言論NPOは、8月28日に安倍首相が辞任を表明したことを受け、4つの分野で評価会議を開催しました。その第一弾として開催された、社会保障に関する評価会議では、人口減少と急激な高齢化が進む日本の将来への対応で安倍政権はどこまで答えを出したのか、次期政権に残された課題は何か、を軸に議論が行われました。
評価会議には、ニッセイ基礎研究所主任研究員の三原岳氏、安倍政権下で4年にもわたり厚生省局長として社会保障改革に取り組み多くの制度を実現させた上智大学総合人間科学部教授の香取照幸氏、元衆議院議員で立教大学大学院特任教授の亀井善太郎氏の3氏が出席し、司会は言論NPO代表の工藤が務めました。
まず、7年8カ月に及ぶ安倍政権の実績について3氏は、消費税を2度にわたって引き上げたという点では戦後初めての政権だという点は認めるものの、急激に進む人口減少と高齢化に向かうための基本となるべき、社会保障と税の一体改革は一応、動きはしたが、その内容はなし崩し的に変質し、改革は中途半端になったまま将来世代の負担を増やしただけ、と厳しい評価となりました。
その理由として、消費税の増税が当初の予定より二度にわたって延期されたことで対策が遅れ、その分財政の赤字が拡大したこと、さらに直接、一体改革とはつながらない大学授業料の無料化など新しい課題が新規財源を見つけることなく行われ、その負担がさらに将来に先送りされたことなど、が指摘されました。
また社会保障の担い手を増やすという意味で、一億総活躍、希望出生率1.8、介護離職ゼロは、取り組むべきアジェンダとしては評価されるものの、本来、これらは全て腰を落ち着けて行うべき構造改革であり、選挙のたびにスローガン的に出され、対策会議は動いたが、その全体的なつながりや道筋が十分に施策として煮詰まっていないまま中途半端となり、目標達成の見込みが立っていないことにも、厳しい議論がなされました。
日本社会の持続可能性には疑問符が付いたまま、次期政権に引き継がれた
これらの議論を踏まえて3氏は、安倍政権の7年8カ月は、3党合意で国会議員の8割近くが合意した、社会保障と税の一体改革が日本の将来にどれくらい大きなものなのかとの認識が明らかに欠落していった期間だったとし、その結果、日本社会の将来に向かっての持続可能性には疑問符が付いたまま、それがそっくり次期政権に継承されることになった、と結論付けました。
次期政権に残された課題としては、小泉政権から15年にわたって行われた消費税増税を軸とした社会保障改革は未完で、しかも変質したまま約一段落することになるが、次の絵が全く描かれていない、との見方を3氏は共有し、次の絵をどう描くのか、が次期政権以降の大きな課題になるとの指摘がありました。これに関連し、菅政権がデジタル庁の創設に動きていることを評価し、誰が本当に救済すべき弱者なのか、国民が納得する社会保障の理念を国民に具体的に見せていく必要がある、との意見も出されました。
さらに、安定的な社会を作り出すために社会保障という機能を使いながら、社会や民主主義を支えている分厚い中間層を育て、維持していくことがこれからの課題となる、との提案をありました。
ただ3氏は、こうした日本の将来に臨むためにも、将来世代に付けが回る財政赤字や1100兆円にも及ぶ国の債務の重圧にどう取り組むかが持続可能な社会を作り出す最も大きな課題だとしており、その点では日本の政治はまだ答えを出していないという点でも意見が一致しました。