Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)を重視した投資であるESG投資は、気候変動や人権問題への関心の高まりを背景に、2020年の世界の投資額が約3880兆円にも上っています。
しかし、言論NPOの座談会では、ESG投資自体は企業行動や資本主義の在り方を変える大きな原動力になるとの期待が示された一方で、気候変動のパリ協定の目標を達成していく上では、資金面でも、企業の行動変容の面から見てもまだまだ不十分であり、特に日本では先行する欧米企業と比べて遅れていることなどが指摘されました。
また、ESGの中のSに関連して人権問題に対するプレッシャーに関しては中国側の反発があり、こうした問題が世界的な展開での成長制約になっていることが言及された他、このSをSocialではなく、Sustainableと判断し、これからの持続可能な市場主義経済の在り方を探る必要な投資として考えるべきとの、意見も出されました。
この座談会は、「ESGは世界の企業行動を本当に変えたのか」をテーマに9月3日までに行われたもので、白井さゆり氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)、德島勝幸氏(ニッセイ基礎研究所金融研究部取締役研究理事、ESG推進室長)、根本直子氏(早稲田大学経営管理研究科教授)の三氏が出席し、司会は言論NPO代表の工藤泰志が務めました。
議論ではまず、ESG投資の拡大が、世界や世界の企業行動のあり方を変える大きなプレッシャーになっていることが各氏によって紹介されました。
この中で白石氏は、ESG投資はこれまでのCSRのように利益の一部を社会に還元するものではなく、企業のビジネスモデル自体を全面的に見直すもので、根底から企業の行動を変えるためになかなか企業の行動が変わらず、コスト面から躊躇する企業が多いと指摘。「ESG投資だけでは企業行動を変えることは難しい」としつつ、先行しているEUの事例から、さらなる企業行動の変容を促すためには温暖化に対する政府のリーダーシップや、NPO・NGOの役割がポイントになるとの見方を示しました。
また、座談会では、今後のESG投資については、米国型の収益第一主義や株主資本主義のあり方に一石を投じる可能性についての期待が相次ぎました。
その一方で、「S」の中でも人権問題については、新疆ウイグル自治区における強制労働問題で中国進出企業が難しい対応を迫られていることなどから、今後の課題が多いことも明らかにされました。徳島氏はこの「S」はSustainableと考えるべきだと主張し、これからの持続可能な世界や市場経済を考える上で必要な投資だという見方を示す一方、現状のESGは「E」に偏りが目立っていることを指摘すると、根本氏も「SもGも含めたバランスが大事だ」と今後の課題を指摘しました。
白井氏は、この突出している「E」についても、グリーンウオッシングのようにパリ協定の趣旨に添わないものが多いとし、その活動がパリ協定とどのような関係があるのかをしっかりと投資家が判断できるようにする必要があり、そのためにはデータ開示の義務付けが不可欠との認識を示しました。