言論NPO 第9回日中共同世論調査の結果公表

2013年8月05日

 言論NPO(代表 工藤泰志)が今年実施した日中の共同世論調査から、両国民の相手国に対する感情や認識がこの一年間で全面的に悪化し、過去9回の調査では最悪の状況になっていることがわかりました。この調査は、言論NPOと中国のメディア、中国日報社が2005年から毎年共同で行っているもので、今年は6月から7月にかけて日本全国と中国では北京、上海、成都など5都市で実施されました。

 両国民の感情の悪化は、尖閣諸島での日中両国の対立がその大きな原因になっており、相手国の印象や両国関係、今後の両国関係など設問のほとんど全てに深刻な影響が見られます。その背景には、国民間の直接交流が不足し、相手国を知るための情報源の多くを自国のメディア報道に依存している、構造も見られます。


今年の共同世論調査結果は、全面的に悪化し、過去9回の調査では最悪の状況

日本人・中国人ともに、相手国のマイナスの印象は9割を超え、過去の調査で最悪に


 日本人の中国に対する「良くない印象」(「どちらかといえば良くない印象」を含む)は90.1%(昨年84.3%)、中国人の日本に対する「良くない印象」は92.8%と、いずれも9割を超え、過去9回の調査で最悪の状況になっています。特に中国人の「日本に対する印象」は昨年の64.5%から一転、28ポイントも悪化しています。


中国人の中で日本を「覇権主義」と見る見方が増加しています

 日本人の7割近くは中国を「社会主義・共産主義の国」と理解し、「全体主義(一党独裁)」や「軍国主義」が3割台で続いています。中国人で今年最も多いのは、現在の日本を「覇権主義」と見る人で、昨年の35.1%から48.9%に大幅に増加しました。また、「軍国主義」とみる人も昨年(46.2%)よりは減少したものの、41.9%と4割を超えています。日本を「平和主義」の国とみる中国人は6.9%しかいません。
 また、相手国へのイメージ悪化に伴い、相手国の「国民性に対する評価」も全面的に悪化しています。日本人の半数程度は中国人を「勤勉だが、頑固で利己的、非協調的で信用できない」などと見ています。また、中国人の7割は、日本人を「好戦的で信用できず、利己的」と見ている他、半数以上が「怠慢で、頑固で不正直で非協調的」などと思っています。


両国民の現在の「日中関係」の評価は最悪で、今後の日中関係にも悲観的な見方が増えている

 現在の日中関係を「悪い」と判断する日本人は79.7%、中国人は90.3%でいずれも昨年から大幅に悪化し、過去9回の調査で最悪の水準となっています。このような日中関係が今後、「改善に向かう」とみる日本人、中国人はともに1割程度に過ぎず、むしろさらに「悪化する」(どちらかといえば、を含む)とみる日本人は28.3%(昨年は23.6%)、中国人は45.3%(同18.8%)と半数近くまで拡大し、今後の日中関係についても悲観的な見方が増えています。
 ただ、両国関係に対するこうしたマイナス評価にもかかわらず、両国にとって日中関係を「重要」とみる日本人、中国人はともに7割を超えており、日中関係の重要性については両国民ともに高い評価を維持しています。ただし、「重要」とみる認識は両国とも、わずかに減少傾向にあります。
 「日中関係の発展を阻害する主な問題」で、日本人に最も多かったのは「領土問題(尖閣諸島問題)」の72.1%で、昨年の69.6%をさらに上回り、突出しています。中国でも「領土問題」が懸念材料と答える中国人が77.5%で昨年の51.4%から20ポイント以上拡大しています。


日中首脳会談は両国民とも6割が「必要」としているが、4割の中国人が「必要ではない」と判断している

 尖閣諸島をめぐり日中関係が悪化して以来、行われていない日中首脳会談の必要性について、日本人は64.9%が、「必要である」とし、中国人も57.1%は「必要」と答えていますが、中国人には「必要ではない」と考えている人も37.3%と、4割近くいます。


日本の首相の靖国参拝に反対する中国人は62.7%で昨年から大幅に増えています

 首相の靖国参拝では日本人は「参拝しても構わない」と容認する人が約5割で最も多く、「私人としての立場なら構わない」を加えると7割を超えています。中国人は、「公私ともに参拝すべきでない」が昨年の調査から大幅に増え今年は62.7%(昨年は43.1%)と6割を超えました。昨年3割を超えた「私人としての立場なら構わない」も今年は20.4%と大幅に減少し、日本の首相の靖国神社参拝に対して厳しい見方が増えています。


尖閣問題の解決方法では、平和解決と法の解決を求める日本人に対して、中国人には、領土としての実質的なコントロールと日本に領土問題の存在を求めさせること、が多い

 日本人の6割、中国人の8割が、「日中間に領土問題が存在している」と判断しています。特に中国人で、領土問題の存在を意識する人がこの一年間に急増しています。
 その解決方法について、日本人は「両国間ですみやかに交渉して平和的解決を目指す」という回答が約5割あり、「国際司法裁判所への提訴」が4割で続いています。これに対して、中国人は「領土を守るため、中国側の実質的なコントロールを強化すべき」、「外交交渉で日本に領土問題の存在を認めさせる」という回答が半数を超えています。
 また、日本人の約7割、中国人の約8割が尖閣諸島をめぐる日本と中国の対立が、両国の経済に影響を及ぼしていると考えています。さらに「影響がある」と回答した日本人の65.1%、中国人の52.4%が、両国経済に悪影響を与えている、と認識しています。


中国人の半数以上は日中間で軍事紛争がいずれ起きると思っている

 日本人は半数が、「日本と中国の間で軍事紛争は起こらないと思う」とみていますが、中国人の半数以上は日中間で軍事紛争が、数年以内か将来に起きると思っています。
 また、両国民の間でお互いに「軍事的な脅威」を感じる割合がこの一年で高まっています。日本人はこれまで同様に「北朝鮮」に最も強い軍事的な脅威を感じていますが、「中国」に対して脅威を感じている人は、調査以来、初めて6割を超えました。「しばしば日本の領海を侵犯している」ことや、「日中間の尖閣諸島や海洋資源での対立」をその理由に挙げる人はそれぞれ6割を超えています。
 中国人の7割が、「米国」に脅威を感じており、「日本」が5割で続いています。ただ両国に対する脅威感はそれぞれ昨年よりも10ポイント程度増えています。その理由としては、「侵略戦争に反省や謝罪の念が薄らいでいるから」が69.9%で最も多く、「日本が長期にわたり釣魚島及び周辺諸島を占有し、領土問題の存在を認めないから」が56.6%、「日本の防衛計画大綱が中国を仮想敵国としているから」が47.7%で続いています。


2030年の日本と中国経済に関しては、両国民ともに相手国の順調な成長は難しい、と予測している

 2030年の中国経済に関して、日本人で最も多いのは「順調に成長することすら難しくなり、将来は極めて不透明」の29.3%で、全体的に慎重な見方が広がっています。中国人は日本の2030年に関して、「経済大国の地位も存在感も低下する」が、33.1%で最も多くなっています。ただ、「世界第三位の経済大国の地位」や、「経済的大国の地位は落ちても影響力は保持できる」、という見方も多く合わせて半数あります。


自国の日中間の報道を、公平で客観的と考える中国人は8割もいるが、日本人は2割強に過ぎない

 日本のメディアが日中関係の報道に関して「客観的で公平な報道をしている」と思う日本人は2割強しかなく、この割合は昨年と変化がありません。しかし、中国人は84.5%が、自国の日中関係に関する報道を「客観的で公平」と判断しており、昨年の64.4%から大幅に増えています。

調査結果の詳細については、言論NPOのホームページをご覧ください。

日中共同世論調査とは

 日本の言論NPOと中国日報社は、日中の両国民を対象とした共同世論調査を今年6月から7月にかけて実施した。この調査は、最も日中関係が深刻だった2005年から日中共同で毎年行われているものであり、今回は9回目となる。調査の目的は、日中両国民の相互理解や相互認識の状況やその変化を継続的に把握することにある。
 この調査は2005年から2014年まで10年間継続して実施すること、そして調査結果を「東京-北京フォーラム」の議論の題材として取り上げることで、両国民の間に存在するコミュニケーションや認識のギャップの解消や相互理解の促進のための対話に貢献することを、言論NPOと中国日報社は合意している。


2013年日中共同世論調査概要

 日本側の世論調査は、全国の18歳以上の男女(高校生を除く)を対象に6月21日から7月12日、訪問留置回収法により実施され、有効回収標本数は1000である。回答者の最終学歴は高校卒が45.5%、短大・高専卒が19.8%、大学卒が20.0%、大学院卒が1.6%だった。これに対して、中国側の世論調査は、北京、上海、成都、瀋陽、西安の5都市で18歳以上の男女を対象に、6月9日から7月8日の間で実施され、有効回収標本は1540で、調査員による面接聴取法によって行われた。標本の抽出は、上記の5都市から多層式無作為抽出方法により行われている。
 なお、この調査と別に、言論NPOと中国日報社は世論調査と同じ時期に世論調査と同じ内容の有識者へのアンケート調査を、日本と中国で行った。日本では、言論NPOの議論活動や調査に参加していただいた国内の企業経営者、学者、メディア関係者、公務員など約2000人に質問状を送付し、うち805人から回答をいただいた。回答者の最終学歴は、大学卒が62.6%、大学院卒が29.8%で合わせて92.4%となる。また、有識者の属性として78.8%が中国への訪問経験があり、80.0%が、会話ができる中国人の知人を持っている。
 また中国では北京大学が実施主体となり、学生・教員を対象としたアンケートを 6月22日から7月2日の間に、北京大学、清華大学、中国人民大学、国際関係学院、外交学院の学生・教員を対象に行い、802人から回答を得た。また、同時期に会社員、政府関係者、マスコミ関係者などの有識者にも同じアンケートを実施し、200名から回答を得た。これらの回答を合算し、合計で1002人の回答内容を中国有識者として分析した。

言論NPOとは

 言論NPOは、「健全な社会には、当事者意識を持った議論や、未来に向かう真剣な議論の舞台が必要」との思いから、2001年に設立された、独立、中立、非営利のシンクタンクです。言論NPOは、議論の力で、「強い民主主義」と「強い市民社会」をつくり出すことをめざし有権者が政治や政策を判断し、民主政治を機能させるために質の高い議論づくりや政策評価に取り組んでいます。  また、民間外交を担うトラック2として、私たちが行う議論はアジアにも広がっており、特に中国との間では2005年より「東京-北京フォーラム」を8回開催しており、ハイレベルの民間対話を実現しています。更に、2012年3月には米国外交問題評議会(CFR)が設立した国際シンクタンク会議カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)の常設メンバーに選出されており、日本の課題のみならず、世界の課題に対して提言を行っています。


本件に関するお問合せ

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