非営利シンクタンク言論NPO(東京都中央区、代表:工藤泰志)は、2020年11月17日、「第16回 東京-北京フォーラム」の開催に先立ち、「第16回日中共同世論調査」の結果を公表いたしました。
今回の世論調査は、深刻化する米中対立に対する日本と中国の両国民の意識や北東アジアの安全保障や経済に関する影響、さらにこうした困難な局面で今後の日中関係に対する両国民の意識を探るもので、特に米中対立下の中国人の意識を明らかにする点では世界で初めての試みになります。なお、今回の調査は、今年の9月中旬から10月上旬にかけて実施しました。
調査結果詳細はこちらで公開いたします。報道関係者の皆様には、この調査結果をぜひご報道いただきたく、お願い申し上げます。
日本人の対中意識は悪化し、中国人対日意識は改善傾向が足踏み状態に
日本人の対中印象は、尖閣諸島を巡る対立で悪化した2014年調査から、徐々に改善を始めていたものの、中国に「良くない印象」を持つ人は89.7%と、昨年(84.7%)から一転して悪化し、9割に迫ろうとしている。一
方、中国人の対日意識は日本のように悪化せずに、「良い」印象はこれまで続いた改善傾向は足踏みする形になった。
日本人がこの一年で中国への印象を悪化させたのは、中国が南シナ海や尖閣辺、さらに国際社会で取っている行動や、軍事力の増強や政治体制の違いをその理由とする日本人が昨年よりそれぞれ大幅に増加するなど、中国の最近の行動への違和感を持っていることが挙げられる。
中国人の7割超が日中関係は重要だとし、日中両国は新たな協力関係をつくるべきが6割超
日中関係を「重要だ」とする中国人は74.7%となり、昨年(67%)から7ポイント増加する一方、日本人は64.2%と、昨年(72.7%)から減少し、2005年の調査開始以来、初めて7割を切った。
さらに、世界経済の安定的な発展と東アジアの平和を実現するために、中国人の75.2%が「日中両国はより強い新たな協力関係を作るべき」だと考えており、昨年の62.2%から13ポイントも増加した。日本人でも同様の見方が最多(44.6%)となったが、昨年(52.5%)からは減少している。
米中対立の原因が「米国」だと考える中国人が8割を超え、先行きについては悲観視
中国人の86.2%が米中対立の原因は「米国」にあると回答する一方、米中対立は「今後も長期化し、解消の目途が見えない」と考える中国人が32.7%で最多となり、「米中対立は経済から安全保障や外交まで発展し、新冷戦と見られる状況まで発展する」(15.2%)を併せると47.9%と半数近くが、米中対立の先行を悲観視している。
ただ、「対立はやがて解消される」という希望も22.1%の中国人は持っており、「現時点では予測がつかない」との回答が30%と、中国人全体の見方がまだ定まっているわけではない。
中国人が「米国」と「日本」を切り分けて判断する傾向がみられる
軍事的な脅威を感じる国が「ある」と回答した中国人は50.8%(昨年55.5%)で、その84.1%が「米国」と回答しており、昨年(74.2%)から12ポイントも増加している。一方で、「日本」を軍事的脅威の国だとする中国人は47.9%と、昨年(75.3%)から30ポイント近くも減少している。
その理由については、「日本が米国と連携して中国を包囲している」(64.9%)が最多となり、これまで日本と米国は一体として中国側に評価される傾向があったが、今回は、中国人が米国と日本を分けて判断するという、これまではなかった傾向を示している。
また、東アジアで紛争や衝突が起こり得る切迫した状況か、と尋ねたところ、中国人では「そう思わない」(40.2%)で、「そう思う」(34.4%)を上回った。ただ、中国人が最も危険な東アジアの地域として選んだのは「台湾海峡」の35.6%で突出しており、「南シナ海」(22.5%)、「朝鮮半島」(14.4%)が続く。
米中対立では米中どちらにもつかず、世界の協力発展に努力すべきとの日本人が半数近くに
米中対立下での日中協力の在り方について、37.1%の日本人が、「米中対立の影響を最小限に管理して日中間の協力を促進する」と回答し、「米中対立とは無関係に日中の協力を発展させる」の10.3%を加えると、日本人の半数近くが、米中対立の中でも日中協力を進めるべきだと回答している。
さらに、米中対立下で日本の立ち位置について、「日本は米中のいずれにもつかずに世界の協力発展のために努力すべき」と考える日本人が58.4%と半数を超え、「米国の関係を重視すべき」の20.3%を大きく上回っている。
共同世論調査の主な結果は以下の通りです。
相手国に対する印象と現在の日中関係
日本人の対中印象は9割に迫り、今年1年間で悪化したとの回答が14.2ポイント増加した
日本人では、中国に「良くない」という印象を持っている人はこの間の改善傾向から一転して悪化に向かい、昨年から5ポイント増の89.7%と9割近くになっている。中国に「良い」印象を持っている人も5ポイント減の10%である。
これに対して、日本の印象を「良い」とする中国人は45.2%となり、調査開始以降で最も高い数値となった昨年とほぼ同水準を維持している。日本のように悪化はしておらず、足踏み状態と言える。
この一年の印象の変化では、日本人は54.9%と半数を超える人が、この一年間で中国に対する印象は「特に変化していない」と回答している。ただ、「悪くなった」が37%になり、昨年の22.8%から14.2ポイント増加している。中国人は、この一年間での日本に対する印象の変化について、74%と7割超が「特に変化していない」と回答している。
現在の日中関係について、日中両国民の間で認識のギャップが見られる
現在の日中関係を「悪い」と判断している日本人は54.1%と半数を超えており、昨年から更に9.3ポイント増えている。これに対し、中国人では「どちらともいえない」という判断が半数を超えており、「悪い」も35.6%から22.6%に減少するなど、日本人とは異なる認識傾向を示している。
今後の日中関係の見通しについては、日本人では現状のまま「変わらない」との見方が41.7%で最も多くが、「悪くなっていく」という悲観的な見方も28.7%と3割近い。一方、中国人では「良くなっていく」との見方が38.2%と4割近い。「悪くなっていく」という見方は9.6%に過ぎず、昨年から半減しており、ここでも日本人との認識の違いは顕著である。
日中関係の重要性
日中関係は重要だとの声が日中両国民共7割存在するが、中国人は昨年より減少
日中関係を「重要」だと考える日本人は、64.2%と調査開始以来初めて7割を切った。一方、中国人では「重要」との見方が67%から74.7%へと増加している。
「重要」と考える理由では、日本人で最も多いのは「重要な貿易相手だから」の63.4%で、「アジアの平和と発展には日中両国の共同の協力が必要だから」が44.9%で続いている。中国人では「隣国同士だから」という一般的な認識が69.3%で最も多く、「重要な貿易相手だから」が、50.7%で半数を超えている。ただ、「アジアの平和と発展」を選んだ中国人は2割に過ぎない。
新たな日中協力の展開
中国人の7割を超える人が、日中両国はより強い新たな協力関係を構築すべきと回答
世界経済の安定した発展と東アジアの平和を実現するために、日中両国はより強い新たな協力関係を構築すべきだと考えている中国人は75.2%となり、昨年から13ポイント増加している。
日本人も「思う」と回答している人は44.6%と最も多い回答となったが、昨年の52.5%から減少している。また、「どちらともいえない」「分からない」と判断しかねている人も4割以上いる。
軍事的脅威に関する認識
中国人の半数が軍事的脅威は存在していると回答し、その8割を超える人がが「米国」と回答
自国にとっての軍事的脅威を感じる国が「ある」と感じている人は、日本人では71.6%と7割を超えている。一方、中国人では軍事的脅威を感じる国が「ある」と感じている人は50.8%と半数程度で、それぞれ昨年よりも下回っている。
軍事的脅威を感じている人にその具体的な国を挙げてもらうと、日本人の81%と8割超が依然として「北朝鮮」を挙げている。これに「中国」63.4%が続くのは昨年と同様である。ただ、中国への脅威感は昨年の57.8%から増えている。
これに対し、中国人では、「米国」が昨年から9.9ポイント増加して84.1%と8割を超えた。一方、昨年調査では最も多かった「日本」は、75.3%から47.9%へと27.4%ポイントも減少している。また、「インド」が16.7%から27.2%へと10.5ポイント増加している。
東アジアにおける軍事紛争
東アジア地域で紛争が起こると考える中国人は3割を超え、「台湾海峡」とする意見が突出
現在の東アジア地域は、紛争や衝突が起こりうる切迫した状況にあるかと尋ねたところ、中国人では「そう思わない」(40.2%)で、「そう思う」(34.4%)を上回った。日本人で「そう思う」は18.6%に過ぎず、切羽詰まった緊迫感まではまだ見えないが、日本人とはやや温度差がみられる。
東アジア地域で軍事紛争勃発の危険性がある具体的な地域としては、日本人では「朝鮮半島」が29.3%で突出している。これに対し中国人では、「台湾海峡」が35.6%で突出している。日本人で「台湾海峡」を選んだのは6.6%しかない。
米中対立に対する認識
米中対立の原因について、日本人の半数は「米中双方」、中国人の9割近くは「米国」と回答
深刻化する米中対立の原因について、日本人の54.8%は「米中双方」に原因があると考えており、中国が原因だとする見方も23.2%あるが、中国人では86.2%と9割近くが「米国」に原因があると回答している。
米中対立の今後については、中国人の方が日本人よりも楽観的な見通しが多い
米中対立の今後については、日本人は37.5%と4割近くが「現時点で予測はつかない」との回答が最多となり、「双方の歩み寄りによって、対立はやがて解消される」という楽観的な見方は、6.1%と1割に満たない。「対立は今後も続いて長期化し、解消の目途が見えない」(22.2%)、「"新冷戦"とも見られる状態まで深刻化する」(14%)の二つを合計すると、36.2%が悲観的な見方となっている。
中国人では悲観的な見方は、「対立は今後も続いて長期化し、解消の目途が見えない」(32.7%)、「"新冷戦"とも見られる状態まで深刻化する」(15.2%)の二つを合計すると、47.9%と半数近くなる。ただ、「双方の歩み寄りによって、対立はやがて解消される」との見方は、中国人では22.1%あり、これが6.1%だった日本人よりは楽観的見通しが多い。
米中対立の中でも、中国人の半数を超える人が世界秩序の安定に期待
対立の行方が世界秩序に及ぼす影響について、日本人では「中米対立は今後も続くが、共通したルールの中で互いに共存はしていく」という見方の38.6%と「分からない」の36.6%で並んでいる。中国人ではこの「共存」が30.3%で最も多く、「両国は協力関係を回復させ、世界秩序が安定化する」(22.2%)を合わせると、楽観的な見通しが半数を超えている。ただ、「部分的な分断が起こり、対立が長期化する」や、「世界経済の分断」といった悲観的な見方も合わせると25.3%存在する。
日本人の半数近く、中国人の7割近くが、米中対立化でも日中協力を促進すべきと回答
米中対立の影響が日中関係にも及ぶ中での、日中協力のあり方について、日本人の37.1%、中国人の53.5%が「米中対立の影響を最小限に管理し、日中間の協力を促進する」と回答している。これに、「米中対立と無関係に日中の協力関係を発展させる」を選んだ人を加えると、半数近くの日本人、7割近くの中国人が米中対立下でも日中協力を促進すべき、と考えている。
また、日本側調査のみ米中対立下における日本の立ち位置について質問したところ、日本人の58.4%と6割近くが「どちらかにつくのではなく、世界の協力発展のために努力すべき」と回答している。
日中両国の将来とアジアにおける協力関係
日中両国民は、東アジアで目指すべき価値観として「平和」と「協力発展」との認識で
東アジアが目指すべき価値観として、日本人では56%が「平和」、36%が「協力発展」を重要であると考えている。中国人でも同様で、この二つの価値を重視する点で日中両国民の認識は一致している。中国人では特に、「平和」が63.5%と昨年から19.9ポイント増、「協力発展」が50.7%と昨年から8.2ポイント増と、この二つの価値観を目指すべきと考える人が増加傾向にある。
相手国の社会・政治体制に関する理解
中国人の中で、日本を「軍国主義」とする見方が減少し、「平和主義」との見方が大幅に増加
日本人の中国への基礎的な理解では、中国を依然として「社会主義・共産主義」と見ている人が53.4%で最も多く、これに「全体主義(一党独裁)」が34.4%で続く構図は例年と同様である。
中国人では日本を「資本主義」、「民族主義」、「軍国主義」と認識している人がそれぞれ3割程度ある。この一年では「軍国主義」との見方が後退し、「民族主義」が増えている。「平和主義」が8.4%から22.5%と大幅に増加しているのが目立つ。ただ、日本を「民主主義」の国と考える人は1割程度である。
両国民の相互理解の背景
日中関係に関する情報源は日中両国とも「自国のニュースメディア」が最多となる
日本人は、中国や日中関係に関する情報源として自国「日本のニュースメディア」を選ぶ人は圧倒的で、特に「テレビ」が突出している構造は例年と同様である。
中国人の日本や日中関係に関する情報源も、自国の「中国のニュースメディア」を選ぶ人が8割を超えている。ただ、「中国のテレビドラマ・情報番組、映画作品」も54.9%と5割を超えている。
中国人では、自国のニュースメディアの中で、「テレビ」を選んでいる人が最も多い点は日本と同様であり、昨年の53.9%から66.4%へと12.5ポイント増加している。「携帯機器(携帯電話、スマートフォン、タブレット端末)を通じたニュースアプリ、情報サイト」も24%と2割あるが、昨年の39.4%からは15.4ポイント減少している。
「第16回日中共同世論調査」概要
日本側の世論調査は全国の18歳以上の男女を対象に9月12日から10月4日にかけて訪問留置回収法により実施され、有効回収標本数は1000。最終学歴は中学校以下が6.6%、高校卒が47.5%、短大・高専卒が21.3%、大学卒が22.3%、大学院卒が0.9%である。
中国側の世論調査は北京・上海・広州・成都・瀋陽・武漢・南京・西安・青島・鄭州の10都市で18歳以上の男女を対象に9月15日から10月16日にかけて調査員による面接聴取法により実施され、有効回収標本は1571。最終学歴は中学校以下が11.3%、高校・職業高校卒が27.1%、専門学校卒が32.5%、大学卒が26.1%、ダブルディグリーが0.5%、大学院卒が2.2%である。
【言論NPOとは】
言論NPOは、「健全な社会には、当事者意識を持った議論や、未来に向かう真剣な議論の舞台が必要」との思いから、2001年に設立された、独立、中立、非営利のネットワーク型シンクタンク。2005年に発足した「東京-北京フォーラム」は、日中間で唯一のハイレベル民間対話のプラットフォームとして14年間継続している。また、2012年には、米国外交問題評議会が設立した世界25ヵ国のシンクタンク会議に日本から選出され、グローバルイシューに対する日本の意見を発信。この他、国内では毎年政権の実績評価の実施や選挙時の主要政党の公約評価、日本やアジアの民主主義のあり方を考える議論や、北東アジアの平和構築に向けた民間対話などに取り組んでいる。
【中国国際出版集団とは】
中国国際出版集団(China International Publishing Group,CIPG)は1949 年10 月に設立された。
中国で最も歴史が古く、最も規模が大きい専門的な外国向け出版発行機関で、60 年余りにわたり、多言語で国際社会に向けて中国の歴史や文明を紹介し、中国と世界の交流と理解、協力と友情を増進するために積極的で重要な役割を果たしてきた。
出版社7 社と雑誌社5 社、チャイナネット、中国国際図書貿易グループ、対外伝播研究センター、翻訳資格審査評議センター、デジタルメディアセンターなど計20 の組織を傘下に持つ。毎年40余りの言語で約5000 種の図書を刊行し、30 余りの言語の定期刊行物を180 以上の国・地域に届けている。
同時に30 余りの多言語ウェブサイトと100 近いソーシャルメディアのプラットフォームを運営し、対外的で国際的な多言語、マルチメディアの新しい事業枠組みを作り上げている。
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