと。でも、これも参加してまず動くところから始めなければいけない。その中で私たち自身が市民として成長できる、と思います。その意味でもボランティアの大きな動きを風化させてはいけないし、さらにその流れを大きなものにしていく必要があります。この議論はまだまだ継続したいと思いますので、またよろしくお願いいたします。

 さて、次回の言論スタジオは、6月14日(火)の18時から「被災地の農業をどう復興させるのか」というテーマで議論することになっています。ぜひ、またご覧下さい。今日は、ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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