第2部:寄付者の思いに応えた使われ方をしているか
寄付金は適正に使われたのか
工藤:それでは、引き続き議論を行っていきたいと思います。今、状況を皆さんにも理解していただきたいということで、説明してもらいました。
私たちのアンケートでは、この偏在問題を含めて、皆さんからの意見を集めました。その意見を簡単に紹介します。基本的には偏在の前に、義援金を含めて適切に使われたのか、ということに関する意見がかなり多くありました。あと、偏在というのは、先程、山岡さんがおっしゃられたように、ある意味では当然なのだけど、本当に寄付をしたいこところが見えない。だから、共感を呼ぶ以前の問題で、何となく分からないから、という状況があるということを書いている人もいました。ほかに、寄付者に対する説明があまりない、と言っている人が多くいました。今回、ちょっと注文を出される方が非常に多くいました。いくつか紹介しておくと、まず、義援金のところについてはかなり意見があるので、皆さんから、説明をしてもらいたいと思います。
50代のNPO関係者から「個々に良い活動をしているNPOがたくさんあるにもかかわらず、名前が知られていないため、結局、赤十字などに寄付した方が多い。しかし、赤十字の対応は「一日でも早く」という市民の要請にこたえるものではない」というご意見でした。あと、メディアの問題もありました。市民社会に対する知識や認識がメディアを通じてもあまりないので、結局、ユニセフや赤十字に出してしまう。それから、「寄付金が本当に有効に使われているか、システムとお金の動きをわかりやすく公開する必要がある。赤い羽根共同募金のように肥大化し過ぎた組織では、運営費に相当使用されてしまうのではないかとの疑心暗鬼も感じる」と、60代の経営者の方の意見です。
赤十字に対しても、かなり硬直的で、寄付は人件費に使われてしまっているのではないか、と。半分ぐらい使われているのではないか。やはり、ちゃんと公表すべきだし、お金集めというところも既得権益化されているのではないかなど、そういう声がかなりありました。海外からどこかに寄付をしたいといっても、どこがいいか分からないということで、赤十字に相談したところ、赤十字に、受け取れないと言われた、と。それから、拒否されたという声がありました。
私たち言論NPOで一緒にやっている、ドクターヘリの理事長の国松さん(元警察庁長官)も、友達にどこかに寄付したいと相談されても、本当にどうすればいいかわからなかった、と。赤十字だけは紹介したくない、と彼は言っていましたけど、ただ、困ったと言っていました。この辺りについては、阿部さん、いかがでしょうか。
阿部:共同募金に関して、肥大化しすぎているとか、人件費に半分以上使っているとかという意見に対して回答いたします。まず、今回の東日本大震災に関しては、赤十字も私ども共同募金会にしても、経費については、義援金でいただいた寄付金の中からは1円もいただいていません。では、どこからその経費が出るのかというと、海外の友好団体とか連携団体の方から、運営費にも使えますよ、ということで、その国の寄付者の皆さんから集めた寄付金の一部を使わせていただいています。ですから、運営費で50%使っているということは私たち共同募金会ではありません。説明不足もあるのかもしれません。
工藤:たまたま、共同募金会のことが目についてしまったので取り上げたのですが、赤十字への批判はかなり強くありました。つまり、急いでいるときに公平と言って、時間がかかってしまっていて、硬直的ではないのだろうかという声が結構あるのですが、これについてはどうでしょうか。
募金時に、管理費を明示すべきだ
田中:先程、山岡さんから、寄付や募金をされるときに、募金団体も助成をするためにこれだけの管理費がかかります、ということをあらかじめ説明して募金をされているとおっしゃいました。さっきの、管理費に半分は使ってしまうだろう、という風におっしゃっている方は、逆の見方をすれば、寄付を集めて適正なところに助成をしたり、自分達で使うためには、経費がかかるということを理解されている方だと思います。そうであれば、これだけの寄付を集めますけど、それも効果的に、効率的に使うためには、この分は、管理費として10%はいただきますとか、最初に募金するときに説明するべきだと思います。
寄付を集めるほうでは、それを言ってしまうと集まらないのではないかと思って言わないことがあるのですが、それは結局、集まった後にトラブルの元になると思います。
工藤:山岡さん、今の話を聞いてどうでしょうか。
山岡:僕らは、かなり戦略的に書きました。どこも書いていないけど、実際に経費として使っているところは沢山あると思います、当然のこととして。運営費として指定された寄付があればいいですが、そうあるものではないし、保証されませんから、私たちは15%と初めから書いています。最初のうちは、15%もとられるのなら、寄付しないよということもありましたけど、色々と話をしていたら、そのことが明確になっているから、出しましょうという人も多くいます。
工藤:それは説明しているからですよね。
山岡:やはり、責任を持って配分するとなると、人件費が必要で、現地にも誰かが行くことになるわけですよね。そうすると、その旅費等はどうするのか、と。私たちは手弁当で、ボランティアでやりますよ、と言って年間1億円の助成金を配分するということは不可能に近いです。だから、きちんとした助成をするには、経費はいる、その経費は、皆さんの寄付の中から頂く、ということをきちんと明文化する、そういう文化を作っていくことが、本当の寄付の文化をつくる上で重要だと思います。ですから、我々はあえて書いたのです。
工藤:今の説明に関する意見とともに、皆さんのアンケートにある意見は、こういう緊急時には、赤十字などのルートは硬直していて配分に非常に時間がかかってしまう。結果的に、間に合わないのではないか、という声がありました。今回も、結果として被害がかなり大きかったということがありますが、一方で、寄付をした人は一刻も早く届けたいという意識ですよね。ヘリコプターからお金をばらまくのなら直ぐにできるのかもしれないけど。その辺りに対する、疑心暗鬼がまだ残っているような感じがするのですが、その辺りはどういう風に改善できるのでしょうか。
阿部:今の話は、お見舞い金である義援金の話だと思います。やはり、検証をしっかりとしていく必要はあるのかな、と思います。それを前提に話をすると、その上で、早い、遅いという問題が1つ。それから、これまで阪神・淡路大震災以降を考えても、これまでの災害や地震と同じようなルートで、被災者の皆さんに届ける方法がこれでいいのか、あるいは、もっと早く届けるためにはどうすればいいのか、ということは検証していく必要があると思います。
工藤:今回も、民間の損害保険金の支払いはかなり早かったのに、何で義援金は遅いのかと、よく言われましたよね。
阿部:但し、寄付する方々も、確実に被災されている皆さんに届けてくれということで託しているわけです。
工藤:変なところに流されたら困ると。
阿部:あとは、なるべく公平にしてくれ、という話もあると思います。それを、どのようにすり合わせていくのか。そこはどうしても時間は必要になってくると思います。
義援金は税金ではない、民間の寄付である
田中:1つだけ、義援金に関しては以前から疑問に思っていることがあるのですが、義援金は税金ではありませんね。私たち民間人の寄付なのですよね。ただ、義援金というかたちで赤十字に入った途端に、地方自治体から分配されますから、あたかも税金のように扱わなければいけない、というようなことがあります。でも、それは法律的には何も定められてはいないのですよ。慣習なのだと思います。その辺りも、抜本的に変えて、これは民間の寄付なのだという点について、私たちの常識も、一度覆して考える必要があるのではないかと思います。
工藤:民間の寄付だからこそ、官ではなくて何かができる、ということはあり得ないのですかね。
阿部:結局、お届けする被災者となる対象をどう決めていくのか、という話と絡むと思います。その被災情報は、行政のみなさんしか持っていないし、個人情報の問題もありますから、ここをどう考えるのか、ということが一番重要だと思います。
田中さんがおっしゃる通り、本当に慣習なのですね。税制に関して言えば、国への寄付金と同じ扱いをしていますが、実は慣習です
工藤:この問題は課題として、これをこういう風に変えたらいいとか、既に議論が始まったりはしていないのでしょうか。
阿部:今、現在、始まっていないと思います。
田中:メディアの中で気がついているところは非常に少なくて、あたかも税金のように考えるから不平等だ、という話の記事になるのです。その辺りを、きちんと突いて記事にしたのは1社ぐらいですね。
工藤:今の田中さんの話は、どういうことですか。税金ではないから、あまり平等とかは考えなくてもいい、ということですか。
田中:分配の仕方が、こっちの自治体と、そっちの自治体で違うのは不平等だ、という記事がかなり出ました。もし、自治体にお任せします、あるいは、配分機関が自治体であるか別の団体であるかに関係なく、民間のお金ですから、裁量に任せますというのであれば、Aという自治体と、Bという自治体で分配の仕方が違っていても当然なわけですよ。その辺りが、公的資金と同じように考えられてしまっています。
工藤:それは、メディアだけではなくて、実際にそうだからですよね。今の赤十字や共同募金会がやっている義援金の分配の仕方は、バラツキがあったらいけないのでしょう。
阿部:例えば、過去の災害でも、災害の度に義援金募集ということをやりますから、どうしても災害の規模によって、集まるお金が違いますから、一人ひとりにいく見舞い金の額は違ってきます。ですから、今回は、3000億円とか3500億円以上の義援金が集まっていますけど、被災されている方の数が圧倒的に多い。ということは、一人あたりは当然ながら少なくなってきます。
工藤:ということは、ある地域においては、罹災証明とか、ある程度のことがわかって、配布できる段階にきても、全体的な配分方針については、その後、どれぐらいの被害規模かという実態がわからなければ決まらないから、ここは配分できるのだけど、全部が決まらないから一斉に届けられない、ということではないのですか。
阿部:それはないです。それは、自治体ごとに体制が整えられれば、1日でも早くということで、自治体の皆さんもお配りしています。
支援金の問題点はどこにあるか
工藤:この義援金の問題はこれでいいですか。義援金の話については、今後、総括をして、新しい議論が始まることを期待します。
次に、支援金の話なのですが、さっき山岡さんがおっしゃっていましたが、偏在はある意味で当然なのだ、と。それは確かにそうだと思います。でも、問題なのは、今、寄付金が集まっているところは、当然出されるべき団体だったのかと。つまり、多くの人から見れば、どこに寄付をしたらいいか、ほとんどわからないのだと思います。すると、何となく昔からやっていそうなところとか、そういうところにお金を集まってしまう。本当は、ある程度の情報があった上で、その中でちゃんとやっているという実績があるところに寄付金が集まる、ということで偏在があるというのとは少し違うような気がするのですが、どうでしょうか。
山岡:民間の支援金のお金の流れとしていくつかあります。大抵、1つの団体から1つの団体、あるいは個人から個人へいくということもありますけど、ほとんどの場合、どこか中間団体を通すわけです。資金仲介団体、我々NPOセンターとか、共同募金会とかそういう中間支援組織を通したお金が150億円から200億円ぐらいあると思います。それ以外に、企業は企業から直接、色々なところに配って歩いている、ということもあります。また、私はあの団体が大事だと思うから、その団体に寄付しますというように、仲介団体を通さずに寄付をすることがある。そのうち、仲介団体を通さないでやる寄付は、メッセージを発信していない団体に行きようがない。ですから、メッセージの発信力が強くて、その活動に対して魅力と信頼性がある、というところに行ってしまう。ですから、情報も発信していません、やっている活動も魅力的かどうかわかりません、というところの人が、どうしてうちの団体には寄付がこないのですか、と言っても仕方がないですよね。そういう意味で、直接寄付を行うものについては、僕は情報発信力の有無というのは非常に大きいと思います。
一方で、資金仲介組織は、できるだけ直接寄付が集まらなさそうなところにする。ホームページを持っていないから発信もしていない、だけど、足まめに現地に通っていると、ぶつかってくる団体があるわけです。そこは、どこからも直接寄付がされているわけではないけど、この活動は重要だなと思ったら、僕らは助成をするわけです。ですから、中間支援の団体の役割は、そうしたところを相当カバーできるかどうかだと思います。
資金仲介組織が日本では育っていない。今まで、平常時から資金仲介組織の専門性を高めるようなものが、日本にはない。コミュニティファンデーションもほとんど育っていない、ましてや、そこに専属のスタッフがいるわけでもない。平常時にきちんとした資金仲介のプロが育っていないから、非常時になかなかその機能が果たせない、ということですね。偏在というか、適切かどうかという問題はあるかもしれないけど、仲介組織は多くの場合、できるだけ直接寄付がいかないような団体を見つけ出して、そこに助成するというところに、喜びと誇りを持っているわけです。そのためには、相当な時間もかかれば、人件費もかかるということなのです。
支援金の90%が3団体に集中した背景
工藤:今の議論の前提として、言論スタジオを見ている皆さんはわからないと思うのですが、阪神・淡路大震災の時には、NPO法もありませんでしたから、今回、初めてこういう支援金という形が出た、と。そのため、支援金の使い方というのは、かなり新しい大きなテーマだと思います。さっき、田中さんの説明で気になったことがあって、それについては後から説明してもらいたいのですが、日本には4万4000団体ぐらいNPOがあります。そのNPOが全部いいかは分かりませんが、3団体で支援金の90%ということでした。これは、共感するところに集まるというレベルではない気がしています。その寄付がどういう風に使われたかということは、ちゃんと分かっているのですか。
田中:ある程度公開されているのですが、何と言っても、一番集まったのはジャパン・プラットフォームでした。そこがどういう風に使ったのか、ということは見えています。元々、ジャパン・プラットフォームというのは、メンバー団体があって、海外で救援活動をするNGOに対して、企業や外務省からのお金を集めて、すぐにお金を仲介するという仕組みです。ここにお金が集まったときに、結局、65億円集めた内の40億円以上を、そのメンバー団体の20団体ぐらいに分配しています。残りの15億円をそうではない、外の団体に助成金として公募をして、配るという形にしました。ですから、より多くのものを発掘するという、仲介のタイプとはまた違ったかな、と思います。
工藤:さっき、山岡さんが言っていたのは、仲介的な役割が必要だ、と。一方で、今、田中さんが言っているような身内で分配するような話は、いいのですか。
田中:ですから、今言ったように、色々な団体を発掘して、そこに助成をするというよりは、既存の知っているメンバーの団体に10億円という単位で分配していますから、もう少しやり方があっただろうし、特に、緊急救援の場合には、短時間のうちに使ってください、という条件付きになってしまいます。そうすると、慌てて使わなければいけないということで、そこはもう少し有効な使い方があったのではないかと思います。
工藤:わかりました。今の話は重要なので続けますが、その前に休息をいれます。