大震災から宮古市はどう再生するか ― 山本市長に聞く

2011年11月30日

2011年11月11日(金)
出演者:
山本正徳氏(岩手県宮古市長)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

インタビューは11月11日に行われました


第1部:宮古市の復旧はどこまで進んだか

工藤:今日は宮古市の市長の山本正徳様にお越しいただきました。本日で震災から8カ月になりますが、今、宮古市の復旧の状況はどうなっているのか、まずお話いただけますか。

山本:被災者の生活は、仮設住宅などに入って徐々に安定してきています。そして産業の再生の方も6割~7割は戻っています。

工藤:そんなに戻ってきているのですね。

山本:宮古市はそうです。ただ、被災地全体を見れば50%しか戻っていないと思っています。これを早急に進めていかないといけないのが今の課題です。
あとは瓦礫の処理が非常に大きな課題です。

工藤:この前、東京都が瓦礫の処理を引き受けると申し出ましたが。

山本:ええ、東京都が先例を作ってくれたので、今、広域での処理を検討している自治体が多くなっています。

工藤:避難された方は、今はほとんど仮設住宅に入ったという状況なのですね。

山本:ええ。避難所はすべて閉鎖しましたので、仮設住宅あるいはみなし仮設住宅、これは公営や民営のアパートですが、被災者は皆さんこちらに入りました。そういう意味では住むところは確保しました。

工藤:そうですか。それは単なる仮設ではなく、ある程度常設的な住まいでもあるのですか。

山本:まあ、市営や民営のアパートは長く住もうと思えば住めますが、あとはどこまで国が家賃代を負担するのかが問題です。

工藤:瓦礫の処理はどのような段階にきているのでしょうか。

山本:瓦礫を仮に置く場所、一時処理ですが、そこに8割くらいの瓦礫を収めた状況です。まだ解体していない建物も若干残っていますが、ほとんど処理が進んでいます。それで今、分別をしている段階です。それを地元で処理できる分と、処理の許容量を超えており広域にお願いしなければいけない部分に分けている段階です。

工藤:それはどのくらいの時間がかかると想定されていますか。

山本:地元だけでやるのであれば10年以上かかりますね。10年とか100年かかるのではないかと言われるくらい、被災地だけでは処理能力が無いので、広域でやらない限りなかなか難しいのです。

工藤:そして、今、雇用・産業の再生という段階に入ってきているのですね。産業は6、7割くらいは戻っているとのことでしたが、宮古市の場合は漁業が中心ですね。

山本:漁業というよりは、漁業を中心とした製造業や商業です。それから物流の部分がまだ再建されていません。あの地域は経済的に弱い地域で、資本も無いような状況です。自力では再建できない現状です。そこの部分に資金投入があれば、再建してくると思います。

3段階で実現をめざす「宮古市復興計画」

工藤:産業の面は、復興計画を見せていただきましたが、これにはどういう手順でやっていくかという方法論が書かれていました。私がお聞きしたいのは、この「宮古市東日本大震災復興計画」という資料で「復旧期」、「再生期」、「発展期」と3つの時期に分けていますが、どれくらいでそれぞれのステージに持っていくことを考えているのか、それにどのくらいのお金がかかるか、それを、政府が出している第3次補正予算やそのほかの動きがどこまでカバーできているのか、ご説明いただけますか。

山本:まず、経済が今マイナスの状況なのでそれを限りなくゼロに近づけるというのが「復旧期」です。今それを必死にやっている状況です。ですから3年以内にゼロにしようとしています。

それから先の部分については、自分たちの努力も要りますが、6次産業化とよく言いますが、新しい形に持っていかないといけない。これから先、災害等が起こったときに、また同じようなことになります。ですので、これを契機に今よりももっとステップアップしたような産業形態を作っていかないとならないと思っています。

工藤:するとまず経済はマイナスをゼロにすることに取り組んでいくわけですね。それにはどれくらいのお金がかかるのでしょうか。また、今度の第3次補正予算でカバーされている状況なのでしょうか。

山本:第3次の補正予算をあてにしているというか期待している面はあります。要するにお金が無ければ絶対にマイナスの経済は上向きません。また、二重ローンの問題もまだまだあります。それをカバーしてゼロにもってくるのに、3年程度かかるのではないかと見ています。

工藤:第3次補正予算案の中身は公表されていますよね。この段階ではまだ案ですが、これで問題ないのでしょうか。

実施が遅れれば、コストが高くなる

山本:たぶんあの程度の規模で大丈夫かとは思います。ただ、先になればなるほど、コストが高くなるのです。今の時点で投入すればある程度の額で済みますが、これが3カ月後、半年後になりますと、やはり1.5倍のコストがかかる可能性があります。

工藤:ありますね。急がないといけない。
山本:逆に言えば、金額の問題もありますが、時間との勝負という部分もあります。

工藤:第3次補正の場合、宮古市としてこの政策が非常に機能するとか、これで何とか経済をマイナスからゼロに引き上げることが出来るとか、というのはありますか。

山本:グループ補助金の問題ですね。
工藤:それは何でしょうか。

山本:国と県で4分の3を補助するという制度です。個人に国がお金を出すわけには行かないので、そこでグループを作っていただいて、そのグループにお金を投入していく、と。要するに共同体みたいなところに資金援助をするものです。

工藤:共同体というのは、宮古市の中に。

山本:市の中にいろんな仕事をしているところがあります。製造業があって、商業があって、物流の運送業があったりします。そういうものが1つのグループを作って、この一体となった産業形態の中に補助をして、それらを同時に再建させていくということです。

工藤:なるほど。そのグループの人たちは1つのプランニングを作らないと資金援助してもらえないですよね。

山本:そうです。それで宮古市のほうでは、産業支援センターというところのコーディーネーターがそれらを結びつけて、有機的にこれからもこのつながりの中でやっていけるようなグループを作って、そこに資金投入させるという形を作っています。

工藤:それは効果が見込めますか。

山本:ところが、これが第1次補正のときに、あまりにも要望が多くて補助の額が足りなくなってしまいました。それでなるだけ多くの人にやらせたいということで、県では一律3分の1にカットしたのです。その結果、今は4分の3の補助が4分の1の補助になっています。

それで今度、3次補正の中で、足りない部分のところもカバーするような補助のメニューが入っていますので、それがきちんと手当てされれば産業再建は出来ると思います。
ただし、問題は時間です。4分の3を補助すれば何とかなるところを4分の1しか補助されていませんので、長引けば長引くほど、ダウンした経済が本当に戻るのか、これは難しいところです。

工藤:なるほど。インフラの面はどうなのですか。ほぼ計画があって元に戻れるような姿が描けていますか。

インフラは震災前に戻すだけでは機能しない

山本:元々インフラ整備は進んでいない地域です。震災前の段階に戻しても、結局、街全体が機能しないのです。このため、もう一度インフラ整備について考え直さないといけない。津波の対策も含めて。例えば防波堤の整備も、道路にしても、あるいは都市計画にしても、これらをもう一度見直して作り直すことをしないとなかなか進まないのです。

工藤:それに関しては今どのように進んでいるのですか。かなり重要な問題ですよね。

山本:道路に関しては三陸縦貫道、三陸北縦貫道、それから横軸の宮古盛岡横断道路という、大きな道路は国がやるように、第3次補正の中にも調査費を入れていますので、これは進むと思います。

工藤:国が進めていくのですね。

山本:宮古盛岡横断道路は3桁国道(二級国道)ですので、国道でありながら県管理なのです。県が本当は整備しなければならない国道なのですが、それを直轄権限代行で国が直接整備するとはなってきています。ただやはり10年間の間に整備するので...、

工藤:それは10年間で整備となっているのですか?

山本:10年以内にと、国交省のほうで言っていますが、しかし途中で何かあった場合にきちんとできるのかまだ不透明な部分があります。

工藤:これは安全とか安心の段階から、インフラをもう一回見直すとのことでしたが、これにはプランニングはあるのですか。例えば防潮堤についてなど。

山本:プランニングはあります。防潮堤の部分は、国や県が考えているのと市町村が考えているもののマッチングが出来ている部分と、まだ議論している部分があります。

工藤:そうですか。最終的には市町村と国・県がどうすり合わせればプランニングは完成するのですか。

多重防災の街づくりに

山本:今までは、防波堤をつくれば防波堤でもって防災は完璧だという考え方でしたが、今回、防波堤を津波が軽々と超えて襲ってきました。それで防波堤だけでは駄目なので、多重防災ということで、防波堤プラスかさ上げするとか、防波堤のほかに国道を高くするとか、鉄道を高くするとかして、2重にも3重にも波を弱めるようなことをする。それから避難道路等も含めて、ソフトの面の対策もとる、と。こういった街づくりをすることが決まっています。
ただし、やはり前提となるのは、防波堤をどこに、どのくらいの高さでつくるのか、それから水門を作るのか、川に津波を少しあげてやるのか、いろんな方法をきちんと決定しないと次が決まらないのです。

工藤:それはいつ、誰が決めるのですか。

山本:それは国、県、市町村で決めます。それが今提示されてきていますが、まだ一部、自治体のほうとして受け入れる部分と受け入れられない部分のすりあわせが出来ていません。

工藤:すると、インフラについてはいろいろ動く意思はあるけど、まだ調整局面なのですね。具体的にプランが決まって動いていく段階にはきていない、と。

復興計画には住民も参加

山本:そうです。今、復興計画は基本的なものは決まり、多重防災型で新しい街づくりをしていきましょう、と。しかし具体策は、今、推進計画を宮古市の場合は来年の3月までにつくりましょうと言っています。その推進計画の中に防潮堤をどうするのか、道路はどうするのか、それから都市計画や区画整備等もどのようにするのか、どこの場所にやるのかを議論しています。なにせ33カ所の被災地域がありますので、そこの住民と1つ1つ街づくりの形を話し合って作っていきます。

行政が一方的につくりますと、自分たちはそんな街なら住まない、となります。ですから、自分たちで考え、自分たちでつくっていくのだ、というものが無いと駄目なのです。

工藤:今の話を本当は一番聞きたかったのです。つまり、これは基本的な考え方は決まり、実際のプランニングは市民を含めて考えていくということですね。

山本:この復興計画も市民に参加してもらってつくったのですが。

工藤:これからはどういう風な形で、地域で議論を始めるのですか。

山本:もう始めています。33の地域の中で、高台に移転しなければならない、住居の面では移転する以外に方法は無いところは、33の中で23カ所あります。あとの10カ所は、どのような街づくりをするかによってそこの街の形態が変わってきます。そういった話を、今そこの地区の代表の方々と市が話し合いをしています。それで話し合いが出来た段階で、今度はそこの地区民の方に「こういう案でどうでしょうか」ということで意見を聞きます。そこで揉まれて、パブリック・コメントが入ります。そしてその中で、3月を目処にしますので、その前の2月ごろになったら私に案を出していただきます。それで最終的に市のほうでOKを出します。

工藤:市が認めれば今度はどうなるのですか。

山本:そうすればその計画通りに進めていくことになります。市が決めれば、県や国とは関係なく進めていきます。その間に、市は「こういう場合にはこう」という風に、結局ここまでしか国の制度の中にはないとか、逆にこれは問題ないとかいう話を全部住民に伝えながらその話し合いをしていきます。

工藤:なるほど。そこで県が横槍を入れてくるとかという話ではないのですね。

国、県とよく相談して

山本:そんなことはないです。ただ、今の法律の中では、こういうことは出来る、出来ないはあります。それが今までは地震しか見ていません。津波防災の観点では見ていないのです。だから、復興庁なり復興特区をつくって、その合わない法律を変えるのも良いですし、とにかく柔軟に対処することが出来るようにすべきです。あとは財源の問題がありますから、この問題は国や県とよく相談しながら進めないといけないのです。自分たちだけやろうと思っても、やれるだけのお金があればいいですが、難しいです。出来ないのであれば、そこは話し合いになります。例えば、3兆円ならいいけど5兆円は駄目だとかいう話になれば、計画の中でどこまで妥協できるのかを考え、それによって街づくりが変わってくるかもしれません。その辺は少し国や県と話し合いながら進めないといけない。

工藤:いろんな法制度に対して、この非常時で上乗せしたりとか、変えるべきだとか皆さんそういう意思なのですか。今回、復興特区という役割になるのでしょうけど。

山本:そうなのだと思います。いろんな特区がありますが、法律で制限されている部分は結構多いのです。例えば、高台に移転するにしても、移転した土地は市の土地ということで、借りて家を建てることになるので、自分のものにならないなどの意見もあります。そういう本当に首をかしげるような例もあります。

それから浸水した区域を買い上げるとか、やはり集団で移転しない限りその法律は使えないとか。10戸以上移転しないと使えないことになっていましたので、それを5戸まで下げてきていますが、他にもいろんな制限がかかっています。その辺も考えながらやっていかないといけない。
1つは法律をどうするか。また法律が現実と合っていない部分をどうするか。あるいは法律が3つ、4つある中でどれを使うかを考えながら、住民にも提示しながらやっていかないといけないのです。

工藤:高台に移転するというのが結構あったようですが、高台移転の場合、僕たちはイメージが出来ないのですが、どういう風に移転することが可能なのですか。

高台への移転と住宅資金の問題

山本:高台移転の場合は、高台の部分に造成してそこに団地をつくるのです。団地を作って、浸水した地域の方々に移り住んでもらうという形になると思います、

工藤:すると費用は自治体側が負担するのですね。

山本:大体は自治体がその造成するのですが、これにはいろんな手法があるのです。例えば、民間がつくったところを買い上げるという方法もあるでしょう。それは今後具体化するでしょう。

工藤:移転する人はどうするのですか、そこを所有するのですか、それとも賃貸ですか。

山本:そこは今の法律の中ではそこは借地になるのです。借地の上に自分たちで家を建てるのです。

工藤:家を建てる際の資金はどうしますか。

山本:それは自分たちで出します。ただ、浸水した地域の土地を買い上げてくれという話が出てきます。その土地を持っていても結局はまた津波がくるようなところには住めないのです。しかしそれは時価で買い上げるようなことになれば、今の時点ではかなり時価は下がっています。3割くらいの値段にしかなりませんので、資金不足に陥る可能性もあります。

例えば自分が移転する場合に家を建てるお金がネックになります。それでどうしても建てられないような人の場合は、災害対策の住宅をつくるとか、アパートを作るとか、そういうこともしていかないといけないと思います。

工藤:まず移らないといけない人はそのものにローンがある場合もありますよね。売れないとお金が無いし、それでまたお金を借りないといけないという絶望的な人もいるのではないですか。

山本:中にはいると思います。それを1人ひとりピックアップしてサポートしていかないといけないと思います。

工藤:ですよね。行政の住宅があってそこに引っ越すだけでもいいのですよね。いろんなメニューはあると。
では今のところは何か決定的に問題があるのではなく、なんとなく動きそうな感じですか。

山本:あとは話し合いがどう進むかですね。「これであれば納得するが、これは納得できない」というのは必ず話し合いの中に出てきます。ですから、その割合がどのくらいなのかというのがあります。

それからニーズを全部つかんでいかないといけないので、その作業がかかります。しかし結構時間があるようでないのです。だから11、12、1、2月の4カ月の中で街づくりをしていかないといけない。

工藤:確かにもう時間が無いですよね。冬になれば雪だらけになりますし。

山本:今、その問題もあります。仮設住宅が寒冷地仕様ではないということで、これも様子を見ないといけません。今その対策を打っていますが。

工藤:つまり国の復興・復旧についての推進はかなり時間がかかりすぎていますね。もっと前にやることは出来たはずでしたよね。

山本:できました。お金さえあれば出来ますので。

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