言論NPOは北東アジアの平和を脅かす10のリスクを公表
日本、米国、中国、韓国の外交、安全保障の専門家195氏が採点
―北東アジアの平和を脅かすリスクは「北朝鮮問題」と「米中対立」-

2021年2月24日

 非営利シンクタンク言論NPO(東京都中央区、代表:工藤泰志)は、2021年2月24日の「アジア平和会議」の開催に合わせて、北東アジアの平和を脅かすリスクについて、日本、米国、中国、韓国の韓の外交・安全保障の専門家195氏が採点しました。この結果は、2月24日に開かれた「アジア平和会議」で公表されました。

 調査の結果、北東アジアの平和を脅かすリスクとして、「北朝鮮問題」を挙げる人たちが最多となりました。また「米中対立」や南シナ海、台湾海峡など中国と米国が対峙する地域でのリスクの採点が軒並み高くなっています。この詳細な情報は、言論NPOウェブサイトで公開いたします。

 報道関係者の皆様には、この調査結果をぜひ報道いただきたく、よろしくお願いいたします。


総合:北東アジアの平和を脅かす最も大きなリスクは、「北朝鮮問題」

 この評価は、日本の有識者(115氏が回答)による北東アジアのリスク項目の絞り込みと日米中韓の外交・安全保障の専門家195氏による採点の、二段階によって行われています。

 また、採点の際の評価基準は、そのリスクの①「影響と深刻さ」と、その問題が②「2021年に困難や障害が発生する可能性」の二つの基準から採点しています。

 その結果、北東アジアの安全保障にかかわる日米中韓の4カ国の専門家の判断は、北東アジアの平和を脅かすリスクとして「北朝鮮が核保有国として存在すること」(4.17点)を挙げる人が最多となりました。核兵器が実際に使用された場合、その被害が甚大かつ広範囲に及ぶため、「影響と深刻さ」に関する基準1で2.20点と高い得点になったことが大きな要因となったものとみられます。

 一方、第二位となった「米中対立や、デジタル分野における覇権争い」は、すでに対立が深刻化していることから、実際に「2021年に困難や障害が発生する可能性」に関する基準2で2.03点と高得点になったことが順位を押し上げる要因となりました。

 第三位の「南シナ海における領土・領海をめぐる対立」は、すでに中国と、米国・ASEAN諸国などとの間に対立が顕在化していること、事態がエスカレートした場合の影響が深刻であることなどから、基準1(1.88点)、基準2(1.82点)のいずれも高い得点水準となっています。

a.png

※詳細な評価結果はホームページをご覧ください


【評価方法】

 この評価は、言論NPOの活動に参加する有識者2000人を対象にアンケート調査を実施し、回答を得た115人の調査結果から、北東アジアの平和のリスクの項目を選定しました。

 それを踏まえ、日米中韓4カ国の外交・安全保障の専門家195氏に、有識者アンケートで浮かび上がってきた19のリスク項目に対して、各リスクを「採点基準:北東アジアの平和に及ぼす影響とその深刻さ」、「採点基準2:北東アジアの平和に対して、実際に2021年に困難や障害となる可能性」の2つの評価基準で採点していただきました。

 日本では、言論NPOが安全保障と外交の専門家55氏に直接採点を依頼し、中国は言論NPOと「東京-北京フォーラム」の開催で連携する中国国際出版集団が中国の安全・外交問題の専門家50氏の採点を依頼しました。また韓国の外交、安全保障の専門家55氏の採点はアサン研究所が協力、米国ではパシフィックフォーラムとカーネギー平和基金が協力し、米国の安全保障・外交専門家35氏が採点を行いました。

 採点については、以下の2つの基準に基づいて評価を行いました。

◆採点基準1.北東アジアの平和に及ぼす影響とその深刻さ
  3点(この地域に紛争を起こしうる状況【影響は大】)
  2点(この地域の緊張感を高め、危機管理を必要とする局面【影響は中】)
  1点(この地域の平和に影響を及ぼす懸念がある【影響は小】)         
  0点(この地域の平和とは直接関係ないか、あるいは関係があったとしても影響は軽微)
◆採点基準2.北東アジアの平和に対して、実際に困難や障害となる可能性
  3点(すでに発生している)
  2点(2021年に発生する可能性は高い)
  1点(2021年に発生するか否か、可能性は半々)
  0点(2021年に発生する可能性は低い)


基準別評価結果

基準1:北東アジアの平和に及ぼす影響とその深刻さ

 まず、各リスクが、北東アジアの平和に及ぼす影響とその深刻さについて、最も大きな影響をこの北東アジアに与えるリスクは「台湾海峡での衝突や偶発的事故の発生」(平均:2.21点)で「北朝鮮が核保有国として存在すること」(平均:2.20点)が並んでいます。この2つは、2点の採点基準から、この「北東アジアの緊張感を高め、危機管理を必要とする局面」だと4か国の専門家は判断している、ことになります。

 それに続くのが、「南シナ海における領土・領海を巡る対立」の1.88点、「米中対立やデジタル分野での覇権争い」の1.86点で、二点台に迫っています。

01.png


基準2:2021年に北東アジアの平和に対して実際に困難や障害となる可能性

02.png

 続いて、2021年に北東アジアの平和に対して、実際に困難や障害となる可能性について、最も高い得点は「米中対立や、デジタル分野における覇権争い」(平均2.03点)で、「アジアにおける中国の影響力がさらに拡大すること」(平均2.02点)、「北朝鮮が核保有国として存在すること」(平均:1.97点)となり、専門家間ではこの3つが2021年内に困難や障害が表面化する可能性が高いリスクと考えられています。「南シナ海における領土・領海を巡る対立」が1.82点、「新型コロナの経済財政への影響」が1.80点でそれに続いています。


日米中韓4か国195氏の国別結果

【日本の専門家55氏】

 日本の専門家では、「北朝鮮が核保有国として存在すること」(4.27点)、「米中対立や、デジタル分野における覇権争い」(4.12点)、「南シナ海における領土・領海をめぐる対立」(3.98点)の3つが4点前後で並んでいます。

日本.png

 他の3カ国と異なる傾向がみられるのは、「中国の海警法の適用のあり方と、現状変更に向けた行動」で、3.85点と4番目に多い結果となっています。


【米国の専門家35氏】

 米国の専門家では、「北朝鮮が核保有国として存在すること」(4.63点)が最も多く、次いで「南シナ海における領土・領海をめぐる対立」(4.20点)となり、ここまでが4点を超えています。

米国.png


【中国の専門家50氏】

 中国の専門家の評価は、全体的に日米韓とは異なる傾向をみせており、「新型コロナウイルスが、アジア各国の経済や財政にさらに大きなダメージを与えること」(3.52点)で最も多い結果となりました。これに「米中対立や、デジタル分野における覇権争い」(3.46点)、「バイデン米新政権のアジア政策の方向性」(3.44点)、「インド太平洋における日米豪印などの連携と中国の対立」(3.42点)が同水準で並んでいます。4点を超える項目はありませんでした。

中国.png


【韓国の専門家55氏】

 韓国では、「北朝鮮が核保有国として存在すること」が突出しており、4.91点と5点近くになっているなど、専門家の強い懸念が表れている結果となりました。

韓国.png


「アジア平和会議」とは



 「アジア平和会議」は、北東アジアの平和に責任を有する日米中韓4カ国の実務経験者や有識者が、平和に向けた課題の解決を話し合い、この地域の持続的な平和秩序に向けた、歴史的な作業に乗り出すための舞台で、2020年1月に創設されました。その協議内容の大部分は公開され、参加国だけではなく世界にも発信されます。日米中韓が北東アジアの平和づくりに共同で取り組む姿やその中での合意を各国の社会や国際社会へ伝えることで、北東アジアの平和づくりに向けた世論環境の形成に寄与することを目指しています。


言論NPOとは

 言論NPOは、「健全な社会には、当事者意識を持った議論や、未来に向かう真剣な議論の舞台が必要」との思いから、2001年に設立された、独立、中立、非営利のネットワーク型シンクタンク。

 2005年に発足した「東京-北京フォーラム」は、日中間で唯一のハイレベル民間対話のプラットフォームとして16年間継続している。また、2012年には、米国外交問題評議会が設立した世界25ヵ国のシンクタンク会議に日本から選出され、グローバルイシューに対する日本の意見を発信。この他、国内では毎年政権の実績評価の実施や選挙時の主要政党の公約評価、日本やアジアの民主主義のあり方を考える議論や、北東アジアの平和構築に向けた民間対話などに取り組んでいる。