原子力に依存しないエネルギー政策は可能なのか

2011年5月23日


第3話 中長期的に原発脱却をどう進めるか

工藤:それでは、引き続き話を進めます。先程、かなり白熱していたので、少し初めに整理をさせてもらいますと、今、日本にある54基の原発の中に、稼働しているものとそうでないものがあります。今の状況を継続したとして、先程のピークの転換を含めて行えば、一応、そんなに問題はないだろうという話ですね。

明日香:省エネは必要です。

工藤:省エネは必要だけど、とりあえず、問題はないだろうと。だけど、今ある浜岡原発は、停止ということになったのですが、原発を全部止めるとなると、何かしらの対応策を考えなければいけない、ということでよろしいのでしょうか。

松下:その前に、現在ある原発がどの程度安全であるかということを、きちんとチェックして、一定の国民的な合意をつくった上で、それからどうするかということです。

工藤:ということは、松下先生の場合は、チェックをして安全性が担保できない場合は、全て止めた方がいいのではないか、ということをおっしゃっているわけですか。

松下:ただちにそうなるとは思いませんが、そういうことを含めて、現在ある原発の安全性を改めて検討しなければいけないということです。

工藤:その場合、先程のエネルギーミックスはどうなるのですか。大丈夫なのですか。

藤野:それがいきなり起こってしまうわけですから、相当厳しいと思います。毎年1基ずつとか、5基ずつぐらい止めていくなら、何とか対処の仕方はあると思います。しかし、いきなり20基、30基が止まるとなると、2000万キロワットから3000万キロワットぐらいが無くなってしまう計算になります。この夏でも、東電管内では、みなさんが相当努力しないと、電力危機はやはり起こるのではないか、と個人的には思っています。

工藤:努力というのは省エネ努力ですね。

藤野:そうですね。再生可能エネルギーは太陽光とかも入るかもしれませんが、間に合わないので、それよりも自主的な自家発電などでもう少しサポートしてもらうということです。しかし、やはりピークシフトや、それぞれの努力は必要だと思います。

工藤:なるほど。でも、さっき、火力発電の止まっているものを稼働させると言っていましたよね。それを稼働させた場合に、今の原発を全て止めるというミックスは描けないのですか。

藤野:ギリギリですかね。

明日香:ギリギリなのは確かです。また省エネ努力というのが、嫌な努力なのか、意外にシステムを変えればできるものなのか、ということは、本当に制度設計次第と思います。

工藤:嫌な努力とはどういうことですか。

明日香:例えば、強制停電なども1つの省エネだと思います。ですが、例えば、夏の時期の電気代を上げますが、冬は電気代を下げるとすれば、トータルで見るとプラスマイナスはゼロなのですが、ピーク時の電力は下がります。それから、夏の昼の時間帯は、電力価格を上げると。そうすると、パチンコ屋さんは休業するかもしれませんが、本当に動かさないといけない病院などはちゃんと動かす。かつ、そういう必要なところに対しては、政府が何らかのサポートをする。色々なやり方はあると思います。


エネルギー政策の転換を市民は共有できるか

工藤:今の話を伺っていると、原発も半分ぐらい動いていない現状において、さっき言った経済の状況も維持しながら、この状況を維持するのはピークのシフトなどを考えれば可能だと。しかし、今動いている原発まで減らすという決断になると、エネルギーの供給について色々と考えないといけない、ということですね。例えば、火力発電にシフトするとか、中長期的には再生可能エネルギーにシフトする。そういうことの論点の作り方や理解でいいのでしょうか。

明日香:かつ、場所にもよりますし、省エネの制度をつくれるか、それを実行できるのか。という問題もあります。カリフォルニアでは、自分たちは原子力は嫌だということで、その代替案を自分たちで考えました。

工藤:それは誰がですか。地域の人ですか。

明日香:そうです、地域の人達が。サクラメントというところなのですが、そこで自分たちの省エネは、こういう風にしようということをどんどん出していきました。ある意味では、日本のエネルギー政策はこれまで、上から降ってきたものばかりだったので、我々の意識改革や制度改革も必要だと思います。

工藤:先程の東電や中部電力など、それぞれが地域独占という形態をとっていますが、その中でもエネルギーの発電量と需給ということの情報はあるわけですか。それに対して、こうすれば地域ごとに、今おっしゃったように、住民レベルで討議できるような材料はあるわけですか。

藤野:そこが、一番問題で、特に需要データというのが、なかなかありません。地域ごとに県レベルなどで、1年合計のデータはありますが、例えば、この工場や家庭でどれぐらい使っているとか、特に、時間帯でどのように使っているかなどのデータは、包括的にはありません。そうなると、先程のピークの話も、どこを押さえていけばいいかという時の問題も出てきます。実は、家庭の電力使用のピークは夜などに出ますから、昼のピークということを考えると、業務用のところや、産業用のところを中心にやっていく必要があります。やはり、敵を知らないと、対策をうまくとれません。そのデータは部分的にはありますが、包括的にはありません。

松下:どうしてないの。

藤野:1つは、電力会社も月ごとにしか検針をしません。スマートメーターなどを入れれば、各自で分かったりはします。

明日香:それが、スマートグリッドやスマートメーターという考え方です。ですが、今まで電力会社は、電力は沢山売れれば売れるほどいいということで、別に節電をしてもらいたくなかったわけです。

藤野:片や、太陽光発電をつけている家は、そういうのが見えるわけです。そうなると、自分の家で発電して、余った余剰電力は48円(キロワット時)で売れますから、そういうのを自分で見ながら売るなどは可能です。

工藤:なるほど、そういうところまでいかないと地域ごとに自分たちのエネルギーの将来を議論するということは、なかなか難しいですよね。

松下:それは、スマートグリッドなり、スマートメーターですね。オバマ大統領が提唱したのは、その辺りまで含めてのことですね。

藤野:ただ、計測するということは目前まで迫っています。その装置を各家庭に入れたり、その後のプライバシーの問題とかで、データをうまく集約させたりとか、そういう仕組みのところまでいけるかどうかだと思います。

工藤:そういう風な、政策的な取り組みというのは、まだ日本ではないわけですね。
藤野:ないですね。スマートコミュニティというような、地域レベルで取り組みはありますが、そこから更に法制度にしていくかどうか、というのはありません。


地球温暖化は原発推進の言い訳なのか

工藤:もう1つ話があって、さっき藤野さんもおっしゃっていたのですが、原子力発電を強化しようという理由の中に、地球温暖化対策や、化石燃料への依存を止めようという議論があったということですね。しかし、一部では、地球温暖化は原発推進の言い訳になっていたのではないかという議論があります。この辺りは、どのように整理すればいいのでしょうか。

松下:まさに、私たちに制御できないリスクが増えてきたのですね。その代表が、原子力であり、地球温暖化です。その両方を、着実に抑えていくべきだと思います。

工藤:地球温暖化と原子力の2つを抑えていくということですね。ただ、地球温暖化と言うことが原子力を進めていくための方便だったのではないか、というところまで議論はありますし、そう疑われるようなところはあります。

明日香:方便にしていた人はいます。かつ、どちらかというと、政策決定者には、そういう人が多かったのではないかと思います。

工藤:つまり、原子力発電を推進する側が地球温暖化を利用したという人がいるわけですね。

明日香:本音は、温暖化なんてどうでもいいのだけど、原子力発電は推進したいと。そこで、建前として温暖化対策を使えば、原子力発電が推進しやすくなる、と考えていたポリシーメーカーはいると思います。ですが、おそらく多くの温暖化対策を推進していたNGOなり研究者は、原発は1つの方策ではあるけど、one of them でしかなく、原発だけに頼るべきだという人は、ほぼ皆無だと思いますし、現実的にも、省エネ、再生可能エネルギーなど、スマートグリッドもそうですし、電気自動車もそうですし、色々な削減ポテンシャルを持つツールの中での1つでしかないのは確かです。

工藤:ただ、日本のエネルギー基本計画を見ると、原発をかなり増やすことと地球温暖化をリンクさせていますよね。何か、日本だけ突出している気がするのですが、いかがですか。


日本の温暖化対策が原発に依存した理由

松下:日本の場合は、エネルギー政策と環境政策が全く別に議論されています。環境政策は環境省がつくっていると思われるかもしれませんが、温暖化対策の重要な部分を占めるエネルギー、とりわけ原子力については、環境省からすると外生変数で、ほとんど関与できず、外で決められているようなものです。

工藤:コントロールできないわけですね。

松下:まさに、一部の関係者だけで閉鎖的に決められているエネルギー基本計画の決定過程そのものを変えないといけないと思います。

工藤:つまり、エネルギー基本計画をつくる人達、つまり経産省は、原発を重要視したいという意識が元々あるわけですね。

明日香:あります。その時に、温暖化対策としての優先順位は、実は低かった。でも、高いと誤解している人がいて、私も、原発推進の御用学者だとネットで批判されているらしいのですが、私は、自分ではそうは思っていません。多分、そう思われるのはなぜかというと、温暖化は起きていないとか、温暖化対策推進はけしからんという懐疑論の人達が、私のことを、温暖化対策推進=原発推進の御用学者なのではないか、との等式で結んでいるのですね。そんなことはないのですが、そういうことを思わせるような、日本の政策決定の在り方というのはあったと思いますし、そういうテレビの広告や新聞の広告があったのも確かだと思います。なので、非常に残念ですし、ねじれていると思いますが、そういう側面は否定できないと思います。

工藤:さっきの基本計画の時に、分離されて政策決定されたのかもしれないのですが、日本において、CO2を減らすために、やはり原子力発電に過大に依存しなければいけない、という論理構造が、なぜ生まれたのですか。世界は、そうじゃないのでしょ。

藤野:先程の、ヨーロッパ、北欧の方になると、最近出たIPCCの再生可能エネルギー特別報告書というのがあって、私も執筆委員をやっているのですが、その中で、再生可能エネルギーの割合を増やしたり、省エネもうまく進めれば再生可能エネルギー主体でも2050年の電力を賄えるというシナリオも出てきています。そういう意味だと、かなり再生可能エネルギーにシフトしているところもあります。日本の場合は、おっしゃったように、再生可能エネルギーを信用していないということだと思います。2020年だろうと、2030年だろうと大したエネルギーにはならないのではないか、というところもあると思いますし、本気で育てようとしていない。まだ、レベルは中学生ぐらいだと思います。コストは高いですし。

明日香:もう1つの理由は、電力会社の地域独占ということがあって、再生可能エネルギーなり、省エネを推進することは、その地域独占を壊すという懸念があったわけですね。だから、電力会社もやりたいと思いませんし、実際に、政府と電力会社の癒着構造というのもありましたので、当然、政府としてもそれほどやれなかったということがあると思います。

工藤:ということは、地球温暖化についても様々な議論が出ているのも確かなのですが、地球温暖化対策を進めるためには、原発でなくても、できるということなのですか。

明日香:逆に、原発があることによって、再生可能エネルギーなり省エネ政策がつまはじきにされた、ということが日本の現実だと思います。

松下:電力会社が地域独占で、送電線も持っているわけです。それに対して、独立した再生可能エネルギーを供給しようとする業者が電力を提供しようとしても、送電線を使わなければいけないわけです。その時に、地域独占の電力会社から、高い送電線料金を請求されたり、あるいは電力の質といって、安定性や蓄電装置の設置を求められて、結果的コストが高くなり、参入が妨げられているという事情があります。


再生可能エネルギーで原発を埋められるか

工藤:すると、さっきの話に戻るのですが、既存の原発を止めた場合に、それによって再生可能エネルギー、風力とか太陽光、バイオマスなどで埋めることは可能なのですか。

藤野:将来のシナリオ次第だと思います。我々も、経産省ではなくて中央環境審議会で、中長期ロードマップというのをつくってきました。それは、2020年に25%とか、2050年に80%、温室効果ガスを減らすとして、どのようなエネルギー需給をすればいいか、ということ、ある意味でエネルギー基本計画に近いようなものをつくっていました。

工藤:それはいつできたのですか。

藤野:それは、去年の12月28日に地球環境部会に答申されているのですが、閣議決定までは至っていません。まだ、日本では気候変動法が通っていませんから、気候変動法が通ると、そのアクションプランとして、ロードマップが役に立ってくるのですが、残念ながらそのプロセスにまだ入っていませんから、黙殺されている状況です。

工藤:すると、今のエネルギー基本計画は去年の6月に閣議決定されましたが、その後、中央環境審議会からそういう計画が出され、実際にあるわけですね。

藤野:あります。その中のシナリオの1つとしては、2050年に、将来原子力を無くしても、何とかエネルギー供給ができるかどうかということです。但し、経済成長自体も若干抑え気味なシナリオにはなり得ますが、違うパラダイムに変えることで、その可能性はあるということを示しています。

工藤:2050年に同じようなCO2の削減をベースにしてということですね。
藤野:そうです、80%削減で、原子力発電はゼロという試算です。

工藤:その時、なぜ、原子力発電はゼロということを想定したのですかね。中央環境審議会は。

藤野:1つの考えとしては、今、2011年ですが、例えば原発の寿命を40年とすると、2050年には必ず無くなってしまいますから、そうするとフェーズアウトしてしまいます。

明日香:幾つかのシナリオの中の、原発を無くすシナリオですね。
工藤:無くすシナリオがそういう風にあるわけですね。

明日香:問題なのは、それがコスト的に大丈夫かどうかという話なのですが、先程も出たように、コストの価格の構造はこの10年、20年、30年で大きく変わりました。それは、できるかどうかではなくて、やるかやらないかの問題だと思います。おっしゃるように、日本のシステム全体を変えなければいけないですし、がんばって変えれば、カリフォルニアや、他の成功している国のように、新しい雇用も獲得できて、CO2も減って、GDPも増えるというデカップリングが可能になるかと思います。そこは、色々な先例を勉強して、できるところは取り入れてやるしかないと思います。

工藤:そろそろ時間も迫ってきたので、最後の質問です。確かに、エネルギーの構造を見直すということは、原発問題について安全性も含めて今後どうするのか考えなければいけない。そのためには、今までのエネルギーの投入をベースにした社会構造をどう変えていくかなど、色々な問題に迫られていると感じました。この問題は、かなり歴史的な重要なタイミングに入っていると思うのですが、みなさんは、この局面をどう認識され、何を考えるべきとお考えでしょうか。1人ずつお話いただけますでしょうか。まずは、藤野さんからお願いします。

藤野:やはり、なぜエネルギーが必要なのか、ということをもう一回見直さなければいけなくて、先程おっしゃったように、今までは経済成長のために、エネルギーを増やさなければいけないということだったのですが、それは途上国型の発展です。そこのパラダイムを変えていく、エネルギーが無くても経済発展できる道を、今まさに探るチャンスだし、日本はそのステージに入っていると思います。


明日香:他の国もそうだと思いますが、日本の場合、色々な神話なり、タブーがあったと思います。原子力もそうですし、技術神話もそうですし、安全神話もそうだったと思います。日本の政治も色々文句を言う人も多かったのですが、何となくうまくいってきたのだと思います。しかし、その根底にあって神話と考えられてきたことが、神話では無くなったのはどうしてなのか、その後、どうすればいいのか、ということを国民一人ひとりが考えるべきだし、そのために、ただ政府を批判するよりも、自分たちでこうしようという風なイニシアティブをとるような動きができればいいな、と思います。


松下:再生可能エネルギーは、高いし、不安定だし、信頼できないということ自体、神話だと思います。ドイツの例を見れば、いろいろな政策手段を導入することにより、10年かければ十分増やすことが可能です。そういう制度づくりと、地域づくりと、雇用づくりと、新しい産業構造をつくる。それを組み合わせれば、できるわけです。また、そうするしか選択肢はないと思います。

工藤:松下先生にもお願いしているのですが、言論NPOでは、政府の環境政策の評価をやっているのですが、政府は地球環境に対する目標設定を含めて、この震災の前からすでにだんだん後退していましたよね、ずっと。今回の原発の問題は、環境やエネルギーを考えるきっかけになりますよね。

松下:新しい発展のきっかけとするべきだと思いますね。

藤野:アジアにいい例を見せないといけないと思います。中国でもこの件はかなり熱心にフォローされていますし、インド、タイ、インドネシア、マレーシアなど、そういう国が、今の日本と同じ発展のスタイルをとってしまうと、資源の供給は間に合いません。

明日香:ある意味では、今の日本は、途上国と全く同じなのですよ。エネルギーの選択肢があって、安い石炭を選ぶのか、安いと思われていた原子力を選ぶのか、それとも高いと考えられている再生可能エネルギーを選ぶのか。日本は、途上国に対して、再生可能エネルギーにしろ、省エネをしろと言っていました。そう言っていた日本が、そういう状況になって高炭素復古のような違う道を選んだら、国際社会に対して、全然、説得力はないと思います。

松下:むしろ、韓国や中国のほうが先を行っていると思います。韓国は大統領が率先するグリーン経済によって、環境や再生可能エネルギーへの大規模な投資で経済の発展と国際競争力の強化を狙っています。中国も太陽光や風力発電の拡大は目覚ましく、特に風力発電はアメリカに次いで世界第2位、中国の太陽光発電メーカーも世界の市場で強力な攻勢をかけています。

明日香:そこも神話なのですよ。


問われているのは僕らの未来選択

工藤:なるほど。僕は今日の議論で、目から鱗ではないのですが、僕たちが普段当たり前だと思っていることを、考え直さないといけない局面にきたのだなと。明日香先生が言っていましたけど、僕たち自身がエネルギーや環境のことを考えなければいけないということですね。そこに、僕たちの生活や将来がかかっている。そういう段階にきたのだなという風に、今日の議論を通じて感じました。引き続きこの議論は行っていきます。
今日は、みなさんありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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