第3部 原子力に依存しない電力供給は可能なのか
工藤:さて、休息中も議論がかなり進んでいるのですが、基本に戻ってみたいと思います。菅さんは、2030年までに原子力を電力供給の中で50%ぐらいまで持っていくというエネルギー基本計画を全面的に見直そうという話です。どう見直すのか、分かりませんが、原子力からの脱却も視野に入っているように思います。もう一度、ここについて議論して、それは可能なのかという問題に戻したいのですが、まず松下先生、どうでしょうか。
新設が無理なら、老朽化で廃炉が視野
松下:最終的には国民が原子力をどう受け止めるかということですが、私の現実認識としては、現状では、現在のエネルギー計画の2030年までに、新規に14基を立地して、原発の依存を50%に上げるということは無理だと思います。一方で、新設が無理で、なおかつ現在ある原発が、段々と老朽化していく。従来も大体40年ぐらい経ったら廃炉という風に言われていたことを当てはめると、長期的には2030年ぐらいまでには、今回のように原発の再稼働が難しいという状況が無くても、徐々に廃炉になっていくという状況だったので、できるだけスムーズに、原発から移行できるような取り組みをしていくべきだという風に思っていました。そういう意味で、現在、国会で審議されている再生可能エネルギー推進法案をきちんと制度化する。それから、あまり議論には出ていませんが、温暖化対策基本法をきちんと議論する。
工藤:あれも、鳩山さん以降、何もできなかったわけですよね。
松下:衆議院は通ったわけですけど、鳩山さんの後で廃案になってしまいました。参議院ではほとんど議論されていないという状況です。ですから、そこに掲げられている、環境税や排出量取引制度といった制度をきちんと導入していくということについて、今は議論されていませんが、合わせて議論をするべきだと思います。
工藤:山地さん、エネルギー基本計画をどのように見直すかということが、まだ見えていないのですが、ただ、黙っていたら原発はどんどん老朽化していきますし、今の基本計画は実現できないという状況になりますよね。これについて、首相が言ったことは可能なのでしょうか。
温暖化対策と基本計画は同時に解を出すしかない
山地:まず、今のエネルギー基本計画は、2030年が目標年になっています。非常に温暖化対策を意識しているのですが、しかし、目標を少しずらしているのです。温暖化対策で中期目標といっていたのは2020年目標で、鳩山さんは90年比25%減と言っていました。その25%の内、真水がいくらかという議論が詰まっていなくて、そこが詰められないものだから、2020年をエネルギー基本計画では議論がしにくかったのですね。ですから、2020年を飛ばして、2030年にしました。しかし、2030年で90年比30%減ですから、間を取れば、2020年の大体の削減目標が分かるという形になっています。でも立て付けは悪いですよね。私は、原子力を比較的によく知っている方ですけど、電力の53%を原子力発電に頼るということは難しい目標だと思います。再生可能エネルギーも二十数%なのですが、両方とも非常に難しいことになっているのは、温暖化を意識しているからなのです。今度エネルギー計画を見直すときには、真水の目標の調整を含めて、温暖化対策とエネルギー基本計画を一体として見直すということは、非常に大事だと思います。
もう1つは、さっきからよく言われている、2030年までに14基の原子力の増設を行い、電力の5割を原子力が賄うというのは、これは最早できません。その点でも見直さなければいけません。ただ、難しいと思うのは、現行の見直さなければいけないエネルギー基本計画の中でも、省エネルギーについては、住宅の断熱なども含めて、実は目一杯入っているわけです。一次エネルギーは、確か、現在よりも十数%低くなっています。電力はほぼ同じぐらいですけど、電化して効率を上げようということが入っています。それから、再生可能エネルギーも、菅さんが1000万軒の家の屋根に太陽電池をと言いましたけど、あれは現行エネルギー基本計画の2030年目標に入っているのですね。
工藤:入っているのですか。
山地:入っています。だから、あれを2020年代の早い段階へ前倒しをしようとしているわけです。現行のエネルギー基本計画でも、5300万キロワットという太陽電池導入を目標にしていますし、風力は1000万キロワット。風力は洋上での発電なども考えると、もっと拡大してもいいかもしれません。それから、最近、地熱が言われていますが、地熱も165万キロワットと、今の3倍以上が入っています。ですから、省エネも相当織り込んでいて、再生可能エネルギーも沢山入っている。その中で、原子力が目標未達になることは確実なので、これをどうしろと言われたら非常に難しくて、ここでも、化石燃料は増えざるを得ないと思います。もちろん、再生可能エネルギーは、私も増やせばいいと思いますけど、原子力で空いた穴を埋めるだけの力はないと思います。そうすると、多分、天然ガスでしょう。世界的にも需給が安定しているし、化石燃料の中で相対的にクリーンです。そうすると、益々、温暖化対策と一体的になった見直しを進めなければいけない。これが課題だと思います。だから、温暖化対策目標を緩和して、緩和と言っても2030年目標は持っていないのですが、それとセットにすれば、エネルギーの需給計画はつくれると思います。ただ、そこを議論せずに、温暖化目標も高いのを維持しながら、というのだと、それは解がないということになるかもしれません。
工藤:今ある、この検討はどこの部署がやっているのですか。
山地:今までは、エネルギー基本計画というのは、経済産業省の総合資源エネルギー調査会という審議会がつくっていたのですが、今回は、政治主導ということになっていて、新成長戦略実現会議の下の環境・エネルギー会議が方向性を決めることになると思います。この会議では、玄葉大臣が委員長で環境大臣と経産大臣が副委員長を務め、政治家が中心メンバーになっています。これは名前も環境・エネルギーだから、私が指摘した温暖化対策とエネルギー基本計画が一体となった、ある種のフレームワークというか、方向性がでるのではないかと期待しています。それを受けて、エネルギー基本計画がつくられ。同時に、温暖化対策もつくられるのだと思います。今は、民主党の政治主導の元で、そういう体制でやっている。また、総合資源エネルギー調査会もそれに対応する準備をしようとしているところです。
工藤:ということは、2つ動いているということですか。
山地:政治主導のものが動き出していて、それを受けて具体的な作業をする審議会が動くだろうと思います。
工藤:その玄葉さんのところは、いつまでに、どういうスケジュールで動いているのですかね。
松下:一応、6月に第2回が開催されました。それで、8月とか9月だと思いますが、革新的エネルギー環境戦略策定に向けた中間整理をするということで、年末を目標として革新的エネルギー環境戦略の基本的な方針を出すというふうに言われていますね。
工藤:それがその通り動くかという問題はありますね。
現在の政府検討が現実的に機能するかは、不透明
松下:仕組みとしては、従来はエネルギーは経産省、環境については環境省、経産省がそれぞれ審議会で議論するという仕組みだったのですが、一応、新国家戦略の検討の中で、分科会として国家戦略担当大臣を長とし、経産大臣と環境大臣を副委員長とする仕組みができたということで、仕組みとしては従来よりいいと思います。これが、現実的にうまく機能するかという問題はありますが。
工藤:これは、事務局はどこに置かれるのですか。
松下:事務局は内閣府になります。
明日香:先程、原子力に関しては、なかなか増設は難しいと。国民感情からもそうだとは思うのですが、今まで推進してきた経産省なり、他の省庁の方々というのは、多分、そう思ってはいないと思います。国民は、もう少し経てば忘れてしまうだろうと思っている人も、私は多いと思います。一段落つけば、忘れてしまうだろうと。そういう意味でも、国民が本当に自分達で議論して、数字を出し合って、まさに本当の政治主導を考えるきっかけとなるような議論を巻き起こさないといけないと思います。
工藤:今、再生可能エネルギーの法案が出ていますよね。この話は、この議論と連動しているのですか。
松下:連動しています。
再生可能エネルギー法案の民主党の対応は元々遅かった
山地:この議論より前から始まっています。大体、太陽電池の余剰買取り制度は自民党・公明党政権時代につくられています。また、エネルギー基本計画をつくる作業と並行して、今の全量買取法案の仕組みの審議をしました。
私は民主党はもの凄くスピードが遅かったと思います。政権交代後、2009年11月から審議会で検討を始め、2010年3月にパブリックコメントをやってからも1年以上経っているのですが、まだ国会で審議中です。よく言われますが、この法案は丁度、あの3月11日の午前中に閣議決定された。これまでの経緯から考えると、この法案の中身には自民党も強い反対はないはずなのです。私は、制度設計の審議会などに関係していました。骨抜きにするとかいう人たちがいると、また色々な議論が出てくるのですが、一応、全量買取りという仕組みの中では、負担も含めてできるだけ合理的なものをつくったつもりです。法案自体には事細かな数値とかは載っていませんが、これが通らないと、現行エネルギー基本計画の再生可能エネルギーの実現だって難しい。今の計画よりももっと大量に再生可能エネルギーを入れようとするのであれば、この法案の運用だけでは、なかなか難しいのではないかと思います。
工藤:さっき、山地さんがおっしゃいましたが、少なくとも、原発については、この基本計画通りは進まないだろうと。しかし、温暖化対策を重視してかなり目一杯色々計画していたために、それがうまくいかなくなってくると、それをどういう風にやっていけばいいのか。温暖化の目標を緩和しない限りかなり至難の業になる、ということを言われたのですが、この原発に依存しないという形と今の地球環境の問題、それからその中での電力供給のミックスみたいな形の解は、十分可能なのでしょうか。
再生可能エネルギーの高い可能性をどう具体化するか
松下:短期的には、先程、山地さんが言われたように、天然ガス(LNG)を増やすということと、また再生可能エネルギー推進法案なども早く通すことが前提となる。環境省が今年の4月頃に出した調査報告によると、自然エネルギー、再生可能エネルギーのポテンシャルは、原発の現在の発電量の40倍ぐらいのポテンシャルがあるわけです。あくまでも、ポテンシャルですが、今度は、地域から、地域ごとに色々な取り組みが始まっていますから、国がきちんした制度を作りながら地域でそれぞれの特色を活かせば、それが動き出してくる。
東北の復興の中でも、太陽光や風力、地熱や小水力など、ポテンシャルはあるわけですから、集中的に投資をする。投資をすればするほどコストは下がりますから、それを広げていく。地域自立型で、分散型の仕組みをこの機会につくっていく、というようにポジティブに取り上げていく、ということが必要になると思います。
工藤:松下先生は、つまり原発がゼロになっても、今の再生可能エネルギーか何かをベースにして、集中的に投資をすることで、エネルギーの計画は可能だということですか。
松下:その時々で、うまく解が出るかわかりませんが、長期的にはそれを目指して、進めていく必要があると思います。
工藤:さっき、山地先生は、原発はある程度必要だろうし、残すべきだとおっしゃっていましたよね。エネルギー基本計画の最終的な着地で、原発を残さなければいけない意味を、もう一度、おっしゃっていただけますか。
可能性を期待しての過度の楽観は禁物
山地:再生可能エネルギーのポテンシャルということを言い出したら、もの凄く大きいのですよ。要するに、太陽が地球に降り注いでいるエネルギーは、世界のエネルギー需要の約1万倍あるわけです。だから、ポテンシャルで計算すると多いのは当たり前のことです。ただ、密度が薄いとか、間欠的だとか、そういう問題があるわけです。僕は、基本的には再生可能エネルギーはどんどんやるべきだという主張なのですよ。ただ、あんまり安易に考えて、楽観視すると実現不可能な間違った方向にいくと思うのです。
一例を挙げると、菅さんの1000万軒の家の屋根に太陽光電池を取り付けるという話ですが、1軒当たり3キロワットとか、4キロワットですから、3000万キロワットから4000万キロワットの太陽電池になります。キロワット単位の設備容量としては大きそうですが、夜は動かないし、設置角度が固定されていますから、朝とか昼は、あまり出力はでませんし、雨の日も出ないわけで、実際に発電する電力量は小さくなります。設備容量の100%で年がら年中動いた時の発電量に対する、実際の発電量の比率を設備利用率といいますが、わが国の太陽電池の場合は約12%です。これは、自然条件でそうなっています。そうすると、3300万キロワットの太陽電池が出せるキロワットアワー単位のエネルギー量は、原子力でいうと、福島第一原発の1から4号炉は確実に廃炉でしょうけど、5、6号炉を入れると470万キロワットなのですが、この原子力470万kWが出すエネルギーとほぼ同じなのですよ。つまり、非常に大きく見える1000万軒の屋根の太陽電池といっても、福島第一原発が出す電力量と同じぐらいです。それを考えると、原子力無しで、再生可能エネルギーでわが国のエネルギーの主要部分をカバーすることは、もの凄く難しいことだいうことが分かると思います。お金もかかるし、技術的なこともあります。だから、やはり選択肢としての原子力は維持するべきだというのが、私の考えです。
ただし、原子力に電力の50%以上を依存することは、最終的にも高すぎる目標だという気がしています。やはり、原子力も今回みたいに、システマティックに多くが止まる可能性もあるわけです。原子力政策については、原子力政策大綱というものがあって、福島事故があって今は中断していますが、これも見直しが進んでいるところです。現在改訂中の原子力政策大綱には、原子力の目標比率として、電力の30%から40%程度以上、という曖昧な書き方をしています。この30%から40%という比率は参考になるかな、と思います。
工藤:最終的な2030年ということですか。
山地:そうですね。2030年以降もという目標になっていたと思います。
工藤:今が、30%ぐらいですか。
山地:昨年の実績では30%を切っています。しかし、世界の平均的な設備利用率でわが国の原子力が稼動すれば、30%を少し上回っていたはずです。ですから、需要をもう少し頑張って抑えれば、今回の事故で失った福島の原発も含めた現在の日本の原子力規模程度で、世界の平均的な稼働率で動けば、大体、30~40%を実現できるのではないかと思います。
工藤:明日香さん、時間が短くなってきましたが、どうですか。
何が一番安全で安くて、温暖化対策にも繋がるのか
明日香:今日の原子力の議論には、やはり原子力の廃棄物の議論が抜けていたかと思います。廃棄物の話も含めて、全体的に原子力のことは考える必要があるかと思います。あと、25%との関係ですが、私はCO2の25%の削減目標も達成して、かつ、エネルギーもみなさんが必要な量を供給できるようなシステムを作れると思います。
結局はコストなのですね。原子力についても冒頭に言いましたけど、安いというのがメリットだったのですね。ですが、現実的には安くないですし、かつ、その安さも誰にとって安いのかという話なのですね。逆に言えば、誰が儲かるかという話だったと思います。その辺りを、具体的にクリアにして、我々にとって何が一番安全で、安くて、かつ温暖化対策につながるかという議論を始めるべきだと思います。
工藤:本当は、もう少し議論を進めたいなと思ったのですが、最終的に、原子力発電というものをどういう風な形で、今後の日本のエネルギーの供給源として位置付けるのか、つまり、無くしていくのか、それとも、ある程度必要なものだと考えるかで、最終的な絵姿が違いますよね。どちらにしても、新規を抑制するとか、安全性を重視するにしても、まだまだ議論が足りないと思いますので、今後、ここで出た論点を元に、さらに議論しながら、みんなが共通の土俵で色々なことを考えられるような議論の形成をしていかなければいけないと思いました。
最後に、みなさんに一言ずつ言っていただこうと思ったのですが、時間が無くなってしまいました。何か、本当に一言ずつありますか。山地さん、どうですか。
クールヘッドとウォーム-ハート
山地:今、震災後で皆さんホットになっていますよね。ウォームハートはいいのですが、クールヘッドにして議論をする必要があると思います。まだ、ウォーム-ヘッドだと思います。
明日香:私もクールヘッドが必要だと思います。後、数字に関しては、気候ネットワークというNGOなのですが、そこが細かく原発なしでも、CO2つの25%の削減を達成でき、かつ、今年の夏、来年の夏も乗り切れるというデータを出しています。なので、これから、色々な研究機関がデータを出すと思いますし、そういう数字を元に、オープンに議論するべきだと思います。
工藤:まだ、議論がつきないのですが、こういう形で、何回もやらなければいけないなという気持ちを新たにしたところです。今日は、みなさんありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
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