国民の半数は日本の「代表制民主主義は機能していない」と考え、資金の透明性だけではなく、政党のガバナンスや説明責任についても問い始めた
SNSについては、7割近くの人が何らかの規制が必要だと考えていることが明らかに
~「日本の民主主義」に関する最新の国民の世論調査結果を公表しました~

2024年12月12日

 非営利シンクタンクの言論NPO(東京都中央区、代表:工藤泰志)は12月12日、10月19日から11月10日にかけて、住民基本台帳をもとに回答者を無作為抽出し、日本全国の50地点で訪問留置回収法により行った日本の民主主義に関する世論調査結果を公表しました。この調査は、言論NPOが毎年行っているもので、今回の調査は、選挙開始から首班指名の前日まで行われた最新の国民意識となります。

 その調査の結果、国民の半数は日本の「代表制民主主義は機能していない」と感じており、資金の透明性だけではなく、政党のガバナンスや説明責任についても問い始めました。さらにSNSについては、7割近くの人が何らかの規制が必要だと考えているが明らかになりました。詳細は、言論NPOのホームページをご覧ください。

 また、言論NPOの「日本に強い民主主義をつくる戦略チーム」共同代表を務める内山融氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)と、吉田徹氏(同志社大学政策学部教授)が、今回の調査結果に対して、コメントを出しています。


【主なポイント】

  • 「支持する政党はない」とする国民は52.3%と半数を上回ったほか、特に20歳代未満では69.6%(昨年57.7%)、20歳代では70.9%(昨年62.4%)と昨年調査と比べていずれも大きく増えており、若い世代に政党離れが加速していることが浮き彫りになっている
  • 国民の半数は日本の「代表制民主主義は機能していない」(49%)と感じている。さらに、代表制民主主義を構成する、「政党」「国会」「政府」を信頼していると回答する国民は2割台に過ぎず、6割は信頼できないと回答しているなど、政治不信は民主主義を支える様々な仕組みへの信頼にも影響している。
  • 国民の61.7%は、「政治とカネ」の問題は「ほとんど解決しておらず、今後も大きな問題」と考えており、石破首相にその解決を期待している人は25.3%に過ぎない。 これに関連して80.8%と8割超える人が「政党交付金」の制度見直しや廃止を求めているほか、「政党法」の制定を47.4%と半数近くが必要と感じている。
  • 選挙制度に対しては、二大政党化と政権交代のしやすい選挙制度よりも、多様な民意をより正確に反映する比例代表制度を重視する人は49.3%と半数近くになっている。 こうした見方の一方で、民主主義自体に対しては「他のどんな政治形態よりも好ましい」と考えている人が47.4%(昨年40.6%)と昨年調査を上回っており、政治への強い懸念から逆に民主主義自体への支持が増加している結果となった。


 報道関係者の皆様には、この調査結果、両氏のコメントについてぜひご取材いただき、報道いただければ幸いです。なお、代表の工藤へのインタビュー等は可能な限り対応させていただきますので、お問い合わせください。


【言論NPOとは】

 言論NPOは、「健全な社会には、当事者意識を持った議論や、未来に向かう真剣な議論の舞台が必要」との思いから、2001年に設立された、独立、中立、非営利のネットワーク型シンクタンクです。2012年から米国外交問題評議会が主催する世界25ヵ国のシンクタンク会議に日本を代表して参加し、世界の課題に対する日本の主張を発信しています。このほか、国内では政権の実績評価の実施や選挙時の主要政党の公約評価、日本やアジアの民主主義のあり方を考える議論や、北東アジアの平和構築に向けた民間対話などに取り組んでいます。

 さらに、2017年には、世界の知的論壇や世論形成に強い影響力を持つ10ヵ国シンクタンクの代表者が東京に集まり、国際社会が直面するグローバルな課題について、東京から議論を発信し、会議内での主張や意見をG7議長国に提案する日本初の国際会議「東京会議」を立ち上げました。

 本調査結果について、言論NPOの「日本に強い民主主義をつくる戦略チーム」共同代表を務める内山融氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)と、吉田徹氏(同志社大学政策学部教授)が、今回の調査結果に対してコメントを発表しました。
 
 

内山融(東京大学大学院総合文化研究科教授)

 回答者の49%とほぼ半数が「代表制民主主義は日本で機能していない」と答えていることは、日本の有権者が政治家のことを自分たちの「代表」として信頼していないことを意味する。実際、「日本のどの機関を信頼しているか」との質問では、国会や政党への信頼が著しく低くなっている。衆議院は英語で"House of Representatives"(直訳すれば「代表の院」)だが、その名前に見合った役割を果たしていないということである。

 代表制民主主義が機能していない理由として 「選挙のときしか国民を見ておらず、国民に向かい合う政治が実現していない」と答えた回答者が69%を占めている。このことは、日本の民主主義における「熟議」の不足を示している。選挙のときだけでなく、常に有権者との熟議を重視する態度が政党・政治家には欠かせないだろう。
 
 二大政党化と政権交代のしやすい選挙制度よりも、多様な民意をより正確に反映する比例代表制度を重視する人が49.3%と半数近くにのぼっているのも注目される。小選挙区比例代表並立制という現行選挙制度が政党システムの断片化を生んでいることを考えても、選挙制度のあり方を再検討する時期に来ているように思われる。


吉田徹(同志社大学政策学部教授)

 「日本の代議制民主主義は機能しているか」という問いに、実に49%(前年比27ポイント増)が否定的回答をしていることに大きな危惧を覚える。機能していない理由としては、政党が国民に向かい合う政治が実現しておらず、課題解決能力も持っていないこと、政治参加の意識が低いということが挙げられており、民主主義の根幹をなす「競争」と「参加」の2つの次元で日本政治が期待に添えていないことがわかる。

 日本国憲法は前文で「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」と謳っているが、そのような理念がもはや空文化している状況にあるといえよう。

 日本の政治不信は、これまでも他先進国と比べても決して低い水準にあるとは言えず、最近の地方政治での展開もこうした政治不信と無関係ではない。

 代議制民主主義が機能するには、様々な中間団体(NGO/NPO、労働組合、宗教団体/組織)の介在が必要だが、これらに対する信頼も薄い。

 他方で、統治形態としての民主主義に対する期待は依然として高い。日本は制度的には民主主義国として十分な資格を備えている。これからは、いかに実質的な民主主義を作り上げていくことができるかがますます問われていくことになる。

本調査概要

 日本側の世論調査は、日本の18歳以上の男女を対象に10月19日から11月10日まで訪問留置回収法により実施した。有効回収標本数は1000である。

 回答者の性別は、男性が48.4%、女性が50.9%。

 最終学歴は小中学校卒が5.6%、高校卒が43.8%、短大・高専卒が21.1%、大学卒が26.7%、大学院卒が1.0%、その他が1.0%。年齢は20歳未満が2.3%、20歳から29歳が11.7%、30歳から39歳が13.2%、40歳から49歳が17.4%、50歳から59 歳が16.5%、60歳から69歳が16.8%、70歳以上が22.1%。


【詳細な調査結果】

国民の政党離れがこの数年で加速している

 選挙中と選挙直後のタイミングで国民が判断した石破首相に関する支持率は、「どちらともいえない」が36.2%と最も多く、「支持する」は27.9%、「支持しない」は27.1%で見方が分かれています。

 また、政党の支持率では、「支持する政党がない」が52.3%と半数を超えており、昨年の49.9%、一昨年調査の44%を大きく上回り、国民の政党離れがこの数年加速していることが分かります。

 特に若者層では「支持する政党がない」が20歳代未満で69.6%(昨年は57.7%)、20歳台で70.9%(同62.4%)、30歳代では59.8%(同55.6%)と昨年と比べいずれも大きく増加しており、若者の政党不信は大きなものになっています。

 この結果、自民党を支持する層は21.1%となり、昨年の26.4%、一昨年の30.5%よりも大きく減少しています。これに対して、昨年からわずかに増えたのは立憲民主党の6.1%(昨年2.8%)、国民民主党の3.7%(同1.2%)、れいわ新選組の3.6%(同1.9%)です。世代別にみると、立憲民主党では40歳代以上、国民民主党では20歳代未満と20歳代、れいわ新選組は30歳代や20歳代未満で、昨年よりも顕著に支持率を増やしています。

 こうした動きは、選挙の際に判断材料とするメディアが世代別で大きく異なっていることも反映しており、30歳代以下では「X(旧Twitter)、Line、Instagram、Facebook、YouTube、TikTok、ブログ・note」などのSNSを活用する人が最も多くなっています。


国民の8割は、自分の意見を代弁できる政党を見出していない

 今回の世論調査での最も大きな特徴は、政治不信が、選挙によって自らの代表を選出する「代表制民主主義」そのものへの不信に広がっていることです。

 国民の49%とほぼ半数が、「代表制民主主義は日本で機能していない」と回答し、40歳代、50歳代、60歳代ではいずれも半数を超えています。

 この「機能していない」という人の69.4%と7割近くは、「政党は選挙の時しか国民を見ておらず、選挙公約も曖昧で、国民に向かい合って課題解決を競う政治が実現していない」ことをその理由に選んでいます。
 
 続いて多いのは、「低投票率が常態化し、国民が政治から、『退出』し始めている」の53.9%で、この二つが「機能していない」理由として突出しています。

 これに対して、「政党や政治家に、日本の課題解決を期待できるか」という設問では、74.5%と7割超が「期待できない」と答えています。

 こうした政党や政治家への不信の意識は、私たちの世論調査でも2017年から毎年見られているもので、改善が見込めない状況になっています。

 「自分の意見を代弁する政党」が日本に存在するかという設問では、「ない」が38.2%で、昨年の33.1%よりも増えています。これに「わからない」の39.2%(昨年49.4%)を加えると、77.4%と8割の国民が、自分の意見を代弁できる政党を見出していないことになります。


国民の多くは、資金の透明性だけではなく、政党のガバナンスや説明責任についても問い始めた

 61.7%の国民は、政治とカネは、「ほとんど解決しておらず、今後も大きな問題であり続ける」と回答しており、「解決した」「ある程度解決したが、問題は残る」との見方は合わせて19.5%と2割しかありません。
 
 この「政治とカネ」をめぐる問題の解決を石破首相に「期待できる」という人は25.3%で、「期待できない」は63.4%と6割を超えています。

 また、政党交付金の是非については、「制度の必要性は理解するが、政党はその使い道についての説明責任を果たしておらず、制度自体の見直しは必要」の48.3%で、これに「政党が自助努力で収入を得る仕組みを基本にすべきで、政党助成制度は廃止する」の20.2%、「政党が国からの助成のみに依存するのは異常であり、配分額に歯止めが必要」が12.3%を加えると、制度の見直しや廃止の声が80.8%と8割を超えています。

 さらに、政党の役割やガバナンス規定などを定めた「政党法」を47.4%が必要と感じており、政治とカネに対する国民の意識は、強い政治不信から政党の在り方や説明責任、ガバナンスの改革まで求める形になっており、永田町で進む議論と国民の温度差が浮き彫りになっています。

 こうした状況下で望ましい選挙制度についても訊ねたところ、二大政党化と政権交代のしやすさよりも、多様な民意をより正確に反映する比例代表制度を重視する人は49.3%と半数近くになっています。


SNSについては、7割近くの人が何らかの規制が必要だと考えている

 過激な発言や誹謗中傷、様々な偽情報が放任されているツイッターやユーチューブといったソーシャルメディアについて、65.5%と7割近くが何らかの規制が必要だと考えていることも明らかになりました。「法律で規制すべき」が44.1%、「業者への規制を強化」が21.4%です。


代表制民主主義を構成する政治の仕組みの半数以上が国民の信頼を失った

 日本の民主主義は多くの仕組みについて、2019年から社会を構成する様々な仕組みに対する信頼度を調査していますが、この中で、国民の半数以上が信頼をしていないのは、「宗教団体」の72.2%(昨年72.3%)、「政党」の64.9%(同64.5%)、「国会」の63.7%(同63.5%)、「政府」の63.1%(同61.9%)、「メディア」の57.5%(同56.2%)、「首相」の54.2%(同57%)となっています。

 「宗教団体」を除けば、「政党」「国会」「政府」「首相」と代表制民主主義を構成する政治の仕組みが、半数以上の国民の信頼を失っていることが分かります。「政党」「国会」「政府」を信頼していると回答した国民はいずれも2割台に過ぎません。
 
 また、民主主義の機能を点検し、監視するはずの「メディア」も国民の信頼を失い続けています。

 これを2019年からの時系列で見ると、「政党」や「国会」「政府」「首相」の信頼が大きく落ち込んだのは、コロナ対応で批判が高まった菅義偉政権の末期の2021年調査で、この時は「政党」への信頼は15.6%、「国会」は18.8%、「政府」は23.5%、「首相」は25.8%まで急落しました。その後、岸田政権に入ると信頼はやや回復していましたが、それが再び落ち始めています。

 逆に、国民の信頼が高いのは「天皇・皇室」の80.2%、「自衛隊」の76.1%、「警察」の70.8%、「司法・裁判所」の66.6%です。
 
 こうした見方の一方で、民主主義自体に対しては「他のどんな政治形態よりも好ましい」と考えている国民が47.4%となり、昨年調査の40.6%を上回っているなど民主主義自体の支持は増えています。