東日本大震災における寄付金の偏在について

2011年11月23日

第1部:寄付金にまつわる疑問を解きほぐす

 工藤:こんばんは。言論NPO代表の工藤泰志です。言論NPOでは私たちが直面する課題をみんなで一緒に考えようということで、このスタジオでさまざまな議論を行っています。今夜は「東日本大震災における寄付金の偏在」という問題について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

まずゲストの紹介です。僕たちのNPOの理事でもある大学評価・学位授与機構准教授の田中弥生さんです。田中さん、よろしくお願いします。

 田中:よろしくお願いします。


工藤:その隣、日本NPOセンター代表理事の山岡義典さんです。山岡さん、よろしくお願いします。

 山岡:よろしくお願いします。


工藤:その隣が中央共同募金会広報企画副部長の阿部陽一郎さんです。阿部さん、よろしくお願いします。


 阿部:こんばんは。よろしくお願いします



義援金と支援金との違いは

工藤:東日本大震災から8ヵ月も経ったのですが、被災地の問題は、まだまだ解決しなければならない課題がたくさんあります。しかし、この間、全国から多くの支援が被災地に集まりました。今回はこの問題を考えてみたいと思っているわけです。

各団体で、義援金・支援金という言葉を使っていて、義援金というのは現金のお見舞金なのですが、約3000億円以上集まった、と。NPOなどへの支援金も300億円集まったと聞いています。被災地に多くの人の寄付が集まっている一方、どこに寄付したらいいかわからない、という人もいらっしゃったと思います。その中で、多くの人に知られている団体には寄付金がたくさん集まり、知られていないけど活動していて、本当はお金が欲しい団体にはなかなか集まらなかった、という話も聞いています。

こういう問題を今後どのように改善していくかというのが、今回の話し合いのテーマです。言論NPOは言論スタジオの開催前に、緊急アンケートを行っています。今回も50名ほどの回答をいただきました。前回の留学生の減少についてのアンケート同様、皆さんすごく色々な意見を書いてくださいました。やはり多くの人がこの問題に関心があるのだな、とわかったのですが、「東日本大震災では多くの寄付金が寄せられました。あなたは、今回の震災で寄付を行いましたか。」という問いでは、90%近い方が「寄付をした」と答えています。この番組を見ている、アンケートに回答くださった方のほとんどが寄付をしたということです。

まず、こうした寄付の実態がどうであったかということについて、田中さん、簡単に報告をお願いします。

田中:まず、寄付といったときに、物による寄付とお金による寄付があると思います。今日は、お金の寄付の話をします。物の寄付の偏在は大変なことになっています。

お金による寄付の動向を20年ぐらい見ておりますと、1995年の阪神・淡路大震災の時に、寄付の額が一挙に増えました。当時の前年比で倍増したぐらいです。そのときの額が約6000億円です。翌年には半額に戻りましたが、今回の東日本大震災では、6月の時点で6000億円近くいっています。もうすでに、阪神・淡路大震災のときの額は超えているでしょう。このように日本全体で見たときに、寄付の額は増えています。先ほどアンケート調査の内容を示しましたが、日本ファンドレイジング協会がすでにもっと広い調査を行っていて、そこの結果ですと、寄付をした人の割合は少し落ちて、76.4%、つまり8割近い方が寄付をしています。言論NPOの会員の方は寄付の意識が高いのかもしれませんね。それにしても非常に多くの人が寄付をしたのですが、それは大体が募金箱か職域の募金で4割ぐらい、あと街頭募金、ネット募金は25%ぐらいでした。寄付をしたのですが、寄付の場所は一般的であったと思います。

偏在の話なのですが、偏在は大きく2つに分けて考えたほうがいいと思います。義援金と支援金という話がありましたが、赤十字を通して被災者の方々にお見舞金としていく、私たち日本人が最も慣れている寄付金の「義援金」は、いろいろな数字があるのですけれど、中央共同募金会の阿部さんのご発表になったデータですと3500億円ぐらいいっているだろう、と。そして、お見舞金ではなく、被災地で活動しているボランティアの方達への寄付を「支援金」と呼んでいるのですが、これは290億円から300億円ぐらいだと推計しています。ですから、まず「義援金」と「支援金」の間にも大きな隔たりがあるということです。さらに言えば、この「支援金」の団体への配分に関して、かなりの偏在があります。寄付を集めて自分達で使うというよりも、いろいろな団体へ配分しますという仲介団体が今回、目立ちました。その中でも、ジャパン・プラットフォームと日本財団と中央共同募金会、ここで90%ぐらい占めています。他にいろいろ団体はあるのですが、合わせても10%ぐらいで、ここにも大きな偏りがあるというのが実態です。

工藤:なるほど。山岡さん、資料から見ると山岡さんの日本NPOセンターにも寄付が集まっているのですが、どのような状況だったのでしょうか?


支援金は偏在して構わない

山岡:私ども日本NPOセンターは現地のNPOを支えるお金が必要になると考えました。全国区の団体はファンドレイジングの力を持っていますから、これから生まれ育ってくる現地のNPOをしっかり支えないといけない、と、現地NPO応援基金というのを作りました。僕らは実力から言っても年間1億円ぐらいが限度です。今回1億3000万円集まりましたが、これ以上集まっても使い切れません。僕たちとしては使える能力として年間1億円で1年続くか、2年続くかというところです。

偏在についてですが、義援金は偏在しちゃいけないというルールの下で、各自治体は苦労して赤十字や共同募金から集めたものを配分していきました。偏在は許されないのだ、と。しかし支援金について、私は基本的に偏在するから良いのでね、全体を見て、みんながバランスとってやったら、それはお役所と一緒のお金になっちゃう。だから僕は、どういうバランスが良いか、テクニックの問題はありますが、共感した団体を自分で選んで寄付をする、で良い、と。偏在するから、民間支援は良いのだと思います。「公平に」にとらわれ過ぎると、それはもうお役所と一緒になってしまうから、なにも民間でやる必要は無い。そういうのは税金でやったらいいわけですよ。そういう感じを持っていますので、むしろ、民間支援で、非常に重要な「偏在が許されている支援がある」というのが、行政とは別の支援の仕組みとして意味があると思っています。

工藤:山岡さん、偏在の話はまた後からやりますが、山岡さんのところは「実力から言って1億円ぐらいが限界」というのはどういうことですか?


資金仲介組織は寄付金の中から管理費をいただく

山岡:お金を使う能力というのがあると思うのですよ。ただ均等に配っていくだけではなくてね。我々は市民社会創造ファンドというセンターを作って10年ぐらいやってきましたが、助成するということはすごくエネルギーが必要です。きちんとしたところにきちんと出して、現地に行って会って、その後どうなったか見る、それは非常に重要な役割だと思っています。だから僕らは、募金をする時に「15%は管理費に使います」ときちんと書いてやっています。実際に助成するお金の20%ぐらいを確保しておかないと、質の高い助成は出来ません。中間団体、資金仲介組織は費用をとるか、あるいはとらないなら、自分でどこかから用意しないと、資金を運用できないと思っています。

工藤:ということは、山岡さんのようなNPOの全国的な中心的組織でも1億円ぐらいがちゃんとした支援、助成をする際の限界だ、と。

山岡:スタッフを急に増やせればいいのですが、1人や2人でやるとなるとそうですね。日本NPOセンターと市民社会創造ファンドが共同して助成しているのですが、市民社会創造ファンドで年間やっている助成金が1億円ぐらいです。そうしますと、うちのスタッフでやるのも年間1億円が限界だね、という話です。

工藤:わかりました。中央共同募金会は義援金と支援金の2つを担いましたが。


中央共同募金会は義援金と支援金の両方を集めた

阿部:そうですね。この震災が起きてから、被災された方へのお見舞金となる義援金を、最終的には日本赤十字社と同じルートで、同じように自治体に全額送金するものとして集めています。それから、支援金の中でも、さまざまな被災地で活動をしている団体に対して助成するための募金、「災害ボランティア・NPO活動サポート募金」で「ボラサポ」と呼んでいますけれど、これが今現在約30億円です。私たちは、義援金を377億円集めましたが、寄付した方々はホームページ等を見て、ちゃんと選んで募金してくださいました。これは義援金、これは支援金と。

また、先ほど、田中さんから「今回は募金額がとても多い」というお話が出ました。それだけではなく、震災が起きてから私どもの団体への電話で、もちろん「義援金の振込口座はどこですか」という問い合わせも多かったのですが、「とにかく何か出来ることはないか」「駅前で街頭募金をしたいので、募金箱を貸してくれないか」「どうすれば自分たちで募金活動できるのか」という問い合わせの電話が非常に多かった。今、私どもの方ではホームページに特製のラベルを置いています。赤い羽根共同募金としては、それをダウンロードして、箱に貼ってやっていただくことにしています。やはり、お一人おひとりが、実際にボランティアに行けなければ何が出来るかということの1つの行動が寄付なのかなと思っています。

工藤:義援金の仕組みをもう少し解説していただきたいのですが、集まったものは、どうやって配分するのですか。

阿部:これまでも、もちろん阪神・淡路大震災のときもそうですが、基本的に義援金を募集する団体は、赤十字社、私ども中央共同募金会、また地元のメディア、マスコミの皆さん、また、被災した県庁、行政のみなさんが受け皿の口座を作ります。ここで、赤十字社も私どもも、直接、被災者の方に配分は出来ません。何故かというと、その個人情報を持っていないからです。ですから、必ず被災した県庁、市町村役場で、お一人おひとりに罹災証明といって被害状況、例えば全壊であるとか半壊であるとか、証明が出ますから、それに基づいて被災市町村の役場が被災された方々に振り込みなり送金をするという形になっています。

工藤:つまり、集まったお金を役場に流すということになるわけですね。

阿部:そうですね。

工藤:そうすると、赤十字と同じスピードで動くという感じになるのですか。共同募金会だけ先に動くことは出来るのですか。

阿部:これは、赤十字、共同募金会、被災した県庁に来た分を合わせて、被災した県庁ごとに1人当たりいくらという割合が決まっているのですが、3つ合わせたものをお渡ししています。

工藤:その分配はどこが決めているのですか。政府ですか。


義援金の配分は「割合決定委員会」で

阿部:義援金については、割合決定委員会が作られています。これは、厚生労働省が入って作っているのですが、赤十字社と私ども共同募金会に寄せられたお金を、全額必ず被災自治体に送金するにあたり、各自治体でおおよその被害状況を発表していますから、それに基づいて是非これだけお渡し下さいという額を決めます。それに、先ほどもお話した被災した県庁・市町村役場で直接集めたお金が上乗せされ、最終的に被災された方々に届けられます。

工藤:共同募金会は377億円、赤十字はどれぐらいだったのですか。

阿部:圧倒的ですね。もう3000億円近い。赤十字社は頻繁に今の義援金の額を更新しています。

工藤:今も増えていますか。もう募金は終わりという感じですかね?

阿部:ピークと比べるとだんだん落ちていますね。

工藤:わかりました。今、お話を伺っていると、義援金と支援金を分けながら議論しないといけない感じがしました。まず田中さん、義援金の問題は、どういうところにあるのでしょう。


メディアが取り上げた義援金「遅配」をどう考えるか

田中:義援金の問題に関しては、メディアがこんなに頻繁にとりあげたことはなかったと思いますが「遅配」ですね。私たちが寄付した義援金が、なかなか被災者の方々に届かない、こういう声が寄付者からもあがりましたけど、メディアが5月以前から義援金の遅配ということをとりあげて、では、義援金はどういうメカニズムで分配されるのかを話題にしていました。それから夏ごろになってくると、自治体によって配り方が違うとかですね、家の全壊は罹災証明で認められても店の全壊は認められないというような、末端の分配の仕方に関しては自治体の中での判断、裁量がありましたから、そこでの不公平感について、かなりメディアが議論をしていたと思います。

工藤:阿部さん、今の遅配なのですけれど、これまでと比べて今回は遅れたという認識でしょうか。

阿部:今回は、これまでの災害に比べてあまりにも規模が大き過ぎます。被災者の数が、今までの比較にならない。被災した市町村の自治体職員の皆さんも大きな被害をうけている。

工藤:届ける人たちが被害に遭っていると。

阿部:はい。ですから、確かに被災された皆さんにとって分配は早いほうがいい、寄付した人も早く届けて欲しいというのはわかっているのですが・・・。

工藤:山岡さん、時間が無いのですが、義援金の問題に一言お願いします。どういうところに問題を感じていましたか?

山岡:遅配の問題は、行方不明の人は死亡が確定しないと払えないですからね、ある程度やむをえないと思いますが、配れるところから配っていって、増えたらプラスアルファで配っていく仕組みですとか、そういうのはあっていいと思います。あと、義援金を知らないで、いろいろなところから相談がありました。義援金を集めて配りましょう、と。ですから、義援金と支援金は違うのですよと説明するところから始めることになる。阪神淡路大震災のときは義援金しかありませんでした。今回は義援金と支援金の違いがわかるのに、少し時間がかかったということがありましたね。

工藤:わかりました。義援金募金総額の9割の3050億円が今、都道府県に送金されているそうです。ではちょっと休息を挟んで、次の議論をしたいと思います。

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