安倍政権1年実績評価 個別項目の評価結果 【復興・防災】

2013年12月20日

総論

 東日本大震災の復旧・復興において、主に、被災地の復旧事業を早期に実現する政策がどのように動いているのか、そして福島第一原発の廃炉への道筋など、福島の再生をどのように進めようとしているのか、という点が主な焦点となる。

 12月4日、東日本大震災から1000日を迎えた。安倍政権は民主党政権の失敗を学び、高台移転、土地区画整理、がれき処理などについてこれまでの目標を適宜見直しながら、加速を図ろうとしている。また、東京電力福島第1原発問題では、除染、廃炉、汚染水対策など国主導で対処しようとしていることもあり、「復興分野」においては個別の政策はそれぞれ動いており、一定程度の成果は出ていることから比較的高い評価になった。

 一方で、個別の政策は動いているものの、どのような復興ビジョンを描き、その実現に向かってどのように対処していくのか、という大きな方向性は見えてこない。地域の復興は地域が考えるという立場から復興ビジョン・復興計画は被災自治体によって策定されているが、広域大震災と原発事故という国家レベルの有事に直面し、当該政策及び目標の体系そのものが本当に被災地の復興のために寄与するものかどうか、そしてその政策が実現した際に、現政権はどのような復興のビジョンを描いているのか、そういった点はあまり見えないことは、評価を下げる点である。

 次に、原発事故からの復興についてである。もちろん、前述したとおり、除染、廃炉、汚染水対策に対して国主導で対処しようとしており、それぞれの対策は進んでいる。
 しかし、原発の事故という歴史的にも未曽有の事故により、福島の避難地区では雇用機会としての原発及び関連産業が失われ、広域生活圏の中心である自治体の帰還が困難な状況にあり、広域的な経済基盤・生活基盤が崩壊してしまった。現在進めている除染と東電による補償金対策を進めても簡単な復興・再生は難しいかもしれない。仮に復興・再生ができたとしても、もともと基盤が弱かった農業・畜産・特用林産物・漁業がなどの地域産業は風評被害も手伝って復興のめどが立っていないのが現状である。

 そういった現実を踏まえながら、やはり国は原発事故に見舞われた福島の復興ビジョンをどのように描き、進めようとしているのかを示すと同時に、国民に説明しなければならないと考えるが、現時点でそういうビジョンは見えてこない。やはり、この点において、評価を下げる点である。


安倍政権1年実績評価 個別項目の評価結果 【復興・防災】

評価項目 評価 評価理由
復興計画を総点検し、必要な財源やマンパワーを確保。復興庁を機能させ体制を強化
4 民主党政権時代の「5年間で19兆円」の復興財源を、6兆円程度(日本郵政株式の売却収入4 兆円、23 年度決算剰余金等により2兆円程度)追加し、25兆円程度を確保した。また、復興庁の職員も発足当初よりは増加しており目標達成に向けて動いている。
一方で、政府は復興事業の進捗の遅れを加速化するために、13年3月の復興推進会議において「住まいの復興工程表」を公表した。13年9月末時点で高台移転などの防災集団移転促進事業については、工程表で示された 332 地区中の全てにおいて事業着手の法定手続である大臣同意に至り、土地区画整理事業についても約 9割は事業化の段階に達しており、現時点では目標に向かって動いている。
がれき処理は広域処理のあり方の見直しも含め、抜本的に強化し、早期完了を目指す
3.5 災害廃棄物の処理推進体制等については、11年5月に環境省が定めたマスタープランに基づいて工程表がつくられた。中間目標である13年 3月末時点での進捗状況を踏まえて、現行の処理工程表について必要な改定を行っている。13年3月末の中間目標である59%に対して宮城県、岩手県合計の処理割合は60%となり、目標は達成した。13年9月末の目標である84%(実績:92%)も達成しており、14年3月の処理100%の目標達成にむけて動いていると評価できる。福島県については、今年度中の完了は難しく、早くとも15年度になるとの目標を修正したものの、今後の進捗についての説明は行っている。
被災地の農業水産業やグループ補助金の拡充等の事業再建や二重ローン対策等の生活再建に取り組む
3 復興事業計画に基づく不可欠な「施設など」の復旧・整備などを行う場合に限っていたグループ補助金を、特に復興が遅れている被災3県に限定し、補助の対象経費を拡充した。しかし、グループ補助金受給者を対象にした調査で、売上高が震災前の水準を回復したとの回答は4割に満たず、被災企業の事業再建という目標の達成は現時点で判断できない。
復興庁公表の指標(11月公表)では、二重ローン対策655社となり、融資実績約6.22兆円、保証実績9.5兆円となるなど、一定の成果は上がっている。しかし、中小企業庁によると、大震災による津波及び原子力発電所事故の地域に立地していた中小企業数が約4万社、津波等で被災した市区町村に所在する中小企業数は、約12万社もあり、震災から1000日が経過した段階の支援数としては少なく、中小企業への支援は十分とは言えない。
世界のフロントランナーになる防災、エネルギー研究等の国家プロジェクトに被災地で取り組みます
3 岩手県は、超大型加速器国際リニアコライダー(ILC)を東北に誘致を主張していたが、東日本大震災後、11年6月11日の復構想会議で、復興の象徴としてILCを中心とする「TOHOKU国際科学技術研究特区」を岩手復興特区として提案した。文科相は省内タスクフォースに、外部有識者による作業部会を設置することを示し、誘致に向けて検討は開始した。しかし、投資の規模が大きい(8400億円)ため、現時点では国家プロジェクトとはなっておらず、今後、実現できるかは現時点では判断できない。
また、14年度予算の概算要求で再生可能エネルギー支援に333億円を計上。また13年度補正予算に再エネ・IT等の実証研究・拠点整備事業に378億円を盛り込み、浮体式洋上風力実証事業が始まり、福島再生可能エネルギー研究所が設立された点などについては評価できる。
被災者の帰還を実現するため除染を加速。除染の目標値を明らかにし、着実に実施できる体制に
3 除染を加速するため、12月14日、政府は東京電力福島第1原発事故の除染で生じた福島県内の汚染土などを最長30年間保管する中間貯蔵施設を整備する案を地元に示し、建設受け入れを要請したことは評価できる。今回、中間貯蔵施設建設に向けた動きにより、除染の加速が進む一方で、帰還出来ない被災者の生活再建策をどのように実施していくか、丁寧な説明が必要になる。
除染の目標値として、原子力規制委員会は13年11月20日、福島第1原子力発電所事故で避難した住民の帰還に向け、個人ごとの放射線量の実測値を安全性の目安とすることを正式決定した。これまでの基準からは事実上の基準緩和となる。これを受けて政府は来春にも一部地域で避難指示の解除を目指しており、被災者の帰還実現に向けて動き始めたが、現時点で帰還実現が達成できるかは判断できない。
福島第1原発の廃炉は国が主導的な役割でより早く、安全、着実に進める
3 東京電力は12月13日、福島第一原発5、6号機を廃炉にする方針を地元の自治体に説明し、同時に、年末にまとめる新たな総合特別事業計画に汚染水や廃炉の対策に今後10年間で7400億円の投資を盛り込む。一方、経済産業省は13年度の補正予算に約480億円を計上し、国費投入の規模は累計で約1700億円に達する。また、政府は原子力損害賠償支援機構と国際廃炉研究開発機構(IRID)を統合して廃炉作業を指導させるなど、汚染水対策や廃炉を担う体制を抜本的に見直す。廃炉に向けて、国の関与を強めながら主導的な役割を果たそうとしている点は評価できるが、30~40年後を予定している廃炉が予定通り実現できるかどうかは、現時点で判断できない。
(汚染水など)福島第1原発の対策は国が前面に立って責任を果たす
2 本項目はマニフェストに示されていない項目であり、原発事故により突発的に出てきた課題であり、安倍首相が10月15日の所信表明演説で示したものである。ただ、マニフェストにも原発の廃炉に向けた取り組みは「国が主導的な役割を果たす」としており、この体系の中で政策の実行を評価する。
政府の汚染水処理対策委員会は12月10日、従来の汚染水対策に加え、地表からの雨水の浸透を防ぐ舗装などの追加的対策などを盛り込んだ報告書を取りまとめた。この報告書を元に、12月20日に行われる原子力災害対策本部で、汚染水追加対策を正式に決定することになっており、政府主導での対策が確認できる。
但し、12月4日に、国際原子力機関(IAEA)が、敷地内での放射能汚染水貯蔵が持続不可能になりつつあるとして、低濃度汚染水の海への放出を検討するよう東電に勧告した。報告書でも低濃度汚染水について触れられているものの、具体策については先送りしている。しかし、先送りについての明確な説明はなされておらず、この点については評価を下げざるをえない。
政府が12月20日に決定する汚染水の追加対策次第だが、そこでは放射能汚染の程度が少ない汚染水の放出にどう対応するかも1つの試金石になる。
国土強靭化基本法や「首都直下型」と「南海トラフ」地震の措置法を制定し、事前防災や減災対策に取り組む
4 南海トラフの区域に対象地域を拡大し、津波避難対策を強化する「南海トラフ地震対策特別措置法」が成立した。また、「首都直下地震対策特別措置法」、「国土強靭化法」も成立した。東日本大震災を受けて地震や津波の被害想定が大幅に見直されており、従来の法律よりも、防災・減災の目標達成に向けて動いている。
3大都市圏の都市機能を守るため、液状化対策など「都市防災」を強力し、行政機能の分散化なども促進
3 首都直下地震の発生時に国の中枢機能を維持するための対策を促す「首都直下地震対策特別措置法」が成立した。しかし、法律に基づいた計画の策定や具体的な対象地域の指定などはこれからであり、現段階で首都機能のバックアップ、行政の分散化はなどの目標達成できるかは判断できない。加えて、「南海トラフ地震対策特別措置法」も成立しており、目標達成に向けて予定通り進んでいるが、政府による具体的地域の指定などについては、14年3月とされており、現時点で目標達成できるかは判断できない。
学校、公共施設、民間建築物の耐震化加速など、社会資本を前倒し整備する
4 病院やデパートなど不特定多数が利用する大型施設に対して耐震診断を義務付ける改正耐震改修促進法が施行された。結果の公表義務や、診断しなかった場合の罰則を設け、耐震化の促進を図るなど、法整備は進んでいる。10月発表の会計検査委員の資料によると、公立の小中学校と高校では計13万6538棟の84.3%が耐震化。うち災害時の避難所に指定されている計8万1234棟の耐震化率は85.5%。一方で、災害拠点病院などの医療施設(計1万234棟)の耐震化率は76.1%、県庁や市役所、警察署などの庁舎(計9493棟)では70.4%。国交省は2015年までに「多数の者が利用する建築物」の耐震化率を少なくとも9割にすることを目標にしている。更なる耐震化を進める必要があるが、現時点では目標達成に向けて動いている。


各分野の点数一覧

安倍政権通信簿は2.7点(5点満点)
経済再生
財政
復興・防災
教育
外交・安保
社会保障
3.2
経済再生分野の評価詳細をみる
2.7
財政分野の評価詳細をみる
3.3
防災・復興分野の評価詳細をみる

教育分野の評価詳細をみる
3.1
外交・安保分野の評価詳細をみる
2.3
社会保障分野の評価詳細をみる
エネルギー
地方再生
農林水産
政治・行政改革
憲法改正
2.6
エネルギー分野の評価詳細をみる
2.2
地方再生分野の評価詳細をみる
3.3
農林水産分野の評価詳細をみる
2.7
政治・行政改革分野の評価詳細をみる

憲法改正分野の評価詳細をみる

実績評価は以下の基準で行います

・未着手
・着手後、断念したが、その理由を国民に対して説明していない
0点
・着手後、断念したが、その理由を国民に対して説明している
1点
・着手し、一定の動きがあったが、目標達成はかなり困難な状況になっている
・政策目標を修正した上で着手したが、その修正理由を国民に説明していない
2点
・着手し、現時点では予定通り進んでいるが、目標を達成できるかは判断できない
・政策目標を修正した上で着手したが、その修正理由を国民に対して説明している
3点
・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
4点
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
5点

原則として、マニフェスト等に具体的な政策の記載がある場合のみ採点するものとします。 しかし、特例として、記載がないにもかかわらず施策を動かした場合、以下のように採点します。
なぜ実施に踏み切ったのか、その理由について国民に対する説明をきちんとしていれば各項目で1点加点するものとします


マニフェスト等から理念は読み取れる場合

・着手し、現時点では予定通り進んでいるが、目標を達成できるかは判断できない
1点
・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
2点
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
3点

マニフェスト等から理念も読み取れない場合

・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
1点
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
2点