政府の震災復興への取り組みにもの申す

2011年5月13日


第2部 復興構想会議は機能するのか

工藤:それでは復興という問題について考えていきたいと思います。阪神淡路大震災の時は復興という動きがすぐにできて、下河辺さんがやっていた検討会議では官僚の横の連携もできて、何よりも兵庫県、地元の復興の仕組みも同時に動いたわけですね。今回の場合は、1カ月後にようやく政府の方に復興構想会議ができました。その後、議論をしているのですが、私には止まっているように見えます。そのあたりをどうお考えでしょうか。増田さんお願いします。


議論が国民に開かれないのはなぜか

増田:復興構想会議が始まっているのですが、結局、被災地のあり方とか居住をどうするのか、仕事をどうするかとか、に最後は答えを出して立て直しをしなくてはいけない。被災地にいて、とにかくこれから必死になって頑張ろうという被災者と、政府の動きは遊離をしては絶対いけないわけです。会議は6月に第一次提言が出るのであれなのですが、復興構想会議の議論は内容が全く密室的に閉じられていて、資料だけは出るのですが、マスコミも完全にシャットアウトしてやっている。

工藤:そうなのですか。

増田:マスコミも。最近の官邸の会議というのは、私が以前、安心社会実現会議のメンバーで事務局長をやっていた時には、インターネット中継までして、麻生さんの失言なんかもそのまま出て、後で怒られたりもしたのですが、それだけ社会保障の議論はオープンでやりました。そこまでやらなくても、例えば、テレビは頭撮りでいいけども、記者さんはずっと見られるようにするなどの対応をしていたのですが、今回それ自体完全にシャットアウトしてしまった。
工藤:なぜでしょうか。

増田:閉じられた議論をやっている。私はそれだとやはりまずいと思っています。全部議論が終わって、最後に議事録を公開するらしいです。また、名前はなくてもいいと思うのですが、毎回の議事要旨もすごく後になって発表している。2回ぐらい前のもので、ごく簡単なものが2週間経ってやっと公開される。そういう密室の議論をやっていると、いい議論でも、被災者からどんどん遊離していってしまいます。あるいは、東京の方から現地をちらっと見に来て、後は東京で有識者の人たちが色々な絵を描いているなということになりかねない。それを感じたのは、この間、七原則を出したのですが、その時、私は被災地にいて、みなさん方も名前聞けばわかるような方と、これ今、七原則出たのでどうだと言ったら、彼はじーっと見て、やっぱり文章がきれいすぎて、自分たちの苦悩はここには入っていないと言っていました。
 多分、あの有識者の人たちも本当に色々なことを考えて練ったのだとは思うのですが、その中でのお互いの意見の違いとか苦労のところが全然外に出てきていない。結局、きれいごとにまとめたのではないか、という風にこの七原則ですら受け取られている。これからの6月下旬の第一次提言について、そんな風に扱われるのではないかという怖さがあります。今からでもいいのですが、もっと議論をオープンにした方がいいと思います。それから、その人と見ていて、七原則というには文章になってしまっていて長すぎる。どれが原則なのかよく分からない。

工藤:本当ですよね。

増田:「七」というのもちょっと多い気がするのですが、そこまでするなら各原則一行で書かないと、ビジョンは地元主体でとか。これだと文章になっていて、何が原則なのかわからなくて、被災地の方も結局何なのだろうなと言っていました。これからでも修正してやっていくべきだと思います。

工藤:被災者が共感できないような復興の議論はよくないですよね。
石原:その点、復興構想会議の立て方というか、メンバーの選び方とか。
工藤:組み立て方。

石原:組み立て方とかね。そこに私はちょっと疑問を感じます。阪神淡路大震災の時は、国土政策の大家で、かつ実務もよく分かった下河辺さんが座長になって、それでメンバーも非常に数少なかったのですよ。兵庫県知事の貝原くんと神戸市長と、関経連の川上会長。それからアイデアマンの堺屋太一さんに入ってもらって。都市計画の方は伊藤滋さん。実務的に詳しいこの方に入ってもらいました。非常に人数が少なくて、かつ議論が具体的にどんどん進んでいきました。
 今回は構想会議というから構想なのでしょうけど、議論が広遠かつ広範というイメージですね。メンバーを見ましても、著名な哲学者とかあるいは小説家とかいろいろな分野の方がいますが、私の率直な印象としては、実務家、実務経験者というのがほとんど見えません。これから復興構想会議がいろいろなご提言をされていくのでしょうけど、具体的な復興計画に結び付けていくかについては、かなり苦労するのではないかと思います。

工藤:しかも、阪神淡路大震災の時には、復興会議の下にちゃんと実務者が集まる連絡会議もつくっているし、とにかく実行するというイメージですよね。今回は実行するというよりは、アイデアを出すという感じがします。


会議と実行部隊の連動の組み立てがない

石原:そう。あくまで、阪神・淡路の際には復興委員会が議論しているけど、それを受けてすぐ各省庁の担当者が詰めていてそれで具体化するんですよ。そのつながりというのが極めて密接でした。今回、私は構想会議と各省の実務家、事務方がどうつながっているのかよくわからない。そこら辺の流れが良く分かりません。

工藤:だから、アイデアを出すところと実施する仕組みとの連携がよく見えない。後、被災地となり地方との関係ですよね。武藤さんはどう見ていますか。

武藤:復興については、地域住民主体というのがまず第1原則です。これは七原則の中にも入っていますけど、しかし、これは地震が起こった翌日にはもう分かっていることなので何も議論なんかする必要がない。

工藤:議論なんかしなくてもわかりますよね。

武藤:ただ、阪神淡路大震災の場合には、今回と違っていて、一応、まとまった地域であり、兵庫県という比較的経済力のある地域だったので、市街地再開発みたいなところも進んでいけたので、多少事情が違うかもしれません。その点については、私も多少考慮しなければいけないと思うのですが、しかし、今回、東日本の場合には具体的な構想といったところで、何をやるかという具体的なことを考えないといけないわけです。地元重視でやって、具体的なものというところまでいかないと、多分、抽象的なことを言っても、地元はそんな理想的なことを言われても、とてもついていけないということになって、結局、絵にかいた餅になってしまう、という怖れを私は今から危惧するわけです。
 もちろん、ただ単に前に戻るのではなくて、日本の将来を踏まえた中、発展の核となるアイデアを出したいと、復興構想会議にそういう気持ちがあるということは私はよくわかります。しかし、これは、地元住民重視ということとは本来、親和性のない、ある意味相反するところがあって、ものすごく政治側の決断がないとうまくいかないわけです。その覚悟が本当にどこまであるのか、そういうことを全部わかった上で構想会議が絵にかいた餅にならないようにやってもらいたい。まだ6月だから評価は早いわけですけど、やるのであればそこまで考えてやらないと、さんざん議論して、理想的なものはできたけど進まないと。現に、瓦礫の処理と仮設住宅を復旧と言っているのだけど、復旧がこれだけできていない。地元の意見を聞くといっても、そんなことよりもまず瓦礫を何とかしなければいけない、という現場感覚というのがちょっとなかなかついてきていないところがありますね。
 だから、現場重視と、現場が混乱しているということを踏まえると、早く地元をきれいにして、それから構想に地元が参加する。その上で具体的なものをどう考えていくのかです。地に足がついたような、かつての石原副長官のような方が、きちんと手順を考えていかないと、何となく不安を感じますね。

工藤:復興法案というのは、今日、閣議決定をして国会に出したという段階です。つまり、2カ月経ったわけですね。阪神淡路大震災の時は、一カ月あまりで復興関連法案まで16法案くらい出て全部決まっちゃっていましたよね。予算も。

石原:半月後にはもう大体スタートしましたから。

工藤:ですよね。でも、今回はようやく復旧の第一次補正予算が決まり、復興法案が出てきたと。この状況の動きについてどう思いますか。


スピード感がなさ過ぎる

増田:6月に提言があると、おそらく今回は官僚の人達とはつながりが非常に悪いですから、それから多分、各省はいろいろな計画を作って、必要な予算をということになる。で秋になって、やっと色々なことが政府として見えてくるくらいの、こんな時間差があるような気がします。結局、秋までかかってしまう。被災地ではもう待ちきれずにみんなもうジリジリして、早く震災前の3月10日の時点に戻りたい、早く3月10日の時点に戻してくれという声が出てきています。被災直後は茫然としていましたけど、色々な将来のことを考えていかなければいけないという気になってくる。これからの一次提言に向かって色々やるのでしょうけど、復興会議も早くやれるものはどんどん提言をしていく。で、それをもとに各役所を動かす。早く総力を挙げて動けるようにしていかなくてはならない。それから今おっしゃったように、将来については、ある程度気持ちが落ち着かないと冷静な議論につながりませんから、仮設住宅や瓦礫の処理、それから当面の生活費をどう稼ぐのか、ということについても、大至急やらないと。そのあたりについては全体の手綱の締め具合とか緩め具合とかを早くして、責任持ってやることが必要なのだと思います。

工藤:復興法案では、1年後に復興院を作る。このスピード感はどうなのでしょうか。

武藤:どういう理由で1年後ということなのかは私も理解できません。今回の3県の特殊性というのはそれぞれ違います。福島は全く原発という別の問題で苦しんでいる。地域には様々な意見もあり、それをくみ上げながら全体をまとめる、ということが一刻も早く必要だと思います。これらをもし、復興庁をつくってやるというのであれば、1年以内という時間軸はちょっと考えられません。

石原:長いですね。僕は被災地の被災者の現況を考えると、1年後に何か考えましょうというと、とてもそんな状況じゃないと思いますよ。すぐにでも何か手を打たないといけない状態にあるわけです。
 復興庁をつくるか、つくらないかはこれから国会で論議されるのでしょうけど、つくるなら早くつくるということと、復興庁には、現地の意見をどんどん汲み上げて、実行に移せる権限を与えなければいけません。せっかくつくっても、結局、各省や官邸に相談してというのでは駄目ですよ。作るなら現実主義、それから権限を与えて即断即決できるような体制をつくる、ということが絶対必要ですね。
 そのことに関連して、実は阪神淡路大震災の時は、幸いなことに、あれは自社さ連立政権でした。

工藤:そうですね。

石原:国会は参議院も衆議院もねじれではなくて、過半数を持っていました。ですから、3党が一致結束して対策に当たる。かなり性格の違う自民党と社会党、さきがけという元々カラーの違う政党ですが、大震災への対応というのはそういう政党の違いなく一致団結して、どこの党出身の閣僚でもとにかく全力でやるという閣内の結束というか、気迫というのが非常にありました。そういうこともあって、必要な法案を準備したら、衆議院も参議院も次々に国会が処理してくれたわけですよ。それから、もちろん野党は野党としてのご意見がありました。
 私もよく官邸で野党の意見も承りましたけども、野党も国会審議を止めるようなことは全くありませんでした。意見は言うけど、どんどん進めていく。その点、今回は非常に残念なことに衆議院と参議院がねじれています。しかも、震災が起こるまでは与野党の攻防戦が激しかったわけだから、何となくそういうことが、政局絡みのような臭いがしながら問題が出てきている。これは、非常に不幸なことだと思います。私は今回、被災地の皆さまの現状を考えれば、与党も野党もそれぞれの今までの体面はまず棚上げして、被災地の皆さんのことを第一に考えて、政策合意というか法案ごとに意見を統一して、法案はその代わりにどんどん上げてほしいですよ。例えば、財源をどう捻出するかという話になると、既定経費の何を削るかという話でそれぞれ思惑があるけど、そういう思惑は捨てて、被災地の復興第一で与野党が議論してほしいですね。

工藤:政治の話は関心があるので、またあとからもう一回進めますが、実行の仕組みはどういう風に組み立てたら機能するのでしょうか。つまり、閣僚会議と復興構想会議だけで機能するのか。増田さんは昔、「東北復興院を作ろう」と言っていましたよね。

増田:今、お話にあったように、屋上屋になったり、二重手間になったら大変ですから、下手な組織を作って、結局、そこを通さなければダメということは避けるべきだと思います。要するに、一番大事なのはそうした組織は現地にあって、意見の違うところは別にしても、当面やらなければいけないことはわかりきっているわけですから、そういうことについてスムーズに働くような強力な組織を作るということが大事で、つくるのだったら1年待たずに早くつくる。そして現地で決められることはどんどん決めて実行していく。

工藤:なるべく現場でなければいけないと。しかし、権限がないといけない。屋上屋を重ねるような組織を作ることが目的ではなくて、実行するための組織をつくらなければいけない。

増田:そういう組織がやっぱり僕は必要だと思います。
工藤:分かりました。ここでもう一度、休憩してまた次に進みます。

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