出演者:
阿部陽一郎氏(中央共同募金会広報企画副部長)
田中弥生氏(大学評価・学位授与機構准教授)
山岡義典氏(日本NPOセンター代表理事)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
まず代表工藤は、「東日本大震災から8ヶ月が経ち、多くの支援が被災地に集まった一方で、多くの義援金の使われ方が適切だったのか、支援金も一部の団体に集まり,寄付の偏在が明らかになっている。またどこに寄附をすればいいかわからなかった、という声も聞く。こうした状況をどう考え改善に結びつけていけばいいのか」と問題提起、今回は、①東日本大震災に対する支援の実態はどのようなものだったのか、②義援金や支援金の使われ方や、寄附の偏在に関する問題、③こうした状況を改善するにはどうすれば良いのか、についての議論がなされました。
第一のこれまでの支援の実態について、田中氏は寄附の動向を大きな流れで見ると、今回の震災を機に一気に寄付額は増加したと指摘しつつも、「被災地への見舞金となる赤十字等を通す義援金は3,500億円ほど集まったが、NPO等への支援金は300億円でその9割が3団体に集中している」と義援金と支援金、そして支援金内に大きな隔たりがあると説明、義援金や支援金を受け入れた中央共同募金会の阿部氏は、義援金が377億円、支援金が30億円との募金実績を明らかにすると同時に、義援金はそのまま被災地に渡しているもので、募金会の人件費などは一切使われていない、などその経緯を詳細に、説明しました。
また、山岡氏は、日本NPOセンターは「支援先を十分判断するためには一億円程度が対応の限界と判断した」と語り、数十億円単位の支援金が3団体に集中していることに問題を投げかけながら、「ただ共感を集める団体に寄付が偏在するのは当然」と語りました。
また、この間明らかになった問題として、「義援金の遅配。被災者のみならず、寄付者からも声が上がった」(田中氏)、「義援金と支援金の違いが分かるのに非常に時間がかかった」(山岡氏)などが挙げられました。
第二の点の義援金や支援金の使われ方に関して、阿部氏は義援金が罹災証明に基づいて行政が被災者に送金する仕組みになっていることを説明、しっかりとした検証が今後必要であることを前提とした上で、「震災規模があまりにも大きく、自治体自体が被害を受けていた」として、迅速に対応することの難しさを述べました。一方、募金側/助成側の課題として、田中氏が「災害対応に際しての募金に経費や管理費が含まれることもあらかじめ説明し、最初にきちんと伝えるべきではないか」と述べると、山岡氏もこの点について「責任をもって資金を配分するとなると、現地にも赴いて調査するといったことも必要。きちんとした助成にはそれなりの管理費が不可欠だ」と主張しました。偏在に対しては、工藤から再度、「今の現象は共感以前の問題ではないのか、つまりNPOの活動の姿が市民に見えておらずその努力も怠ってきた。選ばれた団体も名前が日本を代表している名前になっている程度でその活動内容を知った上での判断なのか。事実,市民はどこに寄付すればいいの、分からない、という声がかなりアンケートでもあった」と問題提起がなされ,これに対して参加者からは、「支援金というのは今回初めての問われたものでまだ十分ではないが、それがどのように使われたの、か、十分に吟味する必要がある」「NPO自体の日頃の活動が問われており,残念ながら多くのNPOが報告書も出せるのか、そのレベルにある」などの厳しい意見も出ました。
さらに山岡氏は、そうしたNPOを見分ける資金仲介組織には平常時から仲介のプロが育っていなければいけないと述べると共に、「資金仲介組織を通さない支援金については、メッセージを発していない組織にはどうしても出せない。組織自身にも発信力が必要」と資金を受ける側の課題も強く指摘しました。
最後にこうした状況を改善するための方策について議論が及ぶと、山岡氏は「瞬間的に集まったものを瞬間的に使うべきという考えだと、使い方がどうしても雑になってしまう」と述べて、時間の偏在を慣らす文化を醸成していく必要があるとしました。資金仲介組織の当事者としての阿部氏は、「今後は、地元の皆さんが作ったグループをいかに支援していくかが課題となる。被災者と寄付者の間になんとか循環を作っていきたい」と述べました。
そして最後に田中氏は、今回議論になった課題が震災に始まったものではなく、寄付を集めるということに対して慣れていない日本の市民社会組織に根本的な課題だと指摘。この課題を乗り越えるための一つの内発的な試みとして「エクセレントNPOを目指す市民会議」が提案している評価基準を紹介し、「非営利セクターを取り巻く制度が整備されてきた今、今度は自らが自らを磨き上げて社会に対する発信力を高める段階だ」と述べ、非営利組織自信の変革が急務との認識を示しました。