東北大学の押谷仁教授などグローバルヘルスガバナンスに詳しい日本の専門家は、言論NPOがこの1月から開始している「国際協調の現場を点検するー新型コロナ」の評価会議で、今回の新型コロナウイルスへの対応をめぐって、WHOは本来果たすべき役割を果たせず、テクニカルエージェンシーとして「失格」などとする厳しい評価を行い、WHOは今後、より実行力のある組織に改革するか、テクニカルエージェンシーに機能を限定すべきか、抜本的に見直すべきとの見方も打ち出されました。
さらにこの議論の中では、コロナは人類の危機にも拘わらず、各国の対応が内向きで、WHO同様、国家の拠出で成り立つ国連や他の国際機関の協力が得られず、国際社会としての対応ができなかったことにも疑問が出されました。
この評価議論は、押谷仁氏(東北大学大学院医学系研究科微生物学分野教授)の他、坂元晴香氏(慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室特任助教)、村中璃子氏(医師・ジャーナリスト)が参加し1月21日に行われたもので、司会は言論NPO代表の工藤泰志が務めました。
こうした厳しい評価となった理由としては、新型コロナが、世界の政治アジェンダ化する中で、本来はテクニカルエージェンシーであるWHOが、政治的独立性を保てずに期待されたほどのリーダーシップを発揮できなかったなどが挙げられました。
この背景には、各国の拠出で成り立つWHOに絶対的に強い権限がないことや、各国の主権からの制約があること、資金が不十分であることといった三つの面で制約を抱えているという構造的な問題があると専門家各氏は説明しています。
また、議論の中では、国家の危機・世界の危機という本当のクライシスであり、本来はWHO一機関では舵取りできないような問題だったにもかかわらず、様々な国際機関の協力を得るための調整もできなかったことが指摘されました。同時に各国のリーダー達が自国を守ることで精一杯となり、一国だけで解決できる課題ではないのに発想の転換ができていなかったことも、国際協力の後退につながっていったとの分析も見られました。
こうしたWHOの今後のあり方としては、大きな見直しが迫られるという点で各氏の認識は一致。全体をコーディネーションするのではなく、テクニカルエージェンシーに徹するべきとの提言が寄せられました。
2021年におけるグローバルヘルスの展開に関しては、過去のパンデミックがマスク着用やソーシャル・ディスタンシングに類することによって封じ込めてきたことを踏まえ、「初めてワクチンで抑え込んだパンデミックになってほしい」といった期待が寄せられ、そのためにもいかに低中開発国にワクチンを届けるかが課題となるとの意見が見られました。
また、国境の開放と人の往来の回復に際して、現状は2国間での調整しかできていませんが、WHOにより広い視点での調整を期待する声も寄せられました。
さらに、今回武漢入りしたWHO調査団が入国可能となったのはなぜなのか、中国との交渉の経緯を明らかにすべきとし、そうした透明性を高めることが国際機関の役割であり、そうした信頼の回復が、テクニカルエージェンシーとして発言力を増していくことにつながるとの指摘もありました。
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