・14回の調査で初めて、中国人で日本に「良い」印象を持つ人が4割を超える。一方、日本人の9割近くが中国に「悪い」印象を持っており、昨年と比べて変化はなく、日中両国民間で非対称的な傾向を示している。
・現在の日中関係について、日中両国民ともに「悪い」が半数を下回るのは8年ぶり。
・日本に軍事的な脅威を持つ中国人はこの1年間で増大して8割に迫る。日本も「中国」に脅威感を持っている人が昨年を上回る6割に迫り、安全保障面では緊張が高まっている。
・中国人の半数を超える人が尖閣周辺で将来軍事紛争が起こると感じており、運用を開始した「海空連絡メカニズム」が不十分だと感じている両国民は3割前後存在する。
非営利シンクタンク言論NPO(東京都中央区、代表:工藤泰志)は、2018年10月11日、「第14回 東京-北京フォーラム」の開催に先立ち、「第14回日中共同世論調査」の結果を公表いたしました。この調査は、言論NPOと中国の国際出版集団が毎年共同で実施しているもので、今年は9月上旬から下旬にかけて実施しました。
詳細な調査結果は、言論NPOウェブサイトで公開いたします。報道関係者の皆様には、この調査結果をぜひご報道いただきたく、お願い申し上げます。
日中平和友好条約の理念が「実現できていない」との回答が日中両国民で4割を超える
今年は日中平和友好条約の40周年だが、その理念が今なお「実現できていない」と見る中国人は46.2%、日本人は40.4%も存在しています。日本人で「実現できている」と思っている人は14.8%に過ぎません。また、6割を超える中国人は、両国がその際に合意した項目で、今後も発展させるべき項目は、「平和共存原則の下での恒久的な平和友好関係」と「全ての紛争の平和解決」を求める不戦条項と考えており、反覇権の条項では53%にとどまりました。日本人でこの反覇権の条項を選んだのは19.7%に過ぎません。
日中両国民間で、相手国に対する印象や現在の日中関係についての違いが鮮明に
今回の調査結果から、中国人の日本に対する印象や現在の日中関係について、全般的な改善が進んでことが明らかになりました。これに対して日本側の認識はなかなか変わらず、日中両国民間で非対称的な傾向を示しています。
特に中国人で日本に「良い」印象を持っているのは昨年の31.5%から42.2%に上昇し、「悪い」は56.1%と昨年の66.8%から10ポイント改善しています。
中国人で日本に「良い」印象を持つ人が4割を超えるのは、14回の調査で初めてであり、この傾向が続くと来年の調査では「良い」が「悪い」を上回る可能性があります。
これに対して、日本人は今年も86.3%と9割近くが中国の印象を「悪い」と見ており、昨年(88.3%)と比べてもほとんど変化はありません。
現状の日中関係に関しても意識は大幅に改善し、中国人で、現状の日中関係を「悪い」と見ている人は昨年の64.2%から45.1%に20ポイントも改善し、日本人は今年39%と4割を切りました。
日中両国民ともに「悪い」が半数を下回るのは8年ぶりのことです。
ただ、両国民は現状の日中関係が「良い」と判断したわけではなく、中国人では「良い」が、30.3%と3割を5年ぶりに回復したが、日本人でまだ7.2%しかいません。
日中両国民共に相手国に軍事的脅威を感じており、安全保障面では緊張が高まる
また、中国人の対日意識は改善しながらも、日本に軍事的な脅威感を持つ人はこの一年で増大し79.4%と世界で最も多くなりました。日本人も昨年を上回る57.5%が中国に対し、軍事的な脅威を感じており、安全保障面では緊張が高まっています。
また、日本人の27.7%を上回る56.1%の中国人が尖閣周辺で将来軍事紛争が起こると感じており、2018年6月に運用を開始した「海空連絡メカニズム」が不十分だと感じている日本人は36.7%、中国人は26%存在しています。
共同の世論調査の主な結果は以下の通りです。
相手国に対する印象と現在の日中関係
中国人の、日本に対する印象の改善は進み、日本の印象を「良い」とする人は昨年から11ポイント増加して42.2%となり、2005年の調査開始以降で最も高い数値となった。これに対して、「良くない」が11ポイント減少し、56.1%にまで下がっている。 日本人の中国に対する印象はわずかに改善しているが、中国に「良くない」印象を持っている人は86.3%と依然9割近く、対照的な状況となっている。中国に「良い」印象を持っている人は13.1%にすぎない。 両国国民の相手方への感情が、昨年からどのように変化したのかを尋ねると、日本人は「変化していない」が40.3%と最も多く、「わからない」が37.6%で続いている。 一方、中国人では、「悪化した」が49.7%から26.4%へと23ポイント減少するとともに、「好転した」が20.4%から40%へとほぼ倍増しているなど、改善傾向が顕著である。
≪現在の日中関係に対して、両国間で改善傾向が顕著に見られる≫
両国民の間に、現状の日中関係に対する判断で改善傾向が顕著となり、いずれも「悪い」が半数を下回った。これは尖閣諸島問題以前の傾向である。特に中国の改善が際立っている。
現在の日中関係を「悪い」と判断している日本人は39%となり、8年ぶりに4割を切る水準となった。中国人では「悪い」という判断が昨年からは19ポイントも減少して45.1%となった。
今後の日中関係の見通しについても、日本人では「良くなっていく」と見ている人は15.6%と1割台だが、中国人では昨年から10ポイント増加して38.2%と4割近くになるなど、日本人と比較すると楽観的な見通しを持っている。
日中両国民が軍事的脅威を感じる国
・自国にとっての軍事的脅威を感じる国が「ある」と感じている人は、日本人では昨年の80.5%から72.4%に減少したが、中国人では59.1%から68.7%へ大幅に増加している。
軍事的脅威を感じている人にその具体的な国を挙げてもらうと、日本人の8割が依然として「北朝鮮」を挙げている。「中国」が57.5%、「ロシア」が34%で続いているが、それぞれ昨年比で12ポイント増加している。これに対し、中国人では「日本」を選択した人が67.6%から79.4%に増加し、8割に迫っている。これに「米国」の67.7%が続いている。「北朝鮮」に脅威を感じるのは8.4%にすぎず、昨年の13.1%から減少した。
・日本人が中国に対して軍事的脅威を感じる理由では、「日本の領海侵犯」が67.8%で最も多いが、「尖閣諸島や海洋資源で紛争があること」に加え、「南シナ海での強引な姿勢」を挙げる人も6割近い。中国人が日本に対して軍事的脅威を感じる理由では、「日本は米国と連携し軍事的に中国を包囲しているから」を挙げる人が70.1%で最も多い。
日中間での領土をめぐる軍事紛争の可能性
日中間での尖閣諸島をめぐる軍事紛争について、日本人では「起こらないと思う」が33.2%で最も多い。これに対して中国人では「起こると思う」が56.1%と昨年同様に半数を超えている。
日中両国の領土をめぐる対立に関して、日本人では「両国間ですみやかに交渉して平和的解決を目指す」べきと考える人が44.5%で最も多い。中国人では「領土を守るため、中国側の実質的なコントロールを強化すべき」と考える人が61.7%で最も多く、「外交交渉を通じて日本に領土問題の存在を認めさせるべき」が57.9%で続いている。
6月に運用が開始された「海空連絡メカニズム」については、偶発的軍事衝突を避けるためにはこの措置だけで「十分だと思う」と積極的な評価をしている人は中国では50%いるのに対し、日本では3.5%にすぎない。「不十分」だと判断しているのは、日本では36.7%と4割近くいるが、中国でも26%存在する。日本人の6割は「わからない」と回答している。
北東アジアの安全保障
北東アジアの安全保障を議論する多国間枠組みの必要性について、日本人の42.8%と4割、中国人は59.7%と6割近くが「必要である」と考え、いずれも昨年よりも増加している。特に、中国人では11ポイント増加している。
多国間枠組みの参加国については、日本人では日中韓米が参加すべきと考えている人が7割以上いる。中国人では自国の「中国」以外では、「日米」が参加すべきと考える人が6割を超えており、この数字は昨年よりも15ポイント程度増加している。ロシアが5割台で続いている。
朝鮮半島の完全な非核化に向けた外交努力については、中国人の方が肯定的に見ている
朝鮮半島の完全な非核化に向けた関係各国の様々な外交努力について、中国人の5割は「正しい」と判断しているが、36.6%が「正しいと思うが、不十分である」と感じている。
日本人は「正しいと思うが、不十分である」の40.2%が最も多いが、「外交努力では解決できないと思う」という見方も19%存在する。
40周年を迎える日中平和友好条約
日中平和友好条約の様々な条文の理念について、日本人では「実現できていない」という評価が、40.4%と4割を超え、「実現できている」という評価は14.8%と1割台にとどまっている。ただ、「わからない」が44.6%ある。中国人でも、「実現できていない」が46.2%で最も多い。ただ、「実現できている」も44.8%と4割を超え、評価が拮抗している。
≪朝鮮半島の完全な非核化に向けた外交努力については、中国人の方が肯定的に見ている≫
日中平和友好条約の項目の中で、どの項目を今後も発展させるべきか。日本人では、第一条第1項の恒久的な平和友好関係の発展を現在も支持する声が51.8%と半数を超えて最も多い。
中国人でもこの項目を選択した回答が64.9%で最も多い。ただ、中国人では、第一条第2項の不戦を求める声が64.2%で並んでおり、さらに第二条の反覇権を支持する声も53%と半数を超えている。
日本人では、今後も発展させるべき項目として、この"不戦"条項を選択した回答は38.8%と4割弱、反覇権は19.7%である。
世界の秩序や経済、グローバル化の是非
「グローバル化」を「良いことだと思う」と評価する日本人は昨年から11ポイント増加し、49.9%と半数近くになっており最多。中国人では「良いことだと思う」という人が6割を超えているが、その割合は昨年からはわずかに減少している。「良いことだとは思わない」は、日本では5.6%にすぎないが、中国では20.3%存在し、昨年よりも増加している。
≪多国間主義に基づく国際協力は「重要」だとの回答が、日本人で6割越、中国人で8割≫
日本人の6割超、中国人の8割が世界の自由貿易とWTOなど多国間主義に基づく国際協力は「重要」だと判断している。
現在動き始めているWTO改革については、日本人の4割、中国人では7割超が支持している。ただ、日本人では、その是非を判断できていない人が半数を超えている。
≪世界をリードすべき国として日本人は「アメリカ」を、中国人は「中国」が最多となる≫
日本人の半数は「アメリカ」がこれからも世界をリードすべきだと考えているが、昨年からはその割合は減少している。中国人の約7割は「中国」が世界をリードすべきと考えている。「アメリカ」を選ぶ中国人も3割いるが、昨年から10ポイント減少し、「ロシア」と同水準となった。
両国のメディア報道とインターネット世論の評価
中国人の86.6%が、中国メディアは日中関係の改善や両国民間の相互理解を促進していくことに「貢献している」と考えており、昨年の77.8%から9ポイント増加している。一方、日本メディアが「貢献している」との見方は日本人では30.2%にすぎない。
また、中国メディアの日中関係に関する報道を「客観的で公平」と感じている中国人は80.6%と昨年同様8割を超える高水準である。これに対して、日本人で日本メディアの日中関係に関する報道を「客観的で公平」と感じている人は16.4%と2割を切っている。「客観的で公平ではない」は30.9%だった。
≪中国人の約9割が、インターネット上の世論は民意を「適切に反映している」と回答≫
日本人の33.5%は、日中関係に関するインターネット上の世論は民意を「適切に反映していない」と見ており、「適切に反映している」の21.8%を上回っている。ただ、44.4%が「わからない」としている。
これに対し、中国人では「適切に反映している」という見方が86.9%と9割近くにのぼっている。
両国民の相互理解の背景
≪中国人の日本への渡航経験は7年連続増加し、直近5年以内の割合が9割を超える≫
日本人で中国への渡航経験が「ある」という人は13.5%となり、この数年大きな変化はない。一方、中国人では、日本への訪問経験が「ある」という人は18.6%となり、7年連続の増加となった。
渡航理由は両国民ともに「観光」が突出している。渡航時期については、日本人では「11年以上前」が最も多く、現在に近くになるほど少なくなるが、中国人では「最近5年以内」との回答が9割を超えている。
相手国国民に知り合いがいるという人は、日本人では17.4%、中国人では7%にとどまり、昨年から大きな変化はない。
「第14回日中共同世論調査」概要
日本側の世論調査は、全国の18歳以上の男女を対象に9月1日から9月22日にかけて訪問留置回収法により実施され、有効回収標本数は1000。最終学歴は、中学校以下が6.8%、高校卒が48.3%、短大・高専卒が20.8%、大学卒が22.0%、大学院卒が0.9%でした。
北京・上海・広州・成都・瀋陽・武漢・南京・西安・青島・鄭州の10都市で18歳以上の男女を対象に、8月27日から9月11日にかけて調査員による面接聴取法により実施され、有効回収標本は1548です。
【言論NPOとは】
言論NPOは、「健全な社会には、当事者意識を持った議論や、未来に向かう真剣な議論の舞台が必要」との思いから、2001年に設立された、独立、中立、非営利のネットワーク型シンクタンク。2005年に発足した「東京-北京フォーラム」は、日中間で唯一のハイレベル民間対話のプラットフォームとして14年間継続している。また、2012年には、米国外交問題評議会が設立した世界25ヵ国のシンクタンク会議に日本から選出され、グローバルイシューに対する日本の意見を発信。この他、国内では毎年政権の実績評価の実施や選挙時の主要政党の公約評価、日本やアジアの民主主義のあり方を考える議論や、北東アジアの平和構築に向けた民間対話などに取り組んでいる。
【中国国際出版集団とは】
中国国際出版集団(China International Publishing Group,CIPG)は1949 年10 月に設立された。
中国で最も歴史が古く、最も規模が大きい専門的な外国向け出版発行機関で、60 年余りにわたり、多言語で国際社会に向けて中国の歴史や文明を紹介し、中国と世界の交流と理解、協力と友情を増進するために積極的で重要な役割を果たしてきた。
出版社7 社と雑誌社5 社、チャイナネット、中国国際図書貿易グループ、対外伝播研究センター、翻訳資格審査評議センター、デジタルメディアセンターなど計20 の組織を傘下に持つ。毎年40余りの言語で約5000 種の図書を刊行し、30 余りの言語の定期刊行物を180 以上の国・地域に届けている。
同時に30 余りの多言語ウェブサイトと100 近いソーシャルメディアのプラットフォームを運営し、対外的で国際的な多言語、マルチメディアの新しい事業枠組みを作り上げている。
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