韓国人では、非核化や北朝鮮との関係改善が進むと考えており、
朝鮮半島の「統一」を希望する人が多い一方、
日本人は非核化の実現や朝鮮半島の安定に懐疑的で、
朝鮮半島の将来に関しても、大きな変化を想像できていない。
非営利シンクタンク言論NPO(東京都中央区、代表:工藤泰志)は、2018年6月22日に開催する「第6回日韓未来対話」(於:韓国ソウル)に先立ち、「第6回日韓共同世論調査」の結果を公表いたしました。この調査は、言論NPOと韓国の東アジア研究院(East Asia Institute, EAI)が2013年から6年間継続して毎年共同で実施しているもので、今年は5月中旬から6月上旬にかけて実施しました。
報道関係者の皆様には、この調査結果をぜひご報道いただきたく、お願い申し上げます。
- 北朝鮮の核問題の解決に関して、韓国国民は前向きに考えており、慎重な日本人と対照的な傾向を示している。韓国人は6割が10年以内には、北朝鮮の核問題は解決できると見ているが、日本では解決が難しいと考えている人が6割以上存在する。
- 10年後の朝鮮半島の状況については、日本人の7割が、「現状の不安定なまま」か「分からない」と答えているが、6割を超える韓国人は、「韓国と北朝鮮は関係改善する」と答えている。「南北統一に向けた動きが始まる」と考えているのは、日本と韓国の1割程度である。
- 朝鮮半島の将来に関しては、3割を超える韓国人が「国家として完全な統一」すべきと考えており、「連邦政府」を加えると半数が統一を希望している。「EUのような南北の連合国家」も2割強あり、「現状のまま」を希望するのは5.1%に過ぎない。これに対して、日本人は「わからない」が最多で、「現状のまま」を加えると半数が、大きな変化を想像できていない。
- 平和統一後の在韓米軍については、韓国人の半数、日本人の4割強が、朝鮮半島が平和統一後も「必要」と考えているが、韓国では「必要ない」も4割を超えており、意見が分かれている。
- 日韓関係に関しては、韓国人の日本に対する印象は引き続き改善しているが、日本人には堅調な改善傾向が見られない。これに対して、現状の日韓関係を「悪い」と見る人は日韓両国で減少している。ただし、「良い」と見る人は1割にも満たず、好転したわけではない。
- 日韓関係が「重要」であると考える人は日本では6割近く、韓国では8割を超えているが、その割合はそれぞれ昨年よりも減少している。対中国との比較では、両国民ともに「どちらも同程度に重要」が最も多くなっているが、韓国には「中国の方が日本よりも重要」が4割近くも存在している。
- 従軍慰安婦問題の解決では、日本では2015年末の日韓合意を「韓国が最終的な解決として受け入れる」が3割で最も多いが、「分からない」もほぼ同数存在する。韓国では、「再協議」が半数近くおり、政府間合意を認めた上で「補完する措置を講じる」も4割近くあり、9割が、新しい措置が必要と考えている。
この調査結果を踏まえ、言論NPOとEAIは共同で「第6回日韓未来対話」を6月22日(金)に韓国・ソウル(於:韓国高等教育財団)で開催し、両国の有識者が、北東アジアの平和や朝鮮半島の未来を日韓両国はどのように考えているのか、その中で日韓両国がどのような役割を担っていくべきなのか、そのために日韓はどのような課題を乗り越える必要があるのかなど、公開の場で議論を行います。
調査結果は、言論NPOウェブサイト(で、6月18日(月)15時以降公開いたします。また、「第6回日韓共同世論調査記者会見」「第6回日韓未来対話」の概要・お申込みについては、5・6ページ目をご覧ください。
共同世論調査の主な結果は以下の通りです。
北朝鮮の核問題、朝鮮半島の将来の見通し
韓国人の6割が朝鮮半島の非核化への進展を期待する一方で、 「非核化が実現する」と考える日本人はたった1%
◆南北首脳会談や米朝首脳会談などで、朝鮮半島の完全な非核化に向けて外交プロセスが動き、それが目標として合意されたが、「完全な非核化」が合意通りに実現するとも考えている日本人は1%程度しかおらず、「この合意だけでは判断ができない」や「最終的にこの合意はとん挫する」、と悲観的に考えている日本人が6割近く存在する。これに対して、韓国人は「実現する」と解決に時間はかかるが、非核に向けて動き出したと、6割を超える人が非核化への進展を前向きにとらえている。
◆こうした認識の相違は、核問題解決自体についての認識でも顕著に表れ、「解決は難しい」と考える日本人は昨年同様6割を超えているが、韓国人では「難しい」と考える人は2割程度しかなく、昨年より大きく減少した。これに対して、「今年中」から「10年後」までに解決すると考える人を合計すれば、この10年のうちに北朝鮮の核問題が「解決する」と考える人は6割を超えている。
韓国人の過半数は北朝鮮との関係改善に期待を寄せ、統一を意識しているが、
日本人では「不安定なまま」や「わからない」が多い
◆10年後の朝鮮半島情勢について、日本人の4割近くは、「現状の不安定なまま」か「韓国と北朝鮮の対立が深まる」と考えており、3割が「分からない」と答えている。これに対して、韓国人の6割強は「韓国と北朝鮮は関係改善をする」と回答し、対照的に前向きな見方となった。「南北統一に向けた動きが始まる」は日韓でそれぞれ1割程度である。
◆将来の朝鮮半島の姿に関しても、日本では、3割近くが「わからない」と回答し、2割が「現状のまま韓国と北朝鮮が併存する」と答えている。韓国では朝鮮半島の将来は「国家として完全に統一される」が3割を超え、これに「連邦制」を加えると半数が、統一に向けた姿を意識している。「別国家として存在しつつEUのような連合を組織する」も2割強ある。
平和統一後の在韓米軍は、韓国人と日本人の4割以上が「必要だ」と考えているが、
韓国人では「必要ない」も4割
◆韓国人の半数近く、日本人の4割強が、朝鮮半島が平和的に統一された場合でも、引き続き在韓米軍は「必要だ」と考えている。ただ、韓国人では「必要ない」と考える人も4割を超えており、意見が分かれている。
韓国の核武装への賛否-韓国人で「賛成」が大幅に減少
◆北朝鮮が核放棄をしない場合の、日韓の核武装の是非について、日本の核武装については、日本人では6割強が「反対」しているが、昨年からは9ポイント減少している。韓国人は8割が「反対」している。
◆韓国国内ではこの一年で核に対する意識がやや後退している。韓国が核武装することに対しては、韓国人の依然4割を超える人が「賛成」しているが、昨年比では20ポイント以上、減少している。これに対して、日本人の6割強が韓国の核武装に関しては、「反対」しているが、昨年よりは「反対」が減少している。
日韓関係
相手国に対する印象―韓国人の日本の印象はわずかに改善、 日本人の韓国に対する印象は改善がみられない
◆日本人の韓国に対する印象には堅調な改善は見られないが、韓国人の日本に対する印象は昨年に引き続き改善が見られる。日本人で、韓国に対する印象を、「良くない(「どちらかといえば」を含む、以下同様)」と回答した人は46.3%となり、昨年の48.6%からはわずかながら改善している。もっとも、「良い(「どちらかといえば」を含む、以下同様)」と回答した人は22.9%で、昨年の26.9%から減少している。
これに対して、韓国人では、日本に対する印象を「良くない」と回答した人は50.6%となり、2015年の72.5%、2016年の61%、2017年の56.1%からの改善基調は続いている。「良い」と回答した人も、昨年の26.8%から28.3%に増加している。
現状の日韓関係が「悪い」とみる人は日韓両国民とも過去6回の調査で最も低いが、
日韓関係の今後は「変わらない」
◆現在の日韓関係を「悪い」と見る日本人は4割、韓国人で5割強あるが、昨年からは大きく改善し、2013年の調査開始以来最も低い水準となっている。しかし、現状の日韓関係を「良い」と判断するのは両国民ともに1割にも満たず好転したわけではない。今後の日韓関係の見通しに関しては、依然として両国でこの状態が「変わらない」との見方が半数程度で最も多い。
日本人6割、韓国人8割が「日韓関係が重要」と考えるも、
対中国では韓国人の4割が「日本よりも中国が重要」
◆日韓関係が「重要である」と考える人は日本では6割近く、韓国では8割を超えているが、その割合は昨年から減少している。特に、日本人で日韓関係を重要だと考える人はこの6年間で最も低い。
日韓関係が「重要である」と思う理由で日本人に多いのは、「隣国」や「同じアジアの国」など一般的な認識だ。韓国人ではそれらに加えて、経済・通商面から日韓関係の重要性を見ている人が多い。
◆日韓関係の重要性を、対中関係と比較すると、日本人の4割強、韓国人の5割近くは「どちらも同程度に重要」と考え、最も多い答えとなっている。ただ、韓国人で「日本よりも中国の方が重要だ」と考える人は4割近く存在し、日本の倍近くになっている。
韓国人―韓国にとって最も重要な国は「アメリカ」が増加し、「中国」が大きく減少
◆日韓両国民は、自国の将来を考える上で「アメリカ」との関係を最も重視している。特に日本人ではアメリカを選ぶ人は6割を超えて突出している。韓国人も5割を超える人が「アメリカ」を選んでいるが、その後に「中国」が3割程度で続いている。ただし、「中国」を選んだ韓国人は昨年から11ポイント減少している。「日本」と「韓国」が自国にとって最も重要だと考える両国民はごく僅かである。
韓国人の4割、日本は依然「軍国主義」、「国家主義」
◆日本人の半数以上が現在の韓国を「民族主義」の国、韓国人の4割程度が依然、現在の日本を「軍国主義」や「国家主義」の国と認識している。相手国を「民主主義」の国だと考えているのは、それぞれ2割程度に過ぎない。
日本人の半数と韓国人の7割が日韓政府間合意で従軍慰安婦問題は未だ「解決していない」
◆日本人の5割、韓国人の7割が、政府間合意によっても慰安婦問題は「解決していない」と考えている。ただ、その割合は両国で昨年よりはやや減少している。
日本人の3割は、韓国が「合意を最終的な解決として受け入れる」ことで慰安婦問題を解決すべきと考えているが、何らかの新たな措置が必要だと考えている人も2割強存在している。一方、韓国では、この合意の修正のために「再合意する」が半数近くおり、「合意は認めるが、この合意を補完する措置を講じる」が、4割近くあり、慰安婦問題の解決のためには、9割が新しい措置を必要と考えている。
「第6回日韓共同世論調査」概要
日本側調査は、全国の18歳以上の男女を対象に5月19日から6月3日まで、訪問留置回収法により実施され、有効回収標本数は1,000です。回答者の最終学歴は小・中学校卒が9.0%、高校卒が44.5、短大・高専卒が20.3%、大学卒が22.6%、大学院卒が1.5%でした。これに対して、韓国側の世論調査は、全国の19歳以上の男女を対象に、5月21日から5月31日の間で実施され、有効回収標本は1,014で、調査員による対面式聴取法によって行われました。
【ご取材のお願い】
工藤へのインタビューなどのご要請がありましたら、積極的に対応させて頂きます。
【言論NPOとは】
言論NPOは、「健全な社会には、当事者意識を持った議論や、未来に向かう真剣な議論の舞台が必要」との思いから、2001年に設立された、独立、中立、非営利のネットワーク型シンクタンクです。2005年に発足した「東京-北京フォーラム」は、日中間で唯一のハイレベル民間対話のプラットフォームとして13年間継続しています。また、2012年には、米国外交問題評議会が設立した世界25ヵ国のシンクタンク会議に日本から選出され、グローバルイシューに対する日本の意見を発信しています。この他、国内では毎年政権の実績評価の実施や選挙時の主要政党の公約評価、日本やアジアの民主主義のあり方を考える議論や、北東アジアの平和構築に向けた民間対話などに取り組んでいます。
また、2017年には世界10カ国のシンクタンクを東京に集め、東京を舞台に世界の課題に関する議論を行う「東京会議」を立ち上げ、会議での議論の内容をG7議長国と日本政府に提案する仕組みをつくり出しました。
【東アジア研究院(EAI, East Asia Institute)とは】
東アジア研究院は、地域が抱える問題について政策提言を行うことを目的に、独立シンクタンクとして創設しました。研究者セミナー、フォーラム、教育プログラム、そして多様な出版物を通じて影響力のある成果を生み出しています。東アジア研究院の調査活動は、外交安全保障プログラム、ガバナンス研究プログラムの二本柱から成り、これらのプログラムが5つの研究センターよって行われています。また、研究タスクフォースを用いて、喫緊した重要な問題にも取り組んでいます。卓越した研究者と政策立案者が協働し、東アジア研究院は革新的で政策論議を反映した研究成果を想像する中心に立っています。韓国で卓越した研究所の一つとして、米国、中国、台湾、その他多くの国々との共同研究を通じ、北東アジアにおける知識ネットワークを創造しています。
「日韓未来対話」とは
「日韓未来対話」は、言論NPOと東アジア研究院(EAI)が2013年に創設した、日韓間で唯一の課題解決型・公開型の民間対話です。日韓関係は、両国世論のナショナリズムの高まりや相互認識の不足を背景に停滞しており、北東アジアの平和環境構築の障害になっています。この対話は、世論調査で国民の認識の動向を絶えず把握しながらオープンな議論を行い、その成果を発信することで世論を動かし、政府間外交の環境を作り出すことを目的としています。
昨年、東京で行われた「第5回日韓未来対話」には、日韓両国から約40氏が議論に参加し、会場には200人の聴衆が集まりました。朝鮮半島情勢が緊迫化する中、日韓両国の相互理解、信頼醸成、そして両国が協力してこの地域の問題に取り組むことがどうしても必要との認識から、今回の日韓未来対話では、日韓両国の専門家が公開の場で、北朝鮮の核問題に真剣に向かい合いました。
6年目となる今年は6月22日に韓国ソウルにて「第6回日韓未来対話」を開催します。
【第6回日韓未来対話】開催概要(予定)
■日時: 2018年6月22日(金)13時~17時30分
■会場: 韓国高等教育財団 地下3階 カンファレンスホール
(211 Teheran-ro, Gangnam-gu Seoul, Korea 06141)
■プログラム:セッション1
「2018年日韓共同世論調査結果に基づく日韓国民の外交政策に関する意識の動向」 セッション2
「米朝会談の評価と朝鮮半島の今後を考える」
言論NPOが進める「言論外交」とは
北東アジア地域では、大国間のパワーバランスが変化する中で実際に紛争の危険性が生じ、本来それを解決すべき政府間外交が、各国世論のナショナリズムの影響を受け機能しない状況が続いています。言論NPOでは、「この状況を誰が解決するのか」という問題意識から、北東アジアの平和的な秩序形成に向け、有識者による公開型の議論を発信し、世論を改善させることで政府間外交の環境を作り出す「言論外交」のアプローチを提唱・実践しています。
2005年に言論NPOが北京で設立した「東京-北京フォーラム」は、政府外交が停止した際にも一度も途絶えることなく毎年開催され、日中間の最も信頼できる民間対話のチャネルとして定着しています。第9回フォーラム(2013年)では、尖閣問題で両国関係が最悪の状況に陥る中、両国の民間レベルで「不戦の誓い」に合意し、両国と世界に発信しました。加えて、2013年からは韓国との間で「日韓未来対話」を、2015年からは米国を交えた「日米中韓4ヵ国対話」を開催し、対話の枠組みを北東アジア全体に広げています。
これらの対話の模様や、対話に先立って実施される世論調査の結果は、域内各国や世界の多くのメディアやシンクタンクで引用され、各国世論に強い影響力を与えています。