言論NPOは北東アジアの平和を脅かす10のリスクを公表

2022年2月22日

日本、米国、中国、韓国の外交、安全保障の専門家201氏が採点
―北東アジアの平和を脅かす最大リスクは「米中対立の深刻化」-

 非営利シンクタンク言論NPO(東京都中央区、代表:工藤泰志)は、2022年2月22日・23日の「アジア平和会議」の開催に合わせて、北東アジアの平和を脅かすリスクについて、日本、米国、中国、韓国の韓の外交・安全保障の専門家201氏が採点した調査結果を、「アジア平和会議」で公表しました。

 調査の結果、北東アジアの平和を脅かすリスクとして、「米中対立の深刻化」を挙げる人たちが最多となり、トップ10には、米中対立の展開やその深刻化に伴うリスクが上位に選ばれています。

 また、4位に「台湾海峡での偶発的事故の発生」、9位に「台湾有事の可能性」が選ばれ、台湾を巡る緊張がこの地域の22年の平和を脅かすリスクとして浮上しています。

 4カ国の専門家は「米中対立の深刻化」と「台湾有事の可能性」や「台湾海峡の偶発的事故の発生」、「北朝鮮の核問題」は危機管理局面にあると判断しています。ただ、「台湾有事」や「台湾海峡での偶発的事故」の22年の発生には日本と韓国、中国の専門家の間ではまだ慎重な見方が根強いものの、米国の専門家は22年にこの「台湾海峡での偶発事故の発生」の可能性は高いとと見ていることも明らかになっています。

 報道関係者の皆様には、この調査結果をぜひ報道いただきたく、よろしくお願いいたします。

「台湾海峡の偶発的事故」の発生や「台湾有事の可能性」が22年の平和リスクとして浮上

 この評価は、日本の有識者(171氏が回答)による北東アジアのリスク項目の絞り込みと日米中韓の外交・安全保障の専門家201氏による採点の、二段階によって行われています。

 また、採点の際の評価基準は、そのリスクの①北東アジアの平和を脅かす影響と深刻さがどの程度まで進んだかと、その困難や障害が②「2022年に実際に発生する可能性」の二つの基準から採点しています。

 その結果、2022年の北東アジアの平和を脅かす最も大きなリスクとして4カ国の専門家が選んだのは「米中対立の深刻化」であり、トップ10にはこの他、米中対立に関連する「デジタル分野の米国と中国の覇権争い」が3位、6位に「経済の安全保障化とサプライチェーン分断の動き」、さらには「インド太平洋におけるQUAD(日米豪印)やAUKUS(米英豪)と中国の対立」も10位に入っています。

 また、台湾を巡る動向を22年の北東アジアの平和リスクと判断する傾向が4カ国で高まり、4位に「台湾海峡での偶発的事故の発生」、さらに9位に「台湾有事の可能性」と2つが10以内に選ばれました。

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⇒ 調査結果詳細はこちら

【評価方法】

 この評価は、言論NPOの活動に参加する有識者2000人を対象にアンケート調査を実施し(1月7日~1月17日)、回答を得た171人の調査結果から、北東アジアの平和のリスクの項目を選定しました。

 それを踏まえ、日米中韓4カ国の外交・安全保障の専門家201氏に、有識者アンケートで浮かび上がってきた25のリスク項目に対して、各リスクを「採点基準:北東アジアの平和に及ぼす影響とその深刻さ」、「採点基準2:北東アジアの平和に対して、実際に困難や障害となる可能性」の2つの評価基準で採点していただきました。(各国1月18日~2月17日の期間で実施)

 日本では、言論NPOが安全保障と外交の専門家50氏に直接採点を依頼し、中国は言論NPOと「東京-北京フォーラム」の開催で連携する中国国際出版集団と人民解放軍系のシンクタンク等の安全・外交問題の専門家70氏の採点を依頼しました。また韓国の外交、安全保障の専門家31氏の採点はアサン研究所が協力、米国ではパシフィックフォーラムと軍関係者・外交専門家50氏が採点を行いました。

採点については、以下の2つの基準に基づいて評価を行いました。

◆採点基準1.北東アジアの平和に及ぼす影響とその深刻さ
4点(この地域に紛争を起こしうる状況【影響は大】)
3点(この地域の緊張感を高め、危機管理を必要とする局面【影響は中】)
2点(この地域の平和に影響を及ぼす懸念がある【影響は小】)         
1点(この地域の平和とは直接関係ないか、あるいは関係があったとしても影響は軽微)
0点(影響は全くない)

◆採点基準2.北東アジアの平和に対して、実際に困難や障害となる可能性
4点(すでに発生している)
3点(2022年に発生する可能性は高い)
2点(2022年に発生するか否か、可能性は半々)
1点(2022年に発生する可能性は低い)
0点(発生する可能性は全くない)


◆二つの評価基準別の採点結果

基準1:北東アジアの平和を脅かす影響と深刻さがどの程度まで進んだか

 4カ国の採点で突出していたのは、「米中対立の深刻化」や「台湾有事の可能性」、「北朝鮮が核保有国として存在していること」「台湾海峡での偶発的事故の発生」の4項目です。

 これらはいずれも4点満点の2.9点台となっており、4カ国の専門家は、この4つのリスクを、「この地域の緊張感を高め、危機管理を必要とする局面になっている」と判断していることになります。

 この中で注目されるのは、「台湾有事の可能性」と「台湾海峡での偶発的事故の発生」の2つの「台湾」問題のリスクがそれぞれ2.9点台に入ったことです。

 特に米国と日本の専門家が、この台湾リスクを危機管理から一歩踏み込んで紛争の可能性を意識するほどその深刻さを重要視しており、中国と韓国の専門家も強い関心を見せています。

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基準2:その困難や障害が2022年に実際に発生する可能性

 4カ国の専門家が22年の発生の「可能性は高く」注意を要する段階だ、と判断したのは、「米中対立の深刻化」の2.81点と、「デジタル分野における米国と中国の派遣争い」の2.79点であり、その2つが突出しています。

 つまり、4カ国の専門家は、米中対立の具体化でのリスクの発生の可能性を最も高く意識しているのです。「経済の安全保障化とサプライチェーンの分断の動き」も2.59点で4位につけています。

 この基準2で最も大きな特徴は、「台湾問題」の実際の紛争の発生に関して、4カ国の専門家は現時点では慎重な見方を示していることです。

 まず、「台湾有事の可能性」ですが、22年に実際発生する可能性は中国の専門家は1.83点、韓国は1.87点に過ぎず、22年の平和リスクの脅威として最上位につけた米国も2.14点、2位の日本でも1.54点です。2点は発生する可能性は半々ということですから、それよりも低く見ているということになります。

 ただ、「台湾海峡での偶発的な事故の発生」では、唯一米国の専門家が2.86点と、この第二の評価基準ではトップとなり、22年に発生する可能性が高い、という判断に近い形になっています。

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【「アジア平和会議」とは】

 「アジア平和会議」は、北東アジアの平和に責任を有する日米中韓4カ国の実務経験者や有識者が、平和に向けた課題の解決を話し合い、この地域の持続的な平和秩序に向けた、歴史的な作業に乗り出すための舞
台で、2020年1月に創設されました。その協議内容の大部分は公開され、参加国だけではなく世界にも発信されます。日米中韓が北東アジアの平和づくりに共同で取り組む姿やその中での合意を各国の社会や国際社会へ伝えることで、北東アジアの平和づくりに向けた世論環境の形成に寄与することを目指しています。

【言論NPOとは】

 言論NPOは、「健全な社会には、当事者意識を持った議論や、未来に向かう真剣な議論の舞台が必要」との思いから、2001年に設立された、独立、中立、非営利のネットワーク型シンクタンク。

 2005年に発足した「東京-北京フォーラム」は、日中間で唯一のハイレベル民間対話のプラットフォームとして17年間継続しています。また、2012年には、米国外交問題評議会が設立した世界25ヵ国のシンクタンク会議に日本から選出され、グローバルイシューに対する日本の意見を発信。この他、国内では毎年政権の実績評価の実施や選挙時の主要政党の公約評価、日本やアジアの民主主義のあり方を考える議論や、北東アジアの平和構築に向けた民間対話などに取り組んでいます。


◆日米中韓4か国201氏の国別結果

【日本の専門家50氏】

 日本の専門家が現在の北東アジアのリスクで最も重視しているのが、「中国の軍事力のさらなる拡大」と「北朝鮮が核保有国として存在すること」、さらに「米中対立の深刻化」であり、8点満点でこの3つだけが、6ポイントを越えるか、それに近い水準です。

 22年の北東アジアの平和リスクで日本の専門家が最も強く意識しているには、「台湾問題」であり、最上位となった「台湾海峡での偶発的事故の発生」は3.26点と4カ国で最も高く、「台湾有事の可能性」も3.06点で2位です。

 台湾やその周辺での実際の困難が2022年に発生すると考えている日本の専門家は少なく、「台湾海峡での偶発的事故の発生」は1.96点、「台湾有事の可能性」は25項目の中で1.54点と最も低い採点となっています。

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【米国の専門家50氏】

 米国の専門家では、「台湾海峡での偶発的事故の発生」(5.72点)が最も多く、「台湾有事の可能性」も5.24点で4番目の高さになっています。

 22年の北東アジアの最大の平和リスクでトップになったのは「台湾有事の可能性」であり、判定は3.1点と危機管理を越え、紛争の懸念への意識も出始めていますが、それでも4位に後退したのは、22年のその困難が発生可能性の判断は2.14点と低く、総合点が下がったからです。

 逆に米国の専門家は「台湾海峡での偶発的事故」が、22年に発生する可能性は2.86点と、第二基準の採点では25項目の中でトップの判定をしており、それが寄与し、北東アジアの平和を脅かす22年のリスク項目の最上位となったのです。

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【中国の専門家70氏】

 2022年の北東アジアのリスクとして判断しているのは、米中対立に関する項目であり、これらは安全保障と経済の両面で上位を占め、トップは「米中対立の深刻化」が5.63点で突出しています。

 22年に北東アジアの平和リスクでは、「米中対立の深刻化」は2.94点、「台湾有事の可能性」は2.91点、「台湾海峡での偶発的事故の発生」が2.9点と、「北朝鮮は核保有国として存在する」が2.8点とこの4項目が突出しています。

 それらのリスクがこの2022年に実際に困難や障害になる可能性に関しては、「台湾有事の可能性」は1.83点、「台湾海峡での偶発的事故の発生」は1.64点で、「発生するか否かは半々」の採点基準の2点を下回り、2022年に「発生する否かは半々」大きく上回り、「発生する可能性は高い」に近づいたのは、「米中対立の深刻化」の2.69点、「日本の防衛費の増額」の2.52点、「デジタル分野における米中の覇権争い」の2.51点です。

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【韓国の専門家31氏】

 韓国の専門家は、米中対立が安全保障上だけではなく、経済分断としてのリスクとしても強く意識しており、トップテンでは、「米中対立の深刻化」が6.13点で1位、「デジタル分野における米中の覇権争い」が5.81点で2位、「経済の安全保障化とサプライチェーン分断の動き」が5.77点で3位と、上位を独占しています。

 実際の困難や障害が、2022年に発生するかでは、「経済の安全保障化とサプライチェーン分断の動き」が3.16点、「デジタル分野における米中の覇権争い」が3.10点、「米中対立の深刻化」が3.03点とこの3つが突出している。これらは、2022年に困難や障害が「発生する可能性は高い」を越えて、「すでに発生している」との認識に踏み込み始めています。

 また、この22年に北東アジアでの平和を脅かすリスクでは、「米中対立の深刻化」が3.1点、「北朝鮮は核保有国として存在する」が3.06点と突出しており、いずれも「危機管理の局面」から、わずかだが紛争の可能性を意識する危機感を持ち始めています。

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