言論NPOは、3月23日、「東京会議2021」の全体テーマである「私たちは国際協調と民主主義をどう修復するのか」についての有識者アンケートを公表した。
この調査によると、回答に協力した日本の有識者は、1月に発足した米国のバイデン新政権の国際協調の修復や民主主義の擁護の意欲に対して強い期待を持っており、国際協調の修復では「同盟国や友好国と連携すればできる」を考える有識者は7割を越えている。
バイデン大統領が民主主義の擁護でリーダーシップを発揮すると見ている人も52.8%と半数を上回った。
その一方で、「自通貿易体制の修復に乗り出すか」では、「そう思う」の44.9%に対して、「どちらともいえない」と「現段階では判断できない」が合わせて47.3%と半数近くあり、意見が分かれている。
ただし、今後のグローバルガバナンスをけん引するリーダーとして米国に期待する日本の有識者は39.4%と4割を下回っており、「どの地域、国にもリーダーシップを期待できない」と考える人は23.6%になっている。
トランプ政権下で深刻化した米中対立については、「トランプ政権時よりもリスクが高まっている」「トランプ政権時と変わらない」が合わせると55.9%となり、半数以上の有識者がバイデン政権下でもその改善を見込んでいないことが明らかとなった。
感染症の問題に関しては、次にパンデミックが起きた場合、世界は「適切な対応をする」と考える人は26%に過ぎず、新型コロナから教訓を得られず、「同じ失敗を繰り返してしまうと思う」という悲観的な見方が32.3%で最も多かった。
また、国連が、人類共通の危機に対応していくことできない、と見る人も、「あまりできない」と「全くできない」を合わせると58.3%と6割近いなど厳しい評価となった。
ただ、パンデミックや地球温暖化といったグローバルな脅威に対しては、自国民のみを保護するという発想で対処すべきと考える有識者は1割程度であり、85%の有識者は「人類全体の危機として対処すべき」と国際協調を期待する見方が圧倒的に多い。
今回のパンデミックでは、自由民主主義体制の国家での感染拡大が目立ったことの要因として、リーダーが危機管理を徹底できず後手に回ってしまったこと、権威主義国家のように強権的な対応が取れなかったことを上げる有識者が、それぞれ5割を超えている。
こうしたことを踏まえ、危機管理においては民主主義システムが権威主義システムよりも劣っているという見方に対しては「賛同できない」という回答が59.8%と6割近いが、「賛同できる」との回答も29.1%と、3割近く見られた。
民主主義システムが危機に有効に対応するようになるためには、政府の行動や政治リーダーの発言や行動が信頼を得ることが30.7%と最も多く、「危機管理システムの構築」が27/6%で続いている。
これに対して、市民各自が自由ばかりを主張することなく、社会に対する責任を意識することは重要だと考えている有識者も18.9%と、2割近くいることが明らかとなっている。
有識者アンケートの概要
【バイデン政権は国際協調を修復できるか】
まず、1月に発足したばかりのバイデン政権に関して質問した。最初に、就任演説で国際協調外交への回帰を宣言したバイデン政権が、機能不全に陥った国際協調を修復できると思うか尋ねた。
その結果、「一国だけではできないが、同盟国・友好国と連携すればできると思う」との見方が73.2%と7割を超えて突出している。
【バイデン政権は民主主義擁護のリーダーシップを発揮できるか】
バイデン政権は、民主主義を擁護することも宣言しているが、実際にリーダーシップを発揮することについては、「できると思う」との見方が52.8%と半数を超えている。ただ、「現段階では判断できない」との見方も33.1%ある。
【バイデン政権は自由貿易体制の修復に乗り出すか】
次に、バイデン政権が、自由貿易体制の修復に乗り出すのか、その予測してもらったところ、「そう思う」が44.9%で最も多く、「そう思わない」は7.9%にすぎない。もっとも、「どちらともいえない」(21.3%)、「現段階では判断できない」(26%)と判断しかねている有識者も合計すると半数近くいる。
【バイデン政権下における米中衝突のリスク】
トランプ政権期に深刻化した米中対立の行方については、バイデン政権下でもそのリスクは「変わらない」との見方が39.4%で最も多い。これと「トランプ政権期よりもリスクは高まっていく」の16.5%を合計すれば、半数以上の有識者が厳しい現状の改善を見込んでいないことになる。「トランプ政権期よりもリスクは低くなっていく」は29.1%と3割程度である。
【今後のグローバルガバナンスを牽引するリーダー】
続いて、今後のグローバルガバナンスを牽引するリーダーを予測してもらったところ、「米国」が39.4%で突出している。以下、「日本などミドルパワー諸国」が9.4%で続き、「中国」は6.3%だった。ただ、「どの国・地域もリーダーシップを発揮しない」とリーダー不在を予測する見方も23.6%ある。
【コロナ被害が拡大した要因】
新型コロナウイルス感染症による全世界の被害は甚大なものとなっている。この要因について答えてもらったところ、最も多い回答は「多くの国で、政府が対応に失敗したこと」の31.5%だった。次いで、「WHOがテクニカルエージェンシーとしての役割を果たせなかったこと」(18.9%)、「問題が政治化し、世界が分断したため国際協力が進まなかったこと」(18.1%)の順となっている。
【世界は次のパンデミックを封じ込めることができるか】
今後、新たなウイルスによるパンデミックが起こった場合、世界は新型コロナから「教訓を得られず、同じ失敗を繰り返してしまうと思う」という悲観的な見方が32.3%で最も多く、「適切な対応をして、封じ込めていくことができると思う」の26%を上回っている。「現段階では判断できない」(21.3%)、「どちらともいえない」(19.7%)と封じ込めに確信を持つことができていない有識者も合計すると4割を超えている。
【国連は人類共通の危機に対して対応していくことができるか】
次に、人類共通の危機に対する国連の対応能力について質問した。感染症や気候変動などの人類共通の危機に対して、国連が対応していくことは「できないと思う(「あまり」と「全く」の合計)」という厳しい評価が58.3%と6割近い。対応していくことが「できると思う(「十分に」と「ある程度」)」は38.6%だった。
【人類全体の危機か、それとも国民の危機か】
人間の生命を脅かしうるグローバルな脅威への向き合い方として、「人類全体の危機として対応すべき」か、それとも「自国民保護という発想で対応すべき」かを問うたところ、「人類の危機」と捉えるべきとの回答が85%にものぼっている。
【自由民主主義体制で感染が拡大した要因】
自由民主主義体制の国家において、新型コロナウイルスの感染拡大が目立った要因として、「政府や政治リーダーが危機管理の対応を徹底できず、水際対策や感染者の発見、感染回路の追跡、隔離などで後手に回ってしまったこと」(57.5%)、「権威主義体制の国家のように、強権的な対応を取りにくいから」(52.8%)の2つが突出している。
【民主主義システムは権威主義システムよりも劣っているのか】
危機対応において、民主主義システムは権威主義システムに比べ劣っているとの主張に対しては、「賛同できない(「どちらかといえば」を含む)」との回答が59.8%と6割近い。ただ、「賛同できる(「どちらかといえば」を含む)」との回答も29.1%と3割近くあった。
【民主主義システムが危機対応できるようになるために必要な努力】
最後に、民主主義システムが、新型コロナウイルスのような危機に対して十分に対応できるようになるために必要な努力は何かを尋ねた。
その結果、「危機管理システムを構築すること」が27.6%で最も多い回答となった。これに、「市民各自が個人の自由ばり主張するのではなく、社会に対する責任を意識すること」と市民の自覚を求める回答が18.9%で続いている。
「政治リーダーの発言や行動が国民の信頼を得ること」(16.5%)、「政府の行動が、国民の信頼を得ること」(14.2%)など、政府が国民の信頼を得るような努力を求めている有識者も合計すれば3割いる。