- 現状の日中関係に対して、日中両国民間で悲観的な見方が大きく減少し改善傾向に。日本側の悲観的な意識が改善した要因として、政府関係改善の動きと北朝鮮の核開発についてメディ報道し、知る機会が増えていることが大きく寄与している
- 中国国民の対日印象の改善が急速に進んでいる理由は、日本への渡航経験者数の増加と、若者世代の情報源の多様化
- 日中両国民の7割が両国関係は重要であると回答しているが、どのような関係を目指すべきかについては、模索しているのが現状
非営利シンクタンク言論NPO(東京都中央区、代表:工藤泰志)は、2017年12月14日、「第13回 東京-北京フォーラム」の開催に先立ち、「第13回日中共同世論調査」の結果を公表いたしました。この調査は、言論NPOと中国の国際出版集団が毎年共同で実施しているもので、今年は10月中旬から11月上旬にかけて実施しました。
詳細な調査結果は、言論NPOウェブサイトで公開いたします。報道関係者の皆様には、この調査結果をぜひご報道いただきたく、お願い申し上げます。
鮮明になってきた現状の日中関係に対する意識の改善
現在の日中関係を「悪い」と判断している日本人は昨年から大きく減少して44.9%(昨年71.9%)となり、7年ぶりに50%の水準を切りました。一方、中国人では依然として64.2%が「悪い」と判断していますが、昨年からは14ポイント減少しています。ただ両国民ともに、現状の日中関係を「良い」と判断する人が大幅に増えたわけではなく、悲観的な見方が大きく減少したことが、現在の日中関係に対する意識の大きな改善要因となります。
日本人の悲観的な見方が大きく改善した要因として、日中間で首脳会談や外相会談の開催が前回調査機関を大きく上回り(6回→11回)、メディア報道を通じて政府関係が改善していることを知る機会が増加し、さらに、北朝鮮の核開発に伴い、北朝鮮に対する軍事的な脅威を感じていること(89.2%)などが挙げられます。中国国民もこうした状況は共有しているが、中国の国民は日本ほどに北朝鮮に脅威感を抱いておらず(13.1%)、日本自体に歴史認識や軍事的な脅威感(67.7%)を持っていることが、この差につながっています。
中国国民の対日印象の改善が急速に進む理由とは
中国人の日本に対する印象は大きく改善し、日本に対して「良くない」という印象を持っている人は昨年から10ポイント改善し(76.1%→66.8%)、5年前の尖閣諸島の対立前の水準まで改善。日本に対して「良い」印象を持っている中国人も3割を超え(21.7%→31.5%)、2012年の調査時点の水準に回復しています。
この改善の要因として、中国人の日本への渡航経験の有無と情報源の多様化が影響しています。中国人で日本に渡航経験がある人は2013年から昇を続け、今年の調査では15.7%(昨年は13.5%)になりました。日本に渡航経験がある層だけに絞ると、日本に「良い」印象を持つ人は59.8%と6割近くになり、渡航経験のない人の26.2%を大きく上回っています。
また、中国の20歳代未満で日本に対して「良い」印象を持つ人は61.9%と半数を超え、20代でも40.6%と高くなっています。その理由として、若い年代ほど携帯機器(携帯電話、スマートフォン等)を通じたニュースアプリと情報サイトから、日本や日中関係の情報を得る人が増えており、20代未満では57.9%、20代でも43.8%となっています。
日中両国民の7割が、日中関係は今後も重要と回答している
日中関係を「重要」だと考える両国民は、日中両国で7割存在しています(日本:70.4%→71.8%、中国:70.8%→68.7%)。では、なぜ日中関係は重要なのか。日本人では、「アジアの平和と発展には日中両国の共同の協力が必要だから」が57%で最多ですが、中国人は「重要な隣国だから」が75.4%で圧倒的です。お互いの回答がまだ一般的なのは、お互いの重要性を具体的にイメージできていないからです。また、日中両国民は半数が、日中は将来、平和的な共存共栄関係となる期待しているが実現するかわからない、と答えており、日中両国は重要な関係だとしているものの、なぜ重要なのか、どういう関係を目指すべきか、まだお互いが見えない関係にあると考えられます。
日中関係の現状と相手国に対する印象
・現在の日中関係を「悪い」と判断している日本人は昨年から大きく減少し(71.9%→44.9%)、過去13回の調査では3番目に低い水準になった。50%の水準を切るのは7年ぶりである。中国人では依然として「悪い」と判断しているが、昨年からは14ポイント減少している。(78.2%→64.2%)
・今後の日中関係の見通しについては、「変わらない」と思う人が両国で最も多いが、「悪くなっていく」という見方は日本人(34.3%→23.6%)、中国人(50.7%→29.7%)共に大きく減っている。今後は「良くなっていく」という人が両国民ともに増加しているが、特に中国人では昨年を大きく上回っており(19.6%→28.7%)、今後の日中関係の行方に対する悲観的な見方は減少している。
≪中国人の日本に対する「良い」印象が尖閣国有化以前の水準に回復する≫
・日本人の中国に対する「良くない」印象は、昨年に比べてわずかながら改善したが(91.6%→88.3%)、依然8割台にある。これに対して、中国人の日本に対する「良くない」印象は昨年から減少し(76.7%→66.8%)、5年ぶりに6割台にまで改善した。日本に対する「良い」印象も(21.7%→31.5%)と5年ぶりに国有化以前の2012年調査の水準を回復した。
・今年の調査では、両国国民の相手方への感情が昨年からどのように変化したかを尋ねたところ、日本人は「変化していない」が最も多く(40.8%)、「わからない」が続いている(30.5%)。一方、中国人では、「悪化した」が半数近いが(49.7%)、「好転した」という人も2割いる。
日中関係向上に有効なことと民間交流の重要性
・日本人、中国人ともに日中関係向上のためには「両国政府間の信頼向上」(日本人は40.7%、中国人は30.2%)や「首脳間交流の活発化」(日本人は20.1%、中国人は27%)など、政府間レベルの信頼関係強化が有効だと考える人が多い。
≪安定した平和な秩序のため、日中間で新たな協力関係を構築すべき≫
・国際経済やアジアの政治環境が大きく変動する中、安定した平和な秩序を目指すため、 日中両国は今後、より強い新たな協力関係を構築するべきかを尋ねると、日本人の6割、中国人の7割が、安定した平和な秩序のため、日中両国はより強い新たな協力関係を構築すべきだと考えている。
≪日中の民間交流は重要との声が日中両国で最多≫
・日本人の約4割、中国人の5割超がこの一年間の日中の民間交流を「活発ではなかった」と判断している。民間交流が日中関係を進める上で「重要である」と考える人は、日本人では6割、中国人では7割を超えている。交流を進めるべき分野としては、日本人では「留学生の相互受け入れ」(38.9%)と「両国関係の改善や様々な課題解決のための民間対話」(37.8%)が多い。中国人では「メディア間の交流」(46%)が最も多い。
日中両国民が軍事的脅威を感じる国
・自国にとっての軍事的脅威を感じる国が「ある」と感じている人は、日本人で8割を超え、中国人では約6割。「ある」との回答者が挙げた具体的な国名として日本人の9割近くが「北朝鮮」と回答し、2番目に「中国」と回答するも、昨年から21ポイント減少している(66.6%→45.3%)。これに対し、中国人では「日本」が依然として最も多く(67.6%)、「米国」(65.7%)が続いている。中国で「北朝鮮」に軍事脅威を感じている人は13.1%(昨年11.8%)にすぎず、「韓国」の方が多い(25.6%)。
・日本人が中国に対して軍事的脅威を感じる理由では、「日本の領海侵犯」(70.1%)が最も多いが、「尖閣諸島や海洋資源で紛争があること」に加え、「南シナ海での強引な姿勢」を挙げる人も6割を超えている。中国人が日本に対して軍事的脅威を感じる理由では、「日本は米国と連携し軍事的に中国を包囲しているから」を挙げる人が約8割となりと最も多い。
日中間での領土をめぐる軍事紛争の可能性
・日中間での尖閣諸島をめぐる軍事紛争について、日本人では「起こらないと思う」(37%)が最も多い。これに対して中国人では「起こると思う」(53.3%)昨年同様に半数を超えているが、昨年からは9ポイント減少し、「起こらないと思う」が増加している。
・偶発的な軍事衝突を避けるためのホットラインの設置については、日本人の6割、中国人の7割がその必要性を認識しているが、これを早急に実現すべきと捉えている人は中国人の方が多い。
≪北東アジアの安全保障を議論する多国間輪組は必要≫
・北東アジアの安全保障を議論する多国間枠組みの必要性について、日本人の4割近く、中国人の5割近くが「必要である」と考えている。そうした多国間枠組みの参加国については、日本人では日中韓が参加すべきと考えている人が8割以上いる。中国人では自国の「中国」以外では、日・露・米・韓が4割から5割で並んでおり、「六者会合」の枠組みを意識している人が多い。
日中両国の共存・共栄と協力関係
日中両国が協力を進める地域の課題は「北朝鮮の核問題」で両国民の認識が一致≫
・日中両国民の半数が、日中関係の「平和的な共存・共栄関係を期待するが、実現するかはわからない」と考えている。ただ、中国人の中には「平和的な共存・共栄関係が実現できる」との見方が3割近くある。
・東アジアが目指すべき価値観として、日本人では7割近くが「平和」、4割が「協力発展」を重要であると考えている。中国人でも5割超が「平和」、4割超が「協力発展」と回答しており、この2つの価値を重視する点で日中両国民の認識は一致している。
・日中両国やアジア地域に存在する課題の解決に向けて、日中両国が協力を進めることについて、日中両国民の約6割が「賛成」している。その協力すべき分野では、日本人の7割超が「北朝鮮の核問題」、6割が「環境問題」を選んでいる。中国人でも最も多いのは「北朝鮮の核問題」の4割であり、この点では両国民の認識は一致している。
≪日中両国民の7割が日本と中国が世界的な課題解決に協力することが重要と回答≫
・日中両国民の7割近くが日本と中国が世界的な課題解決に向けた協力をすることは「大切だ」と考えているが、中国人の中には「大切だと思わない」と考える人も2割程度存在している。具体的な固いとしては、日本人は「国際テロ対策」、「核拡散防止や核軍縮」、「国際的な環境問題・気候変動への取り組みの促進」を挙げ、中国人では「中東や北アフリカを含む世界における平和維持」、「国際テロ対策」、「核拡散防止や核軍縮」、「世界のインフラ開発や発展途上国との経済協力」を挙げた。
両国のメディア報道とインターネット世論の評価
・中国メディアの日中関係に関する報道を「客観的で公平」と感じている中国人は昨年同様に7割を超える高水準である。これに対して、日本人で日本メディアの日中関係に関する報道を「客観的で公平」と感じている人は2割に満たない。
・日本人ではインターネット上の世論は民意を「適切に反映していない」との見方の方が多い。逆に、中国人では「適切に反映している」との見方が8割を超えている。
両国民の相互理解の背景
・日本人では、中国への渡航経験が「ある」という人は13.8%、「親しい」あるいは「多少話をしたりする」中国人の友人がいるという人は2割程度で、昨年から大きな変化はない。一方、中国人では日本への渡航経験が「ある」という人は昨年を上回った(13.5%→15.7%)。中国人の渡航経験ありの比率は上昇しており、中国人が日本人を上回ったのは調査開始以降の13年間で初めてである。ただし、「親しい」あるいは「多少話をしたりする」日本人の友人がいるという中国人は依然として1割に満たない。
・日本人の中国に対する圧倒的な情報源は日本のニュースメディアで、特にテレビが突出している構造は昨年と同様。ただ、「日本のドラマ・情報番組、映画作品」や「家族や友人・知人、ネット・SNSを通じた会話・情報」、「日本の書籍」を通じて情報を得る人も増加している。
中国人は日本と比較すると情報源は多様で、変化がある。自国のニュースメディアを情報源とする人は8割を超えているが、「中国のテレビドラマや情報番組、映画作品」が6割を超えているほか、中国の書籍(教科書も含む)を情報源とする人も3割存在する。また、自国のニュースメディアのうち、テレビは58.1%で最も多いが、日本とは異なり突出はしておらず、携帯機器からのインターネットでニュースを得ている人が30.7%と多い。
「第13回日中共同世論調査」概要
北京・上海・広州・成都・瀋陽・武漢・南京・西安・青島・鄭州の10都市で18歳以上の男女を対象に、10月20日から11月1日にかけて調査員による面接聴取法により実施され、有効回収標本は1564です。
【言論NPOとは】
言論NPOは、「健全な社会には、当事者意識を持った議論や、未来に向かう真剣な議論の舞台が必要」との思いから、2001年に設立された、独立、中立、非営利のネットワーク型シンクタンクです。2005年に発足した「東京-北京フォーラム」は、日中間で唯一のハイレベル民間対話のプラットフォームとして12年間継続しています。また、2012年には、米国外交問題評議会が設立した世界25ヵ国のシンクタンク会議に日本から選出され、グローバルイシューに対する日本の意見を発信しています。この他、国内では毎年政権の実績評価の実施や選挙時の主要政党の公約評価、日本やアジアの民主主義のあり方を考える議論や、北東アジアの平和構築に向けた民間対話などに取り組んでいます。
【中国国際出版集団とは】
中国国際出版集団(China International Publishing Group,CIPG)は1949 年10 月に設立された。
中国で最も歴史が古く、最も規模が大きい専門的な外国向け出版発行機関で、60 年余りにわたり、多言語で国際社会に向けて中国の歴史や文明を紹介し、中国と世界の交流と理解、協力と友情を増進するために積極的で重要な役割を果たしてきた。
出版社7 社と雑誌社5 社、チャイナネット、中国国際図書貿易グループ、対外伝播研究センター、翻訳資格審査評議センター、デジタルメディアセンターなど計20 の組織を傘下に持つ。毎年40余りの言語で約5000 種の図書を刊行し、30 余りの言語の定期刊行物を180 以上の国・地域に届けている。
同時に30 余りの多言語ウェブサイトと100 近いソーシャルメディアのプラットフォームを運営し、対外的で国際的な多言語、マルチメディアの新しい事業枠組みを作り上げている。
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