自由経済秩序と民主主義、さらには国際協調をどう修復するのか ~「東京会議2021」基調講演 報告~

2021年3月23日

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 世界10カ国のシンクタンク代表と有力政治リーダーをオンラインで結び議論する「東京会議2021」2日目となる23日は、基調講演に続き、「世界は国際協調と自由経済秩序をどう修復するのか」、「新型コロナ-人類の危機に世界はなぜ対応を間違えたのか」をテーマに、2つの議論が行われました。


アメリカの指導力によって維持されてきたリベラルな秩序
今後は主要な民主主義国家(D10)がその維持と発展に努めるべき

01.jpg まず、ケビン・ラッド氏(元オーストラリア首相、 米アジア・ソサエティー会長)が基調講演を行いました。米中対立についても多くの意見を発信しているラッド氏は、自由な国際秩序は、米国の圧倒的なグローバルな力の下に、開かれた経済、社会、システムを前提とし、国際行動の規範を重視し、開かれた社会や政治、経済制度やルールを構築してきたと説明。そして、これらの基盤の上に第二層として、国連、特に国連安保理、国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)など国際機関の構成要素になって、秩序を維持してきたと振り返りました。その上で、これらの機関は今十分に機能しているのか、と疑問を投げかけました。

 ラッド氏は、現在のリベラル秩序が直面している二つの課題について説明。まず、トランプ政権下で米国のグローバルなパワー、リーダーシップは大きく衰退し、また、アメリカ自身がグローバル・ガバナンスの制度や多国間の枠組みに疑問符を突きつけ、時に攻撃してきた点を指摘。その空白に入り込み、リーダーシップを取ろうとしているのが中国であり、2020年後半には、中国は世界の経済大国になり、軍事的にも米国とのギャップが小さくなって、東アジア、西太平洋でのパワーバランスが大きく変わっていく、との見方を示しました。

 では、リベラルな秩序を維持し、発展させるには、民主主義国はどうすればいいのか。ラッド氏は、バイデン米大統領が多国間の枠組みに戻ってくることを歓迎しつつも、2024年に再度新しいトランピズムが登場する可能性を否定できないとして、単なるアメリカ一国への依存ではなく、日本、韓国、オーストラリア、インド、インドネシア、カナダ、ドイツ、フランス、英国や欧州の国々による「デモクラシー10(D10)」と呼ばれる民主国家がコンセンサスづくりや資金提供を行い、グローバル・ガバナンスを担う国際組織の付託を遂行していくことが重要だと伝えました。アメリカの協力があればより力強いが、アメリカ抜きでもこれらの国が、将来の国際法や国際組織・制度、自由で開かれた政治、経済、社会を支えていかなければならないと語り、講演を締めくくりました。


自由を取り戻すため、ラスムセン氏からの3つの提案

02.jpg 次いで、デンマーク首相や北大西洋条約機構(NATO)事務総長を務め、コペンハーゲン民主主義サミットの創設者でもある、アナス・フォー・ラスムセン氏が講演しました。前回の来日は、2019年の「言論NPO設立18周年記念フォーラム」の時でしたが、その後の16カ月で、「世界は様変わりした」と驚きを隠しません。コロナウイルスによるパンデミックの発生で、私たちの生活は多くの制限が課されただけに、今後は、「全ての人のために、より自由で、より公正で、より民主的な、より良い復興をしていかなければいけない」と、コロナパンデミックに慣れ、疲れている人々に、ラスムセン氏は呼びかけました。

 ラッド氏同様、バイデン大統領の下、米国がリーダーとしての役割を取り戻そうとしているのに期待するラスムセン氏は、以前よりは「楽観的だ」と強調しました。EUも、「自らの脆弱性についてよく認識するようになり、今こそ同盟関係を修復し、ルールに基づく国際秩序を維持するため多国間主義を再建するべき時だ」と話しました。

 そこで、ラスムセン氏は、自由を取り戻す闘いを開始するため、3つの点を提起。①多国間主義復活のために、民主的同盟を確固たるものにすること、②テクノロジーを民主主義のために活用していくこと、③自由世界にとって、インド太平洋には新たな民主的アプローチが必要であることの3点を挙げました。

 これらについて、まず、ラスムセン氏は、「一国への攻撃は、全ての国への攻撃である」と規定したNATO第5条を経済分野にも適応すべきと主張。豪州のワインや台湾産バナナの中国への輸出停止など経済力をテコに政治的目的を達成しようとする中国に対抗する術を持つべきであると述べた。

 次に、新しいテクノロジーが自由な社会を傷つけ、権威主義国の影響力を強めていると懸念を示し、新たな技術へのルールや規範の確立の重要性を伝えました。この点について、ラスムセン氏は、民主主義の規範や価値観を守るために、民主主義国による技術分野での同盟を作ることを提案。バイデン政権もその方向で動いており、ルール作りの面で団結するべきだと主張しました。

 最後にラスムセン氏は、「EUはインド太平洋地域について、確固たる戦略が必要」と指摘。「自由世界と独裁的な世界の戦いの前線はインド太平洋にある」として、商業的利益を優先させるのではなく、民主的な価値を守るため、いかに関与していくか戦略が必要だと語りました。そしてコロナ・パンデミックからの復興を成し遂げ、次の世代に平和、自由、民主主義をもたらす民主主義国家の同盟を構築すべきだ、と力強く語り講演を締めくくりました。


グローバル化とデジタル化は世界を多様にしたが、
互いに向き合い、お互いを理解する意思を持つことが重要だ

04.jpg 続くドイツのクリスチャン・ヴォルフ元大統領は、民主主義とリベラルな価値観が、内外から強い圧力を受けていることは確かだが、打ちのめされたわけではなく、修復の必要性はないとし、「民主主義は堅固だ」と指摘。その例として、米国議会議事堂の襲撃事件を挙げ、警備が不十分でも、「民主主義は、攻撃に対する防衛能力を持ち、法律上、立法上の処理能力もある」と語りました。また、ミャンマーで起こっているデモを挙げ、人々は民主主義を求めていると伝えました。

 しかし、コロナ危機は国際協力を基盤とする国々と、ナショナリズムを強める国々の間に断層ができたことで、地政学的な多極化が進み、西洋の価値概念と、独裁・抑圧的な勢力の間で対立が生じ、世界中に影響を与える複数の勢力圏から成る世界へと向かっていると現状認識を示しました。

 さらに、コロナ禍については、一部の国は危機を他国よりもうまく克服できたが、その差は、民主主義対独裁主義という構図にあるのではなく、責任ある対応を行ったかだとし、それができた理由として、各国が持つ使用可能なリソース、社会の信頼感や指導力が関わっていると指摘しました。同時に、コロナ禍で分かったこととして、相互に密接に関連し、依存している私たちは、自らを極端に孤立させても意味がなく、ウイルスは国境を越えて移動するため、これまでの日常の競争関係や、欧州などのグローバル・ヴィレッジの枠組みでは国境を全く認識していなかった、との認識を示すヴォルフ氏です。

 その反面、協力によって速く前進することも示したとし、ワクチン開発者は解決策を見つけるため、世界中でネットワークを構築し、力を結集。グローバルに考えることによってのみ、危機から脱せられることを最初に理解した人たちだと強調しました。その上で、グローバル化とデジタル化は世界を多様にしているが、重要なことは、互いに向き合い、未知のものを避けず、寛容を実践し、お互いを理解する意思を持つことだと指摘しました。


コロナ禍で浮き彫りになった弱点を解決するため、改革を一気に進めたい

03.jpg 最後に日本の経済再生担当大臣を務める西村康稔氏が基調講演を行いました。西村氏は、今回のコロナ禍により、世界各国の自国の弱点が明らかになったとし、日本の課題としてデジタル化の遅れや、非正規、女性など弱い立場の人たちにしわ寄せがきていることを指摘し、コロナ化を機に、日本の課題解決に向けて改革を一気に進めていくことを強調しました。具体的には、①デジタルガバメントを一気に進め、さらに5G、その先の6Gも睨みながら、日本の技術力を活かし欧米とも連携してデジタルニューディールを進めること、②2050年にカーボンニュートラルを実現するために、180億ドルのファンドの創設、2030年に洋上風力や水素等14の分野で成長戦略を策定し、8300億ドルの経済効果を見込むグリーンニューディールを進めること、③900億ドルの大学ファンドにより若手の研究人材の育成、産学連携で世界最高レベルの研究基盤をつくり、さらに女性や高齢者等、意欲ある人たちの活躍の場面を作るために人への投資(ヒューマンニューディール)を行い、日本の少子高齢化を克服したいとの意欲を示しました。

 そして最後に西村氏は、自国第一主義に陥りがちな時だからこそ国際協調が大事であり、日本はこれからも自由な貿易、自由な投資を行う体制をけん引すべく国際社会のあらゆる場面でリーダーシップを発揮し、世界経済の成長をけん引したいと強調して講演を締めくくりました。


 基調講演の後、「世界は国際協調と自由経済秩序をどう修復するのか」をテーマに、パネルディスカッションに移りました。