言論NPOは、「安倍政権の評価と残された課題」と題して、4つの分野で評価会議を開催しました。その第3弾として「経済、財政分野」の評価では、アベノミックスの全体評価と次期政権は何から始めるべきか、が大きな論点となりました。
慶應義塾大学経済学部教授の土居丈朗さん、東京財団政策研究所上席研究員の早川英男さん、法政大学経済学部教授の小黒一正さんの3氏が評価会議に参加しました。司会は言論NPO代表の工藤が務めました。
まず、安倍政権の看板政策であった「アベノミクス」については、三本の矢を同時に進めていくことができれば経済成長の可能性が大いにあったとしながらも、財政出動と金融政策に傾斜しすぎ、改革を打ち出した成長戦略に本気で取り組む覚悟はなく、実際、潜在的成長率に改善はなかったと、3氏は断じました。
デフレ脱却や2%の物価上昇、実質成長目標2%、名目GDP600兆円、さらにはアベノミクスの地方へのトリクルダウンなど、安倍政権下ではこのアベノミクスで様々な目標が出されたが、全てが目標未達となり、最後は目標自体に政権はこだわりを見せていなかった。
これに関しては、デフレから脱却することで物価や金利が上がるが、そこで生活している国民が困窮化し、低金利下で生存してきた企業が破たんするという事態もある。そうした出口まで考えて政策を考えていなかったために、デフレ脱却と勇ましくは言ったが、その先のことまで考えていなかったため、それを突き抜けられない、ジレンマを当初から抱えていた。また、安倍氏に当初、知恵をつけた人間は大胆な金融緩和をすればデフレ脱却ができると教え込んでいたが、結局、実験はうまくいかなかった、等との見方も示されました。
7年8カ月のアベノミクスは結局、円安、株高政策だけになってしまった
この結果、安倍政権の後半は、「一億総活躍」「新産業革命」「働き方改革」など、毎年、スローガンが入れ替わるだけで、それを最後までやり抜く覚悟もなかった。結果的に7年8カ月のアベノミクスは円安政策、株高政策だけになってしまった、との厳しい指摘が相次ぎました。
そのため、第二次安倍政権発足後に政府と政策協定を結んだ日銀は、梯子を外された形となり、2016年から方針を変え、隠れた形で緩和の縮小に入るが、今のコロナの緊急対策で更なる日銀は緩和に踏み込んでおり、財政の今後の展開によっては手遅れになりかねない状況になりかねない、との懸念が表明されました。
次期政権に残された宿題としては、「低金利の罠」から抜け出す一つのチャネルとして、賃金の上昇を軸に企業の経営効率を高めていくことや、サービス業のICT導入などの他に、政府のデジタル化を、これを機会に徹底的に推進していくことが新しい取り組みの一歩となるという点では認識は一致しました。
特に、財政の再建を図るには、税制の抜本改革と社会保障の更なる改革が避けられないが、国民側はその歪みや再配分の実態が分からず、デジタル政府の実現を進め、こうした実態を国民に説明しながら、改革を進めるという姿勢が大事との発言もありました。
この点では、中小企業基本法の見直しやデジタル庁の新設を掲げる、菅政権への期待も語られました。
さらに、現在の非常事態の出口に向けた道筋を描くことも,新政権の課題であり、こうした改革を何としてもやり抜く覚悟を期待したい、との発言で評価会議は終了しました。
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