言論NPOは、7月21日投開票の参議院選挙に向けて、日本が抱える主要課題に関して候補者がどう考えているのかについて全候補者を対象に緊急アンケートを行い、16日、その結果を公表した。今回の調査は立候補した12党の433人全員に行い、その75%の325人の候補者が回答した。
アンケートでは候補者が政治家に当選した時に実現したい課題や、日本の政党政治の今後、さらには今回の参議院選で争点とされるアベノミクスの評価、財政再建目標の達成可能性、原発再稼働、社会保障制度や水田農業の今後、尖閣諸島で日本がとるべき対応など、26問にわたって聞いている。
候補者の全体で見ると回答者の6割がアベノミクスの失敗を予測しており、また財政再建の目標として政府が掲げる「2015年のPB半減、2020年の黒字化」は55.1%が困難と考え、7割近くが現在の社会保障制度はすでに破たんしているか、今後破たんする可能性があると考えている。また、政治家になった時に靖国参拝をすると考えている候補者は4割で、自民党と日本維新の会の回答者が突出している。尖閣諸島では主権は主張しても平和解決を目指すべきと、考えている候補者が50.2と半数を超えたが、日本維新の会では回答者の8割がむしろ実効支配を強めるべき、と考えている。
言論NPOは参議院選挙の各政党の公約の評価結果をすでに公表しているが、公約の内容の曖昧さから、今回は全ての政党の公約の評価が低く、差が分かりにくくなっている。候補者アンケートでは政党ごとに候補者の意識に大きな差があることが明らかになっており、これらも勘案して投票の際の判断に活用してほしいと、言論NPOは呼びかけている。
回答者の属性
調査では、候補者が政治家になった場合、何の政策を実現したいか、を聞いている。
「経済成長」が42.5%と最も多く、「持続的な社会保障制度の構築」が30.2%「脱原発」が28.4%、と続いている。
政党別にみると「経済成長」は回答者で最も多かったのは自民党候補者の72.1%、みんなの党の48.0%、公明党は「経済成長」(90.0%)と、「被災地の復興」(90.0%)が並んでいる。「脱原発」が最も多いのは共産党の79.4%と社民党の88.9%、民主党は「持続可能な社会保障制度の構築」を選ぶ候補者が65.9%と最も多く、日本維新の会の回答者は70.6%が「地方分権、道州制」を選んでいる。
また、候補者の91.1%が、マニフェストを軸とした政治のサイクルが、強い民主主義を作るために不可欠と考え、80.3%が、所属するする政党のマニフェストを十分納得している、と答えている。ただ、自民党と民主党の候補者で党のマニフェストに納得しているのはそれぞれ62.8%と61.0%と、他の党に比べて低い傾向が見られた。
政治家になった際に自分の政治資金の使途を毎年、ホームページで公開する、と回答した候補者は7割を超えたが、自民党の回答者の48.8%は公開しない、と答えている。また共産党の候補者以外の大部分が、政党助成金は必要な制度だと考えている。
次に候補者の政策に対する考えを明らかにしていく。
【経済政策】
まず、日銀は2年で2%の物価上昇を目標に掲げ、異次元の金融緩和を実施したが、それが実現できると考えている候補者は39.4で、「2年では難しいが、2%の物価上昇は可能」の17.8%を合わせると、6割近い立候補者が2%の物価上昇は可能と回答している。こうした意識は、自民党と公明党、日本維新の会の候補者に多い。
アベノミクス第2の矢として、政府は24年度補正予算と25年度当初予算による15カ月予算を策定し、機動的な財政政策を行いました。このような機動的な財政政策を今後も続ける必要があるか尋ねたところ、「必要があれば実施するべき」との回答が40.0%で最多となったものの、「今回限りにするべき」との回答も32.6%あり拮抗している。与党である自民党と公明党は「必要があれば実施するべき」との回答が、それぞれ88.4%、100%となった。
では、日本経済を成長させるために何が必要かと聞いたところ、4割を超える候補者が「所得の増加」(40.9%)と回答し、「社会保障制度の立て直し」(27.4%)、「徹底した規制緩和」(24.6%)、「法人税率の大幅な引き下げ」(19.1%)が続いている。
政党別でみると、「徹底した規制緩和」と回答する候補者が最も多いのは、自民党の25.6%、日本維新の会の50.0%、みんなの党の80.0%、「所得の増加」が最も多かったのは、公明党の65.0%、生活の党の60.0%、共産党の90.5%、社民党の100%、民主党は「所得の増加」と「社会保障の立て直し」が最も多く、51.2%だった。
アベノミクスの今後について、回答者全員の61.5%が「失敗すると思う」と答えており、「成功すると思う」(17.5%)、「非常に困難であるが、何とか成功させる必要がある」(16.6%)を大きく上回った。ただし、与党の自民党と公明党の候補者で、アベノミクスが「失敗する」と回答した候補者はいなかった。一方で、野党でアベノミクスが「成功する」と回答した候補者はいなかったが、民主党で2.4%、日本維新の会で23.5%、みんなの党で16.0%の候補者が、「非常に困難であるが、何とか成功させる必要がある」と回答している。
【財政政策】
財政再建については、40.6%の人が「日本の財政再建は困難」と回答し、「既に破綻している」(13.2%)との回答を加えると、立候補者の半数以上が、日本の財政について非常に厳しい見方を示している。
政党別では与党である自民党と公明党の候補者はそれぞれ88.4%と90.0%が、日本の財政再建は可能と、楽観的な見方を持っている。逆に日本維新の会の回答者の64.7%が、「すでに破たんしている」と答えている。
これに関連して、政府が掲げる2015年までのプライマリーバランス(以下、PB)の赤字の半減、2020年までにPBの黒字化という目標については、5割を超える(55.1%)候補者がこの2つの目標の達成はともに困難と回答している。
ともに達成が可能と楽観的な見方を持つ候補者は、公明党の80.0%、自民党の67.4%と与党に多いが、日本維新の会も55.9%いる。ただ、この維新の会はすでに財政は破たんしている、と見る候補者も6割を超えており、アンケートの回答に矛盾があり正直さに問題がある。
一方で、消費税の2014年4月の3%の増税、2015年10月の5%の増税については、58.8%の人が「実行するべきではない」との回答が多数となった。逆にともに消費税は増税すべきとの回答が最も多いのは、公明党の100%、自民党の60.5%、民主党の51.2%である。この3党は消費税の増税を公約では明言していないが、候補者レベルでは大半が増税を主張していることになる。
また、消費税の10%への増税後、さらなる増税が必要になるかでは、62.5%の候補者が「増税をする必要はない」と回答した。自民党と日本の維新の会は、「わからない」が最も多くそれぞれ48.8%、58.8%となっているが、公明党は「更なる増税が必要」が35.0%と最も多くなっている。
【社会保障制度】
次に高齢化の中で日本の社会保障制度が今後も持続可能かでは、47.4%の候補者が「このままいけば破綻しかねない」と考えており、「既に破綻している」との回答も22.2%いる。与党でも自民党の候補者は51.2%が、「このままいけば破たんしかねない」と回答しており、公明党は「すでに破たんしている」が、35.0%、「このままいけば破たんしかねない」が25.0%と、合わせると、6割の候補者が現行の社会保障制度に厳しい見方をしている。
ただ、候補者レベルでは厳しい認識の社会保障制度だが、各党の公約ではいずれもその改善策が提起されず、先送りされている。
多くの候補者が現在の社会保障制度について持続可能ではないと考えているものの、年金の支給開始年齢の引き上げについては、6割を超える人が「反対」(60.6%)と回答しており、給付抑制を求めない候補者が多数となった。
支給開始年齢の引き上げに賛成する候補者が最も多かったのは、みんなの党の48.0%、日本維新の会の79.4%で、与党自民党も20.9%が賛成している。
また、混合診療の導入については「反対」(51.4%)が「賛成」(39.7%)を上回り、否定的な意見が多数を占めている。
混合診療の導入を強く求めている候補者が多いのは、日本維新の会とみんなの党であり、それぞれ94.1%、100%である。
【農業】
農業政策については、74.8%の候補者が10年後の水田農業を「兼業農家や小規模経営を含む意欲ある全ての農家が継続して従事できる農業」にしたいと考えており、「大規模農家が80%を占める農業」は20.6%しかいない。自民党は参議院選挙の公約で農地集約を掲げているが、「大規模農家が80%を占める農業」と回答した候補者は4.7%に過ぎない。前政権で農地集約を打ち出した民主党も7.3%である。
【原発・エネルギー政策】
将来のエネルギー政策については、6割を超える候補者が「将来的に原発はゼロにすべき」(61.8%)としており、「原発の活用は止むを得ないが、徐々に依存度を減らすべき」(18.8%)を加えると8割を超える人たちが、原発の削減を進めていくと回答している。「今後も原発を活用すべき」(13.5%)との回答は2割に満たない。
アンケートに回答した候補者のうち、「今後も原発を活用すべき」と回答した候補者は、自民党が9.3%、民主党が2.4%のみだった。
一方で、原発の再稼働については「反対」(46.8%)が「賛成」(37.2%)を上回っているものの、その差は10ポイントである。再稼働に賛成の候補者が多いのは、自民党が74.4%、日本維新の会が70.6%。公明党と民主党の候補者にも再稼働に賛成な候補者はそれぞれ、15.0%、26.8%いる。
将来的には原発依存を下げていくべきだが、直近のエネルギー源として原発の活用も必要と考えている人が一定程度いることがわかる。
【地方】
将来の国と地方の関係については、41.5%の候補者が「現在の制度のままでいい」と回答した。一方で、都道府県を廃止して「道州、基礎自治体の二層からなる制度」が36.6%と続く。道州もしくは広域連合と都道府県、基礎自治体の三層からなる制度と回答した候補者は1割程度しかいない。
しかし、政党別で見ると、「現在の制度のままでよい」と回答したのは、大部分が共産党(100%)、社民党(77.8%)の候補者で、「道州、基礎自治体の二層からなる制度」と回答する候補者は多くの党に広がっている。最も多いのは、公明党の95.0%、日本維新の会の91.2%、みんなの党の84.0%で、自民党も41.9%の候補者が回答した。
【外交・安全保障】
尖閣諸島の問題で日本政府がとるべき対応では、「主権は主張するが、平和的解決をめざす」と回答した候補者は50.2%で最も多い。一方で、「日本の実効支配をより強化するべき」が29.5%で続く。また、まずは偶発的な軍事衝突を回避するため両国で話し合う、を選んだ候補者も8.9%いる。
政党別で見てみると、大部分の党の候補者は「主権は主張するが、平和的解決をめざす」を選んでいるが、日本維新の会は「日本の実効支配をより強化するべき」が79.4%で最多となる。
今後の防衛予算については「今後も増やしていく必要がある」(36.3%)と「削減していく必要がある」(35.7%)が拮抗している。
一方で「今年の予算の水準を維持する」も20.6%おり、財政規律が求められている中で、防衛予算については、防衛費の現状維持以上が多数を占めている。政党別で「今後も増やしていく必要がある」との回答が多数をしめたのは、日本維新の会(82.4%)と自民党(67.4%)であり、「削減していく必要がある」が最多となったのは共産党と社民党で共に100%だった。
また、政治家になった後、靖国神社に「参拝しない」が52.6%であり、「参拝する」(40.6%)を上回った。「参拝する」と回答した候補者が多い順に、日本維新の会(97.1%)、自民党(69.8%)、みんなの党(36.0%)、民主党(17.1%)であった。
【憲法】
憲法改正については、「賛成」(55.4%)が「反対」(40.3%)を上回った。
政党別でみると、「賛成」と回答した候補者が最多となったのは多い順に、日本維新の会(100%)、自民党(95.3%)、公明党(90.0%)、みんなの党(84.0%)となり、逆に「反対」と回答した候補者はそれぞれ、共産党(100%)、社民党(100%)、民主党(58.5%)であった。
【政党政治の今後について】
政党政治が今後、どうなるかは、無回答(25.5%)が最多となった。
「既存の政党に不信が高まり、新しい政党が出現する」が23.7と、もっと多くなったが、「わからない」が17.2%で続き、今後の政状況について展望を描けていない候補者が多いことがわかる。「自民党を中心とした政治が長期化し、一極化する」と回答したのは、ほとんど自民党の候補者であり、日本維新の会や民主党の候補者の中には「やがて自民党が分裂し、二大政党化に向かう」と見る候補者が相対的に多い。
みんなの党や生活の党の候補者は、「既存の政党に不信が強まり、新しい政党が出現する」が多い。公明党や共産党は「無回答」が最多となった。
最後に、各候補者に「あなたが政治家になった際、任期中に必ず実現する政策」について記入式で回答してもらった。回答結果については、選挙区別に、各候補者でご覧になれます。